海賊船の進路
クハルナ王国歴136年 3月15日
「お頭、異常でッせ!」
「なんじゃ!」
訛りの強いクハルナ語を喋る薄汚い連中。それらは海賊と呼ばれた。
クハルナ王国領海の近くで商船を襲撃して、金目の物を奪って生計を立てる犯罪者グループだった。
「それが……見知らぬ陸地があるんじゃ!」
「バカいうんじゃねぇぞ、このうすノロがっ!」
他と比べれば豪華な船室。木の香りに混じる濃厚な酒の匂い。
がたいのデカい海賊の頭目は汚い唾を飛ばして、凶悪な顔を顰めながら部下を睨む。
報告してきた部下はそれにひっ、と怯んだ。
「嘘じぇありめせん、お頭!ホントに陸地があるんでっせ!」
「この辺は未確認海域じゃぞっ!陸地なんて、そんな上等な物があるわけねぇだろうがっ!てめぇは死にてぇのかっ!?」
「お、お頭、お待ちくだせぇ!おらはただ、他の奴らがそう言ってけぇといわれただけでっせ、切るなら他の奴にしてくだせぇ!」
剣の柄を掴みながら眼光を光らせる頭目に部下は焦る。
カットラスという剣で、刃が湾曲している。サーベルとは違い、刃が湾曲している側が鋭利になっており、山刀の様に短い。
「……良いじゃろう。俺も行って異常とやらを見てこよう」
頭目は剣の柄から手を離し、部下に顎で出口を指し示す。案内しろ、と言いたいらしい。部下はもちろんです、とばかりに深く礼をしてから頭目の前を歩く。頭目はそれに続く。
部屋を出ると、外に近い通路があった。頭目はズカズカと歩き、木造船の甲板に姿を現した。
「望遠鏡を出せっ、ヤロウがッ!」
「へいっ、お頭!」
すぐに渡された大型の望遠鏡。海上を住居とする海賊たちには必須の道具だ。
海賊の頭目は一回覗き込んだ後、己の目を疑うかのようにまたもう一回覗いた。
「な!?なぜ、陸地があるんだっ!?」
有り得ねぇ!
頭目は驚きを隠せなかった。
ここは未確認海域であり、クハルナ王国より東の海には何の陸地もないはず……
突如出現した……!
「そんなことはどうでも良いっ!すぐにあそこに向かえっ!宝があるぞっ!」
頭目は興奮した口調で指で指した。ギラギラした目を向け、下品な笑い声を上げた。
……宝があるかもしれん!
いや、こんな秘境だ。きっとある!
かくして、海賊船は陸地―――――対馬に進路を取った。