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転生姫はお飾り正妃候補?愛されないので自力で幸せ掴みます  作者: 福嶋莉佳(福島リカ)
二章

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第4話 波紋(後編)

夕暮れの回廊。石畳に灯火が揺れ、長く伸びた影の中をセレナはリサを連れて歩いていた。


(……これで後宮も縮小できたら殿下やサフィアにとって精神的に楽になるのでは?だけど、それだけで認められるのかな……?)

(そもそも私自身……身勝手すぎる恋愛もなぁ)


胸にわだかまる不安を抱えたまま角を曲がると、黒紺の礼服に身を包んだナヴァリスが、帳簿を抱えて歩いてくるのに出くわした。

リサは驚いて頭を下げ、静かに後ろへ下がる。

ナヴァリスは軽く一礼し、落ち着いた声音で口を開いた。


「……姫様。少し浮かぬ顔をされていますな」


セレナは思わず立ち止まり、裾を握る指に力を込めた。

「……実は、外交の宴を“出会いの場”にできればと思ったのです。後宮を縮小すれば殿下のお気持ちが楽になるのではと……。けれど、そのためだけに宴を開く意味はあるのか……」


(……と言いつつも、きっかけは私の願望だったんだけどね)


その言葉の余韻を測るように、ナヴァリスはわずかに瞼を細めた。

だが咎める気配はなく、静かに帳簿を持ち直しながら言葉を紡ぐ。


「……意味はございます」


ゆっくりと歩みを合わせ、声を落とした。


「外交儀礼の形を借りれば、“縁を求める場”であっても不自然ではありません。

 妃候補をただ留め置くのではなく、然るべき形で送り出す道をつくれる」


セレナが息をのむのを横目に、淡々と続ける。


「正妃になれぬ方々を後宮に縛るより、他国の縁談へ繋げられる方が建設的です。

 不満も減り、自然と後宮は縮小される。……殿下にとっても悪い話ではないでしょう」


数歩進んでから、ふと肩越しに視線を返した。

その灰青の瞳は冷静ながらも、どこか柔らかい。


「しかも、王宮を経由して送り出せば

“アウレナが仲介した婚姻”という体裁が残る。

 各国にとっては、自らの姫が“王宮に認められた”証にもなります」


灯火が彼の横顔を照らし、理を見通す者の光が静かに宿った。


「――ですから、追放ではなく『出口』なのです。体裁さえ保てば、縁はむしろ強固になる。

 ……もっとも、それを形にできるかどうか。殿下のお立場でお示しくだされば、ですが」


セレナの胸にじんわりと熱が広がった。

「……そんな見方が……。ありがとうございます」


ナヴァリスは浅く微笑み、深追いせずに頭を下げた。

照らす灯火の中、その背は静かに回廊へ溶けていった。





宰相執務室。積まれた巻物の上に、ナヴァリスが淡々と一枚の書付を置いた。


「先ほど、ルナワの姫君より興味深いご提案を伺いました」


ラシードは眉を上げ、巻物を手に取る。

「提案?」


「外交の大宴を“出会いの場”とするというものです。

 妃候補の出口を設け、後宮を整理する意図がある様子」


灰色の瞳が愉快そうに細められる。

「ほぅ……また面白いことを考えたな」


ナヴァリスは無言でうなずき、その横顔には静かな思案が浮かんでいた。


――この姫君はすでに芽を出している。

侍女の教育、規定の徹底、『座』の創設、そして毒の一件。

芽摘みの機を逃した以上、伸ばし、いかに制御するかを考えるべきだ。


灰青の瞳に冷ややかな光が宿る。

――後宮には有益。だが、放置すれば……やがて手に余る。


ラシードはくすりと笑い、巻物を閉じた。

「なるほど。殿下に伝える価値はあるな」



◆   



翌日、後宮の庭園に設けられた広間。

鮮やかな布で飾られた舞台では、アシェラが娯楽の座を仕切り、

舞や楽の催しがちょうど終わりを告げたところだった。


拍手と笑い声が散り、薄めた果実酒の香りが夕風に溶けていく。


「本日の座はここまでですわ!」

アシェラが満面の笑みで礼をすると、妃候補たちは

まだ余韻をまとったまま、三々五々に卓を離れていった。


その散り際のやわらかな空気の中で、

セレナは一歩だけ前へ出て、扇をそっと閉じた。


「皆さま……もし“良縁の宴”が実際に開かれるとしたら、

 参加を望まれますか?

 わたくしは後宮監より、王宮にも利があるとうかがいました。

 ご希望があるのなら、殿下に進言してみようと思います」


(お願い……誰か希望者出て!)


ざわ、と場の空気が揺れた。


「殿下に進言……?」

妃候補たちが顔を見合わせ、扇の陰でさざめきが広がる。


「私は……遠慮いたしますわ」

レイラは扇を閉じ、肩をすくめた。

「殿下のおそばに仕える身として、他国へ嫁ぐなど考えられませんもの」


(うう……残念……)


「わたくしは……ぜひ!」

アシェラは頬を染め、勢い込んで声をあげた。

「もし自由に選べる場があるなら、喜んで参加したいですわ!」


セレナは思わず表情をほころばせた。


「……実利は理解できます」

アナヒータは静かな声音で告げた。

「ですが、私自身は不要です。

 座の務めを果たしていれば、それで満ちていますので」


妃候補たちの間にも囁きが飛び交う。

「試してみたい……」「でも失敗すれば家が恥をかく……」


賛否の入り混じる声が、夕方の広間をじわりと熱していった。


(……こんなに響くなんて。嬉しい……!)


胸を高鳴らせながら、セレナはひとりひとりの表情を静かに見つめていた。

セレナ「お読みくださりありがとうございます(^^)

感想をいただけたら、とても嬉しいです!」

◆お知らせ

今後の新作予告や更新情報は、Twitter(X)でお知らせしています。

→ @serena_narou

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