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犬の本性

 ヴァンは3人の不死人に目をやり、歯噛みをした。


 コウキとの作戦までは上手くいった。

 クサンタとクリムの命は残り少ないだろう。

 だが、ミハエルの登場が早すぎた。


 ヴァンは噛みしめた歯を緩め、すぐに目を3人に向ける。

 それぞれの距離を測ろうとし、真っ先に始末すべき者を求めた。

 銃口を向けたのはクリムとクサンタだった。

 

 「なっ!?」

 「ちっ!」


 クリムとクサンタはヴァンの左手の軽機関銃がばら撒く銃弾に対して、バラバラに避ける。

 間断なく発射される銃弾はクリムを追い続けた。

 高速で大量の銃弾が襲い来る中、肌をかすめただけで肉を削られる程の傷を負いながらクリムは逃げ続ける。


 ヴァンは軽機関銃が吐き出す薬莢の影から、距離を詰めて来る者を察知した。

 クサンタが槍を短く両手で持ち、ヴァンの軽機関銃を上に弾くと舞うように突きを繰り出し追い詰める。


 「どうした!? 猟犬の名は飾りか!?」

 「くそっ! まったく、やり難い」


 接近戦に持って行かれたヴァンは、長い軽機関銃が仇となって銃身で叩くようにしか戦えなかった。

 鈍重な攻撃ではクサンタの槍術によって、軽々と弾かれてその身に当たることはない。

 紙一重で避け続けるヴァンは防戦一方のまま、押されていく。


 槍に追われて逃げる場所を断たれつつある時、ヴァンは目にする。

 暗闇に一筋の光が差すように、ヴァン目掛けて伸びる物に因って肌が粟立った。


 「くっ!」


 長剣と銃が打ち合ったことで火花が上がる。

 クリムの長剣がヴァンを狙うも、銃で切っ先を逸らして難を逃れた。

 だが、それを待っていたようにクサンタの槍の前に青い円が現れる。

 クサンタの尖った顔が笑みで歪む。


 「終わりだ、ヴァン!」


 槍を突き出されようとした時、重い物が地面に落ちた音がし、クサンタは一瞬だけそちらに目をやる。

 落ちた物はヴァンが持っていたはずの軽機関銃だった。

 ヴァンは驚きの目を向けてきたクサンタに冷たい笑みと共に、銀色に染まった左手の袖から伸びる小口径の隠し拳銃を向けた。


 乾いた破裂音が2発響くと、何度も後ろに飛び跳ねたクサンタは地に膝を着く。

 その体には奥の景色まで見通せる程の大きな穴が2つ開いており、流れ出る血の量もおびただしい。

 再生の速度も落ちつつあることが手に取るように分かった。


 「得物を手放したからと言って、油断するのはどうでしょうか? さてさて、あなた達はそろそろ限界のようですね。あと問題は……」


 ヴァンは拳銃をしまい、軽機関銃を拾い上げると研究所に目を向ける。

 相変わらず地に足が着いていないように、体をふらつかせ歩くミハエルに銃口を向ける。


 「あなたですね」


 言い終わると同時に軽機関銃が火を吹き、ミハエルに飛び掛かった。

 その刹那、正気を取り戻したかのようにミハエルは剣で身を守るようにし、蛇行しながら迫いくる。

 

 「意外に元気じゃないですか」


 迫りくるミハエルを銃弾で捕らえようと、動く先を狙って撃つがことごとく失敗する。

 ヴァンの力を警戒するように、無理な接近をしなかったミハエルに転機が訪れた。

 軽機関銃が黙り込み、反応しなくなったのだ。


 銃弾が切れた事にヴァンは歯がゆい顔をし、ミハエルは金色の剣に照らされた笑みで歯を全開に見せる。


 「遂にここまでのようだな、ヴァン。クリム! クサンタ! さっさと始末するぞ!」


 ミハエルは傷ついている2人に対して怒声を発した。

 その声に合せるように、2人はミハエルの傍に集まる。

 動かれる前にと、ヴァンはすぐに拳銃を取り出し、ミハエルに向け発射した。


 放たれた銃弾を弾き返すようにミハエルは剣を振るう。

 銃声をかわきりにクサンタとクリムが動き出した。

 長剣による遠くからの突きと、短く構えた槍からの刺突と打撃。


 銃で応戦しようにもヴァンの動きを封じるように、2人が繰り出す激流のような止まらぬ攻撃が続く。

 その流れを更に加速させるように、ミハエルが動き出した。

 2人の間を縫うようにして、ミハエルは剣を振り上げヴァンを両断する勢いで振り下ろす。


 「どうだ! 見たか! 怯め! 慄け! 泣け! 喚け! 詫び続けろっ!」


 ミハエルが大げさな剣の振り回し方でヴァンに襲い掛かる。

 クリムとクサンタもそれに続くように動き出した。

 だが、ミハエルが逆に邪魔をして、2人の連携が上手くいってないように見える。


 金色の刃に照らされるヴァンの顔は引きつっていた。

 それがミハエルを更に楽しませるのか、剣を振り回す速度が上がる。


 その動きがはたと止まった。

 すぐにミハエルは研究所に顔を向ける。


 「どういうことだぁ! 何故、貴様がいる!?」


 ヴァンに向いていた敵意が全て研究所に向き、ミハエルは猛然と走りだした。

 その光景にヴァンだけでなく、クリムとクサンタも呆気に取られている。

 全員が目を丸くしている時、研究所から宙を舞う影が現れた。


 影から長く伸びた黒い物がクリムとクサンタを薙ぎ払う。


 「ガハッ!」

 「ううっ!」


 2人が強く払われた痛みと壁に叩きつけられたことによって、うめき声を上げている中、ヴァンは2人に歩み寄る。

 左手にぶら下げた拳銃を、痛みで朦朧としているクサンタに向けた。


 「クサンタさん! 逃げっ!」


 クリムの呼びかけが、ヴァンの拳銃から何度も吠える銃声によって消される。

 クサンタの体中に大きな風穴が開けられると、塵と化して散った。


 その姿を大きく開いた目で見つめていたクリムがヴァンに怒りの目を向ける。

 熱く焦がさんばかりの目に、ヴァンは冷ややかな目と銃弾を送った。


 「ああああぁぁぁぁ! くそ! くそっ! くっそぉぉぉ!」


 片足と片腕を銃弾が貫通し、体から崩れ落ちて地に倒れ込む。

 ヴァンは顔色を変えずゆっくりとクリムに近づくと、左手の甲からするどい短剣が飛び出した。


 「まだ戦いが残っているので、悪いですがこれで勘弁してください」


 冷たい笑みを浮かべたまま、ヴァンは処刑執行人のように淡々と歩みを進める。


 「なかなか残酷ね。やっぱり犬は怖いなぁ」

 「サクラさん、大変助かりました。ミハエルが研究所に行ったので、先に行ってもらえますか?」

 「言われなくても行くよ。あんまり見たくないしね」

 「そうでしょうね。いずれは我が身かもしれませんから。お互いに…ね」


 サクラは少し棘のある言葉を口にし、肩をすくめた。

 その言葉にヴァンは頷き同調したが、最後に残酷な言葉を呟く。

 ヴァンの言葉に対し、あからさまに不快感を示したサクラは、すぐに研究所に向かって走りだした。


 「ということで、あなたはここで終わりです」

 「うぁぁぁぁぁぁぁ! ぐあ! えぁっ! いっ! いたっ!」


 手の甲から出ている短剣で何度もクリムの体を斬りつけ、突いた。

 絶叫するクリムに微塵も憐れむことなく、淡々と傷を負わせ、着実に死へと追いやって行く。


 「うっ! 裏切りぃぃいっ! 者め……! 何でぇぇ! こんなことを……」


 痛みに悶え、訴えたい事もまともに言えない程にクリムは疲弊している。

 必死の問いかけにヴァンは顔から表情を取り払った。


 「そうですねぇ……。人に語ることがありませんから、冥土の土産にでもしてください。僕はあなた方、妖魔に全てを奪われた。そんな僕にあなた方を恨む、死にかけの不死人が現れました。彼は最後の命を僕に渡す前にこう言いました。

 我等を殺せ……、とね。どちらも妖魔を憎んでいましたから、その思いが重なればこうもなります。それからは思いのまま妖魔を殺し続けました。これからもそれは変わりません。

 そして、最後に僕が殺す妖魔は、妖魔である僕自身になるでしょうね……」


 ヴァンの語りにクリムは寒気を感じたように、情けなく歯を鳴らし震えだした。

 語ったヴァンは、クリムに向けて短剣を大きく振り上げる。


 「僕は妖魔が嫌いです。ですが、僕自身の事も嫌いです。最後に僕が僕を殺す瞬間まで、あなた方を追い詰め殺し続けます。……最後の日をいつ迎えるのか…、楽しみにしてますよ」


 言い終えると同時に短剣を振り下ろし、クリムの体は頭から真っ二つに割ける。

 抵抗すらできず、体が二つに割かれて崩れ落ちる光景は正しく処刑に見えた。

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