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伏せし獣

 ミハエルの配下であるバルドロが死に、研究所の裏手には静寂が戻った。


 「さぁってと。俺達はそろそろお暇させていただきましょうかね」


 ハヅキはサブマシンガンを肩に乗せたまま、片目をつぶりサクラに向けて言う。

 ゼンスケは無言で軽く頷く。2人をサクラは交互に見て、大きく頷いた。


 「あの…、私達のためにありがとうございました。本当に感謝の言葉しかありません」


 心からの感謝の意を言い終えると、深々と頭を下げた。

 サクラの姿を見てハヅキは照れくさそうに頬を軽くかき、目を逸らした。


 「ま、お兄さんには色々と貸しがあるからな。こんだけ頑張ったんだ、流石にチャラにしてもらわないとな」

 「そうだったんですね……。兄さんはこんなことに関係ないのに……」


 すかした笑みを見せて言ったハヅキに、サクラは顔を曇らせて返した。

 ハヅキはサクラの言葉に面食らったように軽く目を見開いた。


 「あら? てっきり、お兄さんが主導かと思ってたぜ」

 「いえ、兄さんは……。皆のためを思ってなんです。この生き方しかできない自分だから、って言って……」

 「…なるほどねぇ。何だかんだでお人好しさんだね、君のお兄さんは」

 「はい。優しい兄です。…だから、苦しんだと思うんです」


 ハヅキはサクラから目を離して、正門の方角に目をやる。

 曇った表情のままサクラは少し目を伏せ、言葉を詰まらせて言った。


 「ま、苦しんだから、手に入れたもんもあるさ。俺達みたいなヤクザ者との関係はどうかと思うがね」


 歯を見せ、楽しげな笑みを浮かべたハヅキは、すぐに真剣な顔に変わる。


 「お兄さんに妹さんがいるなんて全く知らなかった中で、こんな話が出てきたんだ。お兄さんが苦しんだから、妹さんと一緒にいれるんじゃねぇかな? 始まりはどうあれ、悪い話じゃないかもしれないぜ?」


 サクラの顔を見ず、真っ直ぐな口調でハヅキは語ると、笑みを浮かべてあごを引いた。


 「ってこった。ちゃちゃっと片付けて、兄妹でしっかり話しな」


 言い終わると、裏手に背を向けハヅキは手を上げて軽く振った。

 ゼンスケもその後ろを守るように小走りで追いかける。

 サクラは2人の背中に向けて大きくお辞儀をして、研究所に向かって駆け出した。


 「あ……。これ、どうしたもんかな」


 ハヅキは目と口を大きくして、急に思い出したかのように手の物を見た。


    ・    ・   ・


 コウキの前に立ち塞がる2人の不死人が、コウキを挟むようにして絶妙な間合いを取って機をうかがっている。


 攻めに関しては『迅雷』の俊足を活用するのが効果的ではあるが、不死人の反応速度も並大抵のものではない。

 戦う方法としては敵の懐に入りたいところではあるが、長距離まで伸びる剣と、中距離から近距離まで何度も空間を移動し刺突を繰り返す槍がある。

 下手に攻めてしまえば、あらゆる距離から狙われかねない。


 コウキが思案している合間を縫うように、クリムが高速の突きを繰り出すと勢いそのままに長剣があり得ない程の長さに伸びる。

 長剣が伸びるのを横目で確認していたコウキは体を低くして、地を這うように駆け出した。

 伸びた長剣が戻るよりも早く、クリムを斬り殺す。高速で死を与えるための距離が縮まる。


 その時、コウキは背中に強烈な殺気を感じ、地を這うような走りを止めて、すぐに足から地面に滑り込んだ。

 地面を滑っている間に見たのは、青い円の中から伸びていた槍と、その先に現れた青い円だ。

 地面に手を着き、滑る体を反転させて体勢を立て直し、すぐに刀を構えると思った通り上部から槍が突き出てきた。


 「ふっ! くっ! ちぃっ! くうっ!」


 刀で何度もさばいては、青い円の中に消えていく槍がコウキを追う。

 更にクリムがコウキの攻撃範囲外から、何度も突きを繰り出す。

 後ろに飛び退き、地面を転がり、体勢を整えてから『迅雷』の力で駆けて距離を置く。


 息をも吐かせぬ攻防戦であり、一呼吸置くとまた同じように長剣と槍から繰り出される攻撃が続く。

 さばききることが不思議なくらいに、コウキは的確に不死人達の攻撃をしのぎ、距離を置いては一呼吸をする。


 「はぁ…はぁ……ふぅ」


 肩で息をしながらコウキは五光稲光に目をやる。

 刀から暴れるように飛び跳ねていた電気が弱くなりつつあった。


 距離を置いた不死人達に目をやる。

 2人で並ぶようにして、次の攻撃への力を蓄えている。


 動き出そうとした不死人達の機を制すように、コウキはコートの中に手を突っ込む。

 コウキの思わぬ行動に、力を加えた体が硬直したのを逃さなかった。


 「稲光伝身」


 左手の指の間に挟まれたクナイが姿を現すと、不死人達はそれが何かを見極めるために更に動きを止めた。


 「『煙雷』」


 コウキはクナイを投げると同時に足から掌へと流電させると、クナイを投げた左手を逆に大きく振るった。

 何てことのない投擲武器はあっさりと弾かれ、不死人達は改めて攻撃への動作に移ろうとする。

 その動作に移る中で目に入ったのは、細かく光る微粒子のようなものであった。


 「これは……?」


 思わぬ光景にクリムが光の粒に手を出す。

 クサンタは何かを感じたのか、口を開こうとした時、先にコウキが動いた。


 「痺れていろ」


 コウキの指先からか細い電気が発せられると、不死人達の周りを巻き込み、雲のような薄い雷が立ち込める。


 「なんっだっ!?」

 「ぐっ!?」


 体を襲う痺れに思わず声を上げるが、雷の雲が薄れると、2人は少しだけ痺れが残るように体を震わせた。


 「なんだ。たいしたことっ!」


 1発の銃声が鳴り響くと同時に、クリムの頭が四散する。

 クサンタはあまりの光景に目を大きく開くと、同じように頭が破裂した。


 修復をしだしたクリムとクサンタに向けて、連続して銃弾が襲い掛かると、その度に体が細かく砕かれる。

 2人は自分達を襲う銃弾の発射元に気付き、修復しきらない体で無様に跳ね飛びながら研究所の影に隠れた。

 また銃声が2発なると、響いていた銃声が鳴りを潜め、辺りに静寂が戻る。


 「ちくしょう! 一体、なんなんだ!」

 「焦るな……。あの力は間違いない……」


 2人が研究所の影から近くの木の上を凝視する。

 そこには銀色に輝く何かが見えた。


 2人の視線の奥には、銀色の光を放ち、ライフルが照らされている。


 「あちらは上手くいっていれば良いのですが。こちらはコウキさんのお陰で、だいぶ死に近づいたでしょうね」


 ライフルにスコープを取りつけた、狙撃銃を構えたまま不死人達を見やる。

 物陰から動こうとしないクリムとクサンタを見て、ため息を吐いた。


 「さて、ここからは僕の出番ですね。よいしょっと」


 太い木の枝から飛び降りると、狙撃銃を地面に放って、交換する様に地面から太く長い筒状の物に拳銃のように持ち手と引き金が付いた物を持ち上げた。


 「法王の猟犬として、しっかりと働きましょうか」


 銀色の左手で持った軽機関銃が手と同じ色に染まり、軽く口角を上げたヴァンの顔を照らした。

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