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序章 重さを扱う文明へ

世界は、壊れる。

関係も、制度も、身体も、記憶も。

壊れることは、世界の欠陥ではなく、

世界が世界であるための自然な呼吸である。

しかし、壊れたものに触れる手が、

軽さと速さに慣れ始めるとき、

文明はその基礎を失う。

沈黙は聞き取られず、

痛みは隠され、

履歴は断ち切られ、

世界は浅く、速く、軽く、脆くなる。

私たちはいま、

重さを扱う技法を忘れつつある文明のただ中にいる。

修復は「非効率」とされ、

沈黙は「欠如」とみなされ、

負荷は「不要な重り」として切り捨てられる。

軽さは加速し、

重さは消えていく。

だが、重さを失った文明は、

風の向きひとつで揺らいでしまう。

時間の重さを抱えられず、

感覚の深さを保持できず、

歴史の負荷を受け止められない社会は、

未来へ向かう軸を持てない。

重さとは、

痛みであり、

沈黙であり、

傷であり、

履歴であり、

負荷であり、

時間である。

重さを扱うとは、

世界の複雑さを拒まず、

その負荷と共に生きるための技法を磨くことだ。

この本は、

軽さに傾いた文明のただ中で、

重さを取り戻すための

静かで確かな基礎工事である。

壊れる世界を抱え続けるために。

沈黙の深さを聞き取るために。

負荷を資源へと変換するために。

そして、

あなたの手の中の小さな灯火を絶やさないために。

文明は、

大きな声や劇的な改革から始まるのではない。

ひとつの違和感を手放さずに抱え続けること。

ひとつの沈黙を尊重すること。

ひとつの傷を見捨てないこと。

そのような小さな重さの連なりからしか、

再び立ち上がらない。

ここから、重さを扱う文明の物語が始まる。

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