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転生姫はお飾り正妃候補?愛されないので自力で幸せ掴みます  作者: 福嶋莉佳(福島リカ)
一章

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22/33

第10話 装飾(前編)

後宮に「座」が置かれてから、数日が経った。


最初こそ皆が呆気にとられていたけれど、始まってみれば案外受け入れられていった。


レイラ様は当然のように財政座を選び、印章を捺す姿だけは誰よりも堂々としていた。


アシェラ様は娯楽座で女官を従え、舞や楽を整えては自ら喝采を浴びる仕掛けに余念がない。


アナヒータ様は政務座を静かにまとめ、書記女官たちから頼られている様子だった。


女官たちは帳簿や配属を仕切る役目を得て存在感を増し、侍女たちも分担が定まったことでむしろ動きやすくなったようだ。

広間や廊下の空気が、少しずつ引き締まっていくのを感じる。


その中でリサが胸に手を当てて弾むように囁いた。

「姫様! 草木座に入れていただけることになったんです。香草を調合して侍女の疲れを和らげられたらって…思うと胸が熱くなって…!」

頬を紅潮させる瞳は、以前よりもずっと強く輝いていた。


私は「教育座」と呼ばれる小さな一団を持った。新しく配属された侍女たちに読み書きや礼儀を教え、ときに悩みを聞き、ときに自分も学び直す。

少しずつ、笑顔を見せてくれる侍女が増えていった。


やっと後宮で、自分の居場所を見つけられた気がする。


そんな活気が満ち始めた頃――私たちは突きつけられる。

存在意義を、あの二人によって。



王宮の大広間は、戦勝と収穫を祝う秋の饗宴の真っ只中だった。

兵の士気を高め、諸侯に王威を示すため、年ごとに催される盛大な宴。


無数の燭台に炎が揺れ、漆喰の壁や彩色された梁を照らし出す。

葡萄酒の甘い匂いと、焼いた肉の脂の香りが渦を巻き、杯が打ち鳴らされるたびに金具の鈴のような音が散った。


女官長の声が、硬質に広間を貫く。

「妃席は欠。客人は左翼列へ」

ざわめきが広がったが、それは驚きではなく、諦念の色だった。


私は言われるまま鎧を脱ぎ、端の席へと向かった。

剣を外し、肩を落とした自分は、ただの一人の女――それで十分だったはず。

少なくとも、今までは。


壇上で立ち上がる殿下の姿を見た瞬間、胸の奥が灼けるように熱を帯びた。

短く放たれた声が、広間のざわめきを断ち切る。


「――サフィア。前へ」


名を呼ばれた刹那、心臓が跳ねる。

数百の視線が一斉に突き刺さり、杯が転がる音や紅を引いた唇の強ばりが耳に届く。


(殿下の言葉を疑ったことなんて、一度もない。

けれど……こんな大広間で、すべての目の前で示してくださるなんて――)


けれど――青い瞳がただ真っ直ぐに私を射抜いた瞬間、他のすべては霞んだ。


壇上までの歩みは遠いはずなのに、殿下のもとへ吸い寄せられるようだった。

鎖飾りが微かに鳴る音だけが、胸の高鳴りと一緒に鮮明に響く。


「先日の働き、確かに見た。――今宵に限り、ここに座れ」


差し示されたのは、空いたままの妃席。

広間がざわめきに呑まれる。老臣の眉が吊り上がり、女たちの扇が震える。

だが、私には何も届かない。


(……殿下が呼んでくださった。なら、ここが私の席)


胸の奥が一気に熱くなる。妃席――王の隣、正妃にしか許されぬ場所。

それを私に、迷いなく。


嫉妬の視線もざわめきも、すべて遠くで溶けていく。

殿下の視線だけが、私のすべてだった。


(見ていてください。私は殿下の隣で、最後まで並び立ちます)


抑えきれずに笑みがこぼれる。

広間がどう揺れようと、この瞬間は二人の世界。

何を囁かれても構わない。

だって、殿下が私を選んでくださったのだから。


迷いなどなく、私は妃席へと歩み、青き瞳の隣に腰を下ろした。



大広間のざわめきが渦のように膨らんでいく。

杯が転がり、扇が滑り落ち、囁きが鎖のように重なり合った。


列席する貴族夫人たちの眼差しは氷の刃のように冷たく、老臣の顔には露骨な不快が刻まれる。

レイラは頬を引きつらせて杯を握り、アシェラは紅を引いた口元の笑みを凍りつかせたまま。

アナヒータはひと呼吸、瞼を伏せ、政務座の書記たちは息を呑んで動けなくなっている。


そんな空気を裂くように、サフィアは恍惚の笑みを浮かべ妃席に腰を下ろした。

鎧を脱いだ肩先に蝋燭の光が降り、ただ「選ばれた者」としてそこに存在する。

アルシオンの青い瞳もまた、一点の迷いなく彼女だけを映していた。


――その光景を、真正面から見せつけられる。


セレナは扇を握りしめ、胸の奥で押し殺すように思う。

(殿下……いったい何をお考えなの?)

(せっかく……後宮が少しずつ明るさを取り戻してきたのに。どうして、こんなふうに…)


視線を巡らせれば、場全体がざわつきに呑まれている。

侍女たちは顔を伏せ、次の手を探りかねている。


(ずっと正妃について考えていた。私なりに……)

そう思いながら、再び二人へと視線を向けた。


青い瞳と、恍惚の笑みで寄り添う姿が胸を刺し、言葉にならないざわめきが広がっていった。

セレナ「お読みくださりありがとうございます(^^)

感想をいただけたら、とても嬉しいです!」

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今後の新作予告や更新情報は、Twitter(X)でお知らせしています。

→ @serena_narou

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― 新着の感想 ―
王族もまた、人なり。後宮の姫達に辟易とするなら、政策としての方針を示すべし。何がお前だけやねん。人身御供のように送られてきた姫達はどうするのよ?世間知らずのボンボンやわ。と、おばさんは思ってしまう。今…
更新ありがとうございます 支えてくれる多くの人々が置き去りにされてしまった今話 これからの展開が楽しみです
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