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能力を鍛えよう 1

またまた遅くなりました。申し訳ありません。血なまぐさい描写が少しあります。苦手な方はご注意下さい。


異世界生活3日目。

今朝も、侍女さん達のおもちゃにされた後、いつもの食堂に向かう。と、言っても2つ隣の部屋なんだけど。


「希ちゃん、おはよう」

先に来てた月乃ちゃんは、しっかり休めたのか朝から元気いっぱいだ。

「おはよう。早いね。昨日は大丈夫だった?」

席に着くと直ぐに飲み物が運ばれてくる。

今日は、オレンジ?ジュースだった。


「うん。魔法、楽しかったよ〜。やり過ぎて倒れちゃったけど。上手く弓とかと合わせたら役に立てそうなの」

にこにこと嬉しそうに報告する月乃ちゃんに首をかしげる。


「弓?」

「魔物と戦うのに何が良いかって話になってね。私達、家の方針でいろいろ習ってたんだけど、私は1番弓道が得意だったから、ここでも弓が良いかな、って。陽哉は剣にするみたい。1番汎用性が高いからって」


パンを口に放り込みながら、なんでもない事のように言ってるけど……。

弓?剣?いろいろって、……どんなお家だったんだろう?


「なんかね、元武士の血族とかで血筋だけは古いみたい。お家ももろ日本家屋な感じで大きいけど古いの。今時土間があって釜戸でご飯炊いてるんだよ?信じられる?!」

疑問が顔に出てたみたいで、月乃ちゃんが一気にまくし立てる。

……なんか、いろいろ溜まってる人が多いなぁ。


「羽釜のご飯美味しいよね」

とりあえず、思った事を口に出してみると、月乃ちゃんが毒気を抜かれたような顔をしてから、吹き出した。

「うん。美味しい。確かに美味しかったわ、ご飯」

ケラケラと笑う月乃ちゃんの声に合わせて後ろからも笑い声が聞こえる。

「今時貴重だよね。日常的に釜戸使う家も羽釜でご飯炊ける高校生も」

クックッと喉の奥で笑いつつ入ってきた陽哉君が席に着く。

「おかげでキャンプの時は重宝がられた」

「そうそう。私、他の班まで手伝ったもん」


楽しそうな双子に肩をすくめて見せた。

「その子たちの気持ちは分かる。私、思いっきり焦がしたもの」

初めて息子と2人でキャンプに行った日の、焦げ焦げご飯は良い思い出だ。

双子が更に楽しそうにケラケラ笑う。

「じゃぁ、今回野宿になったら美味しい炊き方教えてあげるね!」

「……よろしく」

なんか話がそれたけど、ま、いいか。

ふたりとも笑顔だし、ご飯は美味しく食べたほうが良いよね。

今回はパリパリのクロワッサンに手を伸ばす。……ふむ。相変わらず良い仕事してます。




朝食がすみ、2人は昨日の修練場に行ってしまった。

私は私で、怪我人が収容されていた場所へと足を向けた。

昨日の今日だけど、新しく運び込まれてないかな?と、気になったのだ。



「……なんか、昨日より多い気がするんですけど」

ベッドなんて当然足りるはずなく、床に直接マットをひいた簡易寝台が所狭しと並べられ、怪我人が転がっていた。

「昨日の聖女様の働きを聞いて他の治療所にいた者たちも運び込まれてきたのです」


呆然とつぶやくと、ここの責任者の魔術師さんが申し訳なさそうに伝えてくる。

昨日、怪我人を運んできた人でその後もここでの私の世話係のような事をしてくれている人で、キースさんという。

垂れ目の優しそうなおじさんでイメージは小児科の先生だ。


「それって、つまりこれだけでは終わら無いって事ですよね」

国中にどれ程の治療所が設置されているかは知ら無いけれど、10や20では無いだろう。

しかも、魔穴をふさがない限り新たな魔獣被害者は日々増えるわけで……。

「いたちごっこ?無理があるでしょう」

人より魔力の量が多いからって倒れないわけでは無い。

現に、昨日双子は昏倒したし、私だって近い状態になっているんだから。


自分の親い人が怪我や病で苦しんでいれば、少しでも早く楽にしてあげたいと思うのは人として正しいと思う。

けど、私だって自分が可愛い。

毎日倒れるまで働くなんて、絶対体に悪いに決まってる。

あ、でも魔力を増やす方法としては正しいのか?

それって、どんなスポ根理論?嫌すぎる。


「あの……聖女様?」

立ち止まり黙り込んでしまった私に気分でも悪いのかとキースさんが覗き込んできた。

それに、慌てて首を振り気を取り直す。

今、ここでごねててもしょうがない。

来てしまったものを追い帰すわけにもいかないし、苦しんでいるのを見てしまった以上、放っておく気にもなれない。


(アァ、また調べ物する時間は取れなさそうだなぁ)

心の中で溜め息を1つついて気持ちを切り替える。


「とりあえず、1番傷が酷い人から案内していただけますか?」

「では、こちらです」

キースさんが優しげな微笑みを浮かべ先に立つ。

自分では、どうする事もできなかった命が救われる事が、嬉しくてしょうがないのだ。昨日、そう言って涙ぐみながら膝をつき礼を取った姿は記憶に新しい。

てか、本気で焦った。

自分より年上の偉そうな人に膝つかれるのって心臓に悪い。

まぁ、あれがあったからこその今の私の心情でもあるんだけれど。


「聖女様、お待ちください」

キースさんの後に続こうとした時、不意に後ろから呼び止められた。

振り返れば、煌びやかな貴族の姿の若い男性が立っていた。


目の端でキースさんがわずかに眉を顰めたのが見える。

「あちらにお待ちの方を先にお願いします。先程から、随分お待ちになられているのです」

名を名乗るでもなく、一方的にそう言うと付いてきて当然とばかりに踵を返す男に不快感が湧いてくる。

あんた、誰よ。


無視して、キースさんに向き直る。

「お待ちの方とは?悪いのですか?」

「いえ……、あの……」

苦虫を噛み潰したような顔に大体の事情が見えてくる。

「何をされているのです。早くして下さい」

高圧的な声にクッキリと眉間にシワが寄るのが分かった。


行く義理は無いけど、きっと行かなければもっと時間を取られるのが目に見えていた。……けど、行きたくない。

「どのような状態なのですか?」

ここにいる以上は、キースさんが把握しているだろうと話を振ってみる。


「ご自宅で転倒され足首の捻挫だそうです。お医者様に診察も受けられているそうです」

スラスラと帰ってきた返事にさらに眉間のシワが深くなるのを感じる。

湧き上がる怒りの衝動を溜め息でどうにか逃し、にっこりと男に向かい微笑んだ。

「それならば、私の必要は無さそうですね。失礼します」

軽く膝を折り、踵を返す。


「なっ!どちらに行かれるのですか!!」

声を荒げ、肩を掴まれた。

痛いな、もうっ!

とっさに振り向きざまその手を払い、男を睨みつける。自分の目が鋭くなっているのを自覚するけど、改める気にもならない。


「どこにとは、不思議な事を。貴方の目はふし穴ですか?倒れ苦しむ人々がその目には見えませんか?貴方の主人の傷はこの方たちよりも深いと言うのですか?」

冷たい目のまま淡々と言葉を紡ぐ。

「言わせておけば小娘が!お待ちの方をどなたと「しがない小娘なので存じ上げません」


男の言葉をぶった切る。

「名前も、お聞きせずとも結構。どうぞお引き取り下さい。戯言に付き合うほど暇な身では無いので」

言い捨てて、あまりの屈辱に言葉を失っている男に背を向ければ、3歩程進んだところで再び肩を掴まれた。

「侯爵様だぞ、そんな失礼な態度が許されると思っているのか!他の怪我人など放っておけば良いだろうが!!」


アァ、ダメだ。言葉が通じない。

本当に、時間の無駄。

プツリと、何かが切れる音が聞こえた気がした。


「放っておけ、ですって?」

幼い姿にそぐわない、低いひくい声が出た。

それまで高圧的に振舞っていた男が息を飲み、何かに押されたように一歩、後ろに下がった。

「ここに居るのは力なき民の盾となり傷を負った勇者達です。身分?そんな物、ただ無為に振りかざすだけならなんの意味も無いわ。下がりなさい。『貴方の顔など見たくも無い!』」


男は、顔に恐怖を貼り付け、ぎこちない動きで踵を返すとゆっくりと部屋の外へと退出していった。

その背中が見えなくなってから、はぁ〜、と大きく息を吐く。


「煩わせてしまい、申し訳ありません」

キースさんの消え入りそうな声に我にかえる。今にも泣きそうに歪められた顔に笑いかけた。

「こっちこそ。事を荒立ててしまってすみません。どうしても、我慢できなくて。本当に、何様のつもりなんでしょうね」

ペコリと頭を下げれば、アワアワと恐縮された。


「私こそ、責任者を名乗っていながらすみません。本当なら、私が毅然とした態度で断るべきなのに」

悄然と肩を落とす姿に苦労が垣間見えた。

魔法の腕は良いけれどあまり身分の高くないキースさんは同じ様な苦労を何度も重ねてきたのだろう。


「本当に気にし無いで下さい。この国で暮らす以上、抗ってはいけ無い事もあるでしょう。私は異邦人で縛られる物もないから」

言って気づく。

キースさんに八つ当たりが来るかな…。

舌打ちしたい気分になったけど、まぁ、しょうがない。カリオスさんにでも言って対処してもらおう。


「では、当初の予定通り案内お願いします」

「………希様、笑顔が怖いです」

にっこりと笑えばキースさんが怯えた顔で一歩後ずさった。

失礼な。




立て続けに5人程重症者を癒した所で目眩がして一時休憩。

とりあえず、今にも亡くなりそうな人は今はいないみたいだから、大丈夫だそう。

……逆に言えば、さっきの5人は死にそうだったんだね。どうりで魔力をガンガンに持ってかれると思ったら。


紅茶にミルクとたくさんの砂糖を落として飲めば、ほぅっと張り詰めた物が緩む感じがした。

この世界に来て感謝するべきは、食べ物が日本とほとんど変わらないって事。

まぁ、見た事ない果物とかはあるけど、それはね。日本にいたって食べた事ない物はいっぱいあったし。


「そういえば、先ほどの使者に何か呪文を言われていた様ですが、あれは何だったのですか?」

ひとりで飲んでも寂しいとお茶に付き合ってもらっていたキースさんが唐突に尋ねてきて私は首を傾げた。

なんの事?……って、あれか。


怒りのあまり気合を入れて追い払おうと言った言葉が、勢い余って魔力まで入っちゃったんだよね。

言葉に魔力を込めると言霊になる。その過程で、どうも日本語になってるみたいでこっちの人には理解不能な呪文に聴こえるらしい。


「う〜ん、と。呪文と言うか、言葉だね。無意識に魔力を込めてしまったせいで呪文化しちゃっただけで、私たちの国の言葉で「貴方の顔など見たくもない」って言ったの。

効力としてはどうなるのかな?多分、私の前に出ようとすると心理的圧迫でこの場から逃げたい衝動にかられるとか、じゃない?」

自分でも、どうなったのかよく分からないため考えながら喋っていると、キースさんの顔がこわばってくる。


「言葉に魔力を……ですか」

分かりにくいかなぁ?じゃぁ、説明補足。

「私たちの国に言霊っていう考えがあってね。言葉には力があって声にする事で真実になったりするって感じなんだけど。魔力を込める事で、それが少し実行できるみたい」

……って、どんどんキースさんの顔色が悪くなってるんだけど、なんで?


「……希様は、言葉にする事でどんな願いも叶えられるのですか?」

恐る恐る紡がれた言葉に、脳裏にたくさんの人の顔がフラッシュバックする。

突然の事に息を飲み、襲ってきた頭痛を耐えた。

「……どんな事でも、なんて。神様じゃないんだから無理だよ」

呟きは、思ったよりも苦い響きを持ってしまった。

キースさんが何かを感じ取ったかの様に、ハッとした顔をする。

「そうだったら、良かったんだけど。そうなら、救えたものももっとたくさんあったのにね……」


ヤバい。泣きそうだ。

大きく深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

心配そうな瞳になるキースさんに意識して微笑みを向ける。

「たぶん、言葉だけでは、お呪い程度の威力しか無いです。悪い言葉は使えない、し。だから、心配しなくても大丈夫ですよ」


今向けてくれている『心配』はそこでは無いと気付いていたけど、あえて、別の事に話を向ける。

悪いけど、今の心の中を誰かに話す気にはなれない。

目線をお茶に移し、コクリとミルクティーを飲めば、何か言いたそうな顔をしながらもキースさんは口を噤んだ。


流石、良く空気を読んでくれる。

読める癖にあえてズカズカと踏み込んできた旦那とは大違いだ。

傍若無人とも言える勢いで私の中に強引に入り込んで、いつの間にかスッカリ居座ってしまった人。最初は物凄く反発して大嫌いだったのに、気づけば包み込まれて甘やかされて、スッカリ骨抜きにされてしまった。

目を細めて笑う顔を思い出せば、ざわざわと波立っていた気持ちがスッと落ち着いた。


「ん。もう、大丈夫みたいです。治療に戻りましょう」

カップを空にして立ち上がる私の顔は、もう元どおりに笑えてるはず。

キースさんが頷き、先に立った。




重症者から順番に治療していく。奥の方から順に並んでいたので、移動のロスはそんなに無い。

途中から、数えるのも面倒になってくる人数をこなし、そろそろ魔力の底が見えてきたなぁって頃、その人は運び込まれてきた。


「聖女様!お願いします!!こいつを助けてください!」

2人の騎士に挟まれて引きずられるようにして連れて来られた騎士は、鎧は砕け、全身が紅に染まっていた。

「逃げ遅れた子供の盾になって魔獣達の攻撃に晒されてしまったのです。なんとか撃退は出来たらしいのですが……」


眼は固く閉じられ、意識は無いように見えた。全身を深い裂傷が覆い、左手に至っては肘の辺りから切断され、止血の為か断面は焼け爛れている。

頭部の傷も深い物らしく、巻きつけられた布は紅に染まってなお、額に紅い筋をつくっていた。

素人目でも判る。

彼の命はこのままなら半刻と保たず消えるだろう。

立ち昇る濃い血の匂いに目眩がしそうだ。


寝台に横たえられた身体の側に膝まづき残った右手をそっと握る。

いつものように魔力を送り込む、けど……

「だめ。傷が酷すぎて魔力が上手く循環せずに漏れ出していく」

まるで穴の空いたボールに空気を送り込んでいるみたいに、端から抜けていくのが判る。

周囲の人の顔に絶望の色が宿るのが眼の端に映った。

ダメ、諦めるのは早い。考えて。力の源を探り方法を探す。

「……循環出来ないなら、包み込んでしまえばいい」


思いつきだけど、他に方法は無い気がした。

ただ、問題が一つ。

現在、わたしの魔力の残りが心許ないこと。

「……まぁ、なんとかなるでしょう」

弱気は禁物、女は度胸ってね。


繋いでいた手を離し、心臓の上に手をのせる、と、かすかな鼓動が伝わってきた。

これだけの傷を負ってなお生きようとしている、強い身体だ。

「絶対に助けるわ。だから、貴方も頑張って」

声に出して宣言すると、魔力の源を意識し、声に力を込める。

『覆い守れ』

傷ついた騎士の身体の1ミリ上を意識して結界を張る。

『流れ満ちよ、命の力』

そうしてその中に魔力を注ぎ満たしていく。

どんどんと掌から魔力が流れ込んでいくのが判る。

けど、それに比例するように身体から力が抜けていくのが分かった。


コレは、マズイかもしれない。圧倒的に魔力が足りない。けど、今更引けるものか。

スゥと息を吸い、目線を上に向ける。

『大気に漂う自然の力、どうか助けて』

ざわりと大気が蠢き、何かが干渉してくる。

渦を巻いた色々な力が私の身体を通過して魔力に変換され、結界の中に流れ込んでいった。なんだか、身体の内側を無理に暴かれている感じが物凄く不快で気持ち悪い。

けど、確実に溜まっていく力は光り輝き始めた。

純粋な私の力ではあり得ない虹色に輝く不思議な魔力が、結界の器の中に満たされた時、想いを込めて囁いた。

『いたいのいたいの飛んでいけ。そうして満ちよ、命の力』


その場を輝きが満たし、眩しさにみんなが眼を閉じる。

そして、再び眼を開けた時、騎士の傷は元から無かったかのように癒されていた。

「………治った?」

「助かったのか?」

連れてきた騎士がそっと近寄り確かめる。

しっかりと刻まれる鼓動。息をしてかすかに上下する胸元。

何より、血を失い蒼白かった肌が温かさを取り戻している。

「生きてる……。生きてるぞ!」

叫びに喝采が沸き起こった。

その声をどこか遠くに聴きながらホッと息を吐く。

良かった。間に合った。

霞む視線でぐるりと辺りを見回す。助けてくれて……

「ありがとう」




そうして、私の意識はブラックアウトした。













読んでいただき、ありがとうございました。

ちなみに、へっぽこ貴族の邪魔があれ以上入らなかったのは、人に頼んで速攻でカリオスさんに伝言頼んだから。

……速やかに排除された事でしょう。

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