お坊様
お坊様はまるまる一呼吸の間、何も言わなかった。息を呑む音だけがして、一呼吸の間、何も言わずにカヤを見ていて、そして何事も無かったように寿ぎを再開させた。
カヤには目が合ったように感じられたが、すぐに勘違いだと気づく。
お坊様はフキを見ていたのだ。どうしてだろう。
そう思ったのはカヤだけではない。辺りが異様な雰囲気になった時、お坊様は声を張り上げた。
こちらの花嫁は稀に見る祝福を宿しておられる。
彼女が二つ身になった後、町はより繁栄するだろう。
わっと、空気が湧いて、そこから先はお祭り騒ぎだった。
宝玉持ちの花嫁に予言が下されたのだ。それも吉兆が。結婚式で。盛り上がらないわけがない。
カヤだって、叫びだしたいような気持だった。
実際叫んでいたかもしれない。
お坊様に腕を掴まれて、輪の中から連れ出されなければ。
お坊様がカヤを連れ出した事に、誰も気が付かないようだった。
みんな花嫁と花婿を揉みくちゃにするのに忙しかったのだ。
お坊様は屋敷の影、人目につかないところまでカヤを引っ張っていった。
どんなに放して下さいと言ったところで無駄だったし、怖い顔で睨みつけるのでカヤはすっかり震え上がってしまった。
「貴方は、いえ、貴方様は」
最初に、お坊様は良く分からない事を云った。
「ムシキをヤドすお方。なんてことだ。」
次に、信じられない事を言った。
「どうか私と共に、聖地へ来て下さい。」