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 石とは違うツルッツルの通路を結構なスピードで、予想外に長く長く滑り降り、仕上げのように出口付近がちょっと上り坂っぽく上がっていて、勢い良く出た先は、湖のど真ん中でした。

 ダバンダバン、ダッパーーーーンと皆よりも大きな水飛沫を上げて湖に落ちたルバンダさんも、無事通路を抜けられたよう。

 幸い湖はそれ程深くはなく、ちょんちょんと底を蹴ればすぐに顔を出せる深さだったので、慌てなければ溺れる事はなさそう。

 ケントさんは泳ぎが得意ではないらしく、落ちた直後は慌ててたけど、アルガンさんに後ろ襟を持ち上げられて冷静になれ、大量に水を飲んで咳き込んではいたけど無事。

 ルバンダさんは狭い通路から解放されたことにほっとしてた。


 湖から出て、装備の確認。

 失くしたものはなさそうなので、取り敢えず温い風の魔法を吹かせて乾かす。


「お~、ヒムカちゃん、便利な魔法が使えんだな~?」


「まあ一応、貴族だったので、魔法の基礎教育は受けましたからね」


「他に何の魔法が使えるのですか?」


 顔に張り付いた前髪を整え眼鏡を拭いているケントさんが興味深そうに聞いてくる。


「風と火が得意ですが、その他も一通りは使えます。治癒は苦手で、魔力ゴリ押しでも骨折くらいしか治せませんけど」


「骨折が治せるなら大したものじゃない!」


 ミクリーナさん褒めてくれるけど、


「いえ。魔力効率が凄く悪いんです。火魔法なら100発撃っても余裕なのに、骨折1つ治すのに魔力枯渇寸前までいくので」


「まあ、それでも使えるのと使えないのとでは全く違うわ~!ギルドに帰ったらちょっと訓練してみる?」


「う~ん、それは患者さんが気の毒な気が?私が治癒魔法を使うと、無駄に魔力を放出してしまうらしく、患者さんが魔力酔いを起こしちゃうんですよね?自分に治癒を掛けるだけならそんなことにはならないんですけど」


「それは確かに気の毒ね~?」


「いやいや、それよりも火魔法100発の方に驚きましょうよ!何ですかその魔力量?!それだけでAランクになれるでしょう?!確かヒムカさんはCランクでしたよね?」


 ケントさんが心底驚いた!って顔で指摘してくる。


「まあ、一応公爵家の出身なんで、魔力量は人並み以上にはありますよね?」


「あー、うん。ちょっとヒムカちゃんの話を信じる気になったわ」


 アルガンさんの微妙な感想に、


「何でですか、私嘘言ってないですよ!」


 と返したら、


「う~ん、俺も一応さ、Aランクの冒険者だから、貴族と会う機会はたまにあるんだが、ヒムカちゃんみたいな貴族令嬢見たこと無いし?」


 何故か皆に笑って頷かれた。


『ついたぞ。あそこに代表がいるぞ』


 妖精の兵士が指差す方を見れば、確かに魔法使いらしきローブを目深に着た集団が何やら集まっている様子。

 あの集団の目の前には目には見えない結界があるのだろう。

 そして結界が有るだろう場所から少し手前に、集団を見張ってる妖精の姿も。


『お~い、人間をつれてきたぞ~』


 兵士が呼び掛けると怪訝な顔で振り向いた代表が、私達を視認した途端、戦闘態勢になり、魔法での攻撃を仕掛けようとして、慌てて兵士が止めに入った。


『まてまてー!長様の呼んだ人間だぞ!こうげきしたらおこられるぞ!』


 との言葉に魔法の発動は中断したものの、訝しげな視線はまだそのまま。


『冒険者ギルドから派遣されてきました。人間側から攻撃などはされていませんか?』


『お前も人間だろう?』


『ええ。そうですが、私達は協定を守る側です。あそこに居る人間達が結界に攻撃を仕掛けているのならば、我々は妖精族の側に付きます。ですので状況を教えて頂けますか?』


『長様がお決めになったのなら、敵ではないのだろう。奴等は結界を壊そうと何度か攻撃をしてきたが、我々の結界は人間ごときに破られるほど弱くはない』


『攻撃を仕掛けて来ているのですね?』


『ああ、何度かはな。結界に傷1つつけられてはいないが』


『いえ。人間達が妖精族の結界に攻撃をした事実だけで、協定違反となりますので、我々ギルドとしても、対象国に警告をせねばなりません』


『それで奴等は言うことを聞くのか?』


『聞かせます!何としても!』


『ふん。やってみるがいい』


『それで1つ確認なのですが、外側からの攻撃には傷1つつかないあの結界は、内側からの攻撃は結界を越えて敵側に届きますか?あと声や姿を見せる事は可能ですか?』


『あの結界には幻術も織り混ぜてある。内に居て姿を見せるのは不可能。声は届く。攻撃は、妖精族の攻撃ならば結界を越えられるが、人間の攻撃は、知らぬ』


『ありがとうございます。声は届くそうですが、外側の声も聞こえますか?』


『何やらわめいてはおるが、人間の言葉など知らぬ』


『分かりました。冒険者ギルドからとしてあの人間達に勧告をします。それでも結界を破ろうとするのなら、我々冒険者ギルドも、ギルドとしてあの者達の国を相手取って交渉なり警告なり、撤退なり考える事になるでしょう』


『我々に害が無いのであれば好きにすればいい。敵対するなら戦えばよいだけ』


『あー!それゆったら長様におこられるやつだぞ!ちびたちがいじめられたらかわいそうだろ!』


『そんな人間は蹴散らせばよい』


『妖精族より人間のほうが、ずっとずっとおおいんだから、負けたらひどいめにあうって、長様いってたぞ!』


 何やら妖精族内でも、意見は統一されていないよう。

 長様は穏健派で代表達は抗戦派なのかな?

 何より戦わないで済むなら、それに越したことはないよね?

 って事で、もう少し結界に近付いて、奴等の話が聞こえないか聞き耳を立ててみよう。

 兵士君に付いてきてもらって結界のギリギリまで近寄る。

 成る程、話し声は聞こえるね?


 聞こえてきた結界の向こう側の言葉を要約すると、ここから程近い場所に有る鉱山からは、潤沢な宝石が大量に採れる、とだいぶ昔の文献に書かれており、それを目的に妖精族の結界を壊そうとしてるみたい。


「そんな馬鹿な」


「欲望丸出しだな」


「これは攻撃されても文句は言えないのでは?」


「やっちゃえば良いんじゃな~い?」


「異議なし」


 上からアンガスさん、メイズさん、ケントさんにミクリーナさんで、ルバンダさん。

 声を揃えて結界の向こうに居る人達が悪と断定してる。


「どうした、こめかみおさえて?頭痛いのか?ギルドとしてもあんなしょうもない奴等相手すんの面倒だよな?」


 アルガンさんが私の体調を心配してくれて、他のメンバーも気遣わしげにこちらを見てる。


「そうじゃなく。あの人達、サーマルロッツ王国の人達だな、と思いまして」


「サーマルロッツ王国とは我々の居たミーグレヌス王国の隣の隣の国ですよね?いつの間に我々はそんな距離を移動したんですか?!これも妖精族の魔法でしょうか?!」


 ケントさんがいつの間にか1つ国を越えるような距離を移動してた事に驚愕してる。


「それにも驚愕しますが、サーマルロッツ王国とは、過去に妖精族といさかいを起こし、貴族の大粛清が行われた国でもあります。妖精族への畏怖と警戒は他の国とは比べ物にならない程強かった筈なんですが…………」


 私の言葉に、アルガンさんが思い出したように、私を見て、


「あれ?隣の隣の国、ってことは?」


「ええ。私が生まれ育った国ですね」


 と答えたら、アチャ~みたいな顔で見られた。

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