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今度こそ

よろしくお願いします。

「では、魔穴は人工的に作られたものであり、彼の世界より我が世界へ故意に魔物を排出していたと言うのだな?」

「あくまで我々の推測ですが、近いものはあるかと思います」

眉間にしわを寄せ呟く王様に、ハルチカが頷く。


「で、魔穴を完璧に塞ぐ方法も手に入れ、実際に4つまで塞いできたのじゃな?」

王の隣に控えたカリオスさんも険しい表情だ。

「ええ、そうです。大きさではなく、距離で選んで王都より遠い物から塞いできたので、これほどに時間がかかってしまいました。申し訳ありません」


説明や返答はハルチカに任せ、私は隣の席で足をブラブラさせながら、出されていたお茶を楽しんでいた。

やっぱり、自分で入れるのとその道のプロが入れるのじゃ味が違うよね〜。



「しかし、2人だけで良くもその場にはびこる魔物を倒し魔穴を塞ぐという荒技が出来たものですな」

感心というより呆れた様なカリオスさんの言葉に、その場にいた者たちがそれぞれに頷いている。


「魔物、殺してないもの。穏便に元の世界にお帰りいただきましたよ?」

案の定、魔物にとっては一方通行だった魔穴を少し改造して、唄で誘った魔物達を引き連れて向こうの世界まで誘導してきましたとも。気分はハーメルンの笛吹き男……。


「帰した?どうやって?!」

王様の口がぱかっと開いている。あ、他の面々もかぁ………。

「そこら辺も含めて、実際に見ていただいた方が早いかと、あえて残して帰ってきたんです。塞ぐにしろ、罠をかけるにしろ、1度現場の確認をされませんか?」

みんなの顔が面白いなぁ、と眺めてたらハルチカが苦笑と共に本題に誘っていた。



そう。

最悪、私達が居なくなっても魔穴に対応できる様、この世界の人たちに現状と対策を伝えたいってのが、今回の主旨だったのだ。


「ふむ。では、行ってみるか。ここより1番近いのはどこかな?」

あっさりと王様が頷いた。

やっぱり腰が軽いなぁ、この王様。


もともと、前線思考で自分で動きたがる人だったみたいだし。じゃなきゃ、他に手がないからって、そうそう自分で魔穴に挑んだりしないよね。

カリオスさんが勝手にやったみたいに、他に手がありそうなら異世界召喚しちゃう方が、国としては正解。

ま、呼び出されは方は大迷惑だけどね。



「ここに戻ってくる前に、下見してきたから通路を繋げれるから、すぐ行けるよ〜!」

はいっと挙手して主張する。

血につながる者が居るか、一度行った場所じゃないといけないって事は、1度行った場所は楽につなぐ事ができるって事なんだよね。


王様連れてくとなるとゾロゾロの行軍になって時間かかりそうだし、対策として先に回ってきたんだ。


「通路とは、前に魔穴の場所から野営地まで移動したものか。便利だな」

承諾を得てからいそいそとど○で○ドアもどきを開く。

「魔力消費の少ない簡易移動陣と思ってもらえれば良いですよ〜。私が先に行って結界張ってるんでゆっくりどうぞ〜」




光の空間をするりと抜ければ、そこは緑に囲まれた魔物だらけの場所でした。

素敵に空気も澱んでます。


って、ふざけてる場合じゃないか。

素早く10畳ほどの結界をはり、後続に備える。

魔物達がこちらに来ようとして結界に弾かれるのを数えながら待つ事暫し。

王様と側近に加えて、ユーウィン君達次世代組も勢揃いしてる。

あ、ちゃっかりアリアスまでいるよ。


最後にハルチカと月乃ちゃんが現れたところで一旦扉を閉じた。

この調子で人数増えてもキリないしね。


「王に、話は聞いておったが便利なものじゃな。術式が解明しておれば儂等でも使えるんじゃが」

カリオスさんが感心した様に呟くのに苦笑する。

「実際は幾つか制約があるし、そんなに便利なものでもないよ?」


「そうだ。それよりも、どうやって魔物を追い帰したんだ?早くして見せよ!」

王様からワクワクした様な声が飛んでくる。

「父上、落ち着いてください」

呆れた様に諌める息子の視線もどこ吹く風、だ。

期待のこもった視線が痛いです、王様。



チラリとハルチカに視線をやれば頷かれた。

はいはい。

では、やりますか。

魔穴を向いて、呼吸を整えた後、おもむろに歌い始める。


といっても歌詞はなく、ただのハミングだ。

ただ、その中に『帰ろう』という想いをたっぷりとのせてある。

魔力をまとわせた唄がその場に広がり、荒れ狂っていた魔物達が徐々に大人しくなっていく。

その時、すっと前に出たハルチカが魔穴に向かい、聖剣を振った。


パキンッと、ガラスが割れた時の様な澄んだ高い音が、その場に響く。

それと同時に、私が30センチほどの光の球を作り、魔穴に向けて飛ばせた。

少しぼんやりした様子の魔物達がふらふらとその球を追って魔穴に吸い込まれていく。



突然、見知らぬ世界に追いやられて大変だったね。

向こうで確かに悪さをしたかもしれないけど、本能に任せての行動だ。

私にとって彼等は、突然異世界に放り出されて困惑している同志、の様な気持ちだったんだ。

1度、そんな想いを持ってしまえば、邪魔だからといって殺してしまう事も出来ない。

穏便に帰ってもらうのが1番だ。


30分程で、その場に留まっていた魔物達が全て魔穴の中へと消えていった。

最後の一体を見送ると、漸く歌う事をやめた。

その場に、沈黙が帰ってくる。



「………凄いな。聖女様は魔物すらも操る事ができるのか」

感嘆のため息とともに誰かがポツリとつぶやいた。


「魔物達も、もともと望んでこの世界に来たわけではなかったんです。彼等にとってはこの世界の大気こそ生きにくいものだった。だから、少しずつでも向こうの大気が漏れてくる魔穴のそばから離れる事ができず、ここに留まっていたんです。

だから、魔物達が帰れない様に阻んできた術式の一部を壊して通れる様にし、『帰ろう』と呼びかけたんです」


結果はご覧の通りです。と、肩をすくめれば、向こうの世界を覗いてきた王様御一行は何かを納得した様に頷かれる。

「確かにあの世界で生まれ育ったもの達にとってこの世界の空気は息苦しかった事であろうな」


そう。向こうの世界をチラ見した限り、あちらは魔素が随分と濃いのだ。

魔力を吸って生きる魔物達にとって、酸欠状態でさぞ苦しかっただろう。

エベレストの山頂で活動してるとでも思ってもらえれば分かりやすいかな?

逆にこちらの生物にとっては魔素が濃すぎて体内で魔力飽和状態になり、結果魔獣化してしまうのだ。


ちなみに魔物は通れないのにこっちの生物が向こうに吸い込まれるのは、一定以上の魔力を持っているモノはこちらからあちらへ通れない術式を組み込まれていたからで、陽哉君や王様が通れちゃったのは魔力を使いすぎて空っけつになりかかってたから、である。



「じゃ、中に入りましょう」

阻害の術式部分はさっきハルチカが壊したので、みんな問題なく入れるはずだ。

魔物ももう居ないとは思うけど、念のため結界に入ったままゾロゾロと魔穴の中に入っていく。


ゆっくりとしたスピードで、集団行動………。

なんだか観光ツアーを彷彿とさせる光景だよね。

バカな事を考えながら、結界を維持するために人々の中央を歩いていた私はハルチカに名前を呼ばれて慌てて足を止めた。


『光よ』


言葉に答えて、辺りがポゥっと明るくなる。

魔法の光に照らされてぐるりと文字が浮かんでいるのが見えた。

「コレが恐らく魔穴を固定している術式の一部です。文字が乱れてるところが、さっき俺が壊した部分ですね。さらに進むと向こうの世界へと出る事ができ、出入り口付近にはこれと同じ様な術式が刻まれてました」


「コレを壊せば、魔穴は消滅するという事か」

皆が険しい顔で浮かび上がる文字らしきものの羅列を睨んでいた。

魔穴より溢れ出る魔物や魔獣に苦しめられた日々が脳裏を過っているのだろう。



「………とりあえず、1度外へ出ましょう」

ハルチカに促され、みんなでゾロゾロと外へ出る。

魔物の脅威は暫く無いため、結界を解除し沈黙したままそれぞれに魔穴を見つめているこの世界の人々を観察する。


険しい顔。

気が抜けた様な顔。

安堵した様な顔。

それぞれに思うところは違うのだろう。


「さて、実際に見ていただいたところで、決断してください。とりあえず、全てを破壊する、か。こちらからの出口のみを潰し罠を張るか」

暫く後、ハルチカが選択を突き付けた。


「ちなみに、どんな罠を考えているのだ?」

「取り敢えず、捕縛、魔力を吸い取る事での無力化をした後、王宮へ知らせるシステムを考えてます」


何かが引っかかった場合は、知らせが来て見に行けば良い。

「魔物がかかるんじゃ無いのか?」

「こんな怪しい穴に魔物といえ進んで入ってくるわけがありません。野生に近いので、むしろ避けるはずです。今迄大量に来ていたのは、向こうの入り口に誘導する罠があったからです」


そう。それに気づいた時、うなぎの罠を思い出したもんなぁ。

餌につられて中に入ったら戻ってこれないって……。

あ、みんな微妙な顔になってる。



「………では、その様にしてもらおう。カリオス、サーフィス。魔術はお主達の領分。しかと見届けてこい」

「御意に」

コホン、と小さく咳払いをして気を取り直した後、命を下す王様に名指しされた2人が膝をつき頭をさげる。

あ、今ちょっと王様っぽい。


「じゃ、早速。後、月乃ちゃん。罠が見つかりにくくするために隠匿魔法かけて欲しいから一緒に来て?」

「はぁ〜〜い」

手招けば、後ろの方で大人しくしていた月乃ちゃんがやって来る。




さぁ〜、後ひと頑張りいってみよう!







読んでくださりありがとうございました。

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