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救出

 夜のとばりが下りる頃、コウキは寝室で武器の整備を行っていた。


 銃を解体し、銃身にブラシを掛け、金属部に潤滑油をならす。

 クナイも一本一本を鋭利なものにするために、やすりを使い分けて刃を磨く。


 慣れた手つきで淡々と整備をしていると気配を感じ、外に向けて分解前の銃を突き出す。

 撃鉄は上げられており、あとは銃弾が発射の合図を待つ状態になった時、窓ガラスを叩く音がした。


 窓に顔を向けると、ダークグレーで全身を整えている男が、つばの長いハットを人差し指で上げて顔を見せた。

 ヴァンが軽く笑みを浮かべながらコウキを見ている。


 コウキはヴァンに向けて、玄関の方にあごをしゃくると、ヴァンは従うように窓から姿を消す。

 それを追うようにコウキは玄関に向かい鍵を外すと、何も言わずヴァンは家に入った。


 「立ち話もなんですので、家に上がらせてもらっても良いでしょうか?」


 軽い口調でヴァンは言うとコウキは頷き、居間にあぐらをかいて座った。

 ヴァンもコウキにならうように座ると、かぶっていたハットを畳の上に置く。


 「ほぉ……。意外に立ち直るのが早いですね。もうダメじゃないかと危惧してましたが」

 「そうか。…前に助けてくれたのはお前だろう? 礼を言う」


 人を軽く食ったような言葉を口にしたヴァンに対して、コウキは冷静に返し、感謝の意も伝えた。

 ヴァンは急に声を上げて笑い出し、楽しそうな笑みが残ったままの顔でコウキを見据えた。


 「失礼失礼。ほぼ復活といった感じですね。たくましい人ですねぇ、あなたは」

 「周りのヤツ等がうるさかっただけだ」

 「それでも立ち上がったのは、あなたの意志でしょう。不死人の脅威も知っているのに……」


 先ほどの楽しそうな笑みから続けられた言葉は、途中から感嘆するような響きに変わり、顔も穏やかなものに変わっている。

 ヴァンの言葉通り、コウキはサヤの力があっても倒せなかった不死人の力を知っている。

 そして、そいつ等にサヤはさらわれて、助けに行こうとしているのだ。


 普通に考えれば蛮勇としか思えない行動だが、コウキはそうとは思っていない。

 ただ、サヤを助けるために必要なことを行う。それだけを考えていた。


 「確かに厄介だが、戦い方次第では何とかなる。それにサヤの救出が最優先だ」

 「なるほど。倒すのではなく、渡り合うだけで、本命は忘れていないんですね」

 「ヤツ等を殺すのは貴様の役目じゃないのか?」

 「確かに。僕の役目に繋がるでしょうから、あなたと共に戦うなら都合が良いです」


 ヴァンは手を後ろに付き、体を少し傾けながらコウキの言葉に返した。

 コウキは変わらぬ顔と目をヴァンに向けて、確認の言葉を聞こうとする。


 「俺と共にヤツ等を倒すのか?」

 「ええ、できれば。そちらの方が救出の成功率も上がるでしょう?」

 「そうか……。俺はサヤを救出する。それ以降は勝手にしろ」


 お互いの役割を確認し合うと、ヴァンは笑みを失くしてコウキを見る。


 「不死人は昼だと力の全ては発揮できないので、動きを止めることはできるでしょう。ただ…問題は夜を迎えた時です。完全に力が解放されてしまえば、前のように厄介なことになります」

 「その前に殺しきることは?」

 「できないですね。殺したら、死んだ妖魔と同じように散ります……。が、散った後、夜に再生するのです。これもまた厄介なところですね」

 「殺すことができても、一度の死しか与えられず、復活場所まで変わる可能性があるのか……」

 「まったく持って厄介この上ないですよ」


 2人共、神妙な面持ちでどう戦うかの思案をしている。

 サヤの救出が比較的難しくないのは朗報だとしても、不死人の力の悲報の方が頭に重く圧し掛かかった。


 畳に視線を向けたコウキは、あごに手を当てながら考える。

 1つだけ気になることがあり、顔を上げてヴァンに問いかけた。


 「俺を助けた時に何があった?」

 「えっ? 何が…ですか? 2人組の不死人が、あなたを連れて行こうとしましたよ」

 「では、サヤがさらわれたのは?」

 「僕が止めたからです。あなたが不死人になられて利用されでもしたら、彼女の力より厄介ですからね」

 「そこだ」


 コウキが確信を得たような顔をして語るとヴァンは首を傾げた。


    ・    ・   ・


 コウキはカズマとキョウコがいる陽明社のドアを開けた。


 「コウキさん、おっはようございます」

 「…少しはマシな顔になったわね」


 軽快な口調のカズマと、少しだけキツイ口調のキョウコがコウキを出迎えた。

 ただ、2人が浮かべている表情は晴れやかなものであった。

 いつものコウキが戻ってきたことに安堵し、喜んでいるように見える。


 「…すまなかった。…キョウコ、カズマに頼んだヤツの居場所は特定できているか?」

 「もうちょっと感謝の念が欲しいけど…、いいわ。場所は分かってる。1人で行くの? モリタカさんに頼んで警察も動員したら?」

 「いや、それだと不味い。誰にも気取られないように動かなければならない」


 いつも通りの無表情と低く暗い声が、冷静さと力強さを取り戻したコウキであることが分かったのか、キョウコは微笑ましく見ている。

 カズマも同じく笑顔を浮かべており、それをコウキは察して2人を見やった。


 「何だ?」

 「いえいえ~。じゃあ、いつも通り行っちゃってください」

 「まったく……。キョウコ、地図を渡してくれ。今から乗り込む」


 コウキが差し出した手に、キョウコは力強く頷き、丸めた地図を渡す。

 陽が中天にある中、コウキは足早に陽明社を後にした。


    ・    ・   ・


 この国で外国人が住むことを許されている場所は少ない。


 外国との貿易を主とした港がある地域のごく一部に限られている。

 そんなごく一部に建てられる家々は、地位が高い、もしくは金を持った者達しか持ってはいない。

 それも自国から設計した図面を、自国の者が読み、指示をし作り上げたものばかりだ。


 洋風の世界にかぶれて建てられた、紛い物の洋館とは違う、本物が立ち並んでいる。

 白亜の宮殿のような家、優雅なティーパーティが開けそうな庭を持つ豪邸、大きくは無くともそこかしこに凝った装飾を施してある家。

 さながら海外の住居展とでも言えそうな程、本物の光を放ち、この国にいながら異国を歩いている気分にさせる。


 異国の中とも言える居住区をコウキは歩いていた。

 1つ1つが眩しい家ではあるが、コウキには何も感じるものはない。

 ただ歩き、目的の場所へ向かった。

 

 1つの洋館の門の前で足を止める。

 積み上げられた石で造られた2つの柱に、鉄製の四角い門が付けられていた。

 周りも低いが積み上げた石を土台にして、鉄柵が館を覆っている。


 コウキは力んだ様子もなく門を押すと、金属がすれ合う高い音を奏でながら、コウキの訪問を受け入れた。

 そのまま中に入り、芝生が敷かれた庭を横目に館の玄関に向かう。


 玄関から目を離さず、さも自分の家であるかのようにドアノブに手を掛け引いた。

 だが、ドアは侵入者を拒むように、鍵がドアを開けないように踏ん張る。

 おもむろにドアノブから手を放すと、左脇に手を突っ込みリボルバーを取り出した。

 

 「うるさくしても構わないなら、引き金を引いて邪魔をするぞ?」


 ドアに向かって暗く低い声で脅迫めいた言葉を発した。

 ドアの向こうから笑い声が聞こえる。ついでドアの鍵が外されたと思われる金属音が聞こえると、ドアが少し開いた。

 コウキは開いた隙間に足を突っ込み、横に払うと、サクラが楽しそうに笑っている。


 「兄さん、人を呼び出す言葉がそれってどうなの? 普通に入れて、って言えば良いじゃない」

 「友人の家ではない。その逆の家に断りを入れる必要はない」


 サクラの言葉にコウキは無表情のまま、ぶっきらぼうに返すと館のやや小さめのホールに目をやる。


 「あの女の子でしょ? こっちだよ。付いて来て」


 サクラがコウキの前に立ち軽やかに言うと、階段を上って行き、廊下を進む。

 1つのドアの前でサクラが止まると、ドアノブに手を掛け開けた。


 サクラが先に入って行くのについて行くようにコウキは部屋の中に入ると、サヤがベッドの上でうつむいている姿があった。

 他の者と違う気を感じ取ったのか、サヤは顔を少し上げると、大きく目を開いた。


 「コウ…キ? コウキ!」

 「遅くなった……。悪かったな」


 コウキがサヤに近づくと、サヤもベッドから下りてコウキに近づき、コウキの腰に手を回して腹に顔を埋めた。

 震えるサヤをコウキは優しく撫でて身の無事を確認していると、ドアの方から拍手が響く。


 「感動の再開ではないか。まあ、それも終わりだ。貴様を捕えて、我は同胞の、」

 「お前はそうはしない」


 拍手を終えて、相変わらずな傲岸な物言いをシュライクが続けようとしたところで、コウキが冷たく断つように遮った。


 「何故、そう思うのだ?」

 「俺が動けないことは知っていたはずだ。なのに、捕まえに来なかった。俺が犯人だと分かっておきながらな」

 

 シュライクは表情を変えず、コウキの目を見る。上から目線ではなく、対等の者同士が語る様な目をしている。


 「サヤを連れ去ったのは、サヤの力に興味を持ったのもあるだろうが、俺をおびき寄せるものでもある。…俺を利用するためにな。

 お前は……、他の不死人達と違う考えを持っている。いや、出し抜こうとでも考えている……。同胞を裏切ってな」


 コウキの言葉を黙って聞いていたシュライクが顔をうつむけて少し笑い出すと、笑い声に比例して顔を上げて行った。


 「ふ~…、なるほど。バカでないのは嬉しい事だ。そうだ、我はヤツ等の計画を無きものとするために動いておる」


 シュライクは凍りつきそうな顔を見せ言うと、最後に不敵な笑みを浮かべた。

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