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立ちはだかる不死人

 研究所に闇を作らないために設置された電灯を銃弾が砕いていく。


 コウキは正門から突撃して、まず最初に行ったのは両手に拳銃を持ち、電灯を壊して闇を作ることだった。

 銃弾によって電灯がガラスと共に割れて散って行く度に、闇が研究所に向かって伸びていく。


 コウキに接近しつつある妖魔には、闇に溶け込んでいる姿を探すのは難しくはないだろう。

 事実、コウキは目まぐるしく動き回っているのに対して、それに翻弄ほんろうされることなく追い詰めようとしている。


 では何故、電灯を壊す理由があったのか。

 こうしなければならない理由はサヤの安全の確保である。

 力を解放してしまえば大抵の妖魔は払えるが、その存在を意識されてしまう。


 不死人とやり合う前にできる限り見せる力を限定したいとの考えから、コウキは自身で引き出すことができる力を全開にして人造妖魔と戦うことを選んだ。

 電灯の数が減り、研究所の玄関付近のみが照らされると、より一層、光と闇が対照的なものだと教えてくれる。

 

 コウキは両手に持っていた拳銃を放ると、肩からかけていたライフルを握って、闇からの追っ手に銃口を向けた。


 「げひっ!」

 「あがっ!?」

 「おげっ!」


 ライフルから放たれる大口径の銃弾が妖魔の顔を粉砕し貫通する。

 コウキは何度も引き金の後ろにあるコッキングレバーを下げては銃弾を装填し、闇に向けて銃弾を放つ。


 頭部を損壊しても立ち上がる者には今一度、銃弾を放ち、散らせていく。

 迫りくる妖魔の数に限りが感じられず、銃の弾倉を入れ替えては撃ちつくし、また弾倉を入換える。


 ライフルの弾倉も切れた所で、コウキは更に肩に回していたショットガンを手にし、妖魔に向けて駆ける。

 妖魔に接近し、頭を吹き飛ばす散弾を撃ち、別の妖魔を銃低で打ちのめし、自由に使える足で攻撃を繋げるために立ち回る。

 息もつかせぬ攻防戦を繰り返す中、コウキは少しずつ闇の奥に押されていった。


 追い込まれつつあるコウキを見て、妖魔は目を怪しく光らせながら得物を追い詰めたような下卑た笑みを浮かべている。

 下卑た笑みを見たくないためか、コウキは腰につけていたボール状の物を地面に叩きつけると、白い煙が妖魔とコウキを包んだ。


 「サヤ、やれ」


 白い煙が立ち込める中、コウキに向かって来ていたサヤの頭に手を乗せて、距離を置いた。

 サヤの胸から青白い光が漏れ、その輝きが強くなった時、光が爆発するように衝撃波と雷の混じりあった暴風が白い煙ごと妖魔を吹き飛ばした。


 すぐに辺りは闇に戻ったが、大半の妖魔はサヤの力で散ったか、感電して体の自由を奪われている。

 コウキは腰のホルスターからリボルバーを抜き出し、1体ずつ確実に葬り去る。


 風に乗って妖魔のチリが飛ばされていくのを見て残りを探していると、研究所の2階の窓ガラスが割れ、電灯の灯りの下に2人の男が下り立った。

 1人は金髪が肩まで伸びた長毛。顔は冷ややかで、目も鼻も尖って、心なしか唇はへの字に見える。足元まで届くロングコートを首ボタンまで閉じている。

 もう1人はあどけなさを残した青年だ。栗色の髪の毛は癖っ毛で短かめにまとめられている。シュライクとは違って華美な所は一切ない小奇麗なシャツとサスペンダーでスラックスを止めている。


 どちらもコウキを見る目に敵意がみなぎっている。

 コウキは2人の迫力から不死人であることをすぐに悟り、サヤの元に戻った。


 「サヤ、出せ」


 不死人達から目を離さず、サヤのうなじから伸びる柄が放つ光から判断し、素早く引き抜く。

 サヤの小さな悲鳴が聞こえ時には、コウキは動きに入っていた。


 「稲光伝身・『迅雷』」


 五光稲光の電光が体を伝い足に集まると、コウキの姿はサヤの前から忽然と消えた。

 次の瞬間、不死人の間を駆け抜け様に両断するように横から刀を振るう。

 だが、刀は空を切り裂くだけで、不死人達は斬られる直前に飛び退いていた。


 手応えのなさから、すぐに次の動きに備えて態勢を整えた時、宙から地面に下り立つ者達を見た。

 不死人達はおもむろに立ち上がり、コウキを挟むようにして視線を向ける。


 「んむ…、面白い……。人とは思えぬ力……。人ではあるが、人とは思えない……」

 「クサンタさん! 変なことを考えないでください! 1対1で戦いたいとか言わないでくださいよ!?」

 「あぁ…、そうだな。残念なことだ……。クリム、やるぞ」


 クサンタはゆっくりと言葉を選ぶように話し、クリムに思考を先読みされてたしなめられた。

 残念さを匂わせる顔と言葉を口にすると、2人はそれぞれ別の動きを取る。


 クサンタは右手を前に突き出すと、虚空から1本の青い槍が現れ握り締めると、槍を上げて何度か振り回し、脇で挟むようにし穂先をやや下に向けた。

 クリムは胸の近くに手を持って行くと、白い粒子が手に集まり、細長い棒状の物が出来上がると、更に細く長い鋭利な剣を形成した。

 長剣をクリムは脇を締めて、少し斜め上に剣先を向けて構える。


 どちらも長物であり、コウキの刀と比べて攻撃範囲は広い。

 肉薄してしまえば長物としての力は激減するが、そんなことは百も承知であろう。

 コウキの中で取れる戦術を思案する前に戦いが始まった。


 クリムの長剣がコウキの頭を目掛けて、空を貫きながら迫る。

 体をのけ反り、長剣が目の前を通過した時、別の方向から迫る影に気付く。

 クサンタが体勢を低くし、槍を諸手で突き上げるように攻撃を仕掛けて来た。


 のけ反ったコウキの上半身はすでに動きが固定しつつある。

 このまま体勢を維持してしまえば、槍に貫かれる。

 瞬時に判断したコウキは維持はせず、転ぶように足に力を入れて地面を蹴り上げた。


 盛大に転ぶように、勢いのある反転が槍の切っ先をかわすと、倒れる時に着いた手で後ろに飛び退き、下り立った足に力を込め駆けた。

 力強い攻撃を繰り出した後に残る筋肉の硬直が緩む前に、コウキは『迅雷』の素早さをもって、不死人の横を駆け抜け様に斬り、戻ってはまた斬りつけ、円を描きながら何度も斬りつけると距離を置き一息ついた。


 「ぐっふぅ……」

 「くっ! あぁぁぁぁ! …ちっ!」


 コウキの繰り出した閃光の如き斬撃を受けて、すでに数度の致命傷を与えているであろうクサンタとクリムは距離を置いたコウキを睨みつける。

 不死人との戦い方は多少分かってきていた。簡単に死なないことが仇となって、一つ一つの攻撃が致命傷になるように力強い。

 小手先技を繰り出して倒すよりも一撃で仕留める方が、下手に傷を負う可能性が少ない。だが、それは自分より格下が相手の時だ。


 人間同士の戦いであれば、同等の者を相手取ると、1つの過ちが死へと繋がる。

 不死人はそこが違う。死なないからこそ、過ちがあっても気にしないため、守りをおろそかにする傾向がある。


 その一点がコウキにとって付け入る隙であり、不死人がすぐに思い出すことではない欠点であろう。

 コウキが刀を構えると、クサンタとクリムも腰を落として構える。


 クサンタが一瞬で消え、コウキの横に回りこんだ。

 横目でその動きを確認し、距離を少し詰めてから、繰り出されるであろう槍からの刺突に身構える。

 だが、クサンタは離れた位置から槍を突き出す動きを見せた。


 それと同時に強烈な力を横から感じ後ろに飛び退くと、長剣の刀身にコウキの目を映す程に近い距離を横切った。

 目だけを横に向けると、離れた位置からクリムが長剣を突き出している姿を見せているが、剣はコウキがいた場所を越えて伸びている。


 以前、戦ったヴァルガス同様に不死人の武器は特異なものであることを今一度理解していると、コウキの足元に青い円が現れていた。

 慌てて飛び退くと、その円から青い槍が飛び出る。更に飛び出した先にまた円が現れると、その中に槍が吸い込まれ、今度は斜め上に円が現れて、またコウキを襲った。

 

 体をよじり、後ろに避け、刀で逸らして、何度も現れては飛び掛かってくる槍の猛攻にコウキは耐えて、改めて距離を取った。

 クリムとクサンタが持つ力は、長物による中距離からの攻撃だけではなく、長距離と至近距離からの刺突もあるのだ。

 全ての攻撃範囲に対応できることを理解し、コウキは思わず舌打ちをした。


 「素晴らしい……。ここまで戦える人間がいるとは……。何故、1対、」

 「クサンタさん! バカなことを言ってないで、さっさと片を付けましょう!」


 不死人達のやり取りを見て、思わず人との戦いのように思ってしまうが、すぐに頭を切り替えた。

 妖魔といえど感情を持ち、人のように生きている。改めてそれを思い出し、この戦いの意義と自分の意志を強くした。


 今、目の前にいるのは、妖魔の元凶ともいえる死体を手に入れようとしている者達だ。

 サクラが味あわされた恐怖と、コウキの人生を狂わせた原因となった死体を屠る。


 五光稲光が青白い光を放ち、コウキの鋭い目を照らしていた。

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