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魔穴の存在を推測してみよう。

よろしくお願いいたします。


小さめの魔穴を前に、ハルチカと佇んでいる。

私が立ってどうにか潜れるくらいのサイズのそれから出てくる魔物は弱く、発生率も低い為、周りに溜まっていたものを排除してしまえばノンビリと立ち話する余裕もあるのだ(一応結界は張ってるけどね)


「希は霊道の綻びを繕った事は?」

「何回かお爺ちゃんの補助についた事はあるけど、自分でした事は無いなぁ」

本格的に現場に出だしたのって、あの事件が起こる少し前からだったから、私が「仕事」した期間は本当に短い。

メインは神楽を踊り鎮魂する事だったし。


「だよな。爺さんが鎮魂の唄を歌っても聞くんじゃないかって言ってたけど」

言われて、ポンッと手を叩く。

「そっか、その手があったか。すっかり忘れてた。っていうか、あっちと結びつけて考えた事無かった」


言霊の力の一種で、歌に力を乗せる事で言葉を直接使うより綿密て強い効果を得る事ができる。

問題点は発動までに時間がかかる事。

だから、その間守り役が必要なんだけど、ハルチカいるしピッタリだろう。


「問題は歌詞がうろ覚えなんだよね……。最悪、適当につくろ」

呪文と同じでこめたい気持ちやイメージがしっかりしているなら、多少言葉が違っても同じ効果は得られるはず。


自己完結して納得している私をハルチカが生温かい目で見てるけど、無視してやる。

何度かゆっくりと深呼吸をして体内の魔力を整えると、ゆっくりと口を開いた。




少し物悲しい静かな旋律はどこか子守唄に似ている。

荒ぶる魂に訴えかけ、神に救いを祈る歌詞もどこか優しく包み込むような感じだ。

母に口伝で教えてもらった日の事を思い出す。


力を使う事の出来なかった母の歌う『唄』は、本当にただの歌だったけど、柔らかな膝に抱かれて聞いていた私は、深い安らぎと幸福に包まれていた。


そうして、ふと思いつく。

魔物たちも私と同じなんじゃないかと。


ある日突然別の世界に落とされ、戸惑い混乱している。

だから、なかなかその場所から動こうとしないんじゃないかな。

誰もそんな事観察しないから分からないけど、もしかしたら、魔穴は彼らにとって一方通行の道って事はあるんだろうか?


だって、彼等の行動を改めて考えれば、この世界を害して手に入れようとか、勢力を広めようという思惑は見えてこない。

だいたい、連携取れてないし、ただ手当たり次第に暴れてるだけみたいな……。


魔穴に近づいたら襲ってくるのも、帰れるかも知れない一縷の望みを持っているからだとしたら………。

もしそうだとしたら。




「……いろいろ、話が変わってこないかしら?」


唄う事を止め、ポツリと呟く。

その場に満ちていた浄化の光がゆっくりと薄れて消えていく。

傍で見守っていたハルチカが、不思議そうな顔で覗き込んできた。


「どうした?」

「………あのね、ハルチカ!」

思いついた事を勢い込んでハルチカに話す。

私の勢いにあっけにとられていたハルチカの表情が徐々に変わっていく。


「王を捜しに行った時、そこは人気の無い荒野のようなところだった。灰色の雲に空は覆われ薄暗く、妙に大気がどんよりとして息苦しかった。そのせいか、思考や行動がいつもの半分しか働かない状態になる。

王たちは簡易の結界を貼り、少しずつ移動する事で周囲を探っていた。

魔物は居たけれど、こっちに出て来るような者たちばかりで人型や知能が高そうな者は居なかったな」


ハルチカから語られる魔穴を抜けた先の世界は、とても人間の過ごせる環境には思えなかった。


「だが、どの世界にも魔境と呼ばれる場所はある。もしかしたら、その荒野を超えた先に文明はあったのかも知れない。

そして、知能ある者は考えるだろう。

異世界へ誰が好き好んで行くものか……」


「まぁ、私達だって何があるかもわからない未知の場所に進んでいこうとは思わないわよねぇ」


しばらく、その場に沈黙が落ちる。




最初の始まりは、昔々の侵略目的の王様の暴走。

開いた魔穴からは国を滅ぼすほどの魔物が溢れたという。

だけど、ハルチカの話からはそんなに大量に魔物が溢れ出る環境には見えない。


そして、今。

ランダムに開く魔穴から未だ出て来るのは知能が低く破壊するだけの魔物達。


「ねぇ、こっちの世界、丁度良い害獣捨て場になって無い?」

「………嫌な仮説立てるなぁ」

思わず、ボソリとつぶやけばハルチカがイヤそうな顔をする。

だけど、否定はしないって事は、ハルチカだって同じ様な結論に至ったんじゃ無いかな。


不躾に界を越えて手を出してきた相手に、魔物を送り込む事でさほど労をかけず報復。

その後、座標を確定する技術さえあれば、便利な害獣捨て場の確保完了だ。

最初に手を出してきたのは相手だし、良心も痛まない事だろう。


「………うん。考えれば考えるほど合理的。私があっちの人間だったら諸手を挙げて称賛しただろうなぁ」

「………希」

思わず呟けば、困った様なハルチカの顔。


「うん。まぁ、私はこっちよりの人間だし、ねぇ。何より、ご先祖様の不始末をつけるにしてもそろそろ1000年近く?もう、良いでしょ」

それに笑いかけながらも、首を傾げる。

「ただ、どうしたものかしらねぇ」


「推測の域を出ないとはいえ、向こうからあえてこちらに道を開けているとしたら、こちらをただ塞いだだけだとイタチごっこになるもんなぁ。どうにかはねのける術を見つけないと」


「なんだか、ややこしい事になって来たわね」

考えすぎで頭痛くなって来た。

とりあえず。


「ここでごちゃごちゃ考えててもしょうがないし、中に入ってみよ。王様連れて脱出出来たってことは、魔穴の中は移動できるって事でしょ?」

「まぁ……なぁ。今なら魔物も居ないだろうし、探索するチャンスだよな」


て、訳でサクサク行ってみよう。




偶然に発生したのではなく人工物だとしたら。

そんな目でしっかりと見据えて探ってみれば、ちゃんとそれらしき痕跡を見つける事ができた。

魔穴に入りこみ、薄闇の中を浄化の光で照らせば、ぐるりと文字らしきものが書き込んであったのだ。


今迄、魔穴の縁直ぐのところを蓋をする様に塞いでいたんだけどそうじゃなくて、あえて三歩程踏み込んだ位置にあったんだよね。

コレは気づかないわ。


中に吸い込まれればパニックになり観察する余裕もなくなるだろうし、何より瘴気に巻かれて意識を刈り取られる。

あ、そういう環境だって事は聞いてたので、最初から強力な結界張って進みましたよ。

備えあれば憂いなし、ってね。


「多分、ココで出口の特定及び固定をしてるんだな。入口の方にも、似た様なものがあるんだろ。今までは、ここに気づかず蓋だけしてたから、時間経過やその他の要因で蓋が消え再び通路が繋がったんだろ」

聖剣で突つきながら推測を立てるハルチカに首を傾げる。


「つまり、ここの部分を壊しちゃえば良いって事?」

「多分な。入口だけは残っても先の無いトンネルなら引き返して行くだろ」


「でも、入り口残してたらこれ作った誰かがもう一度つないじゃわない?」

素朴な疑問。

1度つないだ技術があるなら、何度でもできちゃうんじゃ?

首を傾げる私にハルチカはニヤリと笑った。


「だから、出口部分をただ壊すんじゃなくて、今度はコッチが罠を張ってやるんだよ。直しに来る相手が居ないなら壊れたままで何も渡ってこれなくて良いだろうし、誰かが来るなら捕まえる様に、な」


ハルチカが悪人顔になってるんだけど、………てか、楽しそうだなぁ。

まぁ、呼び出されてからコッチ、多分1番苦労してるのはハルチカだもんねぇ。

自分で選んだとはいえ、性格まで変えるはめになった訳だし。




という訳で、ハルチカの発案に従い片方だけ壊して罠を張る作戦を決行する事にしたんだけど。


現在、判明している魔穴の数は7つ。

その全てに罠を張るとなると、見張る方も大変なので、小さな方から4つは完璧に破壊して、3つは罠として残す事になった。


て、言うのを勝手に2人で決め、予定通り4つを破壊して、1度王国に戻る事にした。

と言っても、ど○で○ドアもどきを作る事を覚えたので、あっという間ですよ。

行った事ある場所だし、月乃ちゃんも居るしね。




「ただいま〜」

光の穴から突如出現した私とハルチカに、部屋でお茶を飲んでいた月乃ちゃんが驚き顔の後飛びついてきた。


「おかえりなさい!」

ちょっぴり涙目で、でも、元気よく迎えられ、月乃ちゃんらしい様子にホッとした。


たった4日程だったけど、この世界に来て初めてこんなに長く離れていたから、お城で危険がある訳無いと分かっていても少し不安だった。

だけど、残されていた月乃ちゃんの方がもっと不安だったんだろうな。


もっと早く回れるかと思ったけど、ど○で○ドアもどき、1回行った事のある場所か繋がりの強い人がいる場所じゃ無いと繋げられなかったんだよね。

残念ながら、万能では無かったのだ。


「て、いうか、王様達だけでもこの手で送れば良かったんだよね。馬で移動大変だったでしょ?」

王様にとっては自宅なんだし、血の繋がった息子は居るしで、協力してもらえたら扉もつなげやすかっただろうに。


「大丈夫。あそこから少し進んだ所に転移の魔法陣があって、そこからお城まで跳んだから楽だったよ」

ひっそりと反省する私に月乃ちゃんがにっこりと笑顔で教えてくれた。


「そっか。良かった」

「それより、魔穴は?無事に塞げたの?」

心配そうに尋ねる月乃ちゃんに、ここ数日間の事を報告する。


「すごい事、思いつくねぇ。でも、確かに。向こうから敢えて開いてるなら相手側を捕まえないと、話もできないか……」


呆れた様な顔に理解の色が広がる。


「まぁ、推測の域は出ないし罠を張ったところで誰かが来るとも限らない。向こうの魔穴のある場所を考えても、直ぐに反応が返ってくるとも思えないしな。

どうしたって長期戦になると思うから、本当に罠を張るなら、王の許可を取ろうと思って、とりあえず戻って来たんだ」


肩をすくめるハルチカに、月乃ちゃんは頷くと控えていたメイドさんに王に取り継ぎを頼んだ。

急いで出て行く背中を見送っていると、月乃ちゃんが改めて抱きついてきた。

しっかりと腕の中に閉じ込められて甘い花の様な香りに包まれる。ほんわりと柔かなモノに頬が押し付けられた。

う〜ん、至福。


「良かった。無事に帰ってきて。に、しても陽哉の大人姿ってなんか変な感じ」

私を抱きしめたまま、まじまじとハルチカを眺めて月乃ちゃんは笑った。


「でも、なんか今の格好の方が隣に並んで双子っぽいかな?あ、でも、こんだけ年齢離れたら双子じゃ無いなぁ」

首をかしげながらもハルチカ観察は続く。

まぁ、改めて見ても不思議体験だよね。


「言っとくが元の世界ではしっかりお前も年取ってるからな?」

「うわっ、やな言い方!」

舌を出しての双子の言い合いは、見た目年齢変わっていても相変わらずのテンポの良さだ。


いや、ハルチカがポンポン言い返すから、昔より和気あいあいとした感じかな?

陽哉君は、黙り込んじゃう事、多かったもんな……。


そんな事を考えながら入れてもらった紅茶を片手に和んでいると、さっき使いにやったメイドが戻ってきた。


「王がお会いになるそうなので、応接の間へおいでくださいとの事です」


「はぁ〜〜い」

さすがに一国の王がひょいひょい呼ばれて部屋に来る事は無いよね。

先導のメイドの後を3人でぞろぞろと歩き出す。


さて、提案はどう転ぶかな?









読んでくださりありがとうございましたり

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