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さあ、お家へ帰ろう。

よろしくお願いします。

罠の設置は速やかにすんだ。

最初は王様に報告した通りのシンプルなものにするはずだったのが、なんでか現場で色々盛り上がってしまい、なかなか楽しいものになっていた。


なんでかサーフィス君の顔が青ざめて「エゲツない……」って打ちひしがれてたのはきっと気のせいって事で。

だって1番イキイキしてたの貴方のおじいちゃんだし。……ん?だから打ちひしがれてたのかな?


魔穴周辺の魔物は帰したけど、そこから外れてしまっていた者たちは、これから地道に討伐していかないといけない。

けど、徒党を組んでいるわけでも無い魔獣や魔物は国を揺るがすほどの脅威にはなり得ないからなんとかなるでしょ。


つまり、何が言いたいかというと。


「問題解決したし、帰って良いかな?」

魔穴は塞いだし、一旦城に戻り、汗を流して一息。

メイドさんが丁寧に淹れてくれたお茶を飲みながら、私はおもむろに切り出した。


一緒にお茶をしていたユーウィン君たちの眼が驚きに見開かれてるけど、なんか変な事言った?

最初からそういう約束だったよね?


「し、しかし、帰る方法は」

「あ、それ、もう見つけたから大丈夫」

慌てて口火を切るユーウィン君ににっこりと微笑む。


「ヒントは魔穴にあったのよね」

チョット考えれば簡単な事。

時空を超えて異世界同士を繋ぐ通路。

それに、ど○で○ドアもどきをチョット応用すれば良かったんだ。

元の世界には私達の血を分けた息子が居るし、思い入れもバッチリ。

むしろ失敗する要素が無い。


「心配があるとすれば、上手く元の時間に戻れるかだけど……、まぁ、この際数ヶ月の誤差はあきらめるわ」

お爺ちゃんがなんとかしてくれてるでしょ。

そこがダメでも友人達がなんらかのフォローはしてくれてるはず。

まぁ、元の日時に戻れるのがベストなのは否めないけど、ね。


「そう、か。帰る方法、見つけてたんだ」

なんでか呆然とした表情の月乃ちゃんに内心首を傾げつつも、頷く。

「うん。事後報告でゴメンね。まだ、実験はしてないから100パーセントな訳じゃ無いけど、この方法で十中八九戻れると思う。月乃ちゃんの時代にもチョットの誤差は出るかもしれないけど、陽哉君居るし」

「あの!」


突然、ユーウィン君が叫ぶ様に私の言葉をさえぎった。

ビックリしてそっちを見れば、何故だかユーウィン君まで驚いた顔をしていた。

「あ……すみません。あの……せめてもう少し……後、1日でも時間を頂けませんか?この国を救っていただいたお礼も出来ていませんし……」


早口でたたみかけるユーウィン君に、困ってハルチカを見れば、少し考えた後、ゆっくりと笑顔を浮かべた。

「そうだな。せっかくだしこの国の名物料理とか食ってみたいな」

「は?」

唐突な言葉にその場にいたみんなの顔にはてなマークがうかぶ。


「もてなしてくれるんだろ?」

「……はい!」

それが滞在を伸ばすという返事だと理解して、ユーウィン君の表情がパッと明るくなる。

「手配をします」と、急いで部屋を出て行くユーウィン君達を見送った後(何故だか月乃ちゃんまで連れて行かれてた)、ハルチカをじっと見つめる。


「何、たくらんでるの?」

「企むなんて人聞き悪い。息子ソックリの顔でやられたら断りづらいだろ?それに、お礼がしたいなんて可愛いもんじゃん」

間髪入れずに耳に優しい理由が返ってきた。まぁ、あの顔に絆されて今がある私が言うセリフじゃ無いのかもしれないけど……。


「すっごく胡散臭いわ、ハルチカさん?」

半眼で睨めば、爽やかな笑顔が返ってくる。

「まぁまぁ、そういうなよ。チョット気になる事があるんだよね〜」

だから、その笑顔が何より胡散臭いと言ってるのに。


まぁ、こうなってしまったハルチカは覆らないし、理由も絶対に教えてくれないのは経験済みだ。

追求するのも面倒で黙り込んだ私は、ほんの数時間後、ハルチカの思惑を知る事となる。






「私、この世界に残ろうと思うの」

急遽用意された祝いの晩餐会に出席すべくドレスアップされ、呼ばれるのを部屋で待っていた私達は、晴れやかな笑顔を浮かべた月乃ちゃんに爆弾発言を投下されていた。


飲んでいた紅茶を危うく吹きそうになり、無理に飲み込んだ事で気管に入った私は、ちょっとした地獄の苦しみを味わう羽目になった。


「ちょっ、なんっ……」

咳き込みつつもどうにか言葉をつないだ私に、月乃ちゃんはほんのりと頬を染め、少し視線を外した。

「支えていきたい人がいるの」

「………ユーウィン、か?」

ズバリ聞いたハルチカに驚いた様に少し目を見開いた後、月乃ちゃんはこくん、と頷いた。


「はい?なんで?いつの間に?」

青天の霹靂ってこういう事を言うんだな。

驚きのあまり疑問詞しか出てこない私と対照的に双子達は冷静だった。


「唯一無二、なんだな?」

「うん。希ちゃんを見つけた陽哉なら分かってくれるでしょ?」

今度はしっかりと目を見て宣言する月乃ちゃんの視線をハルチカも受け止める。

「………分かった。母さんには適当に言っといたから」


「分かったって、良いの?それで」

「いいんじゃ無いか?現に月乃は帰ってこなかったし」

「「そうなの?」」

おもわず月乃ちゃんとハモるとハルチカはニヤリっと人の悪い笑みを浮かべた。


「希も気づけよ。母さんとは交流あるんだから、月乃が帰ってたら普通に付き合いあるはずだろ?死んだとかにしても、話題に全くで無いとか不自然だろうに」

月乃ちゃんがキョトンとした顔でコッチを凝視してる。


「え〜〜、変だとは思ったけど未来を変えないためにって、また秘密にされてたのかと思ったんだよ」

そう、決して私が鈍いせいでは無い!……はず。


「ちなみに適当にって?」

恐る恐る聞いた月乃ちゃんにハルチカは再びニヤリと笑う。

「こっちに離れがたい人間でもできたんだろ、って。当たってたな」

月乃ちゃんが真っ赤になって絶句してる。

身内にこの手の事を見透かされるのは恥ずかしいよね……。


「さて、ふざけるのはこれくらいにして、月乃が残るってんなら、それなりにお膳立てしてやらないとな」

「「………お膳立て?」」

再び、月乃ちゃんとハモる。


「ユーウィンのあの様子だと、あっちも同じ気持ちだったんだろうから全力で守ってくれるとは思うが、プライド高いお貴族様の相手をするのなら持てる武器は多いにこしたことはないだろ。

なにしろ、相手は王太子様だからな」


「そういう事、ね」

確かに、一緒に召喚されたとはいえ、月乃ちゃんの今の立場は微妙な所だ。

王様も後ろ盾になってはくれるだろうけど、後宮を纏めるべき王妃様が不在の今、女の争いは凄まじそうだ。

自分の娘を王妃にと狙っていた高位貴族達も黙ってはいないだろう。


「で、どうするの?」

「2人ともチョット耳貸せ」


そうして、三文芝居のシナリオは描かれるのである。





煌びやかな舞踏会の会場。

和やかに談笑する着飾った紳士淑女達の群れ。

囁かれるのは、国を悩ましていた問題が無事解決したとの喜ばしい情報。

皆の顔が喜びに満たされ、会場が待ちきれない興奮に満たされた時、ようやく王が姿を現した。


その腕には、純白のドレスに身を包んだ美しい少女がエスコートされていた。

白い肌に薄紅の頬。唇は紅く、緩やかな弧を描いている。

長い黒髪は艶やかな輝きを放ち白いドレスに流れ、所々に散りばめられた真珠が華やかさを演出していた。


大柄な王の胸にも届かぬ小柄な体ながら、その圧倒的な存在感は少女が唯人(ただびと)ではない事を、知らしめていた。


その2人の後を続くようにこれまた見目麗しい男女が現れる。

金茶の髪の騎士と柔らかなウェーブを描く茶髪の少女。

どこか似通った面ざしの2人が勇者とその妹であることは、この場にいるもので知らぬものはいなかった。


国を救ってくれた異世界からの英雄達にその場にいた貴族達は自然こうべを垂れ、臣下の礼をとっていた。



「面をあげよ」

自然とうまれた静寂の中、王の声が響き渡る。

「今更紹介するまでもなかろう。我が不在の間、命を救われた者も多いと聞いておる。

この者達のおかげで、滅亡の危機に瀕していた我が国は救われた。

魔物を現す穴は総て塞がれた事をここに宣言する!」

「オオォォ〜〜!!!!」


王の力強い宣告に会場が割れんばかりの歓喜の叫びに満たされた。

それも、王がさっと手を挙げることで立ち所に静まる。


「もっとも、荒れ果てた大地が元の力を取り戻すにはまだまだ時間も労力もかかる事と思う。どうか、この国のため皆もこれまで以上の尽力を頼む。

我らが王国のさらなる繁栄の為、我も力を尽くす所存だ!」

「オオォォ〜〜!!!!」


王の言葉には力があった。

彼が一言話すごとに会場のボルテージがドンドン上がっていく。

いつの間にか王のそばを離れ三歩程離れた位置で、聖女達は固まり、その熱狂を眺めているようだった。

そこを、王が振り向き手招く。


誘われるままに再び王の元へと歩み寄る聖女の姿に、皆の視線が釘付けになる。

召喚されて以来、数々の奇跡を起こしてきた少女が今度は何を見せてくれるのか、期待に満ちた空気の中、少女は優雅に淑女の礼をとった。


「脅威が去った今、私達はこの地を去ろうと考えております」


透き通るような美しい声が語った未来に、会場から悲鳴があがった。

この世界を救って下さった人達がこの地を去ってしまうなど、どうして認められよう。


「突然そのような。何か粗相がありましたでしょうか?なれば、必ず改めますのでどうぞ我らをお見捨てくださいますな!」


王が皆を代表するように小さな少女の前に膝ま付き懇願する様は、どこか少し滑稽な様子だった。

だが、その場にそれを笑う余裕のある者など誰もいない。

誰もが口々にどうにか幼い姿の聖女がこの世界へ留まるように乞い願う。


「その様に困らせないで下さいませ」

その様子に困った様に微笑むと、聖女は、王の手を取りゆっくりと立たせた。

「この世界での私の役目は終わったのです」

そう言って自分を見つめる数多の瞳を見回し、優しい笑みをうかべた。


「なれどそなた達も私の愛し子達。迷い涙する子を放っておくことも出来ません」

瞳に映る深い慈愛の光に人々は言葉を失いただ、一心に見つめる。

聖女は、少しの沈黙の後、半歩後ろに控える男女の1人を手招いた。


「この子をこの地に残しましょう。私の力を分かつ娘。必ずこの地を守る力となりましょう」


そっと王の方に少女の背を押したとき、奇跡は起こる。

少女の茶色の髪が色を変え、聖女の色を写し取ったかの様に黒に染まったのだ。

さらりと流れる黒髪に、人々は息を飲む。

更に、いつの間にか淡いピンクだったドレスも純白へと姿を変えていた。


「さぁ、これで憂は去りました。私たちも参りましょう」

聖女は、王の手に渡った少女を満足そうに眺めると、もう1人残った青年へと手を差し伸べる。

勇者であった青年がその手を取ると、幼い少女の姿もまた、変わっていく。


場に満ちる聖なる光の中、スラリと背が伸び、長い黒髪は髪先に向かい徐々に暁へとグラデーションを描きふんわりと広がった。白いドレスは虹色の輝きを放ち、裾を長くその場に花の様に広がる。

何より優し気に細められた瞳がまるできらめくルビーの様な紅に染まっていたのだ。


「暁の女神様……」

誰かがポツリとつぶやく。

その神々しい姿に、場にいる総ての者が無意識のままに膝をついた。


『暁の女神』

それは神話に伝わるこの世界に総ての生物を産み出したという母なる女神。

言葉もなく、一心に目の前の奇跡を見つめる。


「慢心することなく、日々を過ごしなさい。貴方達が私を忘れぬ限り、私も貴方達を見守りましょう。幸せにおなりなさい」

優しい言葉と共にスッと女神が片手を空に掲げた時、目を開けていられぬほどの強い光がその場に満ちた。


そして、再び群衆がその眼を開いた時には、その奇跡の姿はどこにも無く、そこには立ち尽くす王とその隣にまるで女神と同じ様な微笑をたたえた黒髪の少女の姿だった。


王は、少女の手を取り数歩前に進みでた。

「我らの手に希望は残された。彼の方はこの娘を通して我らと共にある」


少女に数多の視線が突き刺さる。

それに怯むことなく受けると、少女は艶やかな笑みと共に優雅に礼をとった。

「この国と共に歩みましょう。この地に更なる栄華の日々を」


「ウオオォォォ〜〜〜!!!!」


叫びは会場を越えその地に満ちた。






「………やり過ぎたんじゃない?」

光の満ちた不思議な空間をただ真っ直ぐに歩きながら、私は傍のハルチカを見上げる。

「大袈裟くらいで丁度いいんだよ。人間は喉元過ぎれば直ぐに忘れる生き物だからな」

ハルチカが楽しそうに笑っている。


「ハルチカは立ってるだけだから良いけど、コッチは大変だったんだから」

主に羞恥心の関係で。

女神の役は一般庶民の私には荷が重すぎた。


「あんなハッタリかまして、月乃ちゃん、かえって大変にならない?」

女神の残した使徒、なんて、どんな扱いになるのか想像もできない。

「ま、そこらへんは王をはじめとした側近達がなんとかするだろう。ノリノリで話を盛ったのも彼奴らだしな」


そう。

一連のシナリオは土台を作ったのはハルチカだけど、あそこまで大袈裟になったのは面白がった王様&側近ズのせいだったんだよね。

最初は聖女代行くらいのつもりだったんだけど。


「そっか……。そうだね。国の最高権力者達が黒幕なんだし、きっと、上手くやるよね」


今後、月乃ちゃんはカリオスさんの養子に入って身分を整えた後、ユーウィン君の婚約者になる事が決まっている。

困難は色々あるだろうけど、きっと幸せになるだろう。

なんてったって、月乃ちゃんだしね。




光の道は遥か先まで続いているように見える。

だけど、この先には息子をはじめ、大切な人たちがたくさん待ってる。

「しかも、手土産付きだしね!」

隣を見れば、無くしたと思っていた存在。



「さぁ!お家に帰ろう!!」


















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