お城にて②
よろしくお願いいたします。
9/1前勇者の名前変えました。希の息子と読みが被ってましたorz
魔穴についての考察
この世の忌むべき感情が何かのきっかけで溜まり、時空を歪め、別世界の扉を開いたものと言われている。
では、きっかけとは何か。
ある王国が故意に異界への扉を開こうとしたのだ。まだ見ぬ世界の利権を求めて。……つまりは己の欲望を満たす為に。
研究の名の下に多くの血が流された。
最初は罪人たちのものであったらしい。
だが、人が足りなくなれば、直ぐに犠牲を求める手は罪なき弱者へと伸ばされた。
生命の持つ力を糧に、ついに術式は発動された。
だが、恨みのこもった力で開かれた扉がまともな世界へとつながるはずはなかったのだ。
術式を展開した魔術師たちは最後の力でもって要となる宝玉を打ち壊したが、扉より吹き出した力は1夜のうちに王国を滅ぼし、人の住めぬ荒野へと変えた。
そして、悪しき術式は滅びの中忘れられたが、1度開かれた扉は不安定な時空の綻びとして残り、魔穴として現れるようになった。
すべての始まりは人間の過ぎた欲望だったのだ。
魔穴が繋ぐ世界とはどんな場所なのか、それを明確に示すものは少ない。
現在分かっていることは、魔穴より吹き出す風にあたることで、植物や動物が変質すること。
時に、魔穴の中に吸い込まれる人や動物がいる事。吸い込まれた先の情報は今の所得る事は出来ていないが、どうやら、中で何らかの変質があり、魔物へと姿を変えているらしい。
また、全てが魔物に変わっているわけではないところから、中の世界には元々の住人が存在し、それらに害されているのでは無いかと予想される。
塞ぐ為には、今の所光の魔力を穴の表面部に注ぎ塞ぐ事が一番効果的である。
知人の話では、穴にぴったりと当てはまる栓をイメージするのが一番魔力消費がすくないようだ。
栓の厚みは余りなくても良い。せいぜい10センチほどだと言っていた。
私は空間を塞ぐとの事で、針と糸で縫い付けるイメージだったのだが、知人には小難しいと不評だった。
まぁ、それぞれの性格に合ったやり方があるのだと考えるのが一番だと思われる。
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「だいたい、魔穴に関する記述はこんな感じだった。他には、魔穴の大半を塞いだ後の荒れた国の後始末の話や勇者に対しての愚痴、この世界自体に対しての考えも書いてあったが今回は必要なさそうなんで省かせてもらった」
なんか、省かれた部分が一番面白そうな気がするな……、なんて、ボンヤリと思いながらも、与えられた新たな情報を頭の中で吟味する。
要は欲を出したどこぞの王様のせいで、現在苦労する羽目になってるって事か……。
なんて迷惑な。
「綻びに人の負の感情がたまっていく事で、綻びが広がり、もしくは力を得て異界への扉になるって事か。でも、なぜ綻びがそこに出現するかはこれじゃ分からないな」
腕組みして椅子に体を預け、目を瞑り考え込んでいたらしい陽哉君がぼそりと呟いた。
「そこらへんに対する記述は無いのか?」
「いや、それに対する答えらしきものは書かれてなかった」
首を振るユーウィン君から、トトへと視線を移す。
退屈そうにウトウトしていたトトは、クワッと欠伸をしてからこちらも首を横に振った。
「ワシも知らんで?前の勇者達は調べとったみたいやけど、そこに書かれとらんのやったら、見つからんかったのかも知れんなぁ」
少し目を眇め遠くを見るトトは何を思い出してるんだろう。
「ソレを見つけん限り、今回塞いでも、また、繰り返しやろなぁ〜」
何時ものノンビリした話し方が寂しそうに聞こえるのは、私の気のせい?
なんとなく手を伸ばしてトトの頭を撫でると、ビックリしたように目を見開いた後、すりっと頭を押し付けてきた。
「それにしても、知人って、勇者の事よね?あくまで知人呼びって、仲悪かったのかな?」
相変わらず、月乃ちゃんが少しずれたところを気にしてる。
「どうだろうな。確かに愚痴は多いが、呆れつつも楽しそうだから、仲が悪いって事はなかったと思うが」
ユーウィン君が首を傾げながらも律儀に応え、好奇心を刺激されたらしい月乃ちゃんが本を見たいと覗き込みに行った。
「嬢ちゃんはかわええのぅ」
私に頭を撫でられながら、トトがくくっと笑い、陽哉君が呆れたようにため息をついた。
「月乃、頼むからもう少し緊迫感を持ってくれよ……」
がっくりと項垂れている陽哉君に気づかないふりをしながらページをパラパラとめくっていた月乃ちゃんが、ふと手を止めた。
怪訝な表情をしながらページをジッと覗き込んでいる。
「どうしたの?」
その表情が気になってそばに寄っていくと、これ、ッと指し示されたのは、本の後ろの方。どうやら勇者に対する愚痴が書かれているページの中程だった。
ポツンとロウか何かが落ちたであろうシミの中に何かが透けて見える。
それは、日本語の「は」という字に見えた。次のページにめくってみても、そこには今まで通り、この国の文字で勇者の愚痴が続いているだけで、どこにも日本語は書かれていなかった。
「………これって」
もう一度、元のページに戻る。
やっぱり反転した「は」の字に見える。
バラパラと何枚かページをめくっていく。
と、愚痴の書かれたページが終わる頃、僅かに紙の感触が変わった。
それは、指先に感じる微かな違和感だったけど……。
「ここ。からここまで。2枚の紙を貼り付けてあるみたい。それで、中に何かが書いてある。多分、日本語で。私達に当てたメッセージだと思う」
指し示されたシミはきっとわざとだ。
中に何かがあると、気づいてもらうためのきっかけ。
同郷の者に当てたメッセージで、たぶんこの国の人には見られたくなかった何か。
なんと呼びかけるか少し悩む。
元の姿に、じゃあ、下手したら白紙に戻っちゃいそうだし……。
『1つになりし2つの紙よ。2つに戻りて秘密を示せ』
貼り付けられたページに手を置いて、そっとささやきかける。
フワッと一瞬本が光り、元に戻る。
手を退けて、そっとページをめくれば、そこには300年前に確かに存在した1人の女の子の言葉が記されていた。
「こんにちは。
このページを見つけてくれてありがとう。
あなたも、ある日突然呼び出された人でしょうか?それとも迷い人?」
それは、そんな風な書き出しで始まっていた。
表に書かれていた淡々とした言葉のまるで手本書のような流麗な文字では無く、少し丸い可愛らしい文字。それは確かに日本語だった。
「私の名前は木下里奈。17歳で召喚されました。昭和53年の日本生まれです。
学校から帰っていた途中でこの世界に召喚され、もう3年が過ぎました。
魔穴を塞ぐ役目が終わっても、元の世界に帰る道は見つからず、時間だけが過ぎて行きました。
もし、帰れるからとの言葉に希望を抱いているなら、酷なようですが、この国の人たちは今の所連れてはこれでも、戻す術は知りません。
それとも、あなたのいる時代には帰り道まで発見されているのかしら?
そうであることを祈ります。
数日前に、聖剣を封印しました。
これを読んでいるあなたは、もう手に入れた後でしょうか?
もし、まだなら早く行ってあげてね。
私達の大切な友人がそこで待っていると思います。
この国で唯一心から信じられた存在で、きっとあなたの力になってくれると思います。
無事に逢えたなら里奈がとても感謝してたと大好きだと伝えてくれたら嬉しいです。
本当なら、ずっと一緒に居たかったくらい、大好きで大切な友人でした。
でも、だからこそ、一緒になんて行けなかったんです。
私と悟くんは明日、賭けに出ようと思っています。
本にも書いていましたが、魔穴は空間の歪みに負の感情が溜まり影響してできたものです。
つまり、元はただの空間の歪みなんです。
いろいろ試した結果、そこに純粋な魔力だけを込め、かつ、故郷のイメージを描く事が出来れば元の世界に、日本に帰る事が出来るんじゃないかとの結論に達したのです。
保証のない片道切符です。
飛び込んだ先はもしかしたらもっとひどい世界かもしれない。
だけど、万に一つでも可能性があるならば、それにかけてみたい。
それが、私と悟君の結論でした。
それに、悟君と一緒なら例えまた別の世界に飛ばされたとしても、なんとかなりそうな気もするんです。
だから、私達は扉を開けようと思います。
今回がダメでも、きっと諦めずに元の世界を目指します。
何度でも、扉を開けたいと思ってます。
だから、あなたもあきらめないで!
あなたを待っている人がいるなら、絶対にあきらめないでください。
それに、あなたは1人ではないでしょう?
私に悟君という存在がいた様に、きっと、あなたにも『勇者』という、パートナーがいると思います。
だから、大丈夫。
お互いを信じてください。
成功したかどうかをここに記せないのは心残りですが、行ってきます!
そういう可能性があるのだという事も知っていて下さい。
最後に、もし近い時代と場所に生きた人ならば日本に戻ったら下記の住所まで連絡を下さい。
私達も無事に帰っていたら、ぜひ、お友達になりたいし、もし、戻っていなかったら残された家族に里奈は元気で頑張っていたと伝えてください。表表紙の表層を剥ぐと、そこにネックレスがあると思うのでそれを持って行ってくれると嬉しいです。
勝手なお願いばかりですみません。
お互いに無事に帰れると良いですね!
あなたに日本で会える事を願っています。
さようなら。
あなたにたくさんの幸運が訪れます様に」
読んでくださりありがとうございました。