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食べ物表現難しいです。

朝です。

どんなに昨夜が遅くても、いつもの時間に眼が覚めるのは主婦の性ってやつだろう。

カーテンを開ければ綺麗な朝焼け。

………良かった。太陽は1つだ。色も普通だ。複数の太陽とか、焼け焦げそうで嫌すぎる。

そん事を考えながら朝のすこし冷たい空気を胸一杯に吸い込んだ。

今日はどんな1日になるだろう。


もともと着ていた服は大きすぎて役立たずな為、メイドさんがどこからか持ってきてくれたドレスを着せられ、長い髪を綺麗に整えられた。

ていうか、着せ替え人形にされて遊ばれた感が強い。……良いけどさ。


というわけで、現在の私の格好は、ひざ下10センチのピンクのフリフリドレスに複雑に編み込まれたハーフアップの髪型。

真っ当な日本人の感覚だと正に七五三だ。



げんなりしてたけど、月乃ちゃんの姿をみて考えを改めた。

子供で良かった。

コルセットも床まである長さのドレスもゴメンだ。動きにくそうな事、このうえない。


「綺麗なドレスは嬉しいけど、締め付けられて苦しいよぅ。ヒール高いし裾は絡むし転びそう。だいたい、今から朝ごはんなのに、こんなに締められてどこに入れたら良いの?」

案の定な泣き言に、同情を込めてポンっと肩を叩いてみる。


「すごく綺麗だよ、月乃ちゃん。お姫様みたい」

「……希ちゃん、棒読みだし。絶対面白がってるでしょ」

恨みがましい視線を愛想笑いでごまかしていると陽哉君が入ってきた…けど……。


「なんで学ラン着てるの?ズルい!」

月乃ちゃんの悲鳴のような声に陽哉君が肩をすくめる。

「派手な格好は苦手だ。辞退したら、これが出てきた。ちゃんと洗えるものは洗ってくれてたしな」


どうも、王子様な衣装も用意されてたけど、上手くかわしてきたみたい。

絶対後で着替える、とブツブツ言いながら月乃ちゃんが席について朝ごはんが始まる。



昨日のお菓子の時も思ったけど、食文化は元の世界とあまり変わらないみたいだ。

数種類の焼きたてパンがカゴに盛られ、たっぷりのサラダにふんわりとしたオムレツとカリカリのベーコンが彩りよく皿に並べられていた。

深めのスープ皿には透き通った黄金色にそこに薄切りにされた玉ねぎのようなものが沈んでるだけのシンプルなものだった。

そして、フルーツも数種類、綺麗な飾り切りにされて大皿に鎮座し、鮮やかな色彩で目を楽しませてくれていた。

飲み物は、陶器のコップにオレンジ色の液体。陽哉君たちには紅茶が出されてるみたい。


適当に取ったパンはまだほんのり温かくて焼きたてみたいで、そっと割ってみると、たくさんのクルミのようなものが見えた。

口に入れるとパリッとした皮とふんわりとした生地。バターとクルミ?の風味が口の中に広がった。

思わず、ニッコリしてしまう。

人って美味しいもの食べると幸せな気分になれるよね。


跳ね上がった期待感とともに今度はナイフとフォークを手にオムレツに挑む。

スッと抵抗感なくナイフが入れば、トロリと中から半熟卵とチーズが……。

口に含めばフワフワのトロトロで、そこにチーズが良いアクセントになっている。

カリカリのベーコンは程良い塩加減で、脂身の甘みが際立っていた。


そして、スープ。

正直見た目のシンプルさに箸休め的なものとまったく期待していなかったのだけど、良い意味で期待は裏切られた。

鳥と野菜の旨味が凝縮されたそれは、弱火で丁寧に灰汁を取り除いたものだろう。複雑なのにスッキリとしており、いくらでも喉を通っていく。まさに命の味、だった。

そして、底に沈んでいた玉ねぎの存在。スープをしっかりと吸ったそれは、口の中に入れればふわりと優しい甘味を残して消えていった。


気がつけば、目の前の皿は綺麗に無くなっていて、少し呆然とした気分でジュースを飲む。オレンジの酸味とりんごの甘味。そこにマスカットの風味が加わる。ミックスかと思ったらリーツという果実の汁だそうだ。

今度は是非そのまま食べてみたい。


ブドウに似た姿のランツァという果物を摘みつつ、満ち足りたため息をつく。

流石王城の料理人。

シンプルなのに実に味わい深い朝食だった。

特にスープは是非レシピを教えて欲しい。


「どこに入ったんだ?」

呆れたようなつぶやきに顔を向ければ、陽哉君の呆然とした顔があった。

人を大食いみたいに失礼な………って、みんな微妙な顔になってる?あれ?


「うぅ…、私も早くコルセット外したい」

恨めしそうな月乃ちゃん。

やっぱり、胃が圧迫されてあんまり食べれなかったみたい。ご愁傷様です。


「非常に美味しかったです。ごちそうさまでした」

とりあえず、礼儀としてニッコリ笑顔で手を合わせておく。感謝の気持ちは大事ですよ、うん。



その後、お茶を飲みつつ寛いでいると、王様ご一行がやってきた。


王様の名前は、ユーウィン=ファン=ランスロット。

金髪碧眼に息子そっくりの顔立ち。スラリとした姿は腰の位置が高く手足も長く頭は小さいという、見事なモデル体型。やや小柄だけど、15歳という年齢を考えればまだまだこれから伸びるだろう。羨ましい。


相変わらずの黒ローブのおじいさんは、カリオス=フィン=オーランド。

筆頭魔術師で先先代の王様から仕えているそうだ。シワシワの顔に白い髭を長く伸ばし、まさにおとぎ話の魔法使いといった感じ。


王様の後ろに控えている紺色の髪の騎士は、近衛隊隊長のケイン=ロースター。

オレンジ色の鋭い眼光の持ち主だ。この人も先代から引き継いだばかりらしい。


もう1人の若い騎士は、王様付のナキラ=フォン=ダグラス。19歳の若手だけど、剣の腕は上位5人に入る強者。で、王様の側近として昔から一緒に居たそうだ。緑の髪に同色の瞳。なんとなく人が良さそうな苦労人の空気が感じられる。


最後に、黒ローブの若手魔導師サーフィス=フィン=オーランド。21歳。カリオスさんのひ孫で、技術はまだカリオスさんに及ばないものの魔力量は中々の物らしい。ローブを外せば長い銀髪と赤い瞳が麗しい、優しげな美貌の持ち主だった。


みなさん、ファーストネームで呼んでくれとの事なのでそうさせてもらう。

王様?筆頭魔術師?異世界の人間だし気にしません。年齢的にも、カリオスさん以外は私の方が上だしね〜。


自己紹介が終わったところで本題に入る。


「実は、勇者の振るうべき聖剣はここにはないんだ」

暗い表情のまま、ユーウィンがそう言った。

「先の勇者が大き過ぎる力は災いの元だと白の地下深くに封印したそうだ。

しかし、4代前の王の時に土地が乱れ遷都を行ったんだが、封印を移すことか出来ず剣はそのまま置いて行かれた。

その後、数年に一度祈りを捧げるため祭事を行なっていたのだが、魔穴が開いた時に、そこに魔物が集中して撤退するしか無かった」


「じゃあ、そこに取りに行けばいいの?」

朝食後、速攻で制服に着替えてしまった月乃ちゃんが、焼き菓子を食べながら首を傾げる。行儀悪いと膝を叩けば、バツが悪そうに首をすくめられた。


「そう簡単にはいかないんだ。こちらとしても、聖剣につながる場所を放っておくわけにも行かないと何度か兵を送ってみたんだが、魔物の数が多く中々一掃出来ない。

なにしろ、魔穴がある限り奴らは幾らでも湧いてくるから切りがなくてな。

使う者がいない剣を守る為に無駄な兵を投入する余裕もなくなり、完全撤退して2ヶ月になる」

こちらも、苦虫を噛み潰したような顔のケイン隊長。いろいろ心中複雑なのだろう。


「つまり…」

情報を整理するかのように、陽哉君がトントンとこめかみを指で叩きながら呟く。

「1、魔穴を塞ぐには聖剣が必要だが現在手元にはない。

2、場所は分かっているが、現場の状況は不明。おそらく魔物の巣窟と化している可能性が大きい。

3、封印を解くには勇者の力が必要で僕が現地に赴くしか無い」


「その通りなんですが、もう一つ情報がかけてました。聖剣の封印は聖女と共に行われたそうです」

サーフィスが繊細な美貌を申し訳なさそうに歪ませながら、追加情報を投下してきた。

それって、つまり……

「封印解くには、聖女の力も必要って事?」

おそるおそる月乃ちゃんが呟くと、カリオスさんが重々しく頷く。


「極力、皆様をお守りしながら行くつもりではありますが、万が一もございますので、先ずは、それぞれの能力を確認したいと思いまして」

そう言うと、メイドさんがしずしずとスイカほどの大きさの透明な玉を持ってきた。

テーブルに鎮座したそれに3人で顔を見合わす。


「わが国の者は大なり小なり何かしらの魔力を持って生まれます。そのため、自分の力を正しく知る為に5才の誕生日に神殿へと赴き鑑定を行うのです。

この玉は、その鑑定に使うもので、魔力の種類は色で、強さは輝きの大小で示されます」

説明に、再び3人で顔を見合わせる。

なんか、本当にファンタジーの世界だなぁ。イヤ、ここに自分がいる事で充分わかってはいた事だけど、……何と無く、ね。


「どうやって使うんですか?」

陽哉君が尋ねると、目配せされたサーフィスが進み出る。

「こうして翳すだけで結構です。しばらく待てば、こうして……」

透明な玉が、輝き出した。

赤・茶・白のマーブル模様で結構眩しい。


「赤が炎、茶が土、白は光です。私は3種の魔法が使え、魔力量は一般に比べればかなり多い方です」

説明に納得する。色は大体イメージ通りみたいだ。


「じゃあ、僕から」

進み出た陽哉君がそっと玉に手を翳した。

しばしの沈黙の後、玉が激しく輝きを放った。

眩しさに目を細めながら確認すると中で踊る色は先ほどの赤・茶・白に加えて青・緑・黄・そして水色が見えた。

「伝説の通りですな。1人の人間がこれほどの属性を持っているのはただ1人勇者様のみ。輝きも申し分無しです」

カリオスさんが満足そうに頷く。

ちなみに青が水、緑が植物、黄色は雷で水色が風だそうだ。


目線でうながされ、今度は私が進み出るとそっと手をかざしてみた。

体の奥が熱くなる感覚がある。

そして、玉が輝いた。というか、光った。

色は確認できなかった、というか、眩しすぎて目が開けれなかったのだ。

強いて挙げるなら、色のない強烈な光。

手を離せば、すぐに光は収まった。


「これが聖女様のお力。伝説では全てを包む光であった、と伝えられておりましたが……いやはや、なかなかに……」

しばしの沈黙の後、カリオスさんが皆の気持ちを代表するかのようにつぶやく。

……うん。なかなか強烈だった。

我ながら、まだ目がチカチカするもん。


「すごかったねぇ」

にこにこ顔の月乃ちゃんは完全に他人事体制だけど……

「月乃ちゃんもしてみなよ」

「え?だって私、オマケだし」

困り顔の月乃ちゃんをカリオスさんが後押しする。


「異界の壁を越えし者にも何かしらの力が付与されていることがありますよ。試してください」

うながされ、困り顔のまま月乃ちゃんが玉にてをかざす……と。


「黒い……ねぇ」

月乃ちゃんがポツリと呟く。

玉は真っ黒にそまっていた。

まるで黒真珠のような不思議な光沢のある黒。

「なんだか綺麗ね」

浮かんだ真珠のイメージのままそう言えば、月乃ちゃんに不思議そうな顔をされた。

「なんだか包み込まれそうな素敵な色じゃない?落ち着く、っていうか……。うん。月乃ちゃんみたい」


出会ったばかりの小さな女の子を護ろうと抱きしめてくれた温もりを思い出す。

まぁ、16歳の女の子に包容力を感じる33歳もかなり痛い気はするけど……。

「私は好きだな」

とりあえず、主張はしておこう。

だって、なんか変な空気感じたし。


「黒は闇の属性です。人が持つにはかなり珍しいですが、前例がないわけではないですし、解明されてる分ではかなり使い勝手はよいみたいですよ?」

サーフィスが笑顔でそう言ってくれて、なんとなく、凍りかけていた場の空気が動きだす。


「だって。闇だと隠匿の魔術とか?カッコいいね。忍びとかなれそう?」

そう言って隣にいた月乃ちゃんを仰ぎ見れば、ぎゅっと抱きしめられた。

なかなか素晴らしい感触に顔が押し付けられる。……大人な頃の私よりあるんじゃないか?……最近の子ズルい。


「なぁに?」

「……なんとなく。希ちゃん、大好き」

ぎゅうぎゅうに抱きしめられた状態で、頭の上から小さな声が降ってくる。

とりあえず、背中に手を回してギュってした後、ぽんぽんと叩いておいた。



ま、いろいろあるさ、……ね。







読んでくださってありがとうございます。

人の名前考えるのが苦手で、そこに1番時間がかかりました~_~;

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