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聖剣使用法

よろしくお願いします。

「て訳で、ワイの名前はトト。聖剣の守護獣や。あんじょうよろしゅう」

私の腕の中でご挨拶するトトにみんな困惑顏だ。


ま、そりゃそうよね。

こう言っちゃなんだが、この世界に来て、聖霊の存在なんて初めて聞いたし、魔物や魔獣でも、こんな風に意思疎通できる存在なんて今まで居なかった。

この間、知能の高い魔物は居るらしいって話は出たけど、未確認情報っぽかったしね。


見た目可愛らしいけど明らかに獣で、だけどコミュニケーションはバッチリ。なんて、どう対応すれば良いのか迷うよね。


「とりあえず、聖剣と共に封印されてたのも確かだし、悪い物の気配もないから信用しても良いとは思うので、連れて行きたいのですが……」


借りていた剣の代わりに、手に入れたばかりの聖剣を腰に装着しながら陽哉君がさりげない援護射撃。

ついでに私もトトを抱きしめて、上目遣いに見つめてみる。

くらえ、必殺「おかあさん、コレ飼っていいでしょ?」攻撃!


「……まぁ、結界の中に存在できる時点で、悪しき物という訳でもないのでしょうし、陽哉様が連れて行くと言うのならば否はありませんが」


どことなくシブい表情ながらOKを出したサーフィス君に月乃ちゃんとハイタッチ。

陽哉君も巻き込もうとしたのに涼しい顔でスルーされた。付き合い悪いぞ、若者め。

トトもニンマリ顏でシッポをパタパタ振っている。




「ところで、これだけ魔物が多いってことは、近くに魔穴があるんですか?」

はしゃぐ私たちを余所に、陽哉君が真剣な顔で質問していた。


「南方の方に小さな物が1つ確認されてますが、どうされました?」

唐突な言葉に戸惑いながらも答えるサーフィス君に陽哉君がチラリと腰に履いた剣を見る。


「試し斬り……って言うのも変ですが、とりあえず、どんな感じか使ってみたいと思いまして」

……あ〜、うん。新しい物貰ったら使ってみたいよね。


「しかし、フォロー出来る魔術師が私だけというのは……」

サーフィス君、眉間にシワが。そのうち、跡残っちゃいそうだね。


「僕達は魔穴を塞ぐために呼び出されたんでしょう?使える力は使わないと」

……もっともらしいこと言ってるけど、単に使ってみたいだけだよね。

行き当たりばったりで大丈夫なのかな?……って、私が言うなって感じだけどさ。


早く試してみたい陽哉君と、準備万端にして危険を減らしたいサーフィス君のやりとりに、たまたま間に挟まれた形になった私と月乃ちゃんは首を左右に振る羽目になる。


「トト。聖剣で魔穴って塞げるの?」

月乃ちゃんの質問に、2人のやりとりが止まる。

だよね〜。まず、そこの確認は重要。


「出来るで〜」

みんなの視線独り占め状態の中、気負うでなくノンビリとトトが頷く。

「まずな〜聖女が剣に浄化の力を込めんねん。で、それを勇者が剣の力と合わせて増幅させて魔穴に叩き込めば完了や」


あれ?突然こっちにきたぞ?

巻き込まれた感たっぷりだけど、説明、超適当だねトト。

「……浄化の力ってどうやって込めるの?」

「………?」


思わず尋ねれば、首を傾げられた。

………知らないのね、トト。

「前の聖女はなんや祈っとったで?」

「ちなみにその後勇者は?」

「ていって魔穴に剣を突き立てとったわ」


胸張って答えられたけど……。

可愛いけど……………。

隣で月乃ちゃんが噴き出し、陽哉君が絶句してる。

ちょっと、これを守護獣につけた責任者出てこ〜〜い!!





まあ、騒いだところで300年前の人物が出てくるはずもなく、トトに貰ったらヒントを元に考えてみる。

要は、浄化の魔法を剣に付与して、それに更に魔力を上乗せして効果を上げる。

て、考えたら、聖剣って、力の増幅器みたいなものなのかな?


「そういえば、浄化の魔法って戦いの場で使ったことなかったな〜」

基本、治癒と結界のみでここまできたから。というか、浄化ってどんな場面で使えば良いのかよく分かって無かったし。消毒みたいな感じで食事時に使ったくらい?あ、後お風呂に入れない時!


「魔穴は悪しき物が集まり時空の歪みを具現化させたものと言われています。ので、浄化することで穴を埋める事が出来るのです。

しかし、浄化は天の力とされている為、我々では上手く使いこなせない。その為、大きな穴を塞ぐには、天の使いである聖女様や勇者様にお縋りするのです」


なるほどね。

単に召喚者が魔力が多いからってだけじゃ無かったのか。って……。

「その説明、最初にしようよ」

ため息つきたくなるのは私だけじゃないよね?2人も微妙な顔になってるし。


申し訳なさそうな顔で心なしか小さくなるサーフィス君に気持ちを切り替える。

「という事は、魔穴だけじゃなく、そこから出てきた魔物も浄化できるって事か?」

陽哉君の疑問にサーフィス君が頷く。


て事は。

「魔物限定だけど、私的にそれが攻撃魔法になるって事じゃん!」

おお、憧れの攻撃魔法!……ちょっとちがうか。

けど、コレでみんなが戦ってる時に足手まといっぽくならなくてすむよね。

ちょっとワクワクしてきた。


「……あまり、危ない事はしないでくださいよ?」

ため息交じりのアリアスの言葉は右から左。

早速実践あるのみ!デスよ。

え?さっきの陽哉君の行動と同じ?なんの事ですか?わかりません!




『悪しきものを払いし光をこの剣に宿せ。悪意滅却』


言霊発動で、付与魔法あっさりクリア。

本当にこの能力、使い勝手良すぎてズルなんじゃないかと思えてきた。


ついでに他の人の武器にも同じ効果をつけれないかとやってみたけど、どうも魔法効果の大きさに普通の武器では耐えられないみたいでひび割れちゃった。


良かった。

嫌な予感がして予備の剣にかけてみて。

最初、自分の愛剣差し出していたアリアスがチョット慄いてるし。

まぁ、何にでも同じ効果を付与できるなら聖剣なんてわざわざ区別つけないよね。


増幅の方も問題無かったようで。

聖堂の結界の外に集まってきていた魔物が、まるで紙屑のように蹴散らされ消滅させられてた。

陽哉君の顔がうっすら微笑んでて、真面目に怖かった。


あ、ちなみに聖剣で斬ると魔物も魔獣も光になって消えていった。

あぁ、イノシシさん。今夜のお肉が……。





「陽哉も、希ちゃんも、良いなぁ」

明日、魔穴の所に行く為に今夜は聖堂で一泊する事になった。

野宿と違い、久しぶりのベッドをゴロゴロと堪能していると、隣のベッドにいた月乃ちゃんがポツリとつぶやいた。


「しょうがないんだけど、さ。私は陽哉に無理についてきたオマケだし。

……けど、2人とも頑張ってるのに……、なんか………」


ションボリとした声に一瞬考えて、月乃ちゃんのベットへ移動し、縁に腰かけた。

顔を見られたくないのかうつ伏せになっている月乃ちゃんの頭をそっと撫でた。


「あのね。月乃ちゃんが居てくれるから陽哉君は頑張れるんだよ?」

柔らかな髪を堪能しながら、できるだけ静かな声でそっと囁く。

「私だって、そう。1人ならもっと投げやりになってたと思う。どんな時でも笑ってくれる月乃ちゃんに、私も陽哉君も何時だって助けられてる」


落ち込みそうな時にも、苦しい時にも、頑張って笑顔を絶やさない月乃ちゃんの前向きさに、基本ネガティヴ思考な私はどれだけ助けられただろう。


そして、それは私や陽哉君だけに留まらず、他の騎士達にも言える事だった。

身体の傷は魔法で癒えても、心の傷は治す事が出来ない。

そんな傷を抱える人に敏感に反応して、月乃ちゃんは時にそっと、時に賑やかに寄り添っていた。


彼女の周りに笑顔が絶えないのは、そんな月乃ちゃんの本質をみんなが気づいているからだと思う。

「陽哉君が言ってたよ?うちの親達は名前のつけ方反対に間違えたんだって。月乃ちゃんこそ、お日様みたいだって」


うつ伏せたままの月乃ちゃんの肩が小さく震えている。

漏れる嗚咽に気づかないふりをして、私は、ゆったりと髪を撫で続けた。


不意に月乃ちゃんが動き、私の膝に頭を乗せ腰に手を回してきた。

縋り付くようにしてお腹に顔を擦り付けてくる月乃ちゃんに少し笑って、頭なでなでを継続する。


「へへ……希ちゃん、お母さんみたい」

「お母さんですから」

まだ少し涙声に、笑って答えると「そっかぁ。そうだった」と小さな声が返ってきた。


「………明日には元気になるから。もう少し………甘えさせて」

答える代わりに、ナデナデを背中トントンに切り替えると、膝の上で少し笑い声が漏れた。


そうして、泣き疲れた月乃ちゃんが眠るまで、私は静かに月乃ちゃんの背中を叩き続けた。




明日は元気になぁれ。

























読んでくださり、ありがとうございました。

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