桜ヶ丘高校生徒会役員スピンオフ! ~紅則春樹のごーすとぱにっく!~
桜ヶ丘高校生徒会役員庶務雑務担当、紅則春樹。
性別、男。
年齢、十六
極々平々凡々な高校一年生。
何故に生徒会に入れたのか。
生徒会全員の暗黙の謎となっている。
―――※
「紅則ー、この書類の整理頼むわ」
「はい!」
「紅則君。こっちの書類の計算も頼む」
「分かりました!」
「春樹ー、それ終わったらこの書類に判子を押さなきゃなんないんだけど……」
「その判子は僕の所にあるから、後で押しておく!」
ひぃぃ。目が回るような忙しさだよ! 何だってこんなに僕の所に仕事が回ってくるのさ!!
そう思いつつも手が目が頭が自然に働くわ動くわでもう自分が何をしているのやらさっぱり分からなくなってきていた。
だが……。
『ハルキ。ここの「書類」とやらの計算が間違っているような気がするぞ?』
「あ、すいません吾妻さん」
『なに。いいことだ』
そんな風に確認してくれている人が自分の身近にいることが結構重要なことだったりする。
ちなみにこの人は空峰吾妻。なにやら忍者っぽい「元」人。
今は――。
「吾妻さん、こっちの書類の判子ってどっちにありましたっけ?」
『む? これは確かお前の机の引き出しの中に入っていたはずだが』
「ホントですか? ちょっと調べてください」
『心得た』
そう言って吾妻さんは僕の机の中に文字通り頭をつっこんだ。
この行動からも分かることだとは思うけど、この人は――
「幽霊の身、って結構便利なんですね」
『不便、と言ったら不便だが、便利、と言ったら便利だな』
幽霊。しかももと悪霊だ。
どうしてこの人(?)と出会うことになったのか。
それはたぶんまだ話すことではないと思うので、ここではまだ伏せておく。
そして吾妻さんが判子を探し当ててくれた。
僕は言われたとおりに引き出しを開き、判子を取り出して目の前の書類にぽんと押す。
「っしゃぁ! 大半の仕事は終わったし、本日の生徒会は終了だ! お疲れっしたー!」
『お疲れ様でしたー』
そう言って会長や萩さんが生徒会室から出て行く。
乍乃さんや柊先輩、桧木さんやハルっちがそれにならっていくように出て行った。
生徒会のみんなが出て行ったとき。
僕のもう一つの仕事が始まる。
「…………」
僕は目の前にある書類整理をしつつ、来客を待った。
今回は誰も来ないだろう。そう願いつつ書類に判子を押したり、計算をしたりしていたら。
「紅則サンっ! お仕事です! ……きゃっ!」
ちっちゃいメイド服を着た短いツインテールをした女の子がぱたぱたと入ってきた。
と思ったらすぐにこけて持っていた書類を足下にぶちまけた。
井宮鴫。
井宮さんの実の妹であり、目下、メイド修行中の身。
今は訳あって僕の所の仕事の斡旋を手伝っている。
「鴫ちゃん、大丈夫?」
『鴫嬢、手伝ってやろう。おや、鼻血が出ているぞ』
「ほ、ほんひょれすか!? あひゅまひゃん!?」
鼻血を処理しつつ、きちんと吾妻さんと一緒に書類を拾っていた。
『む?』
「どうしたの? 吾妻さん」
『今回の案件……民間ではなく、校長からか』
校長からの依頼って、結構やっかいなモノが多いんだよなぁ……。
そう思いつつも、鴫ちゃんが持ってきてくれた書類と資料をぱらぱらと見ていた。
「……鴫ちゃん、麦茶ない?」
「あ、はい。持ってきてますですよ? 紅則サン」
そう言って井宮さんと同じくらいのがま口ポケットから、大きな水筒を取り出して僕の湯飲みをすぐに見つけて注いだ。
そして机の上に置かれた麦茶を飲みながら書類に目を向けた。
「……また、霊がらみか……」
憂鬱な溜息を吐いた後、僕は校長に依頼された場所に素直に向かった。
僕のもう一つの仕事。
それは、幽霊退治。
必要とあらば、霊を除霊し、必要とあらば霊を成仏させる。
陰陽師でもなく、霊媒師でもない。
かといってそれを屈服させて、コレクションにするなんて事はしない。
僕はただ単なる、一般的な、
ちょっと特殊な力を持った、高校生なだけなのである。
―――※
「ここ、か……」
僕は目の前に静かにそびえる廃ビルを見た。
校長からの依頼によると、ここ最近、夜になったらこのあたりに幽霊らしきモノが出るらしい。
付近住民、並びに桜ヶ丘高校の生徒も怖がっているため、何とかしろ(命令形)が今回の校長からの依頼。
『あのハゲも、少しはまともなことを依頼してくるものだな』
「そうだね……」
正直言って、まともな物じゃなければ受けてはいなかった。
今の今までの依頼はやれ「校長室から眼鏡とってこい」だの、やれ「ビデオの録画代わりにしといてくれ」だの……要するに使い勝手のいいパシリ扱いだった。
「まぁ、ぐだぐだ言わずに、さっさとやって帰ろう。眠いし」
欠伸混じりにそう言った後、吾妻さんもそれに続いた。
『まぁ、分からなくもない。では行くか』
そう言って敷地に足を踏み入れた。
途端、やっぱり何かの気配はした。
……こう、文字では表せないような、ぞぞぞーっ、とした気配。
そんなんが入った途端にした。
『……ハルキ』
「うん。分かってるよ、吾妻さん」
お出ましだ。
目の前に人魂がひょろひょろと浮いて彷徨っている。
間違いなく自縛霊だ、これ。
「だとしたら、対処は簡単かな」
そう言ってポケットの中から札を取りだし、人魂に向かって投げた。
当たるか当たらないか、そのタイミングで、
「破ッ!」
気合一発。
叫んだ後に札は遠慮容赦なく爆散し、人魂もろとも吹き飛ばした。
これで終わり、さっさと帰って寝よう……なんて事はまだ思ってはいけない。思えない。
人魂が消えた所から今度は手がにょきにょきと生えだした。
そして手が完璧に出たとき……。
廃ビルよりか大きい手がそこに直立で浮かんでいた。
自縛霊の本体のお出ましだ。
『ハルキ』
「分かってるって。吾妻さん」
そう僕が返事をした後、吾妻さんが僕の中に入ってきた。
別に何の感慨もない。ただ一瞬、僕の意識がとぎれるだけだ。
…………。
目を開けたとき、そこには何も変わらない、先程の風景があった。
静かに、腕を見据える。
あれは、倒すべきモノだ。
ならば――。
『全力で、やらせてもらおう』
全力はご勘弁を願う。
そんな思いは通じることなく、自分の体はすさまじいスピードで腕に向かっていった。
真下に回り込んだ後、拳を爪がえぐり込むほどに強く握り、そのままアッパー。
腕が宙でよろめいた後、そのままの勢いで両手を握り、一気に振り下ろす。
腕は地面に倒されて、土煙を舞い上がらせた。
そのまま自分が地面に降りていたまさにその時。
腕が、土煙の中から出てきた。
「なにっ!?」
そう叫んだが後の祭り。
すでに自分は腕に掴まれていた。
「この程度……すぐに抜け出してやる!」
自分はそう言って、両腕に力を込め、拘束を解こうとした。
だが思いの外、握る力が強いのか、すぐには外れない。
それどころか、握る力は強まるばかりだった。
――これは……まさか!
僕はあることに気づいた。
「どうした!? ハルキ!」
――吾妻さん! 急いで拘束を解いてください!
吾妻さんは言葉通りに拘束を解いた。そのまま宙を漂って、
――腕のすぐ脇を蹴った。
普通ならばそのまま空を蹴るはずなのだが、何かに当たる感触があった。幽霊に感触もへったくれもないだろうけども。
――思った通りだ……。
腕は、一本しかなかったわけではない。
――最初から腕は、二本あったんだ。
「なるほどな……しかし、どうすればいいんだ? 見えない相手、というのは些か……」
――大丈夫。その点は心配しなくてもいい。
「……信じるぞ、その言葉」
そう言って僕たちは再び相手に向かった。
見える手が叩きに来たとき、
――来たよ! つぶす気だ!
そして|自分(吾妻さん)はジャンプした。
見える手はちょうど吾妻さんがいたところに止まった。思った通り、つぶす気だったらしい。
「ハルキ! 見えない方はどっちにいる!?」
――すぐ後ろ! 真上だ!!
そうやって振り返り、ちょうど振りかぶられた手をつかみ取り、そのまま、
「っつおりゃぁぁ――っ!」
見える手に向かって投げ飛ばした。
見える手と見えない手は被さって、そのまま地面に伏した。
そしてそのまま塵となって消えていった――。
「……ふぅ」
『終わったな』
「実際は僕が体を使いまくってたんだけどね――あてて」
『今日は軽かっただろう?』
「いや、いつもと同じ」
そうやって道中杖をつきながら僕は部屋に帰っていった。
―――※
「おはようございまーす……はわわ……」
「あ、おはよー、春樹」
「ういーっす。おはようさん、紅則」
僕は部屋に帰り、そのまま一眠りしていつも通りに生徒会室に行った。正直言って、体中が肉離れだの筋肉痛だので痛い。
「おはようございます、会長」
「おう、おはようさん柊」
「会長、僕もいますよ」
「おう、わりいな、萩忘れてたわけじゃないんだぞ?」
そんなこんなでいつものメンバーが全員集合して、また、いつものように過ぎていった。
だが――。
「そう言えば……」
「? どうしたの? 雫ちゃん」
「あ、いえ……特にたいしたことでは……」
「なんだ? 煮えきらねぇな……話してみろよ、乍乃」
昨日のような事がある度に……。
「実は……昨日の夜、なんか土煙が上がってたり、妙に大きな音がしてたんです」
「ほほう? どこかで工事でもやってたのか?」
「いえ……ですが、そのことを不審に思って、ちょっとネットで調べてみたんです」
そう言って乍乃さんはかちかちとマウスをクリックして、ネットの掲示板を出した。
するとそこには……。
「ほお……」
「わあ……」
みんなの驚きの声が上がる。対する僕と吾妻さんは口をぽかーんと開けていた。
その掲示板には様々な意見と共に、一つの画像が掲載されていた。
白い半袖に黒い長袖を組み合わせたシャツに黒いポケットがたくさんついた作業用のズボン。
それを着た漆黒を思わせる長髪を持った美女がそこには居た。
「昨日の夜、カジュアルな服装をした美女が、この辺の工事現場でなんかやってたそうです」
そう、僕があまり幽霊退治の依頼を好まない理由。
事実上、僕はあまり力は持ってない。
破魔札とかは全部通信講座で学んでいた。
だが、昨日のようなでかい敵とやり合う場合、どうしても吾妻さんの力が必要になる。
その時に吾妻さんを僕の体に憑けるんだけども……。
どうしても僕が女の体になってしまう、と言う問題ができるのだ。
「い、つのまに上げられてたんだろうね……」
『大方、どこかのカメラ小僧が偶然夜に写真を撮ったら写っていたのだろう……』
僕と吾妻さんはみんなに聞こえない声でぼそぼそと会話をした。
しかしまあ。
キレイに写っているモノだ。まるでどこかの小説の挿絵みたいだ。
僕は密かに思った。
後、手を叩いて、
「さあさ、皆さん! 仕事しましょう!」
いつものようにせかすのだが、その言葉に従う人はあまりいない。