第一回 暇日の埋木
緒言、時間あらぬ故、著くに能わずなり。
丹たる陽は、西に俯状。家屋が頭は紅に仄めき、宵は東路に迫る。
して、一見して街が景観にそぐわぬ、謂わば襤褸のアパートがある。中略。
窓辺に目を刺せば、御両者の若人、談ずるに花重く、かっかっかっか笑う笑う。
「稀には小説の一つ、サラリとながしてくれないかね。」
「莫迦、己にゃ才気の欠片も微塵に非いよ、言うだけ喉が渇くのみよ」
伊れら、文学の腕と来たら、全然なし。だのに夢だ、希望だ喚き、両隣の人は不眠であるという。
「ほら、簡潔な戯曲なんど、お前の向きな気もするが・・・奈何が・・・」
「チェホフかい、シェイクスピアかい、洒落っぽくて気がひける。」
戯曲をおいそれと勧めたる夫、廿も半端過り、尚も勤めに興を起こさぬ無頼。寧ろ文学の腕を、意味あらで信用じ、職文学是に定めぬる、阿呆、亦国の愧じぞなりたり。(而下平田とす。)
後手の二十歳、是も春盛り、花の香ぷんぷん、而るもそぐわぬ、非自信は見るも哀れ、マア春が傷哉、うふふ。(而下森本とす。)
「洒落も何も、明治の半ばにゃ流行だったんだぜ。・・・にしても、お前も既う三月は著いて非いだろう。そろそろ、頃合だと思うんだが・・・なぁ。」
「頃合なんど、己にゃない。」
「ふん、性悪。」
森本は眼をチラりと右りへ下すと、窓辺は乾り、紅に冴える。
「ホラ、彼の日夕を詩歌にでもせば如何かしら?」
平田は薄笑にて外を目配す。
「フン!詩なんどもう懲々さ。」
森本は拗ねて頭を振る。
森元の説明を些少ながらすると、伊れは少いと歪くれていて、今迄人付合いを巧みに為したる事非ず、平田は其中唯一無二の友であり、只一人の理解者でもある。
「マア、不気張や其中好いアイデアが水面に浮くよ。」
平田は白歯を輝り、口元を緩めている。
森元はへの口にフン、ト鼻笑う。