表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

闇の中で出会うもの。

陽哉君視点です。

よろしくお願いします。


ココハ、ドコダ。


ボンヤリと霞む思考の中、僕は考えていた。

手足にまとわりつく闇の中、体は緩やかに下降を続けている。

このまま沈み続けたら、一体どこにたどり着くのだろう。




ボンヤリとした思考は現状把握を努めようと過去に遡っていく。




そうだ。

僕は魔穴に飲み込まれたんだ。


聖剣を手に請われるまま、1番大きな魔穴へと向かった。

魔物の数は大聖堂の比じゃ無かったけど、希の結界と力技で押し切った。

思えば、この時に、魔力を使い過ぎたのも敗因の1つだったんだろう。


辿り着いた荒野の真ん中にそれはあった。

まるでブラックホールのような不気味な穴。

湧いて出る魔物を封じる為、希が光の魔力を叩き込み、一時的に沈黙した魔穴に聖剣を突き立てた。

イメージは厚さ5センチほどのマンホールの蓋。


一瞬、上手くいったと思ったんだ。

だけど、直ぐに違うと気付いた。

突き立てた剣がイメージするマンホールの蓋を突き抜け何かに引っ張られる感覚がした。

足を踏ん張り耐えたら、次は剣を媒介に体内から強制的に力が抜き取られていった。


物凄い勢いに直ぐに魔力の底が見えてくる。

体から力が抜け、がくりと膝をついた時には、再びズルズルと魔穴に体が吸い込まれていく。

霞む視界の端に慌てて駆け寄ろうとする希たちが見え、咄嗟に「来るな!」と叫んでいた。

このまま来ても、全滅するだけだ。


「月乃!みんなを隠して逃げろ!体制を整え直すんだ。俺は大丈夫。中を見てくるから!」


隙間はあるけど、魔物が出るほどでは無い。

チャンスは、僕がまだこっちにいれる今だけだと分かった。

辛うじて保っているコレが無くなれば、また、魔物が噴き出してくるだろう。


月乃は僕の気持ちを的確に読んだはずだ。

目の端に、何か叫ぶ希を無理やりに抱き上げ踵を返す姿が見えた。

それも、直ぐに薄闇の何かに包まれ見えなくなる。

月乃が隠匿の魔法を発動したんだろう。

まだ夕暮れのこの時間帯じゃ完璧とは言い難いが、気配を薄め、普通よりは見つかりにくくなるはずだ。

『護って』という希の声が聞こえたのを最後に僕は魔穴へと完全に飲み込まれ、意識を失った。



で、目覚めたらこの状況。

何だろうな……。


辛うじて動く首を巡らし辺りを見回すけどボウっと自分の体が発光している以外は、全くの闇だ。

いや、自分の体じゃないな。

薄皮一枚向こうで薄い光の膜に包まれてる。コレは希の結界、……だな。

最後に聞こえた声はコレだったのか。

おかげで、完全に闇に飲まれることなく済んでるみたいだけど、体が自由にならない以上、重力に従って下へ下へと落ちていくしかない。



《見〜つけた》

いい加減どれくらいの時間が経ったのかもわからなくなった頃、不意に男の声が聞こえた。

少し笑みを含んだその声は、低いけれどどこかで聞き覚えがある声だった。


《だれだ?》

咄嗟に問いかけると、淡い光をまとった男がスゥと近づいて来た。

明るい茶髪は軽くウェーブし丁寧にセットされていて、服装はブラックジーンズにベージュのソフトジャケットを羽織っている。

なんだかチャラそうな30過ぎ位の男だった。


《おれ?未来のお前だよ。お久しぶり》

ふざけたことを言いながら片手を挙げる相手に否定の言葉を吐こうとして固まる。

理由なんかない。

ただ、なんとなく本当に目の前の男が自分なのだと分かった。


凝視する僕に、男は楽しそうに笑った。

《こんな若かったんだな〜。これじゃ、調子に乗って失敗してもしょうがないか》

軽く言われた言葉は、的確に僕の胸をえぐった。

そうだ。調子に乗って、失敗した。自分の力を過信してたんだ。


激しく落ち込む僕に男は苦笑すると、ポンポンと頭を撫でてきた。

《ま、気にすんな。失敗は若者の特権さ。その苦さを次に生かせれば、それでいい》

《……なんか、先生みたいだな》

未来の自分に教え諭されるってのも、なんだかシュールな感じだ。

思わず呟けば、先生だからな、と返された。


男はよいしょ、とばかりに僕を肩に担ぐと、何処かに向かって進みだした。

同じ人間の筈なのに、腕の強さも肩の厚みもまるで違う。これが重ねた年月の差なのか?

《ここはな、魔穴の中っていうより、純粋な時空の狭間だ。聖剣を刺す時、お前頭の隅で別のこと考えただろ。そのせいで、蓋をするんじゃなくて別の次元への口を開けちまったんだよ》


伸ばした自分の指先も見えないような闇の中、男は迷いない足取りでどこかに目指して歩いていく。

未だ動くことのできない僕は黙って運ばれながら、男の言葉を聞いていた。

《つまり、自分次第で何処へでも繋がるんだ。まぁ、誰かが出てきた穴を利用するのが一番早いけど、な。前聖女たちの推測は正しかったんだよ。彼女たちは、ちゃんと家族の元にたどり着いてるよ》


複雑に絡んでいたと思われる糸をスルスルと男は紐解いていくように、疑問の答えを提示していく。

《時間がないから、よく聞けよ?これから、お前を元の世界に戻す》

《元って……、日本のことか?ダメだ!僕は希達の所に!!》

しかし、突然投下された爆弾に、思わず大声が出る。

耳元で叫ばれうるさそうに男の眉がひそめられた。


《そっちは俺が行くからいい。今のお前じゃ力不足だ》

あっさりと自身を否定され唇を噛む。

確かに、この謎の空間で自由に動き回れる男は僕よりも強いんだろう。

胸の中に渦巻く悔しさを、だけど言葉にするには僕のプライドが邪魔をした。

分かりきった事をわめき散らした所で、それはただの子供の八つ当たりだ。


拳を握りしめて黙り込む僕の頭を男が空いている手で撫でた。

《あ〜、落ち込むな、落ち込むな。言っただろう?その悔しさは次に向けろって。お前には、元の世界に戻ってやってもらわなきゃならん事が山ほどあるんだよ》


くしゃくしゃと髪をかき混ぜる手に、首を振って抵抗すると、首をかしげる。

《やることって?》

《力が無いならつければ良いのさ。これから言う住所を訪ねて、そこにいる爺さんにあったことを伝えて教えを乞え。がっつり修行してくれるから。あ、ちなみに希の爺さんな。優しい顔して鬼だから、覚悟しとけ》


ニヤリと人の悪い笑みに、なぜか背筋に悪寒が走る。

《あ、ちなみに希はそこには住んでないけど偶に帰ってくるからな。絶対に召喚のことは言うなよ?下手したら歴史が狂う》


《はぁ?どういうことだよ?意味が解らない》

次々と投げつけられる情報に頭が混乱してくる。

おかしいな、僕の情報処理能力はもう少し優秀な筈だったんだけど。この特殊な状況で一部麻痺してるみたいだ。


《今までお前が一緒にいた希は、お前から見たら未来から来た存在だ。お前と同じ時間帯に存在する希は本当の10歳の子供なんだよ。ま、見た目はそのままだがな》


これから僕が元の世界に戻り、子供の頃の希に会う。そこまでは大丈夫。

だけど、その希に大人になったらこんな事が起こるよ、ってのを伝えるのはアウト。

なぜなら未来の希は召喚される事を知らなかったから。

ん?でも、希に会ったら見た目で分からないか?なんで希は気づかなかったんだ?


疑問にたどり着いた俺に、男はニヤニヤと楽しそうに笑っている。

《当然、そのままじゃダメだ。見た目とキャラ変えてけよ?いやぁ〜、最初は大変だったんだぜ?まぁ、そのうち馴染んでくるから頑張れ》


《………つまり、あんたみたいにチャラくなれ、っと》

《おまっ、年上にあんたとか失礼な奴だな》

怒ったようにいわれるが、勘弁してくれ。

自分と正反対の人間演じろとか、どんな苦行だよ。


《まぁ、良いけど。後、里奈達の所にもちゃんと行けよ?力になってくれるから。で、現在俺の年は31だ。ちゃんと備えろよ?》

内心頭を抱えてる僕を、男はぽいっと投げ落とした。

そこにはいつの間にか光の漏れる亀裂が存在していて、再び僕は下と落下していく。


《ちょっと待て!まだ聞きたい事が!!》

慌てて手を伸ばす僕に男は笑って手を振った。

《あ、俺、ハルチカって名のってるから。通称チカちゃんなぁ〜!!》

(はぁ?!チカちゃん?!もっとマシなの、なんか無かったのかよ!!》


怒鳴りかえした僕に爆笑している男の姿を最後に僕の意識は白い光に塗りつぶされた。






そうして目を覚ませば、俺は病院のベッドの上で点滴を受けていた。

学校帰りに行方不明になって3日後、衰弱した状態で倒れているのを発見されたらしい。


一緒にいた筈の月乃はまだ見つかっていない事から、なんらかの事件に巻き込まれたのだろうと警察が話を聞きにきたが、俺は記憶をなくしたふりをしてやり過ごした。

召喚されて魔物と戦ってました、なんて言っても、別の病院に転院させられるだけだ。


少し経って落ち着いた頃、母親にだけは本当の事を話した。

月乃の事を心配して消耗する姿を見ていられなかったからだ。

最初は半信半疑だった母親も、異世界で身につけた異能を見せれば、驚きつつもわりとあっさりと受け入れた。


母親がファンタジーが好きだったなんて初耳だぞ?

なんでも、月乃の持っていた本や漫画を見てハマったらしい……。


それから、父の家から籍を抜き、母親と暮らすようになった。

弟が、産まれたこともあって元々疎まれていたのは感じていたのであっさり認められるかと思ったけど、以外と大変だった。

後妻が追い出したように見られるのは体裁が悪かったんだろう。

月乃が居なくなって1人になった母親が心配、だの。修行が嫌になったのだの。

いろいろあげてみたが、結局は髪を金色に染め、夜遊びに修行放棄など素行を悪くした事で、勘当という形であの家を出る事が出来たのは半年後だった。

いろいろ言う奴はいたが、あの家に未練なんて何もない俺的には万々歳だ。



「さて、行ってみますか」

差し当たり、希の爺さんとやらに会いに行こう。

前聖女達はまだ中学生だし、召喚されてないだろうから行っても無駄だ。

そのうち、コッソリ様子だけ見に行こう。

どれくらいのタイムラグで戻ってくるかまで教えといてくれれば楽だったのに。

ノンビリ駅に向かいながら、未来の自分にため息をつく。


次の召喚?は、31。

それまでに、最低でもあの男と同じレベルの力をつけなければいけない。

時間の長さを思えば気が遠くなるけど、ここで失敗すれば、きっと希達は救えないのだろう。

「待ってろよ、希。月乃。力を付けて、すぐ行くからな」


誓いの言葉を口にして、俺は前を向くと歩き出した。








読んでくださり、ありがとうございました。


少し、補足説明。

みんなが同じ時空帯に居て希の年齢から換算した場合は、陽哉・月乃(39)→里奈・悟(37)→希(33)の順になります。

召喚された時間や場所がバラバラな為、ちょっと分かりにくくてすみません。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ