第四回 森元悶え死ぬ夜
森元は不眠なり。奈何にかはかなまんと欲す。
かくの一件たるは、森元にせば大事にない。平田は何時もの如き悪酔いに、踊ったのみ、大事にない。
では、森元の日々の苦悶を、サラサラと書くも一興。一日疲れた、玄馬の身、熟々書くとしよう。
深夜の輪に廻り、二時の丑三つ。森元はハルシオンに、クラクラと身を預く。さても、寝られぬ一夜の夢、狂うも叶わぬ、泣くにも泣けざる、悶絶の幻。
身は聢と重い、聊か気も狂うまで、情込上げ、悔しく枕上にて暴るる。
幻想ばかり、思い出、未来、夢、痛苦、酒も浴びて、針が音も痛い。して薫陶、劣情、踏躙られたる者の悲痛。
癇癪玉も膨れに膨れ、今しも頭を潰しそうに、拳にて玉より水を抜く。
狂死ぬも憧れ、廃人も憧れ、薬も幾度と変がえ、狂うに能わず。
ああ、ああ、心中に蛇あり。身を巻き、其ぬめるるつるりとしたる肌え、全裸の身貶め、卑しい舌にて頬擦りまでする、愛嬌。
はっ!と、命乞い。辺り見れど、何時もの部屋、冥く、月光も白く、森元を見透かす虚傲。
何するにも非で、食物貪り、腹盈ちて神盈たず。
狂うも叶わぬ夢の中、薬に酩酊、夜は平々、森元は亦、悶えて盲目の如し。
朝の五時、漸と眠るに能う。
はっは、哀哉。マア昼の族からせば、是こそ大事にないものか。