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妖精スフレの気まぐれ日記帳

一粒チョコの秘密包み手作り風 〜シロップなんて添えてないんだから!〜

作者: 久寿 たまや
掲載日:2026/02/10

※この日記は、"魔法使いレイジの研究実験ノート"の裏に書かれている。



 こんにちは!あたしスフレ。



 妖精族の女の子。

 村外れの草原のそれまた外れにあるレイジの家に居候してる。


 あ、レイジっていうのは、人間の名前。

 彼は風の魔法使いで、優しくて、誠実で……



 うん、ごめん。惚気。

 だって、あたしたちは、恋人同士だもの!



 これはそんなあたしたちの日常のひとコマ。



 ここ、白紙だったし。ダメって言われてないし。

 ……書いても、いいところだよね?


 だから、今日の記録を、ここに残しとく!



 今日はね。食卓テーブルですっごい美味しいお菓子を見つけたところから。



 不本意ながら、だいたいあたしのやらかしの記録なんだけど――



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 その紙に気づいたのは、ふたつめを頬張ってる真っ最中だった。



 黒くて、まあるくて、甘くて、そしてとろけるお菓子。


 ブドウの丸干しにも似てるけど、種もないし、なにより舌触りがとってもなめらか。


 飴ほどベタつかないけど、とってもあまい。砂糖は絶対入ってる。

 そんな不思議なお菓子は、いつの間にかテーブルの真ん中にあって。



 無防備だったし、食べていいのかなーって、

 思ってたんだけど……



 包み紙だーと思って最初に引っ剥がして落としていた紙。

 風でヒラっと裏返ったそれには、なんと文字が書かれてた。



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--

 スフレへ

 このお菓子は貰い物だ。チョコというらしい。

 が、お客さん用だから、絶対に食べないように!

--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 えーっと……。


 お皿を見て、数える。

 食べてない黒いたまーーチョコは、ひとつ。


 たしか、最初は3つあったから……



 だらだらと、冷や汗が流れる。

 3引く1の答えがわからなかったわけでは断じてない。


 ダメと書いてあるチョコ、それをひと齧りならともかく……、ふたつもまるっと食べたその後だ、って気づいたから。



 ……これ、絶対に、怒られるやつだよね。


 溶けたチョコのベタベタが長い金髪につくのなんて構わず、頭を抱える。



 書斎で、1時間。

 詰められて反省文を書かされるのは、かなりトラウマものの罰だった。



 ……どうにか、誤魔化せないかな



 もちろん、悪いとは思ってる。

 気づいてたらやらなかったと思うし。


 事故だと思って許して……

 ――くれたりは、無理かぁ。



 想像の中でもレイジは、頬張ったままの、このチョコ程には甘くない。


 ……甘さ一辺倒じゃ無い、というのが正しい表現かもだけど。




 悩んでたって仕方ない。



 まず、気を取り直して……、

 テーブルの上に翔び上がる。



 耳を澄ませる。

 部屋と、周囲は完全に物音がない。


 レイジは、さっき出かけたところで、まだ帰ってくる様子はなかった。




 ふぅー、と、手を下ろしながら、長いため息をつく。

 そして、服にベッタベタの溶けたチョコが着きまくってるのに気づいた。



 多分、口の周りとか、髪とか、そういうところにも。


 ……何をするにも最初は、これ、どうにかしないとだよね。



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 ふぃー。


 裸になって、水浴びして髪の毛を念入りに洗って……、それだけでもう、ひとしごと。



 側には、脱いだ汚れた服が一塊。

 でもこれ、洗濯を考えなくていい。



 あたしの意思に従って、服だったものはどろっと溶けて、ひとつの銀の塊になる。


 溶けたのでも、変えたのでも何でもない。

 これは、元の形に戻しただけ。



 この銀の塊は、魔法銀。

 魔道具の卵にして、何にでも変わる金属。



 意思を入れず、魔力だけ入れて操る。

 どちらかと言うと、奇術寄りの技。


 本で読んだ冒険譚の主人公が、これに似た技を使ってたので、その影響で覚えたもの。



 ……でも、これで服を作ったら、メチャクチャに便利だった。

 どんな服にも変わるし、再生成すれば洗濯要らない。



 ズボラなあたしには、ほんっと最適……。



 再生成の時に固めた汚れ。

 もとい、さっきのチョコの細かいかけらを全部集めて口に放り込む。



 あっまい!しあわせ……。



 ……こんな真似もできるので、すごく重宝する。



 一応、本の勇者の名誉のために。

 彼は一度としてこう言う使い方はしてなかったと明記しておく。



 ……さてと。

 風の魔法で、髪についた水を吹き飛ばして、

 魔法銀を元の服のカタチに編み直す。




 そして、あたしは、犯行現場に舞い戻る。




 うーん、何にも変わらない。

 当たり前だけど。


 何かの間違いで、実は紙の裏にもう一個転がってたり、なんてこともなかった。


 あー、何度見たって変わらない!

 チョコの塊は、あとひとつ!



 あああ、増えたらいいのに!!



 乾かしたばかりの髪を掻きむしる、レイジのやるみたいな困ったポーズ。


 なんか知恵が湧いてこないかと思ったけど。

 あたしの場合、彼より髪が長いし量も多いから、手が中に沈んで、指のあたりの髪がくしゃくしゃになってくだけで外にはなんにも……



 ――内側?



 そうだ!


 残ったひとつに手を翳し、集中する。



 耳を澄ますような、語りかけるような、世界に自分と、このチョコしか居なくなってくような、独特の感覚。


 身体の芯から力を汲み上げ、そして周りに満ちてる光の粒と混ぜ合わせていく。

 光は何でもいいわけではなくて、要らないものは選り分ける必要があって……。



 ……こんな魔法理論は日記に必要ないから、しょうりゃーく。



 すすっと魔力をまとめて、魔法として使用する。


 ぼこぼこっと、チョコの表面が波打つ。

 そして、脱皮のように表面がするっと剥がれた。


 はがれた表面は、そのまま一塊になってポテっと落ちる。



 何をしたかと言うと。

 ゴーレム作り。



 手順としては。だけど。


 まだ命令を込めてないから、魔法のかかった素材になっただけで何も動かない。



 残ったのは、三分の一くらいのサイズに綺麗に削られた元のチョコと、新しく作った小さい塊のチョコ。



 内側なんて見えないんだから、きっと何かをチョコで覆う感じにすれば。

 ひとつの塊から、みっつぶんのチョコの塊に見える何かができるよね、って。そういう算段だった。




 ……でも。

 あっれー?思ってたより、残ったのが小さくて、削れたのが多い。



 ……ま、まぁいいか。

 あとで調整できるし………、たぶん。



 キッチンにひとっ翔びして、使えるものを探す。



 まず見つかったのは、ナッツ。


 手頃な大きさで、かつ食べられるもの、となると結構限られる。


 元々お菓子だから、何となく違和感のないやつを

 ということで、散々探し回って見つけたもの。


 レイジがたまーに飲んでるお酒と一緒に置いてあったものだった。



 崩れたチョコの塊に、今度はちゃんと命令を下す。


 ずず、っとチョコの塊はスライムみたいに動いて、ナッツを中に格納して丸くなった。



 ちょっと形が歪で苦しいところだけど。サイズだけなら、まぁ近い。



 出来栄えは……、あまり良いとは言えないかも。



 あとふたつ作らないといけないんだけど。

 形が全部歪になってたら流石に怪しい。



 ……違うのを探さないと行けないかなぁ。



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 ……で、あたしはまた、キッチンへ行って。


 見つけて持ってきた次なる丸いもの。

 それは、ブドウ。



 ほら、並べてみれば、粒の大きさや形なんてほんとそれっぽい。


 よし、とブドウにもゴーレム化の魔法をかけて……。



 ――ばつんっ!!



 爆けた。

 ブドウの粒は内側から爆散して、あたりに汁を撒き散らす。



 いや、確かに。ふつうブドウをゴーレムにしよう!なんて思い立つことないし。

 かけた時にどうなるかなんて試したことないけど。


 爆ける、なんて反応は、あること自体完全に想定外。



 けど、魔法がダメ、となると……。


 果汁が詰まった、その粒をとんとんと叩く。


 迷う、けど……。

 これの他に使えるものを見た覚えもない。



 ……手で、剥くしかないかぁ。



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 ーー結果的に、あたしはまた、べっとべとになった。


 ほぼ、シロップ漬けの妖精状態。

 張り付きが気持ち悪いし。身体の凹凸が濡れた服に引っ張られて動きづらい。



 でも、何とか。

 苦労の甲斐はあって、テーブルの上には丸いまま皮だけ剥けたブドウの粒がひとつ。



 ブドウの房の方は、少し寂しくなってる。


 実は上手く剥けなくて、3粒ほどダメにした。

 失敗したのは、もちろん美味しく頂いてる。

 不可抗力、だからね!



 ……っと、その間に、

 2番目に作ったゴーレムは、あたしの指示に従い。

 ずずず、って、薄くブドウの外側を覆ってく。



 ……でも、余ったチョコが少ないから、この子は思ったよりも小さくて頼りない。



 大丈夫かな、って心配だったけど。

 剥いたブドウの粒の外側を薄く覆うだけなら、何とかなったみたい。



 持ち上げて、くるくる回して出来栄えを見る。



 ん……、ちょっと大きいかなー。

 そう思ってたら、最後にぐぐっ、とゴーレムがサイズを縮めてくれた。



 なるほど、縮めてくれたらだいたい同じ。


 こっちは、カタチだけなら。

 うん、さっきのナッツより随分それらしい。




 オッケー。じゃあ最後のやつ。



 レイジはまだだよね、って、キッチンの窓から外を覗いたら――



 げげ……!



 道の向こう側に彼の姿。

 しかも、なんか見知らぬ人も2人連れてる。


 まだ、到着までは少し、あるけど……。



 周りは――、

 飛び散ったブドウの汁。片付けてないナッツの袋。

 キッチンの棚とか扉とかも、色々開けっぱなしだし、肝心のチョコも、ふたつは何とかなったけど、残りひとつは手付かず。


 そして、あたしはと言えば――、

 服も髪もベッタベタの大惨事。


 片付けるか、もひとつ作るか迷っていたら……。



 レイジと、目が合った気がする……!



 分かるわけないはずだけど、見通された気がして焦りが募ってく。



 ……と、とりあえずふたつ!

 ふたつあれば、なんとかなれー!!



 ひとつを諦めて、この惨状の隠滅にかかることにする。


 残りひとかけらのチョコを手に、ひとっ翔びして玄関まで行って、扉に鍵をかけた。

 そしてすぐ近くの窓にカーテンを引く。



「ゴーレム、あたしを真似して立ってて!」



 チョコがうねり変形して……、



 ……うわぁ、ペラッペラ。



 あたしの大きさにするにはチョコの絶対的な量が足りてなかったみたい。

 出来上がったのは、あたしのシルエット。


 目鼻どころか、厚み自体が全然なくて、影法師みたいな状態。



 あーもう!……でもないよりまし!



 ゴーレムにそのまま、真似をしながら立ってるように伝える。


 レイジなら、あたしの影があれば、開ける前に一声かけてくれると思うし。


 たぶん時間稼ぎにはなる。




 そっからは大忙し。

 魔法銀の服を脱いで、飛び散った汁を掃除したり。出したものを片付けたり。

 粗探ししたキッチンは、とりあえず扉を閉め倒して……。


 服や身体にべっとりだったブドウの汁は、魔法銀に戻したついでに、勿体無いからシロップ容器に集めておいた。



 ……これ、あとであたしが飲む用だったんだからね!



 何とか、痕跡を消して、汚れを落とすために水に飛び込んだその時だった。




「スフレ、開けてくれー。」



 声と同時に、玄関の呼び鈴が鳴る。


 魔法銀を服に編み戻しつつ、濡れた髪をそのままに、玄関まで猛ダッシュ。



「ちょ、ちょっと待ってねー!」



 頑張ってくれてたゴーレムを、見えない場所に隠して。

 風魔法で髪を吹き上げて乾かしながら、鍵を開けるのに手間取るフリして何とか時間を稼いだ。



 一息大きく吸って、それから扉を開ける。



「レイジー。おかえりー!」



 満面のーー、作り笑顔。

 内心は冷や汗でいっぱい。



「何か、バタバタしてなかったか?」


「あ、うんその、……寝てたよ。」


「あぁ、なんか玄関から見えてたな。

なんだ?あそこで寝てたのか?」



 ちょっと苦しい、言い訳の説明。

 レイジの顔を、まともに見づらい。



「起こしたなら悪かったな。」


「いや、えっと、その……、それより、今日はお客さん?」



 レイジの後ろに、2人のヒト。


 男の人と、女の人。

 どちらもレイジよりも……、だいぶ年上に見える。

 何というか、お年寄りだった。



「あぁ、この家の持ち主のご夫婦だ。名前はーー」




 ……えっと、何だっけ?

 申し訳ないんだけど、覚えてない。



 けど、すごく人の良さそうな、元気そうな、そして優しそうなおじいさんとおばあさんだったのは記憶してる。


 そんな彼らと、そしてあたしを加えて、レイジはお茶の準備を始めたのだった。



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 椅子には、レイジとふたりのお客さん。

 囲んだテーブルのその上に、あたし。



 レイジは机の上の、違和感にすぐ気づいた。



「スフレ、これ触ったな?」


「ひゃっ、ぁ……、ぁうぅ……」



 言われて、指でつつかれて、たじろぐ。

 流石に老夫婦の前で怒ったりはしないみたいだけど、視線はちょっと痛い。



 そして、チョコを隠した、指示の書かれた紙は剥がされて、あえなく……。



 ――ひとつ足りないことが、バレた。



「……ごめんなさい。」



 しゅん、と小さくなる。


「まぁ、お前のことだから、うっかり食べてしまうことは想定済みだ。」



 ――え?ほんとに?


 赦し、の気配を感じて、ぱっと顔を上げる



「どうせ、注意をみるより前に食べたんだろ。

食べたひとつはお前の分だ。」



 ぽんぽん、と頭を指で叩かれながら言われた。



「あはは……」



 うっわ、あたしってば、レイジの想定を超えた愚か者ぉー!!



 お茶の準備はつつがなく進んでく。


 あたしは、まな板の上の魚か、いつか本で見た処刑の順番待ちをしてる罪人みたいな心境で、テーブルの上の花瓶に腰掛けて、待ってた



 レイジはいつものように、あたしにもお茶の入ったカップをくれた。



 元ミルク差しのこれは、持ち手まで熱が伝わるから、少し熱い。


 けど今は、心が冷え冷えなので全く気にならなかった。



「今日は妙に静かだな?」


「お、お客さん来てるからね。」



 誤魔化して、お茶をひとくち。



 にが……、くはない。


 薄めに入れてくれるお茶は香りがちょうどいい塩梅。



「はぁ……。」



 ちらちらとふたつのチョコを見る。



「貰い物なんですが、流行りのお菓子らしいですよ。

僕もスフレもひとつずつ貰ってますので、おひとつどうぞ。」



 そして、おじいさんは歪な方のチョコを口に入れた。



 ガリっ



「――は、硬っ………、硬いのぅ……。」



 噛みきれずに落とされるチョコ。

 それを空中でキャッチする。



 ……あ、そーか。


 曲がりなりにも、これはゴーレム。

 魔法で強化された素材。

 噛み砕くってのは、ちょーっと難しかったかも。



「あらいやだ。おじいさん。お菓子ですよ?

歯を悪くしたんですか?」



「あ、あたしこれ、切ってくるねー!」



 歪なチョコ型ゴーレムを抱えて、キッチンへ駆け込む。

 そして、まな板の上に、チョコゴーレムを下ろして、一息。


 まだ、疑われてはない。



 けど……、さぁて、コイツをどうするか……。



 一応、手頃にあったナイフでギコギコ切ろうとしてはみるけど。

 当然のことながら、傷ひとつつかない。



 ゴーレム化の解除、はできるならやってる。


 そもそもそんな融通が効く技じゃないのだ。

 最初に命令与えないとダメだし、与えたら取り消し効かないし。

 込めた魔力が続く限り動き続けるし。


 はぁー、苦労して覚えたのに。

 自分でしなくていいのがウリのはずなのに。

 融通が効かなすぎて、結局傍について、介護してる感じになるんだよねー。

 魔道具が流行って、これが廃れたのが分かるというかなんというか……。



 ……いや、それはともかく。

 問題は、このチョコゴーレム。


 与えた命令は、ナッツ取り込んで丸くなって、だったんだけど、それが問題。

 じっとしてろ系は、魔力消費が少ないから、魔力切れでの自然解除は、すぐには起きない。



 防御反応にも魔力使うし。

 ならとりあえず、めったうちにするとか?



 そばにあったローラーで、力いっぱいチョコを一撃。



 ……し、痺れるぅ。



 あたしの方の腕が。

 ローラーをそこに置いて。と言うかほぼ取り落として。


 翅をぴくぴくさせながら、ちょっとの間まな板の上で悶える。



 ……あー、なしなし。

 あたしが自分の手でやるのは無理。



 傷ひとつないチョコを見て、決意。


 そもそも、考えてみれば。

 成功しても、それじゃ粉々だし。

 真っ二つにするなら、やはり魔法かなぁ。



 ちょっと派手な魔法を使おうとしたあたしを心の中のレイジが静止する。


 ふむふむ。

 ……キッチンがめちゃくちゃになる?


 確かに。威力の高い魔法を考えなしにぶっ放すのはまずいよねー。


 まな板とかまで切ったり、床に穴を開けたら大変。



 ……あ、空中でやればいいんじゃない?


 追尾式の光の矢で一周ぐるっと串刺し。

 空中で真っ二つになれば、魅せる感じの芸になるよね?



「スフレー?まだかー?」


「はーい。レイジー。今行くー!」



 ひらっと翔んで、チョコを抱えたまま、皆のいるテーブルに戻る。




「あれ?まだ切ってないのか?」


「うん。魔法の芸をお見せしようかと。」



 言ってひらひらっと、レイジの手の届かない上空に翔ぶ。



「いやいや、普通に切れ、イヤな予感が――」



 レイジの呟きが聞こえた気もしたけど……。

 魔法の為に、少し長めの集中状態になってたあたしにはよく分からなかった。



 ぽいっと、チョコを大きく空中に投げて。

 そして、魔法を解き放つ。



 幾条もの光の矢がチョコの周りに現れる。


 もちろん、チョコを撃ち抜いた矢が突き抜けたりしないように対策もバッチリ。

 この矢は、着弾の瞬間に弾ける特別版。



 狙い違わず矢は、チョコに突き刺さり……、



 ――弾けた。



 あ!


 そして、チョコが衝撃で吹き飛ばされて、部屋の壁でボールのように跳ね返る。


 追尾セットしてるので、チョコのボールを追いかけて飛ぶ矢たち。


 矢が突き刺さっては弾けて、チョコはどんどん加速し、部屋中を跳ね回り出した。



 やっばー。

 お客さんのフォローしないとって思って見たら、既にレイジが風の防御張ってた。



 あー、信頼されてないけど通じ合ってるぅ……。



 部屋を飛び交うそれらを避けながら、最後に真っ二つになったチョコを空中でキャッチ。



 チョコは、ナッツごと綺麗に半分の断面。

 ゴーレム化も解けたので、これで安心。


 お皿の上に戻して、さも芸かのように一礼して誤魔化す。



 ぱちぱち、と拍手してくれるお客さんたち。


 ……そして、さっきの追尾矢のように、あたしの心に狙い違わず突き刺さるレイジの視線。



「スフレ。やけに硬いチョコだな?それについて――」


「――あ、美味しいですぞ。レイジさん。」

「ほんとですね。ナッツがいい感じです。」



 チョコを食べたお客さん達の感想。

 高評価に胸を撫で下ろす。



「ナッツ?」


「ええ、真ん中に大きなのがありました。

ちょうど良かったです。おじいさんはナッツ好きですから。」


「わしは甘すぎるのはどうもな。

ナッツの塩味が助かるし、よくあっとるぞ。」



 レイジの何か言いたそうな目。

 ひょいと髪ごと摘み上げられ耳打ちされた。


 

「おい、ナッツ入りなんて初耳なんだが?

お前一体、このチョコに何したんだ?」


「え、え。なんのことかなぁ……?

あたし知らな――」




 ぴゅーっ、と液体の出る音が部屋に響いた。




 残った最後のひとつのチョコ。


 一際まあるいそれが、皿の上で真上に向けて噴水のように黄緑の汁を吹き上げてた。


 奇跡的に周りを汚さず、皿に吹き出たそれは、匂いと色で出自を強調する。



 そしてレイジの視線。重なり合えば分かる。

 彼の心に同じように吹き上げてるあたしへの疑念。



 皆の目の前で、チョコは汁を吹き終えると、

 コロン、と殻が取れるようにチョコのコーティングが外れて、綺麗な黄緑色のブドウの粒がぷるんと姿を現した。



 ……そっかぁ。

 ゴーレムが実を抑えて無理矢理小さくなってたから、いま力尽きたわけかぁ……。



「……スフレ?」



 言い逃れは許さないよ、って語る彼の瞳。

 これはもう、言い訳のしようがなかった。



「ごっめんー!

あたしがふたつも食べたぁー!!」



 翔び回って、レイジに謝り倒す。

 説教は避けられないけど、長時間はぜったい避けたい。



「――あ、美味しい。

ブドウの汁とよくあってますよ?」



 助け舟はなんと、お客のおばあちゃんの方から出された。



「ブドウの甘さや酸味が、このお菓子によく合ってます。

レイジさん、スフレちゃんが作ったこの組み合わせ、悪くないですよ?」



 ほら、と、勧められるまま、レイジがブドウと一緒にチョコを口にする。



「……確かに、悪くはないが。

いやしかし……」



「あまり怒らないであげてくださいな。昔を思い出すねって、おじいさんと話してたんです。

お互いに愉快な失敗をよくしましたから。」


「そうじゃな。美味しいものが残るだけ、スフレちゃんの失敗の方が良いかものぅ。」



 ふぉっふぉっ、と笑うおじいさん。

 おばあちゃんの方は、それに腹を立てるような仕草をしつつも顔は笑っていた。



「それにね。レイジさん。

そんな風に感情を出すこともあるんだねって、私は凄く意外でした。

真面目でいい人なのは、聞いてたんですけど。スフレちゃんといる時のあなたは、凄く自然で……。

あなたたちを見てたら、私たちも元気をもらえたみたいで、とても楽しい。ふふふ……。」


「レイジさん。今日はお招きいただき、本当にありがとう。」



--++-- --++-- --++-- ..>*<.. --++-- --++-- --++--



 そして、おばあちゃんたちを見送って。


 あたしは、キッチンの片付けやらの後始末。

 命じられたとかではないけど。これは自分でやらないと、流石にね。



 それが終わって、もう一回謝っておこうかなって、レイジを探して家をうろうろしたら。


 彼は、食卓のテーブルにいた。



 彼の前にあるのは、シロップの容器とお皿。

 気になって、すっ、とテーブルに降りる。



「レイジ、それ……」



 彼の齧っているのは、チョコ。

 玄関に残してた、あたしのシルエットを模ったものだった。


 ゴーレム化は、時間経過で解けてたみたい。

 後で食べようと持ってきてたんだけど……。



「ああ、ここに置いてたからな。

最後のはもらうことにした。」



ヒョイパク、と言う感じに、シロップをかけては割ったチョコを口に入れる。



「……いい感じに薄くて、いいなこれ。」



 気づいてるのか気づいてないのか、形についてのコメントは無し。



 そして、もう一個、気になるのは……。

 彼の手にある、シロップの方。



「レイジ、それ……」


「これか?

絞ったのを置きっぱなしにしてたろ。

色と香りでブドウの汁、ってわかったからな。

拝借させてもらった。」



 彼の指にある小さなシロップ容器。

 それは、確かにいつのまにかキッチンから無くなってたもので――。



「偶然だが、割とうまいな、この組み合わせ。」


「えっと、その……、ほんとに好き?」


「ああ。……本当だ。」




「………………」




「……スフレ?

どうした?そわそわ身体を動かして……」


「あ、甘い匂いしてないかな、って……」


「チョコの香りか?ちゃんと拭いとけよ?」



「拭いたよー!

 念入りに!だから絶対に、汚くない!!」


「……何だ?妙にムキになるな?

またなんかしたのか?」


「してないしてない!

少なくともあたしは、何にも仕込んだりしてないんだからぁー!」



 それ以上続けても、ボロしか出ない。

 あたしは顔を覗き込まれないうちに、テーブルを蹴ってざっと空中に逃げ去った。



 窓から見える空、その光は、今のあたしの顔の色を上手く隠してくれそうな、紅だった。
















※本作はpixivにも同時投稿しています。

※スフレとレイジの本編(ややシリアス寄り)はノクターンノベルズに掲載中です。

甘々な展開は、もう少しだけお待ちください。

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