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三勢力同盟

 それぞれの思惑が交差する点を見つけたことで、部屋に流れる張りつめた空気が和らいだ。


 「その死体がある場所は分かっているのか?」


 たった今、死体の話を聞いたコウキにとっては、どこにあるのか見当もつかない。

 この質問にヴァンは軽く頭をかいて、困り顔を見せた。


 「それがぁ……。いくつか候補は絞れたんですがね……」


 ヴァンは尻すぼむ言葉を口にし、乾いた笑い声を上げた。

 ここまで来て場所が掴めていないことに、コウキは冷ややかな目をヴァンに送る。

 頼りない2人を見下すかのようにシュライクが鼻を鳴らした。


 「まったく、犬のくせに鼻が利かんヤツだ」

 「これは……。返す言葉もありませんね」

 「つまらん男だ。…場所は分かっている。帝国陸軍技術研究所の地下室だ」


 シュライクの情報にヴァンは眉をひそめた。

 帝国陸軍技術研究所は数ある軍事関係の研究所の中で帝都に一番近く、研究内容は多岐に渡り、極秘の研究も多いと言われている。

 コウキも存在や多少の事情を知ってはいたが、帝都からさほど離れていない場所の研究所にあるとは思いもしなかった。


 「何故、それが分かった?」


 コウキは単純にシュライクに疑問を投げかけた。

 シュライクは目だけをコウキに向ける。


 「貴様と初めて会った時の妖魔からの情報だ。ヤツは処分される寸前に逃げおおせたところ、我らが捕まえた。研究所を張っていたことと、我の鼻が良かったお陰だな」


 自慢するかのごとく、ご機嫌な音色を奏でるように鼻を鳴らした。


 「そこでしたか。もちろん候補にはありましたが、もう少し離れた場所かと思ってました」

 「かなり厳重に守られているようだからな。他の場所であれば、目立って仕方がないのだろう」

 「木を隠すなら森の中…ですね。場所も分かったことですし、あとは攻め込むだけですが、いささか戦力不足では……?」


 シュライクの言葉に納得したヴァンが周りを見て、少し不安げな顔を見せた。


 「人と犬で何とかしろ。我が死体を破壊する」

 「丸投げですか? さっき、厳重に守られていると仰いましたが?」

 「警護につく不死人は4人で全てだ。手勢の妖魔はおらん。…だが、人造妖魔がいるだろうな」

 「これはこれは……。僕達で5人……、いえ、4人ですね。不死人だけでも苦労するのに、人造妖魔付きですかぁ」


 ヴァンは呆れた声を上げ、肩を落とした。

 コウキは周りを見て、どう戦うことができるのかを算段する。


 昼間に攻めれば、研究所に勤める普通の人間と、警備の人間が多くいる。

 夜と変わらず多勢に無勢であり、更に妖魔の力を全力で発揮できず、そこに増援でも来ようものなら、まず勝てない。


 夜であれば、敵も同じではあるが妖魔の力を発揮できる。

 サヤもだが、不死人達も全力で戦えるので、妖魔に遅れは取らない。

 だが、4人の不死人を相手にするとなると話は別だ。


 それに時間を掛ければ掛ける程、死体を移送される可能性も増す。

 誰かが真っ先に死体の確保に走り、破壊し尽くすしかない。

 だが、電撃戦を行うにしても、人数不足ではどうしようもない。


 コウキの中で考え得ることを考え、結論に至る。


 「俺が戦力を揃えられるだけ揃えてみる。雑魚の引きつけだけをしてもらい、俺達は電撃戦で死体を破壊する」


 強い意志を見せたコウキの瞳によって、ヴァンとシュライクの顔が引き締まった。


 「それは助かります。不死人とサシでやり合えるのであれば、遅れは取りません」

 「雑魚でもいないよりはマシだな」


 ヴァンは笑みを浮かべ頷き、シュライクは見下した顔そのままの言葉を口にした。


    ・    ・   ・


 ヴァンとシュライクは早々に部屋を出て行き、コウキとサヤとサクラが残っている。


 「…兄さん、本気なの?」


 寂しげな顔と声色でサクラはコウキに目をやって言う。

 コウキは変わらず無表情のまま、サクラを見据えた。


 「本気だ」

 「手伝いだけで良いじゃない……。表だって戦わなくても……」

 「あの男はそれを良しとするのか?」


 コウキの問いかけに、サクラは寂しさを残したまま首を横に振った。


 「…それでも」

 「何故、そんなことを言う? お前はヤツの味方だろう?」

 「そうだけど……。胸がざわつくの……。前に兄さんが死にそうになりながら戦ったことが、すごく辛い気持ちで思い出すの」

 「だとしても、俺は戦う。死にそうになってもな」


 サクラが絞り出すように自分の中で沸き上った気持ちを伝え、コウキはそれを受け止めながらも拒否した。

 コウキにとってサクラでない者か、サクラの言葉なのか判断できずとも、拒絶したのだ。


 「どうして? そんなことして欲しくない……。昔のサクラもきっとそう言うよ?」

 「だろうな」

 「だったら、どうして!? 兄さんは苦しんだんでしょ? もう十分じゃない……」


 コウキから顔を背けたサクラは、下唇を噛んで悔しさを滲ませている。

 その顔を見るコウキの目は少しだが、寂しさを含んだものであった。


 「ああ、苦しんだ。…だからだ」


 コウキは静かに言った。

 自分が苦しんだことが、戦うための理由だと伝えた。


 「だからって…、何?」

 「お前を…サクラを失った。母さんも、村の皆も、俺の師匠も……。父さんは妖魔に変えられた……。全てに妖魔が関わっている」

 「それは分かるよ……。でも……」

 「俺は失って苦しんだ……。だが、苦しんだから手にしたものもある。それを守りたい……。それ以上に、俺のような思いを誰にもさせたくはない」


 少しだけ目を向けたサクラに、コウキは真剣な眼差しで自分の思いをぶつける。

 失って、復讐を誓い。苦しみ、また失って、復讐の念を強めながらも、失わなかった者がいる。


 失ったことで得た多くの者との繋がりをコウキは知った。

 それが大事なものであり、それ以上に自分のような不幸を誰かに背負って欲しくない。

 経験したからこその言葉に、サクラは目を滲ませている。


 コウキはサクラの目を見据えたまま、ゆっくりと口を開く。


 「お前の中にいるサクラに伝えてくれ。お前がいてくれたお陰で、俺は今でも幸せだと。……一緒に幸せになれなくて、すまないと」


 コウキの心からサクラを思う優しさが温かな言葉となり、その思いがサクラに届いたのか大粒の涙を流し始めた。

 止まらない涙を必死に堪えるように顔に力を入れながらも、涙を押し止めていた涙腺のせきを切った涙は止まらない。


 「お前が誰なのか正直なところ、俺は判断できない。だが、サクラだったことには違いない。それなら、お前だけでも幸せになってくれ。できれば、その幸せを分けてあげてくれ……」


 しゃくり泣きを始めたサクラに向けてコウキは言うと、サヤの手を引いて部屋から出る。

 声を上げて泣き出したサクラの声を背中で聞きながら、コウキは少しだけ目を伏せた。

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