無色を宿す者
カヤはそんなこと初めて知った。
ロクショウは更に語った。
もちろん、誰でも宝玉の力を引き出せる訳ではない。宝玉が認めなかった者が何度祝詞を唱えようと、何も起こらない上に、宝玉は次第に白濁し、最後には割れてしまう。
宿り主を失った宝玉は、認めた者の手にあっても宿っていた時ほどの力は見せない。
たとえば、宝玉を宿したものが祝詞を唱えれば、何もない場所に火柱を噴き上げることもできよう。
だが、宿り主ではない者の手であれば、枯れ木を燃え上がらせることも出来まい。せいぜい火を着けるくらいだろう。
ところがな、宿り主を失った宝玉に、宿っていた時と同じか、それ以上の力を引き出す方法がある。
それが、無色を宿す者だ。
無色を宿す者が宝玉を身に付ければ、宝玉は再び力を取り戻すし、その宝玉を手にした者は宿り主と同等の力を振るう事ができる、と伝承にはあるのだ。
どうゆうことなのか、と思っていたのだがな。
貴方を見て得心がいったわい。
貴方には全く自覚は無いのだろうが、貴方は常に力を振りまいている。
心臓が勝手に鼓動を刻むように、貴方から自然に湧き出している力を宝玉が受け取れば、宿り主を失った宝玉も力を取り戻せるだろうのう。
それに、力を受け取るのは宿り主を失った宝玉だけではない。
宝玉持ちに宿っている宝玉も、貴方の力を受け取ってその力を増すだろう。
それはガンヒが証明している。そうだな?
ええ、とガンヒが肯定したので、カヤは驚いた。
いつだったか、雨乞いを頼まれた事があったでしょう、とガンヒが説明を始めた。
宝玉の振るう力には向き不向きがありまして。
それは、宿り主の得手不得手と宝玉の気質、両方に左右されるものです。
まぁなんというか、私は雨乞いとか、治水というのはどうにも苦手だったのです。
だから祈祷を引き受けたものの、一筋縄ではいかないと思っていました。
ところが祝詞を読み上げ始めた途端に、雨が降り出したのです。こんなことは初めてでした。
カヤが居なかったら、雨を降らすまでにおそらく2日か3日は掛かりましたよ。
その雨乞いの時の事を、カヤは確かに覚えている。
そういえば、あの時のガンヒ様は祈祷が大成功だったというのに、あまり嬉しそうではなかった。
どちらかというと戸惑っている感じがしたのは、こういうことだったんだ。
それでは。と、ロクショウが胸の隠しから何かを取りだした。
それは布に包まれた宝玉だった。灰色がかった色身の薄緑色で、銀の金具と銀鎖が付いている。柳の枝葉を模した細工の鎖といい、古びてはいるものの絹と思しき包み布といい、明らかに高価な物だった。カヤは嫌な予感がした。
「それは我が母の形見なのだが、今日一日カヤ殿に預けよう。」
ロクショウ様が恐ろしい事を言い出した。
「身に付けておいて、夕刻に見せに来ておくれ。
色が変わっていれば、無色を宿す者だという証明になるだろう。」
驚きのあまり声も出ないでいるカヤに、ガンヒが首飾りを掛けてくれた。