第二回 少女愛主義則ちロリコンと謂うらしい
今晩話すことも、殊更せずなり、何分明旦も忙しい故。皮肉にあらで。
宵西天を差し、夜さリが気に初夏にも寒い。
して、両者が談も女の件へと流込み、聊か卑猥。
「なぁ、女は若いに限るよ。少女、否もっと、若いのが佳い。一夜さの夢がみたいね。」
なんぞ、嫌に声を下めて仰る。而るも、斯うした猥談も、森本の恐るる所に無い。平田は少女愛主義、謂わばロリコンなり。吁々、法も其を咎めぬ。
「僕だって、女子の一人、抱けぬ事は非い。がね、未成年の無垢なる少女を穢したいとは不思い。其様な罪はご免さ。」と口を渋めエヘンと咳払。
大人しく聞いていると思せば、奴の酒癖の悪しさ、がっはがっはの大爆笑。
「はっは、度胸無め、お前の言事あ真理さ。けれどもね、けれどもね、謂ってる事は、莫迦みてぇ。(皆様、恒例の屁理屈、入りますよ・・・)
大体、少女を抱こうが、赤子を抱こうが、俺の勝手さ。国なんぞ、吾が旨酒の前に無力よ。第一、女が幸いならば其れで善い。なぁ(爰より声下卑て)国だって、ああ見えて頭が暗い、不明なきゃ其れで、俺は気持ちいい。其れのみさ・・・」と拳を胸の前にトOンプさんの如に振る。
森元は、酩酊に強いが、平田は脆弱・・・森本こそ笑い、
「あんた、莫迦に酩酊うのが早い。そんなじゃ、少女所か、婆さんも抱けんな。あははは。」
「っけ!酩酊って無いわ。些いとひっ、ひつれいじゃねいかい、なあ、むふふ。」と意味もないにやけ状。
「ハイボオルでも抱いてろや。マア可い、さあ立て、帰れ!」腕を鷲掴み。
「止せやい」と腕を打払って、
「お前が酩酊ったと決めつけるな。俺が決めることであるぞ。年上は敬えや!」
「ジジイでもあるまいに・・・莫迦!莫迦!さあ、もう夜更けだよ。」
「大丈夫大丈夫、女の話をしよう。」何が大丈夫なのやら・・・。
森元は策士にあらぬが、此処は仕様ない、苦肉の計を算用するのみ。
(何らか食わせて、酩酊を醒ましてやる)
「よし、桃がある、いっそ食えや。」
と言いぬるも、平田の目はぱちぱちして、どうせ聞こえざらんや。
森元は一度部屋より消え、亦、愈々平田も御眠哉。
「さあ、食べて呉れ。」
「ああ、ああ、アハハ、美味そうだな・・・」
爪楊枝をサッと出そうにも、平田は森元を三人見ている。掴める筈もあらず。
「ああ、手で食おう。」
「そうそう、早々に然うしてくれればいいのにね。」
桃は概ね平田が食べて、森本は疲労の冷淡な目でみるだけよ。はは、滑稽。
平田は死んだ蒼蠅の如にころりと寝て、森本は追悼の蒲団をかけた。