第五話 モビリティ革命の夜明け・中編 ~スライムタイヤの実現へ~
ガチャ
「こんちわ!」
「よう、どうした?今日は注文してねえけど?」
俺はソリーニ亭常連の鍛冶屋のジャンのところに来ていた。
ジャンは腕のいい鍛冶屋で、その高い加工技術で
武器防具以外にも顧客のオーダーに応じて、アクセサリーやら
生活雑貨やら作っており、器用で有名な職人だ。
この男なら、俺の要望に応えてくれる、はず。
「いやそれが、ちょっと相談があるんだよね。
ソリーニ亭での配達は今俺が歩いてしてるわけだけど、体力的にきつくてさ」
「まぁそうだろうな、一日何件も回ってたら足腰きついだろう」
「そうなんだ。で、配達用の”乗り物”を作れないかと思ってさ。
乗り物のイメージはこんな感じで」
そう言って俺はさっき走り書いてきた”自転車”のイメージラフを手渡した。
「ほほう、これは・・・なかなか面白い。
ここを回せば車輪が動いて前に進む仕組か?」
「そう!さすがジャン、すぐに理解してくれてうれしいよ。
俺の世界ではこれを”自転車”っていうんだけど、
歩くよりも全然早く移動できて、しかもあんまり疲れない。
めちゃくちゃ便利な移動手段なんだ」
「ふんふん、これなら鉄と木を加工して作れなくもないな。
でもこれ馬車と違って二輪だろ?安定もしないし、
たぶん乗り心地最悪だぞ?」
「うん、鋭いね。おっしゃる通り、このままでは俺の配達にも向かない
と思ってる。だからね、俺はこの車輪にある細工をしたいんだ」
「というと?」
「この車輪に”スライム”を加工して衝撃吸収できないかと考えてる。
あのぶよぶよの物体を車輪全体に保護するような形で。」
ジャンは目を見開いて、呆気にとられてる。
まぁそりゃそうか、モンスターをそんな形で利用することなんて
まず思いつかないもんな。
少し考え込んだジャンは、ポンッと手を叩いて話し始めた。
「・・・うん!たぶんイケるぞ、それ。
スライムは火炎系の魔法で焼けば半固形物になるんだ。
あのぶよぶよがもう少し引き締まって固くなる感じだ。
車輪の外側を鉄で作って、そこにスライム塗り付けて焼けば、
恐らく鉄と同化して固まると思う。」
「うお!まじかそれ、まるで車輪になるために生まれてきた生き物やん。
じゃあ、この自転車制作、頼めるかい?」
「ああ、こりゃスゲーものになるぜ!」
「やった、本当に助かるよ。それで・・・金の事なんだけど・・・」
「ああ、そのことか。この自転車とやら、
今後俺のところで生産して売らせてくれねえか?
そしたら最初の一台はタダにする。さらに自転車が売れるたびに、
お前には1割儲けから支払ってやる。どうだ、正当な取引だろう?」
こりゃ願ってもない条件、実は俺もほぼ同じような条件を
提示するつもりだったがまさかジャンから提案されるとは
・・・飛びつかないわけにはいかない。
「マジすか・・・ジャン、ガッツリ乗らせていただきやす!」
「しゃあ、商談成立だな!大至急、作ってやる。1週間ほど待ってな!」
「へ?1週間??」
「ああ、さすがにそれくらい時間ないと厳しいぜ。
諸々加工も必要だし、色々と調整もいるだろうからな」
「ですよねぇ・・・」
1週間、また歩きで配達すんのか。
まぁ仕方ない。。
「それと、今からスライムを数匹取ってきてくれ。
この道具の肝はスライム加工にかかってるからな、すぐに検証したい。」
そう言ってジャンは俺に捕獲用の袋を渡してきた。
「お、俺が取ってくんの?俺戦えないよ?」
「大丈夫だ、スライムは”意識”を向けない限り攻撃してこない。
要するに心を無にして、拾ってこい」
「なんやそれ、心を無にって。煩悩の固まりなんですが俺。」
「ワハハ。ちなみに、意識が強ければ強いほど
より攻撃的になるから気をつけろ。最悪溶かされるからな、フフ」
何ソレ怖イ
「フフ、ちゃうがな!てか無害って聞いてたのに結構恐ろしい怪物やんけ!」
「さぁ、行ってこい!俺は準備しとくぜ!溶かされてくたばんなよ!」
はぁ、やっぱりそんなサクサク上手くいくものじゃないな、この世界も。
意識すんなって、おもっきり利益のために捕獲しようとする人間を、やつらは
許容してくれるんか?あぁ、恐ろしい。
それでも俺は、行くしかない。
何もしないと地獄の配達ワークは続くのだから・・・
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