お城にて③
短いです。
よろしくお願いします。
自分に与えられた部屋のバルコニーから空を見上げる。
初めて見た時にはまん丸だった双子月は今は半分ほどにかけてしまっていて、流れた時間を思わせた。
(里奈ちゃん達は、日本に帰れたのかな?)
300年前のこの世界で無謀とも思える賭けに出た2人。
日本ではほぼ同じ時代を生きていた人達が、時空を超えて300年も昔の世界に呼び出されていたのは、なんだか不思議な感じだ。
しかし、前勇者達の魔穴を塞いでからのその後の話が曖昧なわけだ。
まさか、この世界を自分達でサッサと飛び出していったなんて、外聞が悪いもんね。
あの後、ユーウィン君のの許可を取り表表紙を破ってみると、厚めの台紙に窪みがあり、お星様の形のペンダントが入っていた。
ロケットになっているそれには、幸せそうに笑う家族の写真が入っていた。
この笑顔の中に帰りたくて、里奈ちゃんは頑張ったんだな……。
本のページを破り取ることは流石にできなかったから(例え内容は半分が勇者に対する愚痴でも一応国宝)魔法でそのまま転写させてもらうことにした。
帰ることができたら、ペンダントと一緒に届けようって思ったんだ。
たどり着けてたら懐かしく思うだろうし、未だなら、家族にとっては直筆の希望がこもった手紙は励みになるだろうから。
里奈ちゃん達の立てた仮説は検証の価値ありということでまとまった。
けれど、とりあえず、魔穴になる前の歪みを見つけない事にはお話にならない。
陽哉君の提案で、今まで魔穴ができた場所を地図に上げてもらう事になった。
そこから、関係ありそうな条件や法則を絞り出すらしい。
「うまく、いってるといいな」
とても小さな呟きは、夜風に攫われ誰の耳に入る事もなく消えていく。
無事に家族の元に帰れているといい。
それは、希望であり、願いだった。
「早くあいたいな」
きっと、友人達が手を差し伸べてくれているとは思うけど、それでも、やっぱり心配だよ。まだ、13才だもん。きっと心細い思いをしてるはず。
「ちゃんと帰るから、待っててね」
せめて、言葉だけでも届けば良いのに……。
翌朝。
議会は、古参の貴族達によってひとつの道に整えられていた。
魔物の数は増えていく。
末端を叩くよりは、取り敢えず穴を塞いでこれ以上数が増えないようにするのが先決だろう。
穴さえ塞がって仕舞えば、全ては良い方向に動くのだ。
先ずは、一番大きな魔穴から塞いで欲しい。
そう、提示されて私達は頷いた。
早急に兵が整えられて、出発の用意がなされる。
心配そうな顔のユーウィン君や渋い顔をしているカリオスさん達を残し、私達は颯爽と出立した。
聖剣を手に入れ、城に帰還してからから、僅か3日後の事だった。
経験も積まず、レベルも低いままラスボスに挑んだって勝てるわけない。
そんな単純な方程式すら浮かばないくらい、私達は愚かだった。
ゲームと違って、リセットなんて出来ないのに……。
日々増え続ける被害の数に目が曇っていたのだろう。
そして、手に入れた聖剣によって思ったよりあっさりと塞がった魔穴に調子に乗っていたのだ。
そう。理由をあげればキリがない。
だけど、その時、私達は聖剣確保というひとつの山をこえ、更に元の世界への帰還の糸口らしきものを見つけた事で、訳の分からぬ高揚と全能感にどっぷり浸かっていたのだ。
その事に気付いた時には、既に遅く……。
私達は大事な人を魔穴に飲みこまれてしまった。
何やら、急展開。直ぐに次話投稿します。
読んでくださり、ありがとうございました。