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 ザワザワしてるのを何と勘違いしたのか、妹は涙目で両手を胸の前で組み、


「皆様聞いてくださいまし!わたくしは、子供の頃からここにいる実の姉に虐げられてきました!今回の事だって、ちょっとした行き違いでわたくしの婚約者の王子が、王族籍を剥奪されてしまい、仕方無く公爵家に戻り、領地のため、領民のために必死に領地経営を学んでいるのです!そんなわたくし達を、姉は見て見ぬふりで好き勝手に過ごしているのです!こんなの許せますか?!」


 涙をボロボロ溢しながら、必死に健気に訴える可愛いわたくし!って演技に夢中の妹。

 周囲の目線の冷ややかさに全く気付いてもいない。

 王子でさえ気付いてるのに。


「綺麗な泣き顔ね?どれだけ練習したら、そんな風に鼻水も出さずにボロボロ泣けるのかしら?そこだけは感心するわ」


「お姉様はまたそんな意地悪を言うのですね!」


「子供の頃、私はそれこそ寝る間も削られて教育を詰め込まれてたわ。実の妹や母親と会話するどころか部屋から一歩も出ない事も普通だった。起きてから寝るまでずっとメイドと家庭教師に見張られてたのに、どうやったら母親ベッタリの貴女を苛められたのかしら?ちょっとした行き違いで王家が入れ替わる訳無いって、そんなの平民の子供でも分かるのに、元王子とその婚約者の公爵令嬢が理解してないって、自分の馬鹿さ加減を広めてるって事も分からないのね?領地のため、領民のため?そんなことは、領地の街の名前の1つ、領民の名前1人でも言えてから言うのね?」


「おいおい、そこまで馬鹿なのか?平民の俺だって、公爵領の街の二つや三つ知ってるぞ?」


「本人達に聞いてみてよ。自分達が領地経営を学ぶなんて、夢にも思わなかったこいつらは、何一つ答えられやしないから」


 ギルドマスターをはじめ周囲の人達が疑いの目を向けるのに、


「ほら、ほらぁ!そうやってお姉様は何時だって自分が優秀な事をひけらかして、わたくしをおとしめ苛めるのですわ!」


 とかほざいてる。


「いや、本当に知らねーとか。公爵家大丈夫か?」


「さあ?今の当主が生きてる内は何とかするでしょうけど、こいつらの代になったら、降爵されて領地も没収される事が決まってるから、最悪でしょうね!贅沢することと遊ぶこと、人を貶める事以外何も出来ない奴等だもの。でも私には関係無いわ!私はただの他国の平民だもの!公爵家の行く末とか、どうでも良いわ!」


 言い切ったら、


「子供の頃から教育を受けてきたのだろう?ならば!その知識を活かさないのは勿体ないだろう?なんならヒュージムジェルカを正妻として嫁に貰ってやっても良いんだぞ!同じ公爵家の娘なのだから!ヒュージムジェルカも公爵夫人になりたいだろう?」


 とかアホ王子が宣い出した。


「それで?私に仕事を丸投げして、自分達は私が稼いだ金で贅沢三昧したい訳?はっ!死んでも嫌よ!公爵家なんかには一切未練は無いって言ってんでしょ!」


 王族から外されても辛うじて貴族である事が、唯一のステータスのように思ってただろう元王子は、私の言葉に衝撃を受けたように固まった。


「もう用は無いでしょ?さっさと帰って少しでも公爵家の為に無い頭を使いなさいな!」


 駄目押しにシッシッと野良犬でも払うような仕草をしてやると、さっきまでポロポロと涙を流していた妹が、


「もう!何で言うこと聞かないのよ!公爵家の命令よ!お姉様はわたくしの奴隷として一生わたくしの為に働きなさいよ!お父様だってお母様だってそれを望んでるのよ!お姉様の分際で公爵家に逆らうんじゃないわよ!」


 キンキンと響く声で宣う妹。

 ここに来て漸くその本性をさらけ出し、傲慢極まりない命令をしてくる。

 そんな姿を初めて目の当たりにした元王子が、さっきまでとは別の意味で固まってる。


「ごめんだわ!もう何度も言ってるけど、私は既に他国で国籍を取った外国人だもの。この国の貴族の命令なんか聞く謂れは無いわね!今更私に頼ろうなんて虫の良いこと考えてんじゃないわよ!恨むんなら、馬鹿で能無しで努力嫌いで礼儀知らずに育てた母親でも恨めば?あんたが生まれてからこれまで、まともに会話したこともない姉に頼ろうなんて、本当に無知傲慢!これ以上言うなら、本当に公爵家で暴れてやろうかしら?住む家が無くなっても良いならね?」


 わざと腰のダガーを見せびらかす様にすれば、顔色を青くする妹と元王子。


「さっさと帰れ!」


 ちょっと低い声で脅せば、声もなく震えて逃げ出す2人。

 それを見送った見物人からおーー、と歓声と拍手が起こった。

 うん、とても迷惑を掛けてたみたい。


「はあ。今更関係ないんですけど!私目当ての厄介者達が、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした!これ以上迷惑を掛けないためにも、明日の朝一で国に帰ります」


 と宣言すれば、


「そんなこと無いぞ~」

「やり返してて立派だったわよ!」

「貴族相手に清々した!」


 等々、励まし?の言葉を数々掛けられた。

 うん、皆さんも迷惑貴族に煩わされていたのね?


「まあ、あれだ。あんたはさっさとこの国を出ちまった方が良いな」


「ええ、そのつもりです!」


 って事で、国に帰ります!生まれも育ちもこの国だけど、この国には良い思い出の1つも無いので、未練なんて皆無!

 唯一有るとしたら、ミクリーナさんとメイズさんと一緒に王都観光した時に食べた、カフェのフワフワパンケーキとそれにかかっていたオレンジソースくらい?

 私のこの国の未練なんてそんなもの。その程度ならミーグレヌス王国でも探せば有るだろうし、私をこの国に足止めする理由にはならないしね。


 翌朝。国を出るのでギルマスに挨拶に来たら、全然見慣れてはいないけど知った顔が2つ。

 ギルマスが微妙な顔して応接室に案内して、私も同席。

 朝からギルドに来て私を待ち構えていたのは父と祖父。


「昨日は、うちの者が迷惑を掛けたようですまなかった」


 2人揃って頭を下げる。

 許すつもりは無いので、


「昨日だけではありませんでしたけどね」


 と返せば、


「ああ。使用人達に確認した。酷い虐待も、姉妹の格差も、全て事実だったと確認された。それでもこれからはあの2人が降爵する事は決まっているとは言え、まだ暫くは公爵家の者であるとして、教育を始めようとしたのだが…………」


「元王子にも妹にもそんな能力は一切無いと思い知ったのでしょう?」


「ああ。本当にあの2人には一切の能力が無かった。だからこそあのような事件まで起こしておいて平然としていられるのだろう。妻も同様に母への恨み言しか言わなくなった」


「はあ、それで?何しにこちらにいらしたんですか?愚痴なら他の誰かに溢して下さい。私はもう縁を切った人間です」


「ヒュージムジェルカ、」


「いいえ。私は冒険者ギルドミーグレヌス王国支部職員、ヒムカです!お間違えの無いよう」


「………………公爵家に戻る気は一切無いのだな?今ならばお前が継ぐと申し出れば、降爵無しで爵位が継げるのだぞ?」


「いらないって言ってんでしょ!貴方達にとっては見捨てた娘にすがってでも守りたい家なのかもしれないけど、私にとったらあんな家、さっさと潰れれば良いと思ってるわよ!よくもまあ今更そんな事が言えたものね?見向きもせずに捨てて殺しておいて、よくも今更家を継げだなんて言えたものだわ!恥ってものを知らないのかしら?」


「それは誤解だ!私は何も知らなかった!妻からは全てが順調だと聞かされていて、」


「へぇ、だから?貴方が私に1度でも会いに来た事はあった?頭を撫でたことは?何か一言でも優しい言葉を掛けたことは?私の記憶には一切無いけど?それくらい放置してた娘に、今更何をさせようと言うの?もし万が一私が公爵家を継いだとしても、直ぐ様爵位返上してさっさとこの国を出るわよ?」


 私の言葉に反論出来ずに黙り込む父。

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