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固まった空気などものともせずに、
「公爵家のため、公爵家のためと言うなら、こんな大勢の目のある場所で、大声で怒鳴らない方が良いのでは?家ででもやればいいでしょう?それに、以前から思っていたのですが、あなた達の言ってることは、自分は悪くない!と主張するだけで、悪い結果は全て自分以外のせいであるかのように言ってますが、そんな訳無いでしょう?お婆様は嫁いびりをしていた。お母様は姉妹に酷い格差を付けて、姉である私を虐待していた。妹はほとんど接点もなかった姉の悪評を広め、婚約者を寝取った。お祖父様はお婆様の言うなりで、お父様は家族に無関心だった。大した公爵家ですね?早々に離脱出来て良かったと心底思いますよ。この先愚かな人達が治めるアティアンデス領の領民が哀れでなりませんが、私はもうただの平民なので、どうしようもありませんからね。平民だからと侮って、公爵家に連れ戻そうなんてしないで下さいね?私の持てる全力で対抗しますので!その場合、屋敷の一つや二つ壊される覚悟はしておいて下さいね?それではさようなら、血が繋がってるだけの家族ではなかった人達!せいぜい大切な大切な公爵家が、自分達のせいで滅びないよう頑張って!応援も祈りもしないけど!」
公爵家の人達がポカーンと無言なのをいいことに、さっさと退散!
ギルド関係者の皆も無言のまま付いてきてくれて、案内の騎士も追い付けない早さで城を出てやった!
その途端、
「ブハッ!ギャハハハハハッ!」
「アハハハッ、アハハ!アーハッハッハッ!」
「クッ、クク、クハッ!クッ」
「プスーッ、プフフフフフッ、ッ!ッ!」
お城の門の真ん前で、皆が爆笑しております。
アルガンさんとギルドマスターは豪快に、普段無口なメイズさんは何とか抑えようとして漏れ出てるし、ミクリーナさんは朗らかに笑ってるし、ケントさんとルバンダさんは声もなく地面叩いてるし。
まぁね、冒険者なんかやってると、理不尽な貴族ってのに当たってしまう場合も結構あるので、こんなお城のど真ん中で王族とか高位貴族相手に、好き勝手言いたい放題言える場面はほぼ無いからね!ちょっと緊張も相まって、笑いが止まらなくなっちゃったのね?と理解を示すふりで暫く待ったんだけど、中々笑い収まりません!
「ちょっと~皆さん笑いすぎじゃない?そろそろギルドに行かないと、不審者として捕縛されそうよ?」
門衛の騎士がずっと怪訝な顔でこっち見てるし。
笑いは収まらないものの、歩きだした皆を追う。
ゲラゲラ笑いながら進む集団を、王都の人達が遠巻きにしてる。
ギルドに到着しても暫くの間、皆の笑いは収まらなかった。
◆◇◆◇
ギルドマスターがギルド本部に連絡を入れて、サーマルロッツ王国の妖精の結界と接する場所を、ギルドに譲渡するって書類と、そうなった経緯を書いた報告書を送ると、直ぐ様魔法言語の得意な職員を配置する、それまでは魔物の間引きを頼む、と連絡が来て、依頼として私達チームに出されてしまった。
さっさとこの国を去りたいのに、特別報酬が無視出来ない金額だったせいで!受けざるを得なかった。
王族が丸っと入れ替わったせいで、王都や貴族達は大変な騒ぎになってるけど、森に居た私達には全く関係がなかった。
魔物を倒して倒して倒しての日々。合間に簡単な小屋を作って、休憩所としたり、近くの水場を探したり、妖精達が何故かちょっかいを掛けてきたりの対処に追われ、派遣されたギルド職員が到着するまでには本当のチームのように親しくなっていた。
派遣されたギルド職員は、雰囲気のとても暗い感じの人で、この人里離れた場所に自ら志願して来たそう。
ギルドでの人間関係に疲れ果て、ギルドを辞めようとしたのに、優秀だったせいで辞めさせてもらえず、鬱々とした日々をおくり、いつ出奔するかを企んでいた所に、この派遣の話が来て、自ら志願して来たのだそう。
晴れやかに笑うその、長い前髪にすけて見える笑顔が、大変整っていたので、ああ、そう言う事ね、と納得した。
何時の時代にも美顔に惹かれて寄ってくる人ってのは多いからね。
ラーズと名乗った派遣ギルド職員は、Aランク相当の魔法使いらしく、この場での魔物退治にも支障はなく、なんなら軽く結界も張れるので、一人でも安心なのだとか。
私達が臨時で建てた掘っ立て小屋を気に入り、住み着く決断をしてた。
最寄りの冒険者ギルドから通えない距離でもないのに、この人里離れた森の中がとても気に入った様子。本人が良いなら良いけどね?
ラーズさんと無事交代して、王都のギルドに依頼達成の報告に来た。
ギルドマスターがすごく疲れた顔で迎えてくれて、報告内容に納得して依頼達成の報酬を貰う。
「嬢ちゃんよ。すげえ面倒な客が連日押し掛けて来るんだが、嬢ちゃんの昔の関係者だから、面会に同席しちゃくんね~かい?」
「え~と、それは元家族系?王族系?それとも別の貴族系ですか?」
「元家族系。妹とか言う女と元王子が2人で押し掛けてきて、嬢ちゃんを出せ!って聞かなくてよ」
「はぁ、分かりました」
「わりぃな、嬢ちゃんはギルド職員だから、ギルドが対処しようとしたんだが、何せ、あいつら人の話を全く聞かねーのなんの、同じ言葉喋ってんのに、話が通じねーって何なんだろうな?」
「自分の都合の良いことしか聞こえないんでしょ。甘やかされて育ったクソガキの典型よね?」
「成る程。そりゃ~分かりやすい例えだ」
疲れた顔のギルドマスターが苦笑したところで、コンコンコンとノックの後に、
「ギルマス、例の厄介なのが来ました。応接室に通してます」
と職員さんの報告を聞いて、深々とため息を吐いてから、重い腰を持ち上げるギルドマスター。
私も同様に腰をあげ、応接室に向かう。
応接室の外からでも声が聞こえる程騒いでる2人。
「なんだこの粗末な部屋は?!」
「わたくし達は公爵家の者よ!もっと丁寧に接するべきよ!これだから平民は嫌なのよ!」
「全くだ!貴族に対する礼儀も尊敬も感じられない!態度を改めろ!」
「このお茶もお菓子も、まっっっずいわね~?もう少しマシな物はないの?」
「そんなに不満なら来るな!」
思わずドアを開けた途端に怒鳴っちゃったよね!
「お姉様!」
「ヒュージムジェルカ!」
私の姿を確認すると、立ち上がって叫ぶ2人。
「遅かったじゃないか!散々待たされたのだぞ!」
「そうよ!お姉様が中々来ないから、何度もこんな場所に来なくちゃならなかったのよ!」
「頼んでないわよ!縁も切ったのに、今さら図々しく現れて何の用?迷惑だからさっさと用事を済ませて帰りなさいな」
「ひどい!お姉様はまたわたくしを苛めるのね!わたくしがどんなに困っているかも知らないで、追い返そうとするなんて!それが実の妹にする仕打ちなの?!」
「そうだ!実の妹を助けようともしないなんて、それでも血の通った人間か?!」
なんか茶番が始まった。
「どうせ、王家から追い出されたからと、公爵家の当主教育でも始まったんでしょ?それで、全然全く理解出来なくて、私にでもやらせようと企んで押し掛けてきたんでしょ?お生憎様!私は既に他国の国籍を持った赤の他人です!公爵家に関する一切の責任はありません!あんた達を手伝う気なんて微塵も無いわ!用が済んだんだからさっさと帰って!二度と来ないで!」
私の言葉が図星だったのか、何も言えずに悔しそうな顔をする2人。
ギルドマスターも呆れた顔を隠さない。
この連日、散々迷惑をかけた2人が、大声を張り上げたせいで、ドアの外に人が集まり、こちらの様子をうかがってる。
本日、別作品の【お貴族様には分かるまい】が書籍発売します。
だいぶ加筆したので、読んで頂けると嬉しいです!
よろしくお願いいたします。




