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能力を確認しよう 2

大分間が空いてしまいました。すみません。取り急ぎにつき、誤字脱字はスルーしてくださると嬉しいです。

「属性が分かったところで、使い方の鍛錬になるんですが、先ずは魔力感知の仕方から覚えてもらうと思ってます」


月乃ちゃんが落ち着いたところで、促されて部屋を移動した。

渡り廊下で繋がれた外観二階建てくらいの建物は、体育館のような作りをしていた。

まさに、訓練用の建物らしく、建物自体に強化と魔力吸収の呪文が練りこまれているので、少々暴れてもビクともしないそう。


ちなみに、ユーウィン達は他の仕事があるからと別行動。

本当に顔合わせと自己紹介の為に顔出してくれてたみたい。

とりあえず、サーフィス君とケインさんが、教育係をしてくれるんだって。


で、現在サーフィス君の魔法講義が始まったところ。

魔力感知って、さっき玉に手をかざした時に感じたアレの事かな?


「まずは心臓の辺りを意識して貰って、力の塊を見つけてみてください」


サーフィス君の言葉に目を閉じて集中。

なんかぼんわり温かいもの発見。イメージの手をそっとその中に浸してみる。

うん。大丈夫。力が、どう振る舞えば良いかを教えてくれる。


パチリと目を開けると、まだやり方の説明をしていたサーフィス君に手を上げて遮る。

「ごめん。聖女の力の使い方、なんとなく分かったし、別行動しても良いかな?」


「……分かった、ですか?」

怪訝そうな顔に申し訳なくなりながらも頷く。

「普通の魔法とは違う次元のものみたいだし、多分コッチに呼ばれた時にでも、神様が使い方書き込んでくれたみたい。

力に触れたら、情報が流れてきたの。たから、もう大丈夫。少なくとも、治癒と浄化魔法系なら練習無しでもイケると思う」


あっさりと答えると呆然とされた。

2人は違うのかな?異世界補正、って奴かと思ったんだけど?


「なんとなくは分かるけど、実践せずに出来るとは言い切れないかな。スゴイねぇ、希ちゃん」

目をまんまるくして言う月乃ちゃんの横で、陽哉君も頷く。

そっか。異世界補正っていうか、昔とった杵柄の方が。


微妙な気持ちになるのを、軽く首をふってふり払うと前向きに考える。

時間に余裕が出来たんだから、有効に使おう。


「てわけで、調べ物したいんで古文書みたいなのあったら見せてもらいたいんだけど」

にっこり笑顔でお願いしてみる。

「調べ物というと」

サーフィス君がなぜかおそるおそる尋ねてきた。何言ってんだろう?

「帰る方法だよ?」

胸を張って答えると、「ブレないなぁ」と陽哉君が呆れたようにつぶやいた。


当然です。

全力で帰る方法です探しつつ、約束したので一応魔穴を塞ぐ努力もするよ。

とりあえず、みんなの笑顔が引きつってるのは、気づかなかった方向で。


「本当に使えるのか、試してもらっても良いですか?」

あ、そうだよね。

いざという時に、「やっぱり出来ませんでした」なんて言われたら困るもんね。

イイけど。


「でも、試すにしても怪我人いないし、浄化するものも……あ、結界があった。サーフィス君、こっちに向けて何が攻撃魔法撃って?」

力に触れて、何が出来るか確認していく。

絶対魔法障壁とか、なんか凄そう。

「そんな簡単に。失敗したらどうするんですか!」


軽い感じでお願いしたら怒られた。

なんか理不尽な気が……。

「え〜と、じゃあ、怪我人誰か居ますか?」

平和的な方を提案してみると、ケインが控えていた騎士に指示を出していた。


しばらく待てば、タンカで怪我人らしき人が運ばれてくる。

……ていうか、言ってくれればこっちが行ったのに。怪我人動かしたらダメでしょ。


気を取り直して、運ばれた怪我人さんに近寄ると、ザッと目視する。

頭と肩に包帯。腕と足には添え木がしてある。まさに満身創痍。

意識はしっかりしているみたいで、こっちをジッと見つめている。


まぁ、見た目子供だし、不安だよね。

とりあえず、リラックスして欲しくてにっこりと笑いかけると無事な方の手を取り、両手で握りしめた。


目を閉じて、怪我人さんの魔力の流れを確認する。その流れに沿うように、ゆっくりと自分の魔力を流し込んだ。


全身に怪我人さんの魔力の流れに沿って私の魔力が行き渡ったら、後はそっと囁く。

『いたいのいたいの飛んでいけ』

一瞬、怪我人さんが光に包まれる。


「はい、おしまい」

手を離してにっこり笑えば、みんなが呆気にとられていた。

元怪我人さんが、ゆっくりと起き上がり、信じられないと言いたそうな顔で、体を動かして確認している。

包帯を解いてみれば、傷跡一つない素肌が見えた。


「そんな簡単に。……初めて聞く呪文でしたが、それは?」

触って確かめ、間違いなく治っているのを確認してサーフィス君がこちらに視線を向け、尋ねてくる。


「私たちの世界の有名なおまじないの言葉だよ。言葉自体はなんでもイイみたいだから、1番イメージしやすいので言ってみたの」

月乃ちゃん達を見ると、頷いてくれる。

「普通は大人が子供にする気休めだけどね。実際には治らないよ?」

自分たちの世界にも魔法があると勘違いされる前に補足する。


「魔力を流してた様に見えたのですが」

「うん。力を分けて内側から治すみたい。普通は違うの?」

真剣な顔に首を傾げた。

力の教えてくれるままに使ってるだけだから、理屈を聞かれても困る。

イメージは、気功だけど。


「魔力は人それぞれで、相当相性の良い者通しでないと分け与えることは出来ないです。まして、内側から干渉するのは……まさに、神の力、ですね」


どうも、外側から治癒の魔法を当てて治すのが普通で、ここまで重症だと複数回かけないと完治はしないそうだ。

治癒魔法に関しては、あまり強力なものはなく、薬草との併用で治療するのが主流で、しかも、現在は怪我人が多発している為、命に関わるもの以外は、魔法を使って治している余裕がないらしい。


「やらないというか、出来ないが正しいですけどね。1度使うだけで、魔力切れを起こして倒れかねませんので」

まだまだ元気、というか、さっきと何の変化もない私をみてサーフィス君がため息をついていた。


「他の魔法もそんな感じで使えるん「ですか?」

確認に頷くと苦笑と共に許可がおりた。

「祖父の元へ案内させましょう。その手の古文書はあの方が管理されていますから」


嬉しい申し出だけど、その前に、やるべきことをやった方がいいかな。

使える人手は多い方が良いだろうし。


「その前に他の怪我人さん達に会いに行っても良いですか?…いるんでしょう?」

現在の状況を少し考えれば分かることだった。この国には今、魔物が溢れていてその対策に追われているんだから、怪我人がいて当然なんだ。


魔法のある世界だけど、魔法は万全じゃない。治せない怪我もあるし、失われた命は今の私でも戻せない。

平和ボケした日本人にはピンとこなかったけど、ここは、日本と比べてかはるかに死が近い世界なんだ。


「良いのですか?」

私の言葉が意外だったのか、サーフィス君もケインさんもビックリしてる。

どんだけ人でなしと思われてるんだか。


「出来ることはしますよ。そりゃ、何百人も連れてこられたら一気にはムリだけど」

肩をすくめて、少し笑って見せた。

「協力すると約束したし、コレは出来ることの範囲内だから」



嬉しそうに元怪我人さんが案内してくれた部屋には100人とは言わないけど、軽傷も合わせればソレに近い人数はいた。

安請け合いした自分を少し恨みたくなったけどしょうがない。


結局その日、私が調べ物をする余裕は無かった。




夜ご飯の時、会えるかなぁって思ってたけど双子はどっちとも来なくて、代わりにユーウィンに食事に誘われた。


いつも、食事を取っているのとは違う部屋へ案内される。

そこは、やたら広い部屋に10人は余裕で座れそうな程大きな机が置いてあった。

…まさか、端っこと端っこに席が用意されてないよね。


不安になったけど、机を縦に使うのでは無く、横に使っての向かい合わせだったので一安心。

会話するのにも声張り上げてだと、疲れちゃうしね。両脇にず〜っと空間があるのはこの際気にしない方向で。

……小さい机か、もっと狭い部屋はなかったのかなぁ。

ごめん、やっぱり気になる。

「あの〜、2人は……?」


「2人とも慣れない魔力行使で倒れてしまって、まだ眠っているそうだ。魔法を習い始める最初の頃は、よくあることだから心配ない。一晩眠れば元に戻る」


とりあえず、今一番気になることを聞いてみると、あっさりと答えが返ってきた。

やり過ぎちゃったのか。そっか。


かくゆう私も、怪我人直すのにムキになって魔法を使ってたら、倒れはしなかったけど倦怠感半端無くなったため、午後のほとんどをお昼寝してた。

こうやって、自分の限界を知っていくんだろう。


ちなみに魔力の量は使えば使うだけ増えるってわけでは無く、持って生まれた器の大きさによるらしい。

器に余裕のある人は訓練次第で増えていくけど、器の限界量まで増えたら何をしてもそこまでだそうで……。

うん、シビアだ。


召喚された人達は、もともと持ってる魔力量が多い上に、その器の大きさが底なし状態で、鍛えれば鍛えるだけ増えていくそうだ。

だから、本人次第でいくらでも強くなれる。


つまり、ガンガン鍛えて魔力の底上げをすれば、どんな大きな魔穴でも塞ぐことができるって事か。

それって、力が足りなければ、当然私達でも失敗して、下手したら命を落とすってことだ。

うん、やっぱりシビア。



綺麗な所作で食事をとるユーウィン君をなんとなく眺める。

整った姿形と相まって、本当にキラキラ王子様だ。いや、王様なんだけど、さ。


「そういえば、ユーウィン君は、他に兄弟はいないの?」

「母上は身体が弱い方だったから、私の他に子供は望めなかったのだ。私を産むときも、かなり難色を示されたそうだしな」


何気なく聞けば、どうも地雷を踏みぬいたっぽい。

この流れだと、先は聞きたくないなぁ。

だけど、初めてしまった会話の責任はとるのが大人ってものだろう。


「父上は、母上を深く愛されていたから、他の女性には見向きもしなかった。後継が1人では心許ないと側室を勧める周囲の言葉に耳も貸さず、結局私は1人のままだ。

当時は、母上を愛し抜く父上を嬉しくおもっていたが、こうなってみると、周囲の声が正しかった気もしてくるな」


苦笑する姿は年齢以上に大人びてみえた。

この非常時に、急遽王になったユーウィンは、まだ無邪気でいれたはずの子供の時間を手放すしか無かったんだろう。


「お母さんは、幸せだね」

唐突な私の言葉に、ユーウィンがキョトンとする。そんな表情をするとちゃんと年相応に見えて、少し嬉しい。


「だって、自分を大切にしてくれる旦那様がいて、更にあきらめていた子供まで手に入れたんだよ。その子供も立派に育って旦那様の後を継いでる。……幸せだよ」


言い切れば、少し切なげな笑顔が返ってきた。

「……だと、いいな」

小さなつぶやきに頷く。

「大丈夫。魔穴の問題だってすぐに解決するよ。そのために、私達は呼ばれたんだもの」


明るく、あえてお気楽に宣言する。

言葉には力が宿る。

だから、大変な時を乗り越えるためのおまじないみたいなものだ。

辛い時ほど、笑顔で。

大変な時ほど、明るい未来を言葉に出して。


その方法を教えてくれた人は、もう側に居ないけど、いなくなった後でも、彼の存在が私を支えてくれた。

後、息子もね。

1人じゃないって大事なことだ。


「大丈夫。ちゃんとみんな幸せになれるよ」

だから、私は明るい未来を言葉に繰り返す。

パクッと口に放り込んだ赤い野菜は、甘酸っぱい味がした。

うん、美味しい。



「そういえば、気になったんだけど、王様は魔穴に吸いこまれたんだよね?そして、魔穴の中は、どうなっているのか分かってない」


食後のお茶を飲みながら何気なく切り出せば、ユーウィンも頷いた。

「供の者たちと、まとめて取り込まれてしまったそうだ。取り残された後衛の者の言葉なので間違いないだろう」


「て事は、誰も死んだ所を確認した訳ではないって事よね?」

「……何が言いたい?」

考えつつ話す私に、ユーウィンが怪訝そうな表情になる。


「もしかしたら、王様は生きてるんじゃないかと思って」

つぶやきは、ユーウィンの動きを止めるには充分だった。

固まったユーウィンを見ながら、考えていた事を口にしていく。

「魔穴からは魔物が出てくるんだよね。つまり、その中は、生き物が存在できる場所って事でしょう?

王様は当代一と言われるほどの魔法の使い手で、一緒にいる人達もきっと相当な手練れを連れてたはず。なら、例え魔物に囲まれたとしても、早々負けるとも思えない。

まぁ、身動きできないほどの魔物の群れに囲まれてたらダメかもだけど……可能性はゼロじゃ無いと思わない?」


「……確かに、その可能性はあるかもしれない……けど」

私の言葉を吟味するようにユーウィンがゆっくりとつぶやく。

「父王が魔穴に吸い込まれて7日が経つ。もし、中で生きていたとしても……」


「じゃあ、できるだけ急ごう。

私だって死にたくはないから万全の準備はするとして、出来るだけ早く。

そもそも中で人が居れる環境なのかとか、あくまで推測でしか無いから、実際に行ってみないと、ね」


笑顔で言い切ると、ユーウィンが立ち上がった。

「カリオスに相談してみる。何か、知ってるかもしれないし」

急いで退室する姿は、疲れた大人のような影は見えなくて、年相応に見えた。

良かった。少し元気が出たみたい。


「ま、あくまで推測。だけど、希望はあったほうが良いでしょ」

つぶやきはだれの耳に入る事もなく消えた。





バルコニーから見上げる月は、少しだけ膨らんだように見えた。

これから5日ほどかけて、細かったほうの月も丸くなり、また1つづつ欠けていって、最後には2つとも無くなるのが、この世界の月の満ち欠けだそうだ。


「2つとも満月になったら、かなり明るそうだね」

なんとなく月に両手を伸ばして口ずさむのは、月が欲しいと泣く子供の歌。

夜の散歩道で嬉しそうに月を追いかけて走っていた息子の姿が思い浮かぶ。


「また1日が過ぎたよ。絶対帰るから、いい子にしててね」

届かないと知っていても、なんとなく話しかけると、私は自室に入るため踵を返した。

チラリと見えた隣の部屋は真っ暗で静かだった。


「おやすみなさい。良い夢を」

























読んでくださり、ありがとうございました。

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