クハルナ王国
クハルナ暦136年 3月15日
足跡がカツン、カツンと響く。
「陛下に取次ぎを」
美しい彫刻が彫られた豪華な扉のそばに立っていた衛兵はその言葉を聞くと、扉の先にいる御方に知らせるべく、声を張り上げた。
「お入り下さい」
衛兵が開けた扉の奥に入る。
「失礼します」
「何事だ?」
訝しんだ目で見てくる40歳くらいの風貌の男性。
無理もない、ノアは思う。国王陛下の執務室に来る機会はそうそうない。
国王陛下は引き締まった体をしており、かなり鍛えられていることが窺い知れる。クハルナ王国は常に外敵に悩まされてきたため、民の上に立つからには相応の覚悟と武勇も必要なのだ。
王都ソヤンの中心部。そこにクハルナ王国最高統治者である国王の居城があった。天を貫かんとばかりに空に向かって高く聳える城はまさに権力者の象徴。
威圧感と畏怖感を相手に抱かせるためだろう。王城は白亜に彩られ、所々金や銀が混じっていた。王城内部も決して豪華とは言えないが、品がある色合いと装飾がなされていた。
「お忙しい所、申し訳ありません。どうしても、緊急性が高いと判断しました」
「ふむ」
陛下は手に持っていた羽ペンを置いてノアに真剣な目を向けた。
そして、ノアは少年と言っても良いくらい童顔だ。そして何より目立つのはその耳。人間族の耳とは違い、細く尖っていた。エルフという種族だった。魔力量に秀で、魔術も優れている。
そのノアは陛下から宮廷魔導師という職に任命されている。
「深夜に魔力爆発が起こりました」
「それは私も良く知っている。そなたが深夜に寝室に飛び込んできたからな。
おかげで王妃も起きてしまい、そなたの無礼がバレてしまった」
「そんなことはどうでも良いのです!」
強い口調で言うと、陛下も顔色を変えた。
「どういうことだ?」
「深夜に魔力爆発が起こり、ほぼ同時に強い地震が発生しました」
「………つまり?」
魔術の専門家ではない国王陛下には理解しにくいのだろう。
魔術と言うのは長らく長命種の特権となってきた。その大きな理由の一つに、その高度な専門性や才能の皆無が影響しているからである。長命種は長い年月を掛けて、魔術を研究してきたのだ。
しかし、エルフ族のノアが宮廷魔導師として人間族の王に仕えているように、人間族はその恩恵を部分的には与っているのだ。
「魔力爆発が何らかの魔術的作用を及ぼし、地震が起きたと考えられます。しかし、問題はどのような魔術的作用が発生したのかです。地震は間接的な効果でしかないと思っています」
「………それで?」
「私は召喚だと考えています」
召喚、呟く陛下に無慈悲な言葉を浴びせる。
「あらゆる事態を想定するべきだと愚考いたします。魔力爆発は非常に広範囲なことが分かりました。今も正確な規模は把握できていません」
「何!?それほどか!?」
「ドラゴンの群れかもしれません」
「…………衛兵!」
陛下は衛兵を呼んだ。
「騎士団長を呼べ!」