聖剣を取りに行こう①
お久しぶりですみません。
よろしくお願いします。
その場所に近づくにつれて、魔獣の数は増えていった。
更に魔獣よりも知能・攻撃力共に高い魔物も姿を見せるようになって来た。
「魔物も聖剣を手に入れられたらマズイって思ってたりするのかな?」
2日目の夜。
食後のお茶を飲みながら、月乃ちゃんがつぶやいた。
「どうでしょう。私は会ったことはありませんが、人型の魔物も居るらしいので、そういうタイプの者なら知能も高そうですし、妨害に動くということもあるかもしれませんね」
野営地の結界が緩んでいないか確認作業をしてきたサーフィス君が、隣に座りながら話に加わってくる。
サーフィス君は、王様にはお爺様が付いているから大丈夫と1日遅れで合流して来た。
コッソリ荷物に転移魔法陣の魔石を紛れ込ませてたらしい。
何してんだか。
だけど、攻守兼ね備えた魔術師って味方に居るととっても心強いんだなぁって、サーフィス君見てて思った。
虫も殺せなさそうな優男なのに、バンバン容赦無く水の攻撃魔法を放っていた。
光魔法にも攻撃魔法があれば良いのに……。
せいぜい目くらましぐらいしか無いらしい。残念。
「それか、本能的に危険を察知して排除しようと集まったかですね。そっちの方があり得そうですが」
アリアスの言葉に首を傾げる。
「今までの敵は連携が取れてなかったけど、もし、その人型の魔物が現れて指揮を取れば、厄介なことになり得るって事か?」
陽哉君の眉間にシワが。
そんな表情ばっかりしてたら跡が残りそうだなぁ。
「まぁ、前例はありませんけどね。個体の強弱はありますが、魔物や魔獣はただ魔穴より溢れ出るもので、基本は破壊するのみ、です。少なくとも、これまではそういうものしかいませんでした」
「……つまり、これからはどうなるかは分からないから、用心するに越したことは無いって事だね」
ニコニコ笑顔の月乃ちゃんが締めくくる。
そこは、笑顔で言っちゃダメなところなんじゃ無いかなぁ?
お茶を機械的に口へと運びながらぼんやり考える。
ダメだ。眠くて考えがまとまら無いなぁ。
何かが引っかかるんだけど……。
どうも、子供の体に意識が引きずられるのか、暗くなると眠くなる。
ほとんどの時間、馬車に乗ってるか馬に乗ってるかだけだったんだけど、慣れないと乗馬って体力消耗するのね。
そういえば、昔乗馬の動きのダイエットマシーンが流行ったっけ………。
うぅ……。みんなの声がドンドン遠く聞こえて、意味も理解できなくなってきた。
もう無理です。おやすみなさい。ぐぅ。
目が覚めれば、テントで毛布に包まれてた。
誰かは知らないけど、お世話かけました。
隣にいる月乃ちゃんを起こさないように軽く身支度を整えてから、のそのそとテントから這い出す。
「おはようございます」
「おはようございます、聖女様」
中央に設けられた焚き火では、すでに朝の準備が始まっていた。
「疲れは取れましたか?」
スッと現れたアリアスがさりげなくエスコートしてくれる。
椅子代わりの丸木に座ると、熱いお茶が手渡された。
そして、昨夜、私が寝てしまった後に決まった今日の予定を教えてくれる。
後、半日ほど行けば、旧王都へ着くのだが、中は魔物や魔獣がかなりの数集まっているそうだ。
そこで、旧王都に入る直前に馬車を乗り捨て、馬での移動となる。
聖剣の封印のある聖堂は強い結界が張られているため魔物は中に入れないので、馬上から蹴散らしながら一気に駆け込もう、という作戦だった。
作戦っていうか、すごい力技だね。
ちなみに、月乃ちゃんは馬車を引いていた馬に単独で、私はアリアスが一緒に乗せてくれるそう。
アリアスの馬が1番力持ちの為、権利を勝ち取ったのだと嬉しそうに言われても………、私はどんなリアクションするのが正解なんだろう?
とりあえず、「よろしくお願いします」と頭を下げておいた。
遠く木々の間に旧王都の城壁が見え隠れしてきた。
と、言っても、長い年月と今回集まっている魔物達のせいでボロボロで、本来の役目は果たせてい無いらしい。
「ま、今回はそれが役に立ったけどねぇ」
馬車の中でせっせと身支度を整えながら月乃ちゃんが笑う。
簡易の防具らしいけど、皮の胸当てとか小手とかカッコイイ。
矢筒を装備して、最後に小型の弓を点検している姿は凛々しく、戦の女神もかくやという感じ。
私?
こんなチビッコに簡易でも防具なんてつけさせたら、かえって動けなくなるだろうと何も無しですが、何か?
一応、羽織ってるローブに守護の魔法はかかってるそうだけど……。
自分で結界張れるから良いんだもん!
………って、あれ?
突撃、旧王都!
は、恙無く進んでます。
のんびり馬を歩かせて。
「反則だろ、これ」
呻くような陽哉君の声に、同意するような騎士さん達の苦笑。
その私達を囲むようにたくさんの魔物達がコッチを見ているけど、一定距離以上は近寄れ無い状況。
どうなってるかというと、固まって進んでるみんなの周りを光の結界で覆っちゃったんだよね。私を中心にグルっとね。
で、何度か結界に弾かれた魔物さん達は手が出せず、恨めしそうに私達を睨みつけてるしかできないっと。
痛い思いすれば、一応学習する知力はあったらしい。
まぁ、全部で20人くらいしか居ないから出来た荒技だけどね。
「これは、希様だから出来る手段ですよね」
こちらも呆れ顔のサーフィス君が、周りを見回しつつ苦笑する。
うん。
結界って流石に殺気までは遮断してくれないから、なかなか居心地は良くないよね。
「おかげで、怪我の心配も無いんだし、チート最強!だね〜」
隣で馬を歩かせながら、月乃ちゃんが朗らかに笑う。
この状況で笑える月乃ちゃんは肝が据わってて素敵。
なんとなく、見世物になった気持ちで進むこと30分。
大聖堂が見えてきた。
街の中央にあるそこは結界の為か目立った劣化もなく、滅びた街の中で一種異彩を放っている。
特に結界同士の反発もなく 大聖堂の結界へと呑み込まれて中にすすみ、天井の高い大広間のような所で足を止めた。
「もう、結界を解いてくださって大丈夫ですよ」
サーフィス君に促され結界を解くと、改めて周りを見回した。
入ってきた大きなとびらと対局な位置に設けられた祭壇にはこの世界を作ったとされる女神の像が配置されている。
人が、数百は入りそうなこの広い空間から察するに、昔は椅子でも並べられ、多くの人が祈りを捧げる場所だったのだろう。
今は撤去され見る影も無いが、壁の松明を指していた場所のレリーフや、高い天井を飾るフラスコ画の豪華さからは過去の栄華が垣間見えた。
「ふわぁ〜。廃墟の中にあるのがもったい無いねぇ」
天井を見上げて月乃ちゃんがつぶやく。
うん。同感。
多分、創世の神話を描いているであろう天井画はかなり見事だった。
首が痛くなるくらい上を見上げて見とれていたら、横から吹き出す声がした。
「2人とも、口開いてる。馬鹿面になってるぞ」
慌てて顔の位置を戻せば、笑っている陽哉君に微妙な顔の月乃ちゃん。
たぶん、私も月乃ちゃんと同じような顔になってるんだろうな……。
いや、しかし。
真実だとしても、女の子に向かって馬鹿面はないんじゃないかぁ。
むぅっと唇を尖らして不満を訴えると、後ろからアリアスに頭ぽんぽんされた。
ウゥ、子供扱い。
まぁ、やってる事は子供か。
気を取り直して、馬から降ろしてもらうと祭壇の方へ足を向けてみた。
女神の像の前に、大理石で作られた1×2メートル位の台座があった。
何気なく見下ろし、刻まれた言葉に絶句する。
「これ……」
「過去の勇者様が施した封印を解く鍵です。もっとも、勇者様の国の言葉で記されているため、私たちには読めないのですが」
スッと後ろに立ったサーフィス君が教えてくれたけど、………これ、読めない方が正解だと思う。
「なに?どしたの?………あ、日本語?」
馬を隅につないでやって来た月乃ちゃんと陽哉君が私の肩越しに覗き込み、そして固まった。
そうなるよね。コレは……。
台座の上、黒々としたプレートがはめ込まれたそこには、随分と達筆な字が刻まれていた。
《壱たす参 伍ひく壱 八わる弐 四かける壱 答えを刻めば道は開く》
そして黒いプレートの一角だけ四角く白いスペースがあった。
ここに答えを書けってことなんだろうな。
言葉さえ読めれば、子供にだって余裕で解けるような問題。
だけど、その言葉を読めるのは、同郷の者だけ。この世界には存在しない文字は、この国の人達には決して読めない。
暗号としては良い考えだと思うけど、これ。
「……日本人以外が勇者として呼ばれたら、どうするつもりだったんだ、こいつ」
ため息交じりの陽哉君の声。
……だよね〜。
「まぁ、結果オーライって事で、答え書いてよ、陽哉」
月乃ちゃんに促され、少し迷った後陽哉君が指先に魔力を灯し、白いスペースに文字を刻んだ。
《四》という数が刻まれた途端、黒いプレート全体が淡い光を放ちはじめる。
なにが起こるのかと台座から一歩後ずさり様子を伺えば、女神像の足元の彫刻が組み木細工のように互い違いに動き出し、遂には人が1人立って進めるほどの空間が口を開けた。
「封印の扉が開いた」
誰かが感動したようにつぶやく声がした。
けど、黒いプレートの上にいつの間にか現れた新たな文字に私達はため息を飲み込んだ。
《新たな拉致被害者さん、いらっしゃい。君にとってこの国はどんな場所かな?ここに来たって事は、聖剣が必要な程の無茶振りされたんだろうね。お気の毒様。君に恨みは無いし同士として同情するよ。剣は、地下3階に安置してるんで頑張って取ってきてね》
うん。
前任者はかなり愉快な性格してたみたいだって事は分かった。
そして、この人が日本語で書いたのは、絶対わざとだ。
悪意は無いけど悪気はあるよね。
なんとなく3人で顔を見合わせると、無言のまま地下に続くであろう入り口を潜る。
「みなさん、どんな危険があるかも分からないのに、そんな無造作に!」
慌てて止めようとするサーフィス君にヒラヒラと手を振る。
「大丈夫だ。行ってくる」
代表して陽哉君が答えるけど、まぁ、気持ちもわかるけど、そんなに嫌そうな声出さないでも良いのに。
そんな、優しい事を考えた私を殴りたい。
こんな前任者、呆れられて当然だ。
何か言いたそうなサーフィス君達を振り切って先に進んだ私達の前に現れたのは。
2つに分かれた道の前に見覚えのあるプレート。
《シャ○ルに進め》
そして、それぞれの道の上部にデカデカと某ブランドマークが。(あ、ちなみにもう一つの道の方にはプ○ダのマークが書かれてた)
「まぁ、ブランド詳しくなくてもコレくらいは分かるよね〜」
○ャネルマークの道を進みながら、月乃ちゃんがケラケラと笑っている。
えぇ、全くその通りなんですけどね。
なんだろう、この半端ない脱力感。
私達、結構な世界の危機に直面してたはずじゃなかったっけ?
そんな事を考えてたら、次の分かれ道がきた。
《第2問 塞翁が○ ○の耳に念仏 ○に入る動物はどっち?》
「分かりやすいのか、単にふざけてるのか……。どっちだ?」
呟く陽哉君の声も疲れてる。
通路の上にはそれぞれ馬と鹿。
うん。動物のチョイスに悪意が感じられる。しかも、無駄に絵が上手いし。
その後も続くくだらない2択クイズ。
コレ、考えるのだんだん面倒になってきて無いかな?
だって、3階層に入ってからなんて、なぞなぞだよ?しかも《パンはパンでも食べられ無いパンは?》ってレベルの…。
幼稚園かよ、と。小一時間説教したい。
やるなら責任持って最期までやり切れよと。
結果、体力よりも精神力をガリガリと削られながら、どうやら最期の扉に辿り着いたみたいだ。
《お疲れ様。よく、ここまでたどり着きました。彼のおふざけに付き合うのは大変だったと思います。本当にお疲れ様です》
あ、なんか文字が違う。しかも、労われた。
繰り返されるお疲れ様になんかこの人の苦労が透けて見える。
なんかほっとして肩の力が抜けた。だけど。
《此の先にあなた方の探し物はあります。が、ここで最期に問います。
コレは、必要な力ですか?
強すぎる力は時に人を狂わせます。それを知った私達はココにこの力を封印する事を決めました。
私達が亡き後、必ず争いの元になるであろう力を。
私達と同じ場所から来たあなた達が、どうぞ正しい選択と勇気ある行動が出来ますように》
そうして続いた文字は問いというよりは手紙の様で、切々と訴える言葉は、なぜか悲哀に満ちている様に感じられた。
300年前。
彼女達に何が起こったのか、詳しい記録は残っていなかった。
中世レベルのこの世界を考えれば、300年という時は、記録の類が失われてしまうのは当然かと思ったけど、もしかしたら、あえて消された記録なのでは無いかと、この『手紙』を読んで感じた。
閉ざされた扉の前、私達はなんとなく立ち竦んだ。
この世界に呼び出されてから、意識的に考え無い様にしていた事に光を当てられた気分だった。
聞かされてきた情報は本当に正しいものなのか?
答えをくれるものはどこにも無かった。
読んでくださり、ありがとうございました。