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集まる力

 波乱の『親睦会』をなんとか乗り切ってから、さらに怒濤の数日が過ぎた。

 この間私は、良民軍のソダーン司令官ほか幹部たちやリュウシュク市の重鎮たちと何度も会議を繰り返していた。

 会議の議題も多かった。ジーテイアス城を含めた対暗鬼大同盟の締結と、その前段としての廃都ラウリス奪還作戦、そして私たちジーテイアスの建国についてなどなど。


 もっとも、リュウシュク市民の信用を得ることができた効果は大きく、どの会議でも行き詰まることはなく終始建設的に進めることができた。これについては、外交官エリザベルの根回しやプレゼンが大いに役立ったことは間違いない。


 ひとまず、リュウシュク市および良民軍と合意できたのは以下のとおりだ。


 1:ジオ・マルギルスとリュウシュク市は暗鬼対策全般に関する同盟を結ぶ

 2:1により、ジオ・マルギルスと中央良民軍は暗鬼に関する情報伝達手段を共有する

 3:リュウシュク市はジオ・マルギルスがジーテイアス国を建国し王位につく活動を全てを支援する

 4:中央良民軍はジオ・マルギルスによるラウリス奪還計画を支援する


 これは満額回答といって良い。

 リュウス大会議において対暗鬼同盟を成立させることを、第一の目的としてここまでやってきたわけだが。最大の障害だったリュウシュク市がここまで協力してくれるとなれば、半ば達成したも同然だろう。

 ラウリス奪還作戦についても、良民軍は動いてくれることになっている。私たちの偵察結果をもとに、作戦を立てはじめている。



 いやぁ……ここまで長かったなぁ。


 などと、感慨にふけっているが、実は今はそういう場合ではなかった。


 「マルギルス殿? 聞いておられるのですか?」

 「あ、うむ。聞いてる聞いてる」


 ここは魔術師ギルドリュウシュク支部の会議室。

 私とクローラは、ジーテイアスと魔術師ギルドの協力について話し合うために呼ばれてきたのである。


 初対面の時と比べると、ペリーシュラの態度は相当に軟化していた。……いや、軟化、というのかな。


 「まったく、真面目にやっていただきたい。よろしいですか? 私が編み出した共晶魔術を応用すれば、遠く離れた町と町の間で瞬時に情報を伝達できる可能性があるのです。それができれば、貴殿が提唱する対暗鬼同盟がより一層効果的になるのですよ?」

 「それは素晴らしいですね」


 ペリーシュラ女史は、眼鏡(何だか、『キラン』と光ったような気がする)を人差し指で持ち上げながら、淀みなく言った。

 私は頷くしかない。


 「その通りです。ですから、貴殿も呑気に迎賓館などにおらず、こちら・・・に移って研究に協力すべきでは、と申しているのですよ」

 「いやあ、それは」


 ペリーシュラの研究と提案は素晴らしい。

 詳しい理屈は分からないが、魔力を用いた遠距離高速通信技術ということだろう。これが実用化できたら大変なことだ。『対暗鬼同盟の効率化』という局地的な話ではない、冗談抜きでこの世界セディアの歴史が動く。この人は本当に偉人なんだよなぁ。

 そんな人の研究に、私が貢献できるわけないのだが。


 「協力していただくのは有難い。そのお気持ちも嬉しい。だが、私の『魔法』と『魔術』は根本的に違う技術なのだ。申し訳ないが、私がお邪魔しても本当に邪魔にしかならない」

 「違う技術だからこそ。情報を交換し交流することで、より発展させることができるのです」

 「あーいや、まぁその」


 口調は冷静なのだが、ペリーシュラはやけに熱心だった。彼女が身を乗り出してくるので、私はその分仰け反る。


 「ペリーシュラ師!」


 仰け反った私を押しのけるようにして、クローラが声を張り上げた。


 「マルギルス殿は、ジーテイアス城の主。重要なことは理解いたしますが、一つの研究にだけかかずりあう・・・・・・暇はございませんわ」

 「……」


 まあ彼女の言うとおりなのだが。もう少し柔らかく言ってあげてほしい。というより、せっかくあちらが歩み寄ってくれているのだがら、何とかしたいところではあるが。

 ペリーシュラはクローラの正論に俯いてしまった。


 「うーむ……」


 私は腕組みして、ちらりと隣の金髪美女クローラを見る。この問題を解決する方法が頭にちらついているのだが、ちょっと彼女に悪い気がするのだ。


 「はぁ」


 すると、私の気持ちを読んだわけではあるまいが、クローラは指先を額にあててため息をついた。


 「ペリーシュラ師。わたくしは、マルギルスから少しは魔法についての講義も受けております。リュウシュクに逗留している間、わたくしがこちらで研究にご協力いたしましょう」

 「そ、それは……」

 「これでもレリス支部の五席でもありますわよ? 必要ならばマルギルスとの間の橋渡しもいたしますし。……何か不都合が?」

 「……ありませんね」


 こうして、クローラはしばし別邸に逗留することになった。

 本当に、彼女には助けてもらってばかりだな。




 それから数日の間に、多くの『客人』がリュウシュクを訪れることになった。その一部は、私にとっても友人である。


 「おぉー! 魔法使い殿ぉ!」

 「魔法使い殿! お久しぶりです!」

 「お、お出迎え恐縮です」


 私はリュウシュクの港で彼らを出迎えた。


 「がっはっは! 俺様がきたからにはもう安心だぜ!」

 「ちょっと兄貴、大人しくしなよっ」


 縦にも横にも(主に横に)巨大な身体に騎士の鎧。カルバネラ騎士団のギリオンは全く変わらず、馬鹿笑いしていた。赤毛の女騎士、ギリオンの妹リオリアも、いつものように兄に小言を言い、肘打ちをかます。


 「ラウリス奪還作戦、カルバネラ騎士百人と私たちが参加させていただきます」


 礼儀正しくお辞儀をしたのは、小柄な美少年騎士アルノギア。

 その後ろには、グンナー副長をはじめとするカルバネラ騎士団の面々が整列していた。その面構えや装備は良民軍に負けていない。頼もしい限りである。


 「マルギルス殿、我らもカルバネラ騎士団とともにお役にたちますぞ!」


 驚いたことに、カルバネラ騎士団はドワーフの部隊と一緒だった。戦斧郷のドワーフたちもラウリス奪還作戦を噂に聞き、協力を申し出てくれたのだという。


 「君たちの力、頼りにさせてもらう」



 翌日には、シルバス騎士団が到着した。

 ロバルドはとっくに失脚しているので、新しい騎士団長のもと五十人がラウリス奪還に参加するためやってきてくれたのである。シルバスの規模から言えば五十人とは少ないが、まああそこは『ごたごた』していたからな。 

 その代わり、彼らは大量の食料を持参してくれた。新領主フィリィネ殿からの、せめてもも心づくしだという。その食料は有難く、ラウリス奪還作戦のため使わせてもらうことにする。


 さらに、レリス市からは傭兵隊が二百人。彼らと同行してきたのが、レリス市で難民生活していたラウリス市民からの義勇兵三十人。リーダーは、ラウリス偵察に同行してくれたあのライル・フィム・ランデル青年だった。


 「マルギルス様っ! これで本当に、ラウリスを我々の手に取り戻せるのですねっ……!」


 ライルは感激のあまり、私の手をとって泣き出していた。ラウリス義勇兵のみなも感無量といった顔をしていた。兵士としての戦いはあまり期待できないが、現地を知る協力者としては役に立つだろう。

 ラウリス市民がやってきたことで、ラウリス奪還後を睨んだ政治的な駆け引きも始まっているわけだが……とりあえずそこはエリザベルに任せている。



 また、戦将カンベリスが率いる戦族の軍団が百名もリュウシュクにやってきたのには驚いた。カンベリスは、例の精神支配マインドコントロールした司祭を利用して暗鬼崇拝者デモニスト狩りをしていたのだが。ラウリス奪還作戦のことを聞き、スラードでの活動を他の戦将に任せて駆けつけてくれたのだという。


 「暗鬼との戦いがあるなら、そこが俺たちの居るべき場所だからな。当然だ」


 カンベリスは淡々と言ったものである。




 彼ら以外にも、リュウス同盟の各都市からぞくぞくと援軍が集まってきていた。シルバスとレリス以外の都市には特別頼んだわけではないのだが……これも、『大魔法使い』の名声が高まったお陰だろう(と、エリザベルが言っていた)。


 戦族たちは例によってリュウシュク郊外でキャンプを張っているが、それ以外の軍隊が逗留することによって市内が大分賑やかになってきていた。

 私はこれから、各勢力の代表が集まっての作戦会議に出席することになっている。


 いよいよ、だ。


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