海賊船との接触
西暦2025年 日本標準時3月15日
最初に異常を感知したのは、いつもよりも厳重な警戒をしていた海上自衛隊レーダーサイトだった。衛星が使えないため、感知できる範囲が狭い。しかしそれでも対馬に近付いている不審船を発見するには十分だった。
その報告は防衛省を通じ、海上保安庁の知るところとなった。
「船長!対馬防備隊より入電です!。領海に不審船が接近中!」
情報表示端末には対馬周囲の海に不審船が少しずつ近づいてくるのが表示されていた。
「了解だ。海上保安庁巡視船あたご、これより臨検に向かう」
言ったのは厳つい顔をしている男性。船長の森口だ。
海上保安庁では海上自衛隊とは違い、艦長とは呼称しない。
パトロール中だった海上保安庁巡視船『あたご』はすぐに対馬海域に向ってくる不審船の方に舵を取った。
一方で、森口は疑問を覚えた。
(船の進む速度があまりにも遅くないか?救助は要請されていないようだが………)
元々、領海侵犯を警戒していた海上保安庁の巡視船あたごは、すぐに不審船に近付いていった。
そして、不審船が領海に侵入していくと同時にその正体が明らかになっていくと同時に、巡視船内では目を見張る者が続出する。当然、森口も自身の眼を疑っていた。
「何だ、あの船は!?」
「どういうことだ?木造船だぞ?」
「進む速度が遅すぎるとは思ったがエンジンもねぇのか?」
「……やべぇ、帆船だ……あんなので進むのか……?」
森口は驚きを隠すのに努力を要した。
「だまれ!」
そう叫んで、海の警察官たちに冷静になるよう心の中で呼びかけた。
森口はすぐに指示した。
『―――――――――こちらは日本国海上保安庁である。貴船には日本国領海侵犯の疑いがある。速やかに領海外へ進路を変更し、日本国領海より退去しなさい』
拡張された声が辺りに響く。
穏やかな海の上では、海賊船とその斜め前方に位置していた巡視船が睨み合っている。
海賊船が前進するにつれ、緊迫する声。
『―――――――――This is Japan Coast Guard. You have a suspicion of the invasion of Japanese territorial sea. Change the course to the out of territorial sea immediately and leave from territorial sea of Japan.』
日本語の英語の他、中国語でも警告を続ける。
『―――――――――这是日本海上保安厅。你有入侵日本领海的嫌疑。立即改变路线到了领海。从离开日本领海。―――—――――이쪽은 일본 해상 보안청이다. 귀선은 일본 영해 침입 혐의가있다. 즉시 영해 밖으로 진로를 변경하고 일본 영해에서 퇴각하십시오』
韓国語や手旗信号などでも三回以上警告した。しかし不審船は停止しなかったため、威嚇射撃した。