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災害出動

西暦2025年 3月15日 



「被害状況は?」


 声を発したのは若い感じの男性。内閣総理大臣である上村雄也だ。内心の思いを押し殺したような声。

 上村は首相としては若く、50歳である。三ヶ月前に当選したばかりだ。


「死傷者は範囲が広すぎて詳細不明です。また、諸外国との通信が完全(・・)に途絶えました。国内での通信も一部途絶(とぜつ)しましたが、復帰できる見通しです」


総理の秘書官が言う。真下と言ったか……


「衛星との通信も消えたようです。こんなことは初めてです」


 真下は無表情で告げる。上村は報告書から目を離して机に両手を置く。


「地震の原因と震源は分かっていないのか?」

「原因不明です。そして震源も不明。一部の地震測定器が壊れ、特定できないのです。ただ日本国全土に渡って測定器が示すのは最大の震度7であり、例えその一部の地域で測定できているとしても震源の特定は困難です」

「…………!?」


 どういう事なんだ?


 心の中で上村は毒づく。眩暈めまいで倒れそうになった。

 しかし、この異常事態に公人であり、日本の最高権力者である総理が倒れることは絶対にあってはならないことだ。それは総理たる最低限の責務であると彼自身思っていた。まぁ、未だたったの三ヶ月なのであるが。

 

  





 正義。

 


 それが上村の信念だった。 


 もちろん、一人の政治家として、それがいかに歪なものか理解していた。

 しかし、上村は一人の政治家としてではなく、一人の法に従う日本国民として、正義を追及せねばいられなかった。


 日本国憲法前文の言葉を口ずさみながら、上村はこれは逆にチャンスかもしれないと思いを馳せた。


 上村は国民新党の党首だ。

 そして、国民新党は今最も勢力の強い政党で、衆参両院とも過半数の議席を獲得している。ただ、国民新党内部にも意見の相違は存在する。だから急激な改革はできない。しかし今は非常事態だ………全ての権力を握って断行できるかもしれない。それに今なら外国の干渉が全くない。経済的な損失は莫大だろうが、これも仕方ない。政治的には今がベスト。

 この日本で、改革を嫌う政界で、改革を断行する!




「総理……」


 上村ははっとする。気付かぬ内に執務室に入室していた防衛大臣が発した声だ。

 いつの間に……という有事では無駄としか思えない言動はしなかった。声を発しようとする防衛大臣を手で制した。


「閣僚はまだ全員いないのか?」

「………はい」

「………もういい。私の権限によって日本全域に非常事態宣言を発令する。

災害対策本部は?」


 すでに入室していた内閣官房長官が答えた。


「既に設置し、被害の確認を急いでいます」

「そういえば防衛大臣は何の要件だ?」

「自衛隊の出動許可を」


打てば響くように言った防衛大臣。

躊躇は一瞬。上村は一言、


「災害出動を許可する」


そう言った。


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