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結婚式


カヤはここの所ずっと忙しく、今朝やっとひと息ついた所だった。

最もそれはカヤだけじゃなく、村の女衆みんながそうだ。やっぱり結婚式という物は、料理だの衣装だの会場の支度だので、始まるまでは女が一番忙しい。

今日は朝から雲ひとつない良い天気で、結婚式にはもってこいだと思うけど、それに気が付いたのは花嫁行列を見送ってからだった。これから花嫁行列は村中の家を巡り歩いて、街にある花婿の家に向かう。もちろん町でも道という道を歩いて回るから、花婿と会えるのは昼すぎだろう。

村の女衆がゆっくり食事をしてから着飾って出かけても、十分に間に会う。

総出で太鼓やら打ち金やら鳴子やらを打ち鳴らして見送った行列が見えなくなって、やれやれとひと息ついて、さあ腹ごしらえと御馳走を食べ始めた。

話題は自然と、お嬢様の事になる。

フキお嬢様は村で唯一の『宝玉持ち』だ。その身体の中心、へそと胸の間辺りには、親指の爪程の大きさの宝玉が覗いていた。子供の頃にはずいぶん不思議に思ったものだ。

『宝玉持ち』がそうで有るように、お嬢様も『力有るもの』だった。それも飛び切りの。

お嬢様が寿げば、猛夏でも川は枯れず、地面を掘れば水が噴き出した。春が来れば雪はすぐに溶けるのに、その暖かさで雪崩が起きた事は無い。

お嬢様の凄い所は、その事を鼻にかけて偉そうになさった事は一度も無いってことだ。

本当はお嫁に行ったりはせず、立派な男性、もしかしたら『宝玉持ち』の男の方とご結婚されて、女領主になっていたかもしれない。でも、お嬢様を見染めたのは、領主さまの主家筋に当たる家の後継息子だと云う事だから、婿に来てもらうなんて無理だった。

幸い、お嬢様もお相手の方を大層お慕いしている様子だから、良い結婚なのだろうと思う。

良く熟れて夕日の色になったリザの実を齧った時に、涙が出てきた。お嬢様はリザの実が好きで、毎年沢山ジャムを作るのだけど、私は知っている。本当はお嬢様、いやフキは生で食べるのが好きなのだ。

皮を剥いて種を取るのが面倒くさいって理由で。わざわざ毎年作ってくれたのは、私の大好物がリザの実の皮入りのジャムだからだ。


「これ、この子は今になって泣き出して」

「あらあら、カヤもやっぱり寂しいんだねぇ」

「姉妹みたいなもんなんだから当たり前じゃろ」


照れくさくなってしまったカヤは、そのまま部屋を抜け出した。

顔を洗って、花婿さんの家へ行って、フキを待たなくちゃ。


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