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終わりで~す。
「納得はしますけど、それでお薦めされても?」
「アルガンさんは全然好みじゃなかったってこと~?」
「好みとか、考えた事無かったですね」
「ええ?自分の好みを考えないって?」
「ほら、私一応貴族の生まれで、生まれた時から婚約者が決まってたじゃないですか」
「そうね。もうすっかり忘れてたけど、そんな設定だったわね?」
「いやいや設定じゃなく事実ですから!で、婚約者が決まってて、定期的な交流の場も設けられ、その為の厳しい厳しい教育に追われて、好みとか考える隙間は無かったんですよ。その後も生活するのに必死だったし」
「あー。ガッチガチに将来を固められちゃってたんだ?」
「前国王陛下の王命での婚約でしたからね。今思うと色々と思惑のあった婚約だったんでしょうけど、そんなこと全然知らされてなかった私の生活は、酷いものでしたよ。祖母に似てるからって母親から疎まれるし、虐待されるし、それで王子は見た目だけは良くて、ハーレムかっ!ってくらい沢山の令嬢を侍らせてたし、終いにアッパラパーの妹に寝とられるし」
「あぁ、そこでモテ男が出てくるのね?」
「ええ。節操のないモテ男って本当に始末に悪いんですよ!下手に地位まであるもんだから、侍ってる女達もどんどん図に乗って、王命の婚約者である私の前でイチャイチャベタベタ下品極まりないし、勝ち誇った顔してくるし」
「そりゃ~、モテ男、嫌になるわね?」
「アルガンさんがそんな節操無しとは思いませんけど、回りの態度とか、アルガンさんを狙ってる女性の多さとか見ちゃうと、まずそこで一歩踏み出す気が起きないですよね?」
「何だかそれもとても損してる気がするわね~?でもそれを越えてでも!って情熱が育たなかったんだから、縁が無かったって事なのかもね~?」
「そうですね」
「でもそれで何でメイズさんだったの~?メイズさんが好い人なのは知ってるけど、顔は整っててもちょっと怖い感じがするじゃない?近寄りがたいと言うか?」
「ふふふ、子供の頃から悪意まみれに育ってきた私からしたら、メイズの目付きの悪さなんて、表面的なものでしかないですし、そこに悪意が有るか無いかは行動を見てればすぐに分かりますからね」
「そうね。私もチームを組むようになってからの付き合いだけど、メイズさんは周囲を威嚇してるんじゃなくて、目を凝らして警戒してるだけだものね~」
「冒険者として慎重な性格って言うのは重要ですよね」
「確かに。メイズさんは斥候を担う事が多いから、余計そうなっちゃうのかもしれないけど」
「はい。慎重で堅実ってとても大事だと思います。あと私がお祖父様から頂いたお金を宛にせずに、地道に貯金してたところもポイント高いですよね!」
「そんなところに惹かれちゃったの?いまいちよくわからないポイントね?」
「あー、決め手は料理の上手さですかね?」
「ぶふっ!アハハハハハハハッ!成る程!そ~よね~、仮にもお嬢様だったヒムカちゃんは、お料理全然駄目だものね!」
「そこまでハッキリ言われるとむかつくんですけど?!」
「フクッ!ク、ク、クハッ!アハハハハハハハ!ダメ!駄目よ!止まらない!だってヒムカちゃんの料理ったら!魔物撃退しちゃうんだもの!アハハッアハハハハハハハ!」
「はぁ、そんなこともありましたけど!そこまで笑わなくても!お茶くらいは淹れられるようになったんですよ!」
「フフ、フハハ、ごめんなさい、思い出したら止まらなくなっちゃった!あ~可笑しい!お茶を淹れられるようになっただけ進歩はしてるけど、間違っても子供達にヒムカちゃんの料理を食べさせては駄目よ!ククッ」
「そんなの分かってますー!だから今だってメイズが料理してるんでしょう!」
「何でも完璧にこなすヒムカちゃんの弱点が料理なんて面白すぎるでしょう?」
「私だってこんなに料理に適性が無いなんて思ってもみなかったですよ!」
不貞腐れて剥れていると、
「おら、飯出来たぞ。ガキ共とあいつら呼んでこい」
「は~い」
メイズが出来上がった料理を並べているのを横目に子供達の所へ向かう。
「「ママー!」」
私が近寄れば我が子が元気良く走り寄ってくる。
3歳と4歳の息子は、エネルギーの塊で日々力の限り生きているので着いていくのがやっと。
あれから自分でも鍛えてさらに強くなった自覚もあるのに、子供達の行動力には振り回されっぱなし。
日々怒鳴りっぱなしだし、今の私を見て元貴族令嬢だったと納得してくれる人は居ないだろう怒鳴り具合。
それもまた楽しいんだけどね!
ルバンダさんとミクリーナさんのお子さんも4歳の双子の男の子と2歳の女の子で元気一杯。
一人だけ女の子なんだけど、その暴れっぷりは他の男子に負けない活発さ。ミクリーナさんも日々声が枯れる勢いで怒鳴ってる。
近所なのでしょっちゅう聞こえてくるし、聞かれてるだろうしね。
「お昼ご飯が出来たから、手を洗っておいで」
と言えば、
「「「「「は~い!」」」」」
とこんな時ばかりは良い子のお返事。
「アルガンさんもルバンダさんも手を洗ってきて下さいね」
「おう。分かってる」
アルガンさんの返事とルバンダさんが頷くのを見送って、テーブルの方へ手伝いに戻る。
ミクリーナさんが手伝ってくれてたのか、すっかり食卓は整って料理も並べ終っていた。
子供達もパタパタと走り寄ってきて、
「「「「うわ~!美味しそう!!」」」」
と満面の笑み。
無言の夫が自分の隣の椅子を引いてくれるのにありがたく座って、
「はい!じゃ~いただきます!」
と平民流の挨拶をすれば、皆も揃って、
「「「「「「「いただきます!」」」」」」
と挨拶をしてから一斉に食べ出す。
ふふふ。月に一度くらいの頻度で集まれる人だけ集まっての食事会は、何時だって賑やかで楽しいばかり。
今回は来られなかったケントさんだって頻繁に顔を出してくれるし、子供達もとても懐いている。
メイズそっくりな我が子は子供ながら中々の目付きの悪さだけど、そんなところも可愛いと思えるし。
「ああ、私、幸せだな~」
思わず心の声が漏れてしまったら、
「何だよ急に?独り者の俺への当て付けか?」
とアルガンさんがからかってくる。
「ふふふ、アルガンさんが独身なのは自分の意思ででしょう!当て付けとかじゃなくて、あの子供の頃の真っ暗だった時代から考えて、今こうして居られるのは奇跡みたいだな~って思ったら、つい漏れちゃったの!」
「ははっ、今更ヒムカちゃんがお貴族様だったなんて、誰に言っても信じねーだろーけどな!」
「そ~よ~!今はやり手のギルド職員で、冒険者で、お母さんなんだから、辛かった過去の事なんてぜ~んぶきれいさっぱり忘れちゃえば良いわ!ま、思い出してる暇も中々ないけどね!」
バチコンとウインクしてくるミクリーナさんに笑うしかない。
言ってる事の半分も理解してないだろうに心配げにこちらを見てくる子供達にも笑い掛けて、
「そうよね!あんな奴等の事なんか、一瞬だって考えてやる時間なんて無いんだから!よーし!食べるぞーーーー!」
「「「「「たべるー!」」」」」
私の勢いに押されて止めていた手を動かし出す子供達。
そっと背を撫でてくれる夫のメイズにも笑い掛けて、メイズの手料理を食べる。
うん!とても幸せ!貴族の令嬢だった過去なんてもうどうでも良い!私は私と私の大好きで大切な人達の為に精一杯生きていく!邪魔する奴が現れたら、力の限りボッコボコのボコよ!
読んで頂きありがとうございました!