対馬警備隊
西暦2025年 3月15日
対馬は、歴史上、大陸と本国との交流の中継点として栄えてきた。そして、同時に日本の最前線としての重要な軍事的役割を果たしてきた。現在における最重要警戒地域でもある。
しかし陸上自衛隊の対馬警備隊、通称ヤマネコ部隊の規模は一個中隊程度。海上自衛隊の対馬防備隊を合わせても1000人もいかない。そのため、住人たちも度々政府に自衛隊の強化を要求していた。
現在の規模では明らかに戦力が足りていない。元々ゲリラ戦を想定しているとは言え、あまりに少ない戦力だ。
宮間亮平二等陸尉はそんな対馬警備隊内で小隊長を務めていた。レンジャー資格も持っている精鋭だった。
「異常なし!」
自分に敬礼してくる隊員たちに返礼して言う。
「ご苦労。それにしても……」
「何でしょうか、宮間二尉?」
「不思議だな」
「えっ、何がです?」
防衛大学校を幾年か前に出た宮間に部下の村岡智恵一等陸士が言う。
村岡は防大を卒業したばかりで、数少ない女性自衛官だった。明るく、元気な性格で快活な印象を受ける村岡は、今ばかりは表情を消していた。
「日本全国で史上最大規模の災害が起きたんだ。確かに問題だ。
しかしもっと問題なのは現代のグローバル社会では例え災害が起きようとリアルタイムで更新されるはずなのに海外の情報が全く入って来ないことだ」
「………そうですね」
村岡一等陸士も同意する。
「それに我々陸自も被災者の救助を指示されてるが、はっきり言って範囲が広すぎて手が回らない。どうすれば良いって言うんだ?」
「仕方ありませんよ、宮間小隊長。日本全国どこでもそんな心配してますよ。何せ、全国が被災したんですから。山奥の方は救助が間に合うんでしょうか?」
「………どうだろうな。ところで大丈夫なのか、燃料は」
「………?」
「マスコミもはっきりとは言ってないが外国からの燃料の輸入も完全に途切れてしまってるんだろ?日本はいわばグローバル社会で唯一孤島と化したんだ」
「………不味いですね」
「………ああ。もちろん」
その時、宮間二尉に自衛隊公用自動車の運転者が告げた。
部下の一人、通信士の中塚三曹だ。三等陸士の階級から始めた幹部の宮間とは違い、たたき上げの自衛官だ。
「もうすぐ現場に着きます」
「了解。分隊長、準備は?」
「全員、出来ております」
小隊の三人の分隊長はそれぞれ準備完了の報告をする。
「分かった、ではそれまで現状待機」
「了解」
宮間は部下の敬礼に返礼しながら思考する。