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「ま、待たれよ!我々は妖精族との争いなど、望んではおらぬ!不幸な行き違いがあっただけだ!詫びの品も用意した!これで怒りを収めては貰えぬなら、更に多くの品を用意出来る!どうか、取り次いでは貰えないだろうか?」
国王様の言葉には、いまいち謝罪の気持ちがこもってない気がするのは私だけ?
ではなかったようで、ギルドマスターは心底呆れたように、
「こんな物はいらねーとよ!それよりも、妖精族の族長様ってのは、一国の国王様と同じ立場なんじゃねーの?サーマルロッツの国王様ってのは、他国に侵略仕掛けといて間違いだったから許せ、って欲しくもない品を並べて玉座でふんぞり返るのが礼儀だと思ってんのか?そりゃ~随分とお偉いこって!俺ら平民の集団でしかないギルドは、そんなお偉い方々とは意識も認識も違うんで、撤退させて貰おうかね?」
完全に脅しに掛かってる!格好いいぞギルドマスター!
長様はやり取りに飽きたのか、アルガンさんの肩に座っちゃってるし!
戸惑ってるアルガンさんがちょっと面白い。
そんな長様の態度を見て、他の妖精さん達もルバンダさんやミクリーナさんケントさんの肩に座っちゃってるし。見た目が怖いからかメイズさんの肩には誰も座らないのもちょっと笑う!
我関せずとボケッと見てたら、王弟殿下がツカツカ歩いていって、何段も高い所にある玉座から国王様と王妃様を下ろし、私達が立ってるのと同じ床まで下りてきて、王弟殿下自ら頭を下げられ、ついでのように国王様と王妃様の頭も押さえ付けて下げさせた。
その後ろからは事態を理解できずボケッと立っているだけの王太子と妹が、王姉様に引き摺られて私達の前に放り投げられ、王姉様も豪快に頭を下げられた。
それに続くように集まってた人達も頭を下げた。
「本当に、申し訳なかった!事態を理解出来ない愚か者達のせいで、国を傾ける事態を引き起こした!我々が出来る事ならなんでもする!どうやったら怒りを収めて頂けるか、長様に伺っては貰えないだろうか?」
潔すぎてびっくりするね!国王様と王妃様は頭を押さえられてビクビクしてるけど?
まぁでも聞くだけ聞いてみようかな?
『長様、謝罪しておりますが、どうしたら気を沈めて頂けますか?』
『争いは面倒だから、しなくても良いならその方が良い。だが納得せぬ者も多くいるでの、この国と結界が接する場所は、なくなれば良い。それと、そうさな、その者共がのうなるまでは、この国とは一切、妖精との取引はせぬこととしよう』
魔法言語を少しは理解出来るのか、王弟殿下と王姉様が頭を下げたままピクッと反応する。
他にも宰相さんとか、大臣の何人かとかも。
『その者共と言うのは、国王様と王妃様の事ですか?』
『それとその二人に連なる者じゃな』
『王弟殿下や王姉様は?』
『潔く頭を下げた者達まで、巻き込もうとは思ってはおらぬ。互いに不干渉なれば、咎めはせぬ』
『他国を経由して取引するのはありですか?』
『我々の領分を過ぎたものは、そちらで好きにすればよかろ』
『わかりました』
「えー、簡潔に申しますと、今の王家の方々が生きてる限り妖精族との今後一切の取引は停止、結界と接するこの国の領土は、他国へと譲渡する事、今後の妖精族への干渉は一切許さない。とのことです」
「今の王家とは、我々も含まれるのだろうか?」
そこまで詳しくはないのか、微妙な言い回しは理解できなかったのか、王弟殿下が恐る恐る、顔を引きつらせながら聞いてくるのに、
「いえ、国王様と王妃様に連なる方々のみで、王弟様や王姉様は含まれておりません。それと、妖精族と他国とで取引した後の品ならば、この国でも取引出来るそうです」
あから様にホッとしてる王弟殿下と王姉様。
そうね、妖精族との取引一切禁止とかになったら、命に関わる人も結構居るからね!
『承知しました』
王弟殿下が魔法言語で長様に答えるのに、一つゆっくりと頷いた長様は、私達に軽く手を振ると、
『でわな』
そう言って、シュンと消えるように居なくなった。
肩に座られてたアルガンさんが微妙な顔で肩を回してる。
他の妖精さん達も一言もなく消えちゃったし。ミクリーナさんがちょっと残念そうな顔をしてた。
そして会議が始まった。
私達は帰らせて欲しいんだけど、長様と直接やり取りしてたの私だからって事で残されてる。
皆もとても居心地悪そうなのに付き合いで残ってくれてる。
部外者の私達が居るので、最初から説明してくれるそうで、宰相さんが、
「事の発端は、書庫改装のおりに、文官の一人が珍しい書物ばかり集めた書棚を整理し、興味の引かれた廃棄用の書籍を持ち帰り、それを宰相府の事務官が借り受け、王太子殿下が興味を持ち、書籍に記された場所を探り、妖精族の森だと見当を付け、王太子殿下が独断で見習いの騎士と魔法使いを動員した、と言うことのようです」
「その書籍とは?」
王弟殿下の質問に、苦い顔の宰相さんが、
「見聞しましたが、冒険小説のような架空の物語でした。古い時代の物で、歴史を学ばぬ者には一見隠された事実のように感じるかもしれません。勿論、発見し持ち帰った文官も宰相府の事務官も、気軽な読み物として楽しむだけのつもりでした」
「はぁ、それを不勉強な王太子であるスタインデルが真に受け、見当違いの場所を勝手に捜索しようと、妖精族の結界に危害を加えた、と?」
「ええ。派遣された見習いの騎士と魔法使い達は妖精族の結界を攻撃する事を躊躇い、中途半端な結果となったようです」
架空の話と断言されて、王子が心底驚いた顔をしてる。
妹も同様に驚いているところを見るに、まだ何もどうにもなってないのに、王子が自慢でもしたのだろう。無駄に格好付けなところがあるし。
「聞けば聞くほど救いようが無いな。その上自分達のやらかした事の重大性も理解せず、事態を知った親でさえ、ぞんざいな謝罪で済まそうとする始末。お前達は本当に分かっているのか?冒険者ギルドの方々と、我々がこの場に居なければ、この国の多くの貴族達が粛清されていたかもしれないのだぞ?!」
王弟殿下の言葉に、国王様と王妃様が、
「そんな大袈裟な!」
「考えすぎよ!」
とか、言い訳にもなってない事を言ってる。
王子はまだショックから立ち直れないようで呆然としたまま。
「貴殿方は歴史を学んでこなかったのか?他国に比べ、この国の貴族家の数が少ない理由を理解されてないのだろうか?ろくでもない理由で他国に侵略しようとしたも同然の行為だぞ!その上ぞんざいな謝罪のせいで、この国は妖精族との直接の取引を禁じられた!他国を経由せねば妖精族のもたらす素材が手に入らなくなった!その事がどれだけの国民を苦しめるのか分かっているのか?!」
顔を真っ赤に染めて怒鳴る王弟殿下の剣幕に、国王様と王妃様は何も言い返せない。
王弟殿下の隣に立つ王姉様は相手を凍りつかせる程の冷たい視線で睨んでるし。
「もう無理よ。あなた達にこの国を任せてはおけないわ。継承者である王太子が、今この場に於いても自分の失態を理解してないのだもの。前の婚約者だった頃は、こんな下らない愚行は考えた時点で潰してくれてただろうに、そんな頼りになって教養も十分な婚約者を廃して、愚行を加速させる愚者を選んだ時点で終わってるわ。息子可愛さに甘やかすだけの親なんて、とんだ毒親よ。愚か者達はさっさとその場を明け渡しなさいな」
前の婚約者ってところでこっちをチラ見するのやめて下さい!そんなことしたら、愚かな人達が愚かな事を、さも名案だと考えちゃうしょう?!
「なら、ならば!俺の婚約者をヒュージムジェルカに戻せばいいのでしょう!」
ほらー!アホ王子がアホ極まる事を言い出したじゃないのー!
こっちを見んな!
国王様と王妃様もそれが良い!みたいにこっち見んな!
王子の隣に居る妹だけが、信じられないっ!て顔で王子を見てるけど、取りあえず、
「お断りします!無理です!絶対に嫌です!」
ドきっぱり断っておいた。




