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交錯する思惑

 1人の人間と3人の妖魔が、洋館の客間の中で向き合っていた。


 コウキはベッドの傍に立ち、部屋の入り口近くのシュライクを見据えている。

 サヤは孤独だったあまりか、コウキの腰に手を回したまま他の者達に目をやっていた。

 サクラはそんな2人の間から一歩引いた所で、少し笑みを浮かべている。


 「計画だと?」


 コウキは静かに言った。


 「ああ。細かく言うつもりはないが、貴様にはヤツ等の邪魔をしてもらうぞ」


 笑みを残したままシュライクはコウキに向けて指図するようなことを口にする。

 その言葉にサクラが反応し、顔を軽くしかめた。


 「シュライク、人に物事を頼む時は頭ぐらい下げたら? って、前にも言わなかったけ?」


 最後にサクラは少し首を傾げ、考え込む顔をした。

 シュライクはサクラの指摘が気にくわないのか、舌打ちしてコウキに目を戻す。


 「貴様のことを生かしておいた。その上、妖魔の娘も生かしておいたのだ。力を貸すぐらい、当然のこととは思わぬか?」


 上から目線な口調で、恩を押し付けるようなことをシュライクは言うと、コウキは静かに目を閉じた。


 「言っていることに間違いはないかもな。だが、内容を聞かなければ、どこまでお前の指示に従うか……」


 腕組みをしたコウキは納得するように小さく頷き、右目だけ開けてシュライクを逆に脅す様なことを言う。


 「しおらしいと思えば……。下手に言えば漏れるかも知れぬ。黙って我の命に、」

 「お話次第では僕もお手伝いしましょうか?」


 この声に驚いたのはコウキ以外の全員であった。

 視線が集中する先は、開いたドアの前に立っているヴァンだ。

 グレーのスーツに、丸みを帯びた中折れ帽子で身を固めている。

 人差し指で帽子を軽く上げて、笑みを浮かべた顔を見せた。


 「兄さん! 私達を殺、」

 「違う。それぞれの思惑をここでさらけ出すためだ」


 コウキはサクラの問いかけを遮り、シュライクを見て言った。

 ヴァンは帽子を取ると頷き、シュライクは舌を鳴らして忌々しいものを見る様に顔をしかめる。


 「まあまあ。陽もあることですし、休戦にしませんか? では、僕からお話しをしましょうか。お部屋に失礼させていただきますよ」


 帽子を手に持ったまま、ヴァンは軽快な足取りで部屋を進み、コウキの近くまで歩くと不死人達に体を向けた。

 シュライクとサクラの顔が強張っている。今、法王の猟犬の中で1番の腕前を持つ男が目の前にいるのだ。


 「では、単刀直入に申し上げましょう。私の目的はあれの回収。……もしくは破壊です」


 微笑んだままのヴァンが口にした言葉に、シュライクとサクラの顔がまた変わった。

 強張るというより、いぶかしげな顔をしている。


 「あれ? もしかして、あなた達も?」


 ヴァンはすっとんきょうな声を上げ、シュライクを食い入るように見る。

 見られたシュライクは眉間にしわを寄せ、今にも噛みつきそうな顔をしていた。


 「貴様と同じにするな。法王の命令のままに動くような輩に、強い意志を持った目的などない。指示があれば動くだけの犬風情が」

 「これは手厳しい。まあ、仰る通りです。僕は犬ですからね、妖魔を殺せる場所を提供してくれる法王の……」

 「何を見たのかは知らんが……。余程、我らだけでなく、他の者達にも恨みがあるようだな。…同胞よ」


 ヴァンは冷酷な笑みを浮かべ、殺気すら放ちそうな力が込められた言葉を口にした。

 その気持ちを汲み取るような言葉をシュライクは返し、最後の言葉に憂いを感じる響きを残す。


 シュライクの言葉にコウキとサヤは目を見開き、横にいるヴァンを見る。

 すでにヴァンの顔は軽く笑みを浮かべたものになっており、先程の殺意を微塵も見せてはいない。

 まだ面食らった顔を微かに見せているコウキに向けて、シュライクが口を開いた。


 「ほう、初耳だったか。ヤツも不死人だ。まあ、生まれてから我らと行動を共にしなかったようだが……。さて、誰の心を貰ったのやら」

 「僕の原風景など語る必要はありません。ただ、あなた方を…、妖魔を許さないだけです。コウキさんと似ているかもしれませんね」


 ヴァンは腹に響くやや低い声をシュライクに発し、最後はコウキを向き笑みを見せた。

 不死人でありながら、妖魔を憎む者。不死人でありながら、同胞の計画を無きものとしようとする者。


 2人の考える方向には交わる所があった。コウキもヴァンと考えが近い所がある。

 コウキの中で、あとはシュライクの思惑次第と考えた。


 「俺も妖魔を屠る、それだけだ。だが、今回はただ屠るだけでは済まない。この国が何かで人工的に妖魔を作り、それを狙って不死人達が来た。

 そして犬はそれを探索に、更には不死人で裏切り者までが出た。その原因とは何だ? この国に深い闇を作ったものとは何だ?」


 コウキは当然の疑問であり、全てが帰結する話を全員に問いかけた。

 知っているであろうシュライクとヴァンは少しだけ目を伏せた。


 サクラを見ると、頬を軽くかいて少し困り顔をしている。

 全員知ってはいるが、口にすることをはばかられるものであるように見えた。


 「言わないのは勝手だ。俺は俺でやることをやる。お前達はお前達の好きなようにやれ」


 ため息交じりでコウキは言うと、突き放す言葉を残して、この場から立ち去ろうと足に力を入れた。


 「ここまで来て言わないのは不義と言うものでしょう。目的は違えど一緒に戦ってくださるのに、言わないのは卑怯ですからね」


 真剣な眼差しをしてヴァンは言うと、目を閉じて、静かに口を開く。


 「我々や不死人達が求めたもの、それは神が残したもの。死して魂が天に昇り、神となった者の抜け殻……。神となった者が地上に置き捨てた死体です」

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