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推薦状を書いて貰えたので、予定より数ヶ月早くミーグレヌス王国の国民になれた。
その事を引き合いに出され、気は乗らないものの、現場を実際に見た者として、サーマルロッツのギルドに行くことになった。
ギルドに行くのは別に構わない。ギルドだけならね?ただ、サーマルロッツの王家とか関係者とかに会う機会があるかもしれないって事が面倒臭い!
前回と同じ面子なので、緊張はしないし、ギルドの依頼は他の依頼よりも割りが良いし、私達職員も特別手当てが出るので、皆積極的に依頼を受けてくれるんだけど、気は乗らない。
私がサーマルロッツ国でどんな目に遇ってミーグレヌス王国に来たか、アルガンさんにお気楽にべらべら喋ってた時に、他のメンバーも実はギルドに居たらしく、皆微妙に気を使ってくれてる。
「いやいや~、そんな腫れ物に触るみたいに接せられても~?逆に気不味いって言うか?」
「いや、気は使うだろ?本当は戻りたくないんだろ?もしくは元婚約者とか、まだ未練とか?」
「無いですね!元々あんまり好きでもなかったし」
「ええ?でも婚約者だったんでしょ~?」
「いやいや、貴族と王族の婚約なんて、完全に政略ですよ!本人の意思なんて一切聞かれてませんから!先代の国王様とうちのお祖父様が学友で、ノリで子供達を結婚させよう!とか約束して、子供は歳が違ったり、相性最悪だったりして、じゃあ孫だ!って事で、私が生まれた時に決まった婚約ですからね!あんな、顔と身分以外何の取り柄も無い奴、好きになれる訳ないですって!まあ、妹は、その顔と身分に惹かれて私から寝取った訳ですけど?」
「うわ~、ドロドロな話をあっけらかんと話すわね~?確かに未練とか欠片も無さそうだけど~」
「ええ。男としても、私にワンパンで倒されるようなへなちょこは好みじゃないですね!」
「ブフゥ!ウフフフフフッ!それは嫌ね!ワンパンって!王子様ってそんなに弱いの?」
「子供の頃から剣術とか体術の授業はサボりまくってましたね。前に気に入ったお嬢さんをお姫様抱っこしようとして、抱えた途端二人とも後ろに引っくり返ってたし!格好つけたかったんだろうけど、あれはばれないようにだけどめっちゃ笑いました!」
「引っくり返ったって!アハッ、アハハハハハ!面白~い!見たかった~!アハハハハハ」
他のメンバーも笑ってる。滅多に表情を変えないメイズさんまで笑いを堪えきれてないし。
王子の失敗談を語りながら、道中は穏やかな旅となった。
1つ国を越えて、懐かしのサーマルロッツ王国王都に到着。
心なしか私が居た頃よりも活気がないように感じる。
乗り合い馬車から下りて、まっすぐにギルドに向かい、ギルドマスターから預かった手紙を出すと、直ぐにこのギルドのギルドマスターが応対してくれた。
「こりゃ~事実かい?」
「ええ。はっきりとこの目で確認しました。本気のようには見えませんでしたが、妖精の結界に攻撃も加えておりましたし、妖精族としても無視は出来ないようです。この国が妖精の結界と接している部分は少ないですが、確かに結界の先に鉱山はあります。それを狙っているのが誰なのかは知りませんが、王家に警告文は出すべきだと思います」
「ああ。そりゃ~当然だ!嘗めた真似しやがって!だがあの国王と王妃は宰相の目を潜ってそんな大それた事は出来んだろう?」
「ええそうですね。ですが、王太子なら?若い騎士を先導して、無理に命令することは出来るでしょう?なんならまだ見習いの魔法使いや騎士見習いなら、王子の言葉に乗ってしまうかもしれないでしょう?見習いなら宰相さん達の目も十分には届かないだろうし」
「あー、あのクソ王子か。最近じゃ~婚約者に良いとこ見せたくて、貢ぎまくってる上に、街でも好き勝手してるな!あれならやりかねん!一応こっちでも調査は入れるが、警告文は先に出すか!」
「出すなら宰相さん辺りに出すと良いですよ?国王や王妃では最悪息子可愛さに握り潰し兼ねませんから」
「ああ、勿論だ。ついでに王姉と王弟にも知らせとくか!でもあんた、よくこの国の事知ってんな?あの馬鹿共はそんなに噂になってんのか?」
「いえいえ。ただ私があの馬鹿王子の元婚約者なだけですよ」
「ああ、元婚約者ね?ってあれか!妹を虐めまくって、その上男遊びが激しくて、王子から婚約破棄されたって!?そんで家の金持って男と逃げたんだろう?」
「ブフゥ~、アハハ!私そんな女にされてるんだ?ウケるー!何一つ本当の事無いじゃん!アハハハハ」
「いやいや、笑い事じゃないだろう?」
アルガンさんが突っ込みを入れてくる。
「え~、笑い事だよ~!散々自分達が虐げておいて、全部私のせいって、もう、人として終わってるじゃない?そんな人達とはさっさと縁を切って正解正解!」
「まあ、それもそうか」
「話が見えねーんだけど?お嬢ちゃんの妄想か?」
ギルドマスターが怪訝な顔。
「アハハ、そう思っても良いけど、今のあいつら見てれば分かるんじゃない?どっちが我が儘で傲慢かって?妹の事だから、それは派手に贅沢してるんでしょう?街でも、って事は、目撃した人も多いだろうし、今更私がどんな人間だったかなんて、気にする人は居ないんじゃない?とっくに居なくなってるんだから?」
「ああ。婚約破棄直後は、色々と噂が流れたが、確かにな。今、お嬢ちゃんに言われるまで姉の存在とかすっかり忘れてたぜ。今の奴等は悪い噂しか聞かねーな。そうなのか、お嬢ちゃんは追い出された側か。今回の騒動を使って復讐でもする気か?」
「しないわよ!面倒臭い!私は自分の意思で家を出て、今、自分の力で生活して生きてるの!今更あんな窮屈で面倒な場所になんて戻りたくもないし、あんな奴等は勝手に自滅すればいいと思ってるだけ!ここに来たのは冒険者ギルドの職員として仕事で来たの!」
「お、おう。わかった。わかったから睨むなよ!警告文は直ぐにでも出すさ」
「ええ。是非お願いします!そしてさっさと撤退させて下さい。あ!ちなみに、狙ってる鉱山に宝石の類いは無いそうですよ?妖精の族長さんの言葉なので確かだと思います。これは私達も調査はしてませんが」
「は?なら何で奴等は危険を犯してまで狙ってんだよ?」
「盗み聞きした話では、古い文献に書いてあった、とか言ってましたよ?」
「古い文献ねぇ?どの時代のもんかは知らんが、眉唾だな?もしくは妖精の結界に収まる遥か以前の話だろうよ」
「ですよね~、妖精族はずっと昔からあそこに住んでるんだし、人間が立ち入って調べられる訳ないし。何ならその古い文献てのが、既に堀尽くされた場所の事だって可能性もある訳だし?あの人達頭悪いから、地図を見間違ってるのかもしれないし?」
「その可能性のが強いな?一応その文献とやらも確認するか」
「それは宰相さん辺りがやるんじゃないですか?ギルドとしては撤退を見届ける方を優先すべきでは?」
「だな。悪いが、お嬢ちゃん達のチームにも、見届け役を依頼したいんだが、受けてくれるか?」
「私は構いませんが、他の方には個別に確認してくださいね?」
「おう、そりゃ勿論だ」
ギルドマスターの仕事は早く、その場でささっと書類を書いて、大至急とデカデカと表書きしてお城へ届けるように、職員に言い付けてた。