それでも君を覚えてる
「あら、いらっしゃい」
4月のある晴れた日
また、訪れてしまった
一年ぶり、5回目の花屋
「今日来たってことは、いつものね」
見知った顔のおばさんが、同意も求めずに花屋の一角へ向かう
一応、頷いておいた
「もう、5年になるのね」
5年
あのことから、5年
いい加減、辞めようと思っていた恒例行事
それがやめられなくて、今日ここにいる
あそこに行くことは、いやではない
それでも抵抗感は覚えてしまう
そんな自分が、嫌だ
「はい。930円ね」
去年と同じ値段、恐らく来年も変わらないであろう値段を、ピッタリに払う
「いってらっしゃい」
大分気温も高くなってきた
今年の夏も、暑いのだろう
もう、君はいないはずなのに
私達の関係は、5年前に終わったはずなのに
それでも、君を忘れられない
この関係に、終止符を打つことが、できない
君の名前が書かれた石の前に、菊の花を手向けながら思う
こうすることで、君とつながっていると思い込もうとする私が、嫌いだ