司祭 その2
神聖樹の幹に設置された祭儀場から見下ろすと、レードが最後の達した者を真っ二つにしたところだった。
現場に到着したオグルたちは所在なげにうろうろしている。
捕虜の人々も無事なようで一安心だ。
彼らの事情も気になる。
「ははっ。そのミイラはシャーラン・ロウム・ツアレス。元八守護聖人にして、我ら暗鬼崇拝者の『伝える者』でございます」
そう、私が【過去視】で見た司祭(仮)と、目の前のミイラは同じ服装をしていたし姿形も酷似している。ついでに言えば、ミイラに刺さっている杖も見覚えがある。多分、『ラウリスの杖』というやつだろう。
「で、何でそんな姿で……いやそれは後で聞こう。まずお前は何者だ?」
「よくぞお聞きぃくださいましたぁっ! 我が名はザルザム! スラードの太守にして暗鬼教司祭、そしてジオ・マルギルスさまの下僕でございますぅっ!」
「……」
司祭、は、まぁ良いだろう。しかし太守? 太守って地方長官とかそういう意味の太守か? 何かまた面倒事の予感がする。
そして、下僕。
レイハに似たようなことを言われた時も背中がぞわぞわしたが……後頭部が長く無毛で爬虫類顔のおっさんに満面の笑みで言われると……凄い破壊力だ。
「如何なされましたか我が神?」
「そっとしておいてくれ」
「……ぉぉぃ!」
目眩を感じてよろめいたところに、セダムの声が届く。
石段の下で仲間たちが合流していた。こちらを見上げて手を上げている。
……ザルザムから話を聞くのは後にしよう。
「ありがとうございましたぁっ!」
「心から感謝します! マルギルス様っ」
「ほ、ほんとに、死ぬ、死ぬかとっ……」
ザルザムを祭儀場で待たせ仲間の元に戻った私の前で、解放された5人の元捕虜たちが
平伏していた。
彼らは、『喪失戦争』で廃墟になったラウリス周辺の村や砦で財宝探しをしていた冒険者だった。
数日前にばったり暗鬼崇拝者たちと出会い捕獲されたのだという。
「あ、あいつら俺たちを生贄にするっていって……本当に助かりました」
冒険者たちのリーダー、戦士のマイズが改めて深々と頭を下げた。ちなみに、28歳でレベル4。
彼らはシルバスを拠点にラウリス周辺で活動しているそうだ。ただし、ラウリスに入るのも初めてだと言うし、重要な情報は持っていないようだ。
「マ、マルギルス様っ。あの、石段の上にあるのはっ……」
ライルが私の袖をひき、祭儀場の方を指差した。ラウリス貴族である彼にとっては一番の関心事だろう。
「いつものことだが、また大分ごちゃごちゃしてきたな」
セダムが肩をすくめながら言った。
まずは、落ち着いて話や調査ができる環境を整える必要がある。
というわけで私たちは、まずザルザム以外の暗鬼崇拝者を無力化した。
これはザルザム自身が二箇所に分散していた部下を呼び集めた上で【拘束】や【眠り】の呪文を使うことで、簡単に捕獲に成功している。
いまは全員縛り上げて、地下の一室に閉じ込めている。
次に冒険者たちの処遇だが、彼らだけではラウリスから脱出できないと言われたので、しばらく同行してもらうことにした。
今は装備も取り返し、周囲の警戒などに働いてもらっている。
ここまでやって日が暮れてきたので、ラウリス城地下の客間に一泊することになった。
水や食料は暗鬼崇拝者たちが持ち込んだものがあったので、人数が増えても問題ない。
「では、色々と聞かせてもらおうか」
「ははぁっ! 我が神マルギルス様のためなら、どのようなことでもお答えいたします!」
私、セダム、レード、そして司祭ザルザムの四人は改めて祭儀場に集まっていた。
杖で神聖樹に串刺しにされたツアレスのミイラは不気味だが、様子は昼間と変わっていない。
ライルや冒険者たちには客間で休んでもらっていた。
目の前のツアレスがミイラになったり、アルガンが焦点になった経緯。ザルザムがここで何をしていたのか?
そして、以前『のっぺらぼう』が言っていた、『十年以内に第三次大繁殖が起こる』という言葉は事実なのか?
いやそもそも、暗鬼とは、暗鬼崇拝者とは『何』なのか?
ことによるとこの世界を震撼させる話を聴くことになるかもしれない。