聖剣を取りに行こう②
新キャラ登場。
もふもふは正義だと思う。
そして、エセ関西弁はフィーリングのみで書いてます。間違いスルーの方向で。不快に感じられた方がいたら申し訳ありません。
その場に、重苦しい沈黙がたちこめていた。
なんとなく言葉も無いまま、3人で顔を見合わせる。
「……どうする?」
そっと、小さな声。
最初に口を開いたのは月乃ちゃんだった。
「……どうするって言っても、な」
めずらしく、歯切れの悪い陽哉君。
残されていた300年前の言葉は、確実に私達を惑乱していた。
「……とりあえず、中に入ってみよ」
私がそう言えば、2人分の戸惑った様な視線。
「ここまで来て、手ぶらでは戻れないし、とりあえず、中に入って聖剣とやらを確認。厄介そうなものなら、そのまま放置でも、良いんじゃ無いかな?」
分からないものを放っておくと、どんどん怖いものに変わっていくんだと、窓に映る何かの影に怯えて泣いた私に教えてくれたのは祖父だった。
その後、2人で確かめに行った何かの影は、風に飛ばされて木に引っかかったビニール袋で、安心して泣き笑いしたのは良い思い出。
知らないことは、怖いこと。
人間は考える生き物で、些細な不安は放っておけばどんどん膨らみ太刀打ちできない化物になる。
その前に、叩かないと。
閉ざされた扉。
これといって扉を開けるヒントはなかったけど、ここまでの問題傾向を考えれば、ふたりはひたすら地球の人間であることに拘っていた。
なら、開ける言葉はやっぱりこれでしょ。
『開け、ゴマ!』
石でできた扉がズズズッとスライドしていく。
「本当にこれで開いた」なんて、あきれたような声は聞こえない、聞こえない。
1度大きく深呼吸して気合を入れてから、私はその扉をくぐった。
一瞬の間をおいて、部屋に灯りがつく。
300年前のシステムが今だ正常に反応していることに感動を覚えつつ、ぐるりと辺りを見回した。
そこは、6畳ほどの小さな部屋だった。
壁はツルツルとしていて白く、岩を削って磨いたようになっているみたいで、そういう魔法があるのかな?って感じ。
そして、部屋の中央の床にそれは刺さっていた。
無造作に突き立てたかのように少し斜めに傾いて、刀身の3/4程が床に埋まっている。
「これが聖剣?」
「………何の変哲もない普通の剣だな」
それは、本当に何の装飾もないシンプルな剣だった。見習いの剣士が最初に与えられる剣と言えば、想像もつきやすいだろうか?
少し幅広の両刃の剣をグルリと3人で取り囲む。
「何も、説明が無い、ねぇ」
今までみたいに何かしらの指示が残っていると思ったんだけど、なぁ?
部屋の中には、その剣の他に見事に何も無かった。
「お約束としては、資格を持つものだけが抜ける、とかだろうけど………」
「じゃ、試しに」
月乃ちゃんが無造作に剣に手を伸ばすのを、慌てて陽哉君が止める。
「何か罠があったらどうすんだよ、バカ!」
「え〜、今までそんなの無かったじゃん」
「今までは正解の道を辿ってたからだろ?!
そもそも、今まで何も無かったのだって油断させる罠かもしれ無いんだぞ?」
「え〜、そんな性格悪いかなぁ?」
突如始まった双子の言い合いに口を挟む隙が無く、思わず見守ってしまう。
どんどんヒートアップしていく口論はどんどん本筋からそれ、普段の生活態度からお互いの性格にまで飛び火している。
「なんか……2人ともストレスでも溜まってたのかなぁ〜」
なんと無く、剣の側に座り込みぼんやりと呟けば「せやなぁ〜」と、気の抜けた相槌が返ってきた。
「まぁ、考えてみれば2人とも思春期真っ只中の若者だもんね〜。突然の環境変化はストレスたまるよね〜」
「いや、あんたも子供やん」
「そ〜だけどさぁ………………って、誰」
ぼぅっとしながら会話してたけど、ここには3人しかいないはずで、そのうち2人は目下目の前で喧嘩中。
一人残された私が会話なんて出来るはず無い、のに。
「うわ、おっそ!」
呆れたような声の後、すぐ側で笑い転げてる生き物を見つける。
「……犬?」
真っ黒いもふもふの毛玉。
見た目は黒柴の子供っぽいけど、背中になぜか小さな翼が生えていた。
「いや、犬や無いし。しっつれいな嬢ちゃんやな」
おぉ、犬もどきが犬扱いにお怒りだ。
まぁ、喋るし、羽生えてるし、純粋な犬では無いんだろうけど。
じゃ、何?
心の声が聞こえたように、黒い柴犬もどきはパタパタと私の目の前まで飛んでくるとムンっと空中で胸を張ってみせた。
「ワイはこの剣の守護獣や。前の持ち主の兄さんに頼まれてん」
「……守護獣?」
「せや。ようやく後継者が来たと思ったら、剣に触りもせずにワイワイ騒ぎ出すから、どないしょかと思ったで」
やれやれと言いたげに首を振る自称守護獣の犬もどきをしげしげと眺める。
黒いポヤポヤした毛並みに体のサイズな割に太い手足。クリクリの目の上には茶色い麻呂眉。
うん。どう見ても黒柴の仔犬。
背中の羽は邪魔だけど。何故かエセ関西弁だけど、とりあえず。
「ねぇ、2人とも。剣について詳しそうなのが居たよ〜」
ガシッと目の前に浮いている守護獣とやらを捕まえると、未だ口喧嘩をしている2人に声をかけた。
あぁ、もふもふの感触が気持ち良い。
自称守護獣はトトと名乗った。
300年前、勇者のパーティに魔獣に食べられそうになっていた所を助けられた精霊だそうだ。
この姿は聖女から貰ったもので、言葉は勇者の真似をしたらしい。てか、関西人だったの?前の勇者?
で、この剣を封印するときに、もし取りに来る者がいたらサポートしてあげてほしいと頼まれ、一緒に眠りについたそう。
お疲れ様です。
「で、兄さん達、これ抜ける?」
ポワポワの前足で剣をポンポンと叩く姿はぬいぐるみ劇のようでかなりかわいい。
「………ただ抜けば良いのか?」
「おん。そんとき魔力流してやればより効果的。そんで認められれば、兄さんの使いやすい形に変化するはずやから」
かる〜く答えたけど、変化する剣ってなんだろう?なんかすごくない?
陽哉君が深呼吸した後、剣に手をかけた。
ポゥと陽哉君の手に光が灯り、それが剣を包み込んでいく。
そして、なんの抵抗もなくスッと剣が抜けた瞬間、辺りを埋め尽くすほどの眩しい光を放った。
思わず閉じた目を再び開いたとき、刀は確かに変化していた。
鈍い銀色の両刃の剣は、黒鉄の反りがキツイ日本刀へ変わり、握りは滑り止めのための黒皮と紅い組紐が組み合わさったものが巻かれている。鍔は凝った細工の掘られた黒鉄の物が出現していた。
次いで、空に真っ直ぐに差し出された陽哉君の手に刀の鞘が出現した。シンプルな黒の漆塗りのそれは、よく見れば龍の意匠の彫り物が成された凝った造りのものだった。
まるで、そうある事が必然と言うように陽哉君は刀を鞘に収めた。
カチャン、と鍔鳴りの後、静寂がもどる。
私は、ただ黙ってその刀のに見惚れた。
「綺麗、だね」
思わず呟くと、双子が複雑そうな表情で顔を見合わす。
「どうしたの?」
「う……ん。私は小さい頃チラッと見ただけだから、ハッキリとは言え無いんだけど……」
珍しく歯切れが悪い月乃ちゃんが困ったような顔で陽哉君をみる。
「我が家に伝わる家宝の剣にソックリなんだよ」
苦虫を噛み潰したような陽哉君の様子に首を傾げる。
それが、なんでそんなに嫌なんだろう?
「変わった形になったんやなぁ?その剣が兄さんの1番手になじむモンなんやろ。ま、認められたみたいで良かったやん」
私の腕に抱かれたままだったトトがしたり顔で頷いている。
「…………まぁ、確かに手に馴染むけど。向こうで毎日の様に振っていたものだしな」
溜め息をひとつ。
そこにいろいろな思いを封じ込めた様に少し笑うと、陽哉君は、その黒い刀をギュッと抱きしめた。
「また、よろしくな。黒龍」
なんの妨害もなく地上に戻ってきた私達を心配顔のサーフィス君達が迎えてくれた。
なんでも、直ぐに私達の後を追いかけようとしたのだが、光の壁に阻まれて一歩も中に入る事が出来なかったらしい。
私達が通路から出た途端、再び壁が動き出し空間を塞いでいった。
そして、まるで何もなかった様にヒビひとつ残さず通路が閉じられた瞬間、大理石だと思っていた台座がサラサラと砂の様にくずれ、消えていった。
どうやら魔法で作られていたものだったらしい。
きっと、あのふざけた選択肢のある通路も部屋も役目を終えて消えてしまったんだろう。
それは、推測ではなく確信だった。
そして、その事に少し寂しさを感じた。
300年前の勇者と聖女はどんな人で、この世界で何を思い、どこに行ってしまったのだろう。
片鱗に触れ、初めて強く知りたいと思った。
時の流れの中に消えていった前拉致被害者さん。
あなた達は幸せでしたか?
読んでくださり、ありがとうございました。