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外国かぶれと銃

 コウキは帝都の中心部を離れて、海沿いの港近くまで来ていた。


 港の近くまで来たとはいえ、まだ磯の香りは漂って来ない。

 漂うのは異国からもたらされた不思議な香りのする香水や、髪を七三に分けたり、なで上げてオールバックにするためのポマードの油臭いもので溢れていた。


 外国の商館などもあるため外国人と、この国の人間が帝都以上に入り混じっている。

 そのためか外国人の装いに合わせて、この国の人間も同じ装いをしようと必死だ。

 どだい顔の作りや、背丈、髪の色に、目の色と、違いを上げればきりがない程、外国人とは違う。


 しかし、そこは後進国であったこの国が、列強国に仲間入りするための、通過儀礼なようなものだろう。

 自国の文化の進歩や尊重よりも、先進国の文化を猿まねているのがこの国の、少なくとも帝都の現状である。


 そんな異臭と媚びた格好をした自国の者と、外国人が闊歩する中をコウキは歩いていた。


 商館が並ぶ中で、外国から取り寄せた物を販売している店なども見受けられた。

 コウキは普段では特別気にもかけないが、何気なく店の中に足を入れて、目についた物を手に取った。


    ・    ・   ・


 商館が建ち並ぶ通りを進み続けると、少し離れた所にレンガ造りの大きな建物がいくつも見受けられた。


 ビルの2階分以上の高さはあるであろうレンガ造りの建物が、各国から取り寄せられた品物を補完する倉庫である。

 海沿いに建てられた倉庫は、大きい物で十数個はあった。

 国内から運ばれて来たのも多少はあるが、多くは大海原を渡って、この倉庫で次なる目的地へ向かうための休息を取っている。


 いくつもある倉庫の中の1つにコウキは近づき、その大きさからは考えられない程に小さく見えてしまう、普通の大きさのドアを開けた。

 中では多くの労働者が声を張り上げ、汗を噴き出して輝いている。


 その光景をコウキは平然と見ながら、奥にある執務室へと足を延ばす。

 倉庫の階段を上がり、壁に四角い箱が取り付けられたような部屋のドアをノックする。


 「うぇ~い、誰だぁ?」


 男のやや気だるげな低い声が、ドアの向こう側から発せられた。


 「トラさん、コウキだ。入ってもいいか?」

 「んあ? おお、勝手に入れ」


 誰かと問うてきた、トラこと、トラジはまた気だるげに適当な感じで言葉を発した。

 それに返事することもなく、コウキはドアを開けて中に入る。


 窓ガラスから入る光で、執務室の中は照らされていた。

 中にはいくつもの木造りの机が並び、大きな長方形を作っている。

 それが土台だと言わんばかりに、机の上には書類が山の様に積まれていた。


 今は全員、出払っているようだ。

 一番奥の艶やかで、見た目から重厚感を感じる大きな机の上に足を乗せて、椅子にもたれ掛かって踏ん反りかえっているのがトラジである。


 目鼻立ちがすっきりした男前の渋い顔に、鼻の下に口ひげを綺麗に蓄えて、額の両側がやや後退し、残った髪を後ろになで上げている。

 折り目正しいシャツと茶色のスラックスでまとめているその姿は外国かぶれのように見えるが、鋭さを宿した瞳には、先進国の外国人でも敵わない強さがある。


 「他の人達はどうしたんだ?」

 「ああ、全員積荷の検品やら何やらで出払ってるよ。しばらくは戻らねぇだろ」


 相変わらず机に足を乗せたまま、尊大な物言いをトラジはする。


 「都合がいいな。銃と弾の補充をしに来たんだが、すぐに集まりそうか?」


 そんなことは意に介さず、コウキは必要な事だけを言った。


 「お仕事熱心だなぁ、お前は。外国の軍隊からの払い下げ品だが、手入れはしてあるぞ」

 「そいつは助かる。俺も学んではいるが、細かなことはできない」

 「そうかいそうかい。ったく、狩人ってのは自国の武器を使いたがらねぇもんだな、おい」

 「信頼性が違う。外国のは長い実戦で耐え抜いた物が多いが、自国の物はまだ作りが甘い」

 「へぇ~、そんなもんかい。ま、買い手もそこそこいるって事は、お前と同じような考えなんだろうな」


 コウキの言葉にトラジは妙に感心するような返事をすると、机の上から足を下ろし、椅子から立ち上がった。

 そのままコウキの横を通り過ぎてドアを開け、階段を降りていく。コウキはその後ろをゆっくりと追う。


 「必要なもんはリボルバーと弾だけか?」

 「あとは他で調達できる」

 「へぇ~、そうか。面白いもんがあるぜ。そっちも見ていけよ」


 階段を下りながら、トラジはコウキを見ることなく言った。

 コウキも階段を下りながら、最低限の言葉を返しただけで、あとは黙って付いて行く。


 いくつも山積みされている木箱を作業員に持って来させ、釘で閉じられていた蓋をこじ開ける。

 作業員はそこまでで立ち去った。余計なことはしないし、余計な物は見ない。トラジの教育の徹底さがうかがえる。

 トラジが蓋を開けると、オガクズに埋もれている黒い何かが見えた。


 「あんまり見かけないかもしれないが、なかなかのもんだぜ」


 持ち上げたのは太い銃らしき物だ。ただ普通の拳銃より大きく、銃身が2つあり、先には2つの大きな穴が開いている。

 コウキの持っている大型のリボルバーと比べても、太さも長さも違う。


 「これは何なんだ?」

 「ショットガンだ。普通は長くてライフルのような感じだが、これは銃身と銃床を極限まで短くしたもんだ」


 トラジはショットガンを持ち上げると得意気に構えて、次に銃身の根元付近が折れるように見せた。


 「お前の銃と同じように中折れ式だ。ここに2発の散弾を入れることができる」

 「2発? 2発撃ったら、弾薬を装填しなければいけないのか?」

 「まあ、お前のリボルバーも6発撃ったら、装填するだろう? たいして変わらんよ」


 そう言うとトラジは、コウキに向けて銃を差し出した。

 コウキは受け取ると、リボルバーとはまた違った重みと、その殺傷力を確認するようにショットガンをまじまじと眺めた。


 「お前が使うには丁度いい大きさだろう? 安くしとくぞ」

 「ああ。これなら何とか隠せる大きさだな。買わせてもらう」


 コウキの言葉に満足そうな笑みを浮かべて、トラジはそれ以外の物を漁り始めた。


 「とりあえず、これだけ渡しとけば大丈夫だろう。無駄遣いすんなよ?」

 「前みたいにトラさんが襲われなきゃ、使うことはない」

 「そんなに何度も妖魔に襲われてたまるかよ。まあ、俺の義理堅さに感謝するんだな」

 「ああ。そこは礼をいうところだ」


 鋭い眼光から優しさを見せて、トラジは軽口を叩く。

 コウキはその目を見ながら、いつも通りの口調で返した。


 仕入れた物を鞄の中に詰め込み、重みで伸び切りそうな鞄を片手に倉庫を出て、家路につくため港を離れる。


    ・    ・   ・


 家に着くと、すでにサヤは食事を終えているようで、少し冷えた料理が食卓に置かれていた。


 その料理を黙って食しているとサヤが自室から顔を見せる。


 「お帰り。必要な物は買えた?」


 そこまで気になっている風ではないが、サヤは質問をした。


 「ああ、色々と買えた。…サヤ、こっちに来い」


 相変わらずの冷たい声で返すと、コウキは少し言葉に詰まってからサヤを呼ぶ。

 コウキの言葉に促されて、サヤは食卓に向かうと、コウキは鞄を漁りだした。


 「土産だ」


 ぶっきらぼうに突き出した右手に握られていたのは、鮮やかな赤い色をした大きなリボンであった。

 それが何を意味しているのか、サヤは理解が追い付かなかったが、すぐに目の色を変える。


 「良いの? 貰って?」

 「俺は使わん。お前が使え」


 そう言ってコウキは、サヤに押し付けるように渡した。

 リボンを手に持ったサヤは、その鮮やかな色合いと異国の装飾に目を奪われた後、コウキに向けて嬉しそうに笑顔を見せる。


 「コウキ、ありがとう」


 ご機嫌な声色でお礼を言うと、足取り軽く自室に戻って行った。

 コウキはその後ろ姿を目で少しだけ追うと、食事を再開した。

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