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不思議な女の子〜双子視点〜

1話2話を双子視点で。

希ちゃんは側から見たらこんな感じに見えてました。中身は知らぬが花、ですね。


〜月乃視点〜




私には双子の兄がいる。

名前は陽哉(はるや)と言って、黒髪黒目の凜とした雰囲気を持つ美形だ。

友人は侍だの忍びだのと称してくれたけど、まさにそんな雰囲気の持ち主。

実家が古武術の道場をしているせいかもしれない。

とても優秀で、勉強も運動も人より抜きん出ていて人望もある。自慢の兄だ。


そんな兄に対して私ときたら全てが平均。可もなく不可もなく。顔立はどうにか平均より上をいっているものの、それでも陽哉の隣に立てばかすんでしまう。

私の名前が月乃で、まさに太陽の光の前には消えてしまう、そんな存在なんだなぁって、昔から感じていた。


だからと言って、陽哉の事が嫌いかといえば、それは無いと、自信を持って言える。

陽哉と私は自他共に認める仲良し双子で、片方に何かあれば、何となく感じ取れる絆もあった。

いつでも一緒で、離れるなんて考えた事も無かったけど、現実は残酷で、両親の離婚という、とてもありがちな理由で私たちはバラバラになった。


もともと古武術の大家である家の風習に馴染む事のできなかった母さんと後継である父は、私の物心つく頃にはギクシャクしていた。

その上、祖母はとても厳しい人で、母さんは何度も陰に隠れて泣いていた。

元々父には「きちんと躾された良い家の娘さん』をと考えていた祖母にとって、大学で知り合い連れてこられた母さんは気に入らない相手だったのだろう。

陰に日向にイビルイビル。

(ちなみに母似の私も嫌われていたけど、陽哉がいつでも側にいた為さほど実害は無かった)

門下生の方も気の毒そうに見ていたくらいだから、相当なものだろう。

父は武術一本の人で嫁姑の関係に割って入れるほど器用な人ではなく、結果、私たちが10歳の時に母が切れた。


最初、母さんは私達二人共を連れて行こうとしていたのだけど、陽哉を祖母が手放そうとせず、泥沼の争いになりかけた時に、陽哉が自分から残ると言い出した。

勝ち誇る祖母に泣き崩れる母さん。

だけど、陽哉は母さんを助けたくて残ると言ったんだと私には分かっていた。

このままじゃ、母さんはこの家から逃げられない。子供の頃からこっそりと泣いていた母さんを知っていた私達の結論で、言い方は悪いけど、陽哉が生贄に残ったのだ。


渋る母を説得し、母さんと私はあの家を出た。それ以来、私と陽哉は、陽哉の忙しい時間の合間を縫って会う関係となった。

陽哉が中学に入った時に携帯買ってもらった時は、2人して連絡が取りやすくなったと小躍りしたもんだ。(もちろん、私も同時期にゲットした)


そうして、母さんが泣く事もなくなり(仕事を始め今や生き生きとシングルマザーライフを楽しんでいる)、表面上は穏やかな時間が流れた。

陽哉をあの家に置き去りにしてしまったという、ほんの少しの陰を残しながら。




その日は、母さんの誕生日プレゼントを選ぶ為に、久しぶりに陽哉と会っていた。

楽しい時間はあっという間で、夕焼けて赤く染まる中をいつものように家まで送ってもらってる途中、それは起こった。


陽哉の足元に不思議な模様が浮かび上がり、次の瞬間激しく発光した。

「陽哉!」

「月乃、来るな!」

光に包まれた陽哉に、手を差し伸べるけど拒絶される。一瞬怯んだけど、光に陽哉の輪郭が霞んで見えた時、気がついたら陽哉に飛びついていた。

受け止めてもらった腕の感触を感じながら、あまりの眩しさに目がくらむ。


そして、再び目が見えるようになった時、そこは見知らぬ場所だった。

薄闇の中、ざわざわと複数の人間のざわめく声がする。

「成功だ」「勇者が……」「世界は……」

ざわめきの中、幾つかの単語を拾う。

心拍数が上がり、動悸がハンパない。

コレって、もしかして……。


その時、明かりがつき、影がうごめいているようにしか見え無かった状態から、視界が開けた。

まず見えたのは、くろ。

私を守るように抱きしめていた陽哉の学ランの色。

そこから、ぐるっと視線を巡らせる。


石造りの部屋は天井が高く先端に行くに従って尖っているみたいだったけど、暗闇に沈んでよく見えなかった。

ずいぶん高いところに設けられた窓から微かに明かりが漏れている。

足元には不思議な文字で象られた円陣が描かれ、その周りを黒いローブを着た人が一定間隔で取り囲んでいた。

壁に立てられた松明の炎が揺れ、えもいわれぬ雰囲気を醸し出している。


更にその後ろに中世ヨーロッパの貴族のような服を着た人達。

甲冑を着込み、剣や槍を携えた騎士や兵士。

そして、何より目を引いたのは、ありえないほどカラフルな目や髪の色。


(異世界召喚、キタァァ〜〜)

思わず、心の中で叫んだ私は悪くないとおもう。

平和な日本の10代の嗜みとして、ラノベも少女漫画もそこそこ手を出していた身としては、何処かで聞いたような展開に、少々浮かれたのはしょうがないと、勘弁してほしい。


だけど、次に目に入った光景に我に返った。

私達と群衆の間に、小さな女の子がペタンと座り込んでいたのだ。

長い長い黒髪が広がり、石畳の上に複雑な模様を描いている。

ここからではわずかにしか見えないが柔らかなラインを描く頬は蒼ざめてみえた。

その顔色に現実感が湧いてくる。

そうだ。浮かれてる場合じゃない。


明らかに自分より弱い存在に、護らなければと身体が反射的に動いていた。

それは、陽哉も同じだったみたいで、気付けば2人して少女の前に立っていた。

「ここはどこですか?貴方達は誰なんです?貴方達が、僕達をここに連れてきたんですか?」

陽哉の声が響く。

冷静に聞こえるけど、これはかなり怒ってるなぁ……。

と、その声に反応したように少女が立ち上がる気配がした。

(うわ、綺麗な子)

後ろを振り返り、息を飲む。


立ち上がってなお地に着きそうな程に長い髪は真っ黒で艶艶と輝き、少女の華奢な身体を彩っていた。

10歳位だろうか?

黒髪に縁取られた顔はあくまで小さく、肌は抜けるように白い。

黒目がちの大きな瞳は長い睫毛がびっしりと縁取り、少し潤んだ感じが庇護欲をそそった。スッと通った鼻筋にやや小さめの唇はまるで紅を塗ったように紅い。


(和風白雪姫?いや、かぐや姫かな?)

思わず、感嘆のため息を吐く。

前に並ぶ男達が何処かぼぅっとした眼をしている人が多かったのは十中八九、少女のせいだろう。

と、少女がこちらに足を踏み出し、そして、盛大に転んだ。

「きゃうっ」

思わず漏れたらしい声はまるで子犬のように愛らしかった……が、いい音したよ?

大丈夫かな?


慌てて駆け寄り、少女を助け起こし、怪我がないか確認する。

少女が半べそで身体を起こした。真っ直ぐに切りそろえられた前髪の隙間から赤くなったおでこが見えた。

痛みと羞恥にか、1度上げられた顔がふたたびふせられる。

と、少女は自分の手をじっと見つめ、開いたり握ったりを繰り返した。

「大丈夫?どこか痛めた?」

「大丈夫……だけど」

心配になって尋ねると、少女は首を振り、長い髪をギュッと握りしめた後スクッと立ち上がって、自分で怪我がないかチェックしてるみたいだった。


に、しても、少女は変わった格好をしていた。大きすぎるワンピースにエプロン。お母さんのものを無理に身につけたような。

おままごとでもしてたんだろうか?

「ごめん。鏡ないかな?」

突然の要望に驚きながらも鞄に入れていた手鏡を渡してあげる。

顔に傷がないか気になるのかな?と思っていると、じっと自分の顔を見ていた少女が奇声をあげた。

「なんじゃこりゃぁ〜〜!!」

松○優○か!と、突っ込まなかった自分を褒めてあげたい。




狼狽している少女を抱き上げて、応接間のような部屋に移動した。

出された紅茶とお菓子を遠慮なく摘みながら、陽哉とおじいさんの話し合いを聞く。

少女は、まだ混乱しているらしく、カップを両手で持ってじっと紅茶を見つめていた。

憂いの少女。絵になるなぁ。


そして、状況はというと、正しく王道な異世界召喚のお話状態で、世界の崩壊を止めるために勇者と聖女を召喚したとの事で。

……うわ、ここでもいらない子か。

とっさに飛びついちゃったせいで巻き込まれたんだな。

どうしたものか。

まぁ、付いて来ちゃったものを悔やんでもしょうがないし、異世界補正を期待して、できる事があるならやろう。

足手まといになりそうなら大人しくしてれば良いかな?


なんて考えてたら、少女がブチ切れた。

まぁ、言いたい事は分かる。

突然、こっちの都合おかまい無しに連れてこられたら怒って当然だよね。

ましてや、なにやら記念日の準備中だったらしく、それは、パニックにもなるだろう。

子供ながらに頑張ってた最中に拉致。

こんな可愛い子じゃ、残された家族の心配も眼に浮かぶようだ。


しかし、淡々と相手を追い詰めるトークはかなり怖い。本当に子供か?って疑いたくなるくらいだ。

だけど、泣きそうな瞳で家に帰してくれと訴える姿は胸に迫る。

キュッと唇を噛み精一杯睨みつけている姿は憐憫の情を誘った。


どうしようかと戸惑っていたら、陽哉が、そっと少女の頭を撫でて慰め出した。

それ、私が拗ねた時の対処法だよ、陽哉……。

不器用な仕草に笑いそうになりながら、私も参加しようとギュッと小さな身体を抱きしめた。

まぁ、間違ってないよね。こういう時の人肌って落ち着くと思う。

強張っていた身体から、ゆっくり力が抜けていくのを感じつつ、艶やかな黒髪を撫でる。


陽哉が、私達を庇うように前に立ち何か言おうとした時、彼は来た。

(うわぁ、キラキラ王子様だ)

飛び込んできたのは金髪碧眼のザ、王子って感じの子だった。

ウチらと同じ歳くらいかな?

そして、表情険しく初まった会話は意外なもので………。

キラキラ王子様は、実はなりたての王様で先王は亡くなったばかり。

状況は私が思っていたよりもずっと深刻だったようだ。

展開された会話に感じる物があったのか、少女は怒りの矛を収め、協力要請に頷いた。




そうして、居住地になるお城へと移動の馬車の中で、少女からすごいカミングアウトを受ける。

中身が33歳って、マジですか。

若返りも王道って言えばそうだけど、良かった。私達までそうならないで。

幼児3人組とか笑えないって。

とりあえず、ハッキリとした原因は不明だけど、しばらくは周りには子供の振りをするらしい。

まぁ、相手を油断させるには良い手だよね。




お城に着いた時には真夜中で、とりあえずそれぞれの部屋に解散となった。

何かあったら困るため同じ部屋が良かったんだけど、それぞれの部屋に中からも移動できる扉が付いているって事で妥協した。

お風呂に入って、用意されていた夜着に着替え天蓋付きのデッカいベッドにダイブする。

流石王様のお城。良い寝具使ってる。


眼を瞑り、意識して深呼吸。

しかし、とんでも無い事になったなぁ、っと改めて思う。

だけど、あまり元の世界に戻りたいと思っていない自分に苦笑が漏れる。

別に現状に不満があったつもりは無かったけどどうしても帰りたいと言うほどの未練も無かった。

母さんに恋人ができた事も大きいだろう。

凄く良い人で、あの人なら安心して母さんを任せられる。


「ま、なるようになるでしょ」

つぶやいて瞳を閉じれば眠気がやって来る。

明日のために、おやすみなさい。




〜陽哉視点〜




「疲れたな」

自分に与えられた部屋の無駄に豪華な寝台にすわりポツリとつぶやく。

月乃と買い物帰りに突然見も知らぬ世界に呼び出され、この国を救ってくれと懇願された。

自分に何が出来るかは分からないが、その力があるはずだからと乞われれば、取り敢えず頷いだ。

状況に流されるのは昔からで、別に後悔は無い。

息の詰まる自分の家を思えば、与えられた新たな役割は、むしろ願ったりな気にもなる。



自分の家は、古くから続く古武術の大家で、現在は父が師範長として家を取り仕切っている。

昔から名のある家の守護職を任せられて来た名家で、護るべき相手は自分で選び生涯を仕えるという、時代錯誤な掟がまかり通っていたりする。

櫻木家といえば、その道では有名でこの名を持つ物に守護される事は一種のステータスになっているらしい。


その只中で育ってきた身とすれば、そんなご大層な家か?と言うのが正直な感想だ。

やたら古めかしい規則に雁字搦めに縛られ、ありとあらゆる武術を叩き込まれ、どんな場に出ても恥ずかしく無いようにと礼儀作法に果ては花道や茶道、書や絵の教養まで叩き込まれる。

息を吐く暇も無い日々の中で、自分がすり減っていく気がしていた。


挙句、後妻に子供が出来たらどうも当たりが強くなり居心地が悪い。

別になんの執着も無いから、必要なくなったのならサッサと手離してくれれば良いものを、外聞を重んじてなかなかそうもいかないらしい。

………居なくなって小躍りしてるんじゃ無いだろうか?

それはそれで癪に触るけど、かと言ってあそこに戻りたいかと言われれば微妙だ。

月乃が向こうにいたら、また違ったかもしれ無いけど、一緒にこっちに来てるしな……。


ふと脳裏に幼い少女の姿がよぎる。

泣きそうになりながら、大切な人の元に帰せと叫んでいた。

あんな風に全力で守りたいものが自分にはあっただろうか?

月乃?……は、少し違う気がする。あいつは対等な関係で、自分の事は自分で決めて突き進むタイプだ。守りたいなんて言ったら、鼻で笑われそうだな。


なりふり構わず、帰ろうとするその姿が少し

羨ましく思えた。

あんな風に思ってくれる相手がいたなら、この冷え切った心も少しは温かくなるのだろうか?

後で、彼女が見た目通りの年齢では無く、一児の母親で、戻りたい理由も息子の為と知った時、驚いたけど、なんだか納得した。



ツラツラと考え事をしていたら、体は疲れているのに妙に目が冴えてしまい、少し頭を冷やそうとバルコニーへと足を向けた。

そうして、見つけた姿に目を奪われる。


月明かりに照らされて長い黒髪が輝いていた。

白いシンプルなワンピースから覗く手足は細く、華奢な肢体はそのまま月明かりに溶けてしまいそうなほど儚く見えた。

大きな瞳は一心に月を映し、何かを祈っているように感じた。


そっと手摺までより声をかける。

らしくない囁くような声は、ちゃんと彼女まで届いたのか不安になるほど小さく闇に溶けた。


「今日ね、息子の誕生日だったんだ」

小さな声。

唐突な話題になんと返して良いのか分からず沈黙する。そんな俺にクスリと笑みをこぼし、語られるのは優しく穏やかな情景。

彼女が息子を大切に慈しんできた事が、しっかりと伝わってくるような……。


だから……。

「泣いて無いかな?」

自分の方が泣きそうな声で呟かれた言葉に反射で返したのは、らしくない前向きな提案。

こんなの、どっちかといえば、月乃の言葉だな。


だけど、重ねた無茶な言葉は無駄では無かったようで、ふわっと彼女の張り詰めた肩から力が抜けたように見えた。

月を仰いで、どこかで聞いた歌をほんの少しだけ歌う。澄んだ歌声が月に登っていくかのようだった。


「ありがとう。一人じゃなくて良かった。おやすみなさい」

こちらを見ぬままそう言うと、少女は静かに部屋に戻っていった。


「おやすみ、良い夢を」

少女の部屋の窓が閉まる瞬間にようやくつぶやいた挨拶は彼女に届いただろうか?

1人残され、もう一度空を見上げる。

2つ並んだ月がここが地球ではない場所なんだと、まざまざと教えてくれた。



この世界で、何ができるかは分からない。

けど、彼女が笑顔になれる手助けができたら良いな、と漠然と思った。











読んでくださり、ありがとうございました。


月乃ちゃんは、しゃべりの割に中身は真面目さんです。ただ、それを外に出すのが苦手でついおちゃらけてしまう、という。

陽哉君は、冷静に見えてかなり捻くれてます。優秀な上に負けず嫌いなので、教えられた事はキッチリこなすけど、それにあまり価値は見出してません。

2人共、実家の関係で物心つく頃から戦う為の教えを受けてるので、基本スペックは高め。離婚後は、月乃は陽哉にたまに鍛えてもらってました。


以上、双子の設定でした。

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