闇が終わりて
天から優しく舞い落ちる火花が照らす中、神の半身は散って消えた。
コウキはサヤに五光稲光を返し、息が落ち着くのを待つと振り返る。
目を向けた先にはヴァンとシュライクがおり、それぞれが感慨深そうに散った者の先を見ている。
コウキはその2人の元へと向かった。
近づくコウキに2人は目をやり体を向けると、ヴァンが笑みを浮かべる。
「コウキさん、ありがとうございました。お陰で最悪な事態を避けることができました」
胸をなで下ろしたように、緊張から解き放たれたヴァンは緩い口調でコウキにお礼の言葉を口にした。
コウキはただ頷くと、シュライクに目を向ける。
目があったシュライクは顔を少し上げて、鼻を鳴らした。
「まあ、貴様のお陰ではあるか。そこは感謝してやろう」
上から目線のシュライクの言葉を受けたコウキは黙って体を向けた。
シュライクを見据えた目はいつもと同じく暗く表情もないが、何かを向けている。
「サヤ、来い」
コウキの後ろから付いて来ていたサヤが目を見開き、慌てて小走りで近づく。
コウキはサヤを見ることなく、シュライクから目を離さない。
一連の行動から何かを感じ取るようにシュライクは目を鋭くする。
「ほう……。貴様とは決着がまだだったな。ヤツは始末した。我らの共闘も終わりであるしな」
言葉に少しずつ力が込められ、最後には戦うことを了承するような言葉を口にした。
対して、コウキは顔色を変えず黙って見ている。
そんな2人の間にサクラが割り込み、コウキの目を力強く見つめた。
「兄さん……、お願い。戦いは終わったでしょ? これ以上は戦わないで。ね? お願いだから」
「おい、邪魔をするな。ヤツとてプライドがあるだろう。負けたままでいるのもしゃくなのだろうさ」
「あなたは黙ってて! ねぇ、兄さん……」
シュライクを押し黙らせたサクラは、コウキの目から逸らすことなく、これ以上無駄な争いを避けようとしている。
コウキを思っての言葉か、シュライクのための言葉か分からないが、サクラは戦いを何とか避けるために懇願した。
「サヤ、出せ」
横にいるサヤはコウキの声に肩が跳ね、サクラとコウキを交互に見たが、最後にうなじを露出させようと髪に手を掛けた。
「兄さん!」
「……手をだ、サヤ」
コウキの言葉に一同の目が丸くなる。
声を掛けられたサヤはまた困惑し、コウキの顔を見るがサヤに目を向けてはいない。
ただ、コウキに言われた通り、サヤはおずおずと手を差し出すと、コウキは無言で手を握り締めた。
握り締めた手を離さないように、ゆっくりと歩き始めたコウキはサクラの横で止まる。
「サクラ、手を握ってくれないか?」
手を差し出しながらコウキは言った。
あまりの出来事に動揺を隠しきれないようにコウキの手と顔を何度も見たサクラだが、最後にコウキの手を握る。
「兄…さん?」
「…温かいな。温かいままで良かった」
コウキは握った手を離すと、サクラの頭に手を乗せ、軽く撫でた。
「またな」
ただ一言だけ伝えると、そのままシュライクと向かい合うように立つ。
目と鼻の先にまで近づいた2人は黙って、お互いを見ていた。
「サクラを頼む」
「なるほど。復活の理由はそれか……。あいつの記憶が貴様にも伝わったということだな。…あいつが共に来るのならば悪いようにはせん」
「ああ。それも何となく分かる。ただ、確認したかっただけだ」
「見透かしたようなことを……。貴様は不死人になったのか?」
シュライクの問いかけにコウキは親指の先を噛んで、血が流れ続けるのを見せた。
「つまらん。まぁ、人だからこそ、お前は面白かったのだしな……」
「そうか。…頼んだ」
シュライクが後ろで鼻を鳴らすのを聞きながら研究所の外に足を向けると、その先にヴァンが立っていた。
ヴァンを素通りするように足を進めると、ヴァンが目深にかぶったハットから冷たい目をのぞかせる。
「いいのですか? 妹さんは見逃すとして、今なら僕とあなたでヤツは殺せますよ?」
猟犬の獰猛さを内に潜めていたヴァンは、口から本音を漏らすようにコウキを誘った。
ヴァンの冷たい目を見て、コウキは上に指をさす。
そこには火花が空から舞い落ちていた。
「これがどうかしました?」
「陽がある内は休戦じゃなかったのか?」
コウキの言葉にヴァンは目を大きくし、すぐに腹を抱えて笑い始めた。
「いや~、そうでしたそうでした。確かに陽があるように明るく見えますね……。ま、僕も殺すつもりはありませんでしたよ。一応、協力した関係ですからね」
笑みを蓄えたままヴァンは言うと、コウキは少しだけ頷き、研究所の外へと足を進めた。
後ろから兄を呼ぶ泣き声が聞こえる中、コウキとサヤは闇が覆う世界に消えた。




