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聖剣使用法②

よろしくお願いします。

朝です。

どうやらあのまま寝ちゃったらしく、気づいたら同じベッドに2人でくっついて寝てました。しっかりと抱き寄せられていたため、16歳にしては立派なものがとても気持ちよ……ゲフンゲフン。


気持ち良さそうに寝ている月乃ちゃんを起こさないようにそっとベッドを抜け出して水場に向かう。

地下水をポンプで汲み上げているらしく、ひんやりと冷たい水で顔を洗えば、まだ少しボンヤリしていた意識がシャンとするのを感じた。


そのまま台所へと向かい、当番の騎士さんの手伝いをしながらちょっとしたおしゃべりを楽しむ。

なにせ主婦してたので、やっぱり台所って落ち着くんだよね。とくに料理してる時は大事な癒しの時間だ。

まぁ、材料は魔物の肉だの、見た事のない不思議な色の野菜だのと微妙な物がいっぱいだけどね。

気にしない、気にしない。。気にしたら負けだからね!


根菜類の皮をむき鍋に放り込み、干し肉も入れてダシを取る。

具沢山のスープは朝ご飯にぴったり。

我ながら上手くできた。

猪型魔獣さん、本当に万能。

炒めても煮ても美味しいし、骨からはいいダシが出る。

倒すのも、実はそんなに難しい魔獣では無いようだし、今後の食糧事情が変わるかもしれないな〜。

あ、でも魔穴を塞いじゃうと居なくなっちゃうのかな?

ご飯の時にでも確認しとこう。



結論。

お肉は今後も確保できるみたい。

なんでも弱い魔獣は魔穴からではなくても、自然発生するらしい。

数は激減するけど、大きさがあるから一頭倒せばかなりの肉が取れるしね。

野営ではいろいろ難しかった他の料理にも挑戦してみたいな。


………って、ダメダメ。

意識がそれた。

今、近くにある魔穴の方へと向かう途中で、昨日と同じく馬に乗って行進中。

昨日、かなりの数の魔物を蹴散らしたはずなのにまた囲まれていて、動物園の動物の気分を絶賛味わい中だ。

あ、どっちかというと水族館の魚美味しそう〜の方かな?

美味しくないよ〜。お腹壊すよ〜?


「希様、進むのも大変になったので、ここらで1度結界を解いていただいて魔獣達の数を減らしたいのですが」

アリアスの言葉に首を傾げる。

「このままいくんじゃダメなの?」

「魔穴に近づくに連れて、どんどん数は増えていきます。弾きながら行くにも、魔力の消費が激しくらるでしょう。

初めての魔穴封じに、魔力が足りなかったではマズいので、希様には魔力を温存していただきたいのです」


流石にこれだけ大きな結界を維持しつつ進み、尚且つ、中からの攻撃を外に開放するのは大変だし、神経をすり減らす……かな。

出来れば、みんなに危険な事して欲しくないけど。


「分かった。ただ、ゲガした人は速やかに私の所に戻る事。動けなくなったら、大声で呼んでくれたら行くから」

周りを囲む騎士達に聞こえるように、大声を上げる。

ガチャンッと剣を掲げて了承の意を伝えてくるみんなを見回し、キュッと唇を噛む。

脳裏に浮かぶのは、怪我人でひしめき合った治療所。


促されて、アリアスの後ろから月乃ちゃんの馬に乗り換える。

「では、これより魔物の殲滅をしつつ魔穴に向かって駆け抜ける。逃げるものは深追いはせず、極力隊列を乱すな」

アリアスの声にみんなの顔が引き締まる。


『漲る力よ、彼等を護りたまえ。守護強化』

小さく呟くと、騎士達の体が一瞬淡く光る。

上手く作用してくれると良いけど。

「じゃ、結界とくよ。3.2.1.GO!!」

パンッと軽い音と共に結界が内側から弾け飛び、全騎馬走り出す。


突然の動きに対応できない前方の魔物の群れを、陽哉君の剣から放たれた炎の塊が飲み込んで道を作った。

激しく上下に揺さぶられ、私は振り落とされないように月乃ちゃんの腰にしがみついている事しか出来ない。

口を開けば舌を噛む事確実だ。

まさか、言霊発動にこんな弱点があったとは。

帰ったら、せめて騎乗でも話せるくらいに乗馬の訓練しよう。


しがみつきながらも、せめて状況の把握をと閉じそうになる目を必死で見開く。

うわぁ、陽哉君が昨日に引き続きノリノリで楽しそうだ。

聖剣を使うと、3分の1以下の魔力で魔法が使えるって言ってたもんなぁ。


前方を陽哉君、後方から追いすがってくる魔物はサーフィス君の風の刃とアリアスの雷が蹴散らして行き、サイドから飛びかかってくるものは騎士達の剣や魔法で防いで行く。

……この部隊、かなりバランス良いんじゃない?


まぁ、魔力は有限だから、長期決戦になったら辛いんだろうけど……。

そんな事を考えているうちに、どんどんイヤな感じが強くなってくる。


教えられなくても、魔穴に近づいているのがわかった。

魔物の数も増え、倒しても倒してもキリがない。

正確には、前方から押し寄せてくる感じで、その証拠に後方にいたアリアスが前の方に移動していた。

それでも、押し寄せる魔物の群れに先程まで口も開けなかったスピードが落ちている。

……今なら、喋っても舌噛まないかな?


「浄化してみるから、足を止めて、10秒だけ耐えて!」

声を張り上げれば、周りの騎士達の足が止まる。

それを確認する事もなく、体内の魔力を感知し、増幅、開放した。


『聖なる光よ、悪しき力を打ち払いこの地に静寂をもたらせ。囚われしものに安らぎを。開!』


最後の気合いと共に、魔力が光となり爆発する。視界を塞ぐ光は、だけど、眩しいというより、何か包み込まれるような安らぎを感じた。


あたり一面を白く埋め尽くした光が消えた時、ひしめき合っていた魔物の姿は消え、たくさんの獣達が地に倒れていた。

そして、耳が痛いほどの静寂。


「動物……?なんで?」

「……魔穴により変質させられていた獣達が、元の姿に戻ったのでしょう」

不思議そうな月乃ちゃんの声に、近づいてきたサーフィスが答える。

うん、正解。そうなるように意思を込めたから。

魔穴の力により変わったのが魔獣なら、光の浄化で戻ると思ったんだよね。


猪、狼、猿に………なんだろう?この世界特有の獣かな?大きさも縮み、さっきまでの禍々しさもそこには無かった。

良かった、上手くいって。

あ〜、でもやりすぎたかな?ちょっとクラクラする。


「多分、生きてると思うから気がついたら勝手に逃げてくよ。それより………」

そういうと、前方に目をやる。


そこには、魔穴があった。

大きな岩の切れ目の中。真っ暗で何も見えないけど、何か気持ちの悪いものが溜まって蠢いているのがわかる。


「………きもっ」

「だね」

月乃ちゃんの短い言葉に同意する。

これは、『良くない』ものだ。

さっきの浄化の影響か今は魔物が出現して来ないけど、多分すぐ復活するだろう。


「希、剣に浄化魔法の付与をかけ直してくれるか?」

近づいてきた陽哉君の顔も険しい。

「塞ぎ方、分かる?」

尋ねれば、静かに首を横に振る。

「トトに詳しく聞き出そうとしても、漠然としすぎててよく分からん」


陽哉君の馬の頭に座ったトトは不満顔だ。

ゆっくり道中の中で、何度も同じやり取りを繰り返したんだろうなぁ。

ま、正直「エイって剣を突き立ててた」じゃぁ、私だってわかんないや。

だいたい、空間に剣って突き立つものなの?

さっきの余波で弱体化している様子を見れば、直に浄化の力を叩き込む事で消える気はするんだけど。


「とりあえず、やってみる。放って置くわけにもいかないし、静まってる今がチャンスだろうから」

陽哉君も同じ気持ちなんだろう。

鞘ごと差し出された黒い日本刀に、言われるままに浄化魔法を付与する。

なんだか不安で重ねがけした所で、私の魔力がほぼ枯渇状態になったらしく、体から力が抜けた。


馬から滑り落ちそうになってヒヤリとする。けど、いつの間にか側に来ていたアリアスがギリギリで受け止めてくれた。ついでのように自分の馬に移し、前に横座りにして支えてくれる。


「ごめんなさい。広域魔法って魔力消費凄いね」

笑ったつもりだけど、だいぶ顔色が良くないらしく渋い顔をされちゃった。

心配かけてすみません。

渡された回復薬は苦くて苦手……だけど、飲むまで許してもらえませんでした。うぇ。



魔穴の前に立った陽哉君が剣を正眼に構え、呼吸を整えていた。

ゆっくりと魔力が体の中を巡っていくのがわかる。


「トト、あんな感じ?」

何かあったら危ないからと、私たちは少し離れた場所からそれを見ていた。

そばに浮かんでいたトトを不安でギュッと抱き寄せると力が強かったらしく、グェッと変な声がでた。


「あ、ごめん」

「ええけど、気をつけてや〜」

慌てて腕の力を緩めるとトトはパタパタと飛んで私の頭の上に着地した。

「そんな心配せんで、大丈夫やって。あんなん小さいし楽勝やわ。なんならワシがやってやってもええくらいやわ」


お気楽な口調でとんでも発言。

「え?!トトも魔穴塞げるの?!」

「おん。ま、その話は後でな。兄さん、やるみたいやで?」

言われて視線を前に戻せば、陽哉君が剣を振りかざし踏み込む所だった。


走り込み、勢いのある踏み込みのままに剣を突き込む。

刀身が闇の中に半分程めり込んで止まった。

暫しの静寂の後、ピシリと何かが割れる音が聞こえた。


「「陽哉(君)!」」

私と月乃ちゃんが叫んだのは同時だった。

剣の刺さった場所を軸に闇が割れ、欠片が飛び散ったのだ。

そして中から何かドロドロとしたものが噴出し、陽哉君に絡みつこうとする。


その時、

「ウオオォォォ!!!」

陽哉君が叫びをあげ、刀身が光り輝いた。

絡みつこうとした闇の塊がその光に当たった途端、まるで灰のようにボロボロと崩れ、消えていく。

光は岩穴の中までも照らし、そして、闇が消えていった。


「………ッ」

最後の闇の欠片が消え、光輝いていた刀身も元の色に戻る。

陽哉君が、力尽きた様に膝をつき倒れこんだ。


「陽哉!」

いち早く駆け寄った月乃ちゃんがその体を抱き起こす。

「大丈夫ですか?!」

サーフィス君が声をかけつつ、回復薬を口に流し込む。

気管に入ったのか少しむせながらもなんとか飲み下した陽哉君が、もう1本口に当てるサーフィスの手を弱々しいながらも押し返した。


「大丈夫。一気に魔力を持ってかれて気が遠くなっただけだ。枯渇迄はいってないから」

そう言っても、随分と顔色が悪い。

確かに魔力自体はまだ、余裕がありそうだけど………。


「あかんよ、兄さん。魔力回路全開なんやもん。ちゃんと適切量の所で区切っとかな、下手したら全部吸い取られて空っけつやで?」

「魔力回路を区切る、の?」

頭の上からの呑気な声での新情報。

復唱すれば、どうやらコクンと頷かれた。


「魔穴は飢えたブラックホールみたいなもんやさかい、入れれば入れただけ魔力取ってかれんねん。せやから、入り口塞ぐ分だけ上手に注がな不味いんよ。下手したら身体ごと全部持ってかれんねん」

ふん、っと胸を張るトトを思わず頭を振って振り落とすとムギュッと両手で捕まえて、目の前まで持ってきた。


「そういう情報をさっさとよこしなさいって言ってんのよ。なに、後出ししてんのよ!」

「あわわわわわわ!、」

ブンブン振り回せば、柴犬もどきの自称守護獣は小さな手をパタパタ振りながら目を回している。


「あか〜ん、あかんて!吐く!吐いてまうから!!」

トトの悲鳴に、あまりの剣幕にポカンと見ていた月乃ちゃん達が慌てて止めに入ってきた。

けど、かばう必要、ないでしょ。

危うく陽哉君がひどい目にあう所だったんだから!


「トト、ちょっとゆ〜っくりお話ししましょうか?」

だから月乃ちゃん、背中で隠れてるその小動物をかしてね?

しっかりお話し(説教)するから!


「………希ちゃん、目が座ってて怖いから」









読んでくださり、ありがとうございました。

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