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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第66話 勤勉なる怠惰#1

「ここに運んでおいて」


 とある小さな街の一角。

 そこは朝早くから三人の兄弟が働いていた。

 緑の髪で前髪の一部が赤く染まったのが特徴の青年――リュドル=イメリスを長男に、それから六つ下の十六歳の赤髪長女ノルン、六歳の緑髪次男メルトだ。


 そんな三人が運営しているのが、家名から名づけられたイメリス商会である。

 病に伏せた父親に代わって運営するその商会は、小さな町の中でも小さな商会だ。

 言わば、数ある商会の一つであり、他の商会と協力しながらほそぼそと続いている。


 とはいえ、地域密着型であり、周囲の住民にはそれなりに愛されており、看板娘ノルンと元気でやんちゃなメルトの二人の魅力も相まって、固定ファンが利用してくれてる感じだ。


「お兄ちゃん、これどこ運べばいいんだっけ?」


「それは店の裏手に置いといて。まだ在庫確認してないから。

 それよりも、メルトはどこいった?」


「メルトなら.....たぶん、そこに」


 店の外にある倉庫からせっせと荷物を運ぶリュドルが、ノルンが指し示す方向に視線を送る。

 店の入り口、そこから中を覗くように見てみると、荷物の木箱に座って壁にもたれかかるメルトの姿があった。


 そんなぐっすりな弟を見て、リュドルは苦笑いを浮かべる。

 なんせまだ六歳の弟がすることだ。どこに怒る要素があるというのか。


 それどころか、自分と同じように朝六時から開店準備をしようとしてくれたのである。

 むしろ、一度は頑張って起きて手伝ってくれようとしたことを褒めるべきだ。

 それになにより、


「ま、いつも通りだね」


 傍らから言葉を零すノルンの言う通り、いつも通りだ。

 毎朝頑張って起きてくれているが、今までメルトが朝に起きれた試しは数える程度しかない。

 そして、次に目覚めた時に「明日は頑張る」と言うまでがワンセット。


「んじゃ、オイラ達でやっちゃおう」


「はーい」


 そんなメルトに変わって、朝に強いノルンがリュドルの言葉に大きく拳を突き上げる。

 その天真爛漫な笑みは穢れと言うものが無く、今にも昇り始めてる太陽がすぐ近くにあるようだ。

 だから、兄としては自然と手が伸びてしまうもので。


「いや~、さすがオイラの妹だ。頼りにしてるぞ」


「もう、お兄ちゃんは私をいくつだと思ってるの。

 頭を撫でられて喜ぶ年でもないんだから」


「その割には全然振りほどかないな」


「――! その自慢の天パをさらにグチャグチャにしてやるー!」


「あ、ちょ、やめ――」


 些細な発言がノルンの羞恥心の導火線に火をつけたようだ。

 爆発した勢いで妹に頭をわしゃわしゃされるリュドル。


 そんな兄妹の光景を、遠巻きに朝早くから活動するご近所さんに目撃され、微笑まれる。

 これもまた彼ら兄妹のワンセットとも言える日常の一部であった。


 その彼らの健気な幸せ、しかしその幸せには代償がある。

 それがイメリス商会の主であるリュドルの父親――バルゼンの存在だ。


 バルゼンは、昔は凄腕の商会主だったと言われている。

 なんでも、彼の話を聞けばすぐに儲かるようになるとか何とか。

 実際、目利きの才は天賦のものとも言われ、彼の話を聞いて動いたものはすぐに独立した。


 その一方で、イメリス商会が小さいのは、バルゼンの趣味みたいなものだったからだ。

 イメージだけで言えば、路地裏にひっそりと営むバーのようなもの。


 近所の住民達とより親密になるための、そんな憩いの場所の一部として作られ、当時はコンサル業だけで十分に儲けられていたために無理して稼ぐ必要もなかったのだ。


「親父、体の調子は大丈夫か?」


「あぁ、すまんな。いつも迷惑かけて......ゴホッゴホッ」


「気にすんな。商会の方はオイラ達の方でなんとかなってる。

 それよりも、親父は自分の治療に専念しろ」


 そんなバルゼンが倒れたのは突然だった。

 昨日までピンピンしていた人間が、翌日には倒れるという異常事態。


 当然、すぐに医者に診てもらったが、街の医者から伝えられたのはお手上げポーズだった。

 治療するためには王都の医者を連れてくる必要があるらしく、そのためには莫大な費用が掛かる。


 とてもじゃないが、イメリス商会が払える金額では無かった。

 だから、現状で出来るのは高い薬を買って病気の症状を遅らせることぐらい。


 そんなあまりに急な展開であるために、リュドルはすぐに誰かの妬み嫉みによる可能性を疑った。

 が、あいにくバルゼンには敵が多すぎて容疑者を絞り切れない。


 というのも、バルゼンの働きによって、多くの若手商人の独立が起きた。

 それは彼らからすれば、独立出来たという感謝の念が大きいだろう。


 しかし、それよりも前からある商会からすれば、ライバルを増やされてるようなものだ。

 故に、知らず知らずどこかから恨みを買ってる線も無くはない。


 ともあれ、そんなこんなでリュドルによるバルゼンの看病は続いた。

 母親が居れば任せることも出来ただろうが、病気で亡くしているために彼ら兄妹が面倒を見るしかないのだ。


「リュドル、お前の方は元気か?」


「オイラの方は問題ないよ。店の方も親父の知り合いの協力もあって続いている」


「......そうか」


 リュドルの返答を受け、バルゼンがなんとも覇気のない回答をする。

 元気だった頃は、よく笑っていた人物だった。

 それこそ、そこ笑う場面? と思う所でも。


 息をするように大声で笑うために、息子からしても時折頭大丈夫と思ったり思わなかったり。

 そんな昔の姿をしっているからこそ、今のバルゼンの姿は実に痛ましい。

 申し訳なさそうに浮かべる笑みが、さらに痛々しさに拍車をかけてることも知らずに。


「『オイラ』か。そういや、昔のお前は冒険者になりたがってたよな?

 確か、たまたま行き倒れを助けたら、その人が冒険者で。

 そんで冒険の話を聞くたびに、嬉しそうに目を輝かせて」


「あー、そんなことあったっけな」


 それはまだリュドルが六歳になる前の話だ。

 店の手伝いなど一切せず、街の中を駆けまわっていた頃に出会った不思議な男。

 話しかけてみれば、お腹を空かしている様子だったので、飯を奢ったのが出会いの始まりだ。


 行き倒れのその男は、一人称を「オイラ」と言い、東方にありそうな「シノビ」の格好をしていた。

 だから、お礼の代わりに冒険の話を聞かせてもらい、その未知の世界に目を輝かせたというのが当時の自分の思い出である。


「突然、冒険者になりたいとか言われた時はビックリしたな。

 しかも、突然一人称が『僕』から『オイラ』になるんだから。

 今でこそ言うが、正直その一人称はちょっとダサいと思ってた」


「おい、もう体の芯まで住み着いちまったオイラの一人称をバカにするな。

 ってか、本当に今更だな。いっそ何も言わずに墓まで持ち抱えてくれよ」


「すまない、つい思い返したら言いたくなってな」


 そんな思い出話をしていると、バルゼンがふと笑顔を浮かべた。

 色白の顔で浮かべたその表情は、笑顔というには辛そうだったが、それでも確かに笑顔だった。

 息子である自分がそう感じるのだから、きっと間違いない。

 そんなことを思っていると、突然目を伏せたバルゼンが話題を変える。


「そういや、サルバーレ商会からの圧力は大丈夫か?」


「どうした急に?」


「ふと気になってな。お前だけには正直に言うが、俺の死期は近い。

 もうわかってるだろ。俺の骨に皮を貼ったような姿を。

 もはや起きることもロクにままならない。

 そんな俺に構ってちゃ、アイツらに付け込まれると思ってな」


「安心しろって。なんとかやりくりはしてるし、ここ最近は顔も店に来ない。

 だから、気にするな。ただ生きることを考えろ」


「.....すまない」


 小さく動かされた口から紡がれる謝罪の言葉、その言葉がリュドルの心にズシンとかかる。

 そんな言葉を言わせてしまった申し訳なさというか、言う必要ないという気持ちというか。


 家族なんだから助け合いは当たり前。だから、謝って欲しくなんてなかった。

 別に、病気の父親を煩わしくなんて思ってないし、高い薬代もそこまで気にしてない。

 強いて言うなら、謝るのは死を受け入れてるようで嫌だから止めて欲しいぐらいか。


 そんなリュドルの献身的な看病も続いたのは冬までだった。

 その日は、リュドルが住む街からすれば、稀に見る大雪。

 そのためか、リュドルも朝から雪かき作業に追われていた。


「こりゃまた随分と積もったなぁ」


 朝一番に起きて、雪かきを進めるものの一向に終わらない。

 それもそのはず、辺り一面びっくりするほど銀世界だ。

 積もった雪の深さも膝ぐらいまであり、この雪をどうにかしなければまともに荷物も運べない。


 加えて、商会は大通り沿いと比較的良い立地にあるため、その場所の対価として馬車が通れる程度には通路の雪かきをすることを義務付けられているのだ。


 だからこそ、いつも通りの起きる時間では間に合わないため、朝からせっせと作業している。

 とはいえ――、


「全っ然終わる気がしねぇ......まだまだ色々やることあるってのに」


 近くの雪をスコップですくいあげては近くの雪山に投げ、すくっては投げ、すくっては投げ。

 寒さで着込んでいた防寒具も脱ぎ捨て、汗だくで作業しながら、やっとのことで雪が排除できたのは店の玄関周りの一部のみ。


 そんな白い世界を苦々しい気持ちで見つめていると、近くを通る冒険者達に気付いた。

 冒険者ギルドに向かって歩く冒険者達が、悪戦苦闘しながら雪道を歩いていく。


「......ハァ」


 その光景を少しだけ羨ましいと思ってしまうのは、きっと自分の過去の経験のせいだろう。

 もし自分が冒険者だったら、どんな世界が広がっていたのか。

 もはや考えるだけ無駄のことであり、店を継ぐことは自分で決めたことだ。


「だから、もう、関係ない」


「あー!」


 ふいに背後から聞こえた声にビクッとし、リュドルは恐る恐る振り返る。

 すると、そこには腰に手を当て、頬をぷくっと膨らませるノルンがいた。

 確かめなくてもわかる。これは怒っている時の妹の表情だ。


「お兄ちゃん、雪かきするなら私も起こしてって言ったよね?

 どうして起こしてくれなかったの!?」


「いや、起こそうと思ったさ。

 でも、いざ起こそうとしたら、気持ちよさそうに寝てるし。

 それにほら、兄ちゃんがその分頑張れば、問題ないと思って」


「ふ~ん......」


 そんなリュドルの回答を、腕を組んだノルンが目を細めた。

 「言い分はわかった。しかし、納得いかない」と顔に書いてある表情だ。

 そんなノルンに対し、リュドルがビクビクしていれば、仕方のない兄を持った妹は一つ息を吐き、


「それじゃ、私も手伝うから。それと、これ」


 そう言って、ノルンが渡してくれたのは、彼女の髪色と同じ色のマフラーだ。

 これはまだ母親が生きていた頃に、彼女が母親と一緒に編んで作ってくれた世界で一つの誕生日プレゼント。


 そのマフラーは、普通のマフラーにしては長く、首を二、三周した程度では余裕で端が余る。

 というのも、まだお兄ちゃん子だったノルンが、二人で巻くことを想定して作ったからだ。

 もっとも、今になってその話題を掘り返すと、顔を真っ赤にして照れながらキレられるが。


「作業してて暑くなったから取ってただけだよ」


「それでも。ほら、こんな空気冷たいんだし、汗かいてもすぐに冷えるから。

 だからせめて、これぐらいは身に着けておいて.....使われないの嫌だし」


「え、なんて?」


「早く、つけてって言ったの!」


 何かを聞き逃したリュドルに対し、ノルンは怒りながら丁寧にマフラーを巻く。

 相変わらずやたらとマフラーの端が余ってしまっているが、身長が伸びた今では丁度いいぐらいか。

 いや、やっぱ長いな。ちょっと邪魔。


「わぁー凄い! 雪だー!」


 そんなことをしていると、玄関からメルトが飛び出してきた。

 元気いっぱいの六歳児は、雪が降る世界に飛び出すと、すぐさま近くに雪を鷲掴む。


 それから、両手でそれをギュッギュッ押し固め、掌に乗る小さな雪玉を作った。

 瞬間、リュドルに向かって投げつける。

 それはリュドルの衣服にポフッと当たり、すぐさま原型を無くして崩れていく。


「ちょ、メルト何して――」


「やったなぁー、このやろー! お返しだー」


「ひゃー♪」


 突然の弟の行動に、ノルンが怒ろうとした矢先、それを遮るようにリュドルが動く。

 すぐさま近くの雪を手ですくうと、それを軽く押し固めて雪玉を投げたのだ。

 もちろん、狙いはメルトから少し外れるようにして。


 すると、悪ノリに乗ってくれたメルトが嬉しそうにはしゃぐ。

 なので、弟スキーのリュドルもさらに喜ばせようと雪玉持って追いかけ始めた。

 それもノルンの周りをぐるぐる、ぐーるぐると。


 キャッキャしながら逃げるメルトと、同じくキャッキャして追いかけるリュドル。

 その光景を呆れた様子で眺めるノルンの一喝によって、その場は収まるのだった。


 そんな雪かきも一段落つき、開店準備を弟妹に任せて、リュドルがバルゼンに朝食を運んだ時のこと。

 いつもなら起きていてもおかしくないバルゼンが目覚めていないことに気付いた。


「親父.....?」


 とはいえ、人間毎日完璧な時間に起きるわけじゃない。

 特に寒い日となれば、温かいベッドが恋しくなるのはわかる。

 だから、珍しいと思いながらも、そこまで気にせずにいると、


「.......?」


 ふと、妙な違和感を感じた。

 視界に捉えているのは、いつも通り病的に白い父親の寝顔だ。

 しかし、その寝顔があまりに綺麗というか――気配を感じない。

 人間の気配.....音だったり、熱だったり、空気だったりとそんな感じだ。


「――!」


 瞬間、持っていたトレーを近くの机に置き、感じる嫌な予感をそのままにリュドルは心音を確かめる。

 心音を聞くために胸に手を置けば、妙に冷たく、さらに胸が動く様子もない。


 そのことに嫌な予感を加速させつつ、それでも一縷の望みと思って胸に耳を当てた。

 しかし、嫌な予感は嫌な予感でしかなかった。


 心音は聞こえない。心臓が動いてる気配も、呼吸の様子も何もない。

 そう、大雪が降ったその日の朝、バルゼンはひっそりと息を引き取っていたのだ。


****


 バルゼンが無くなった日から、あっという間に半年が経過した。

 あの日のことはあまり覚えていない。

 ただ、酷く泣いて、その後慌ただしい日々が続いたことだけは覚えている。


 また、バルゼンの死後、イメリス商会の経営は右肩下がりを辿った。

 もともとバルゼンの人徳で成り立っていた商会だ。

 横の繋がりの紹介や近所の人達の支援があったとしても、それだけでは限界がある。


 そんな状況が続いてしまったせいなのか。

 ノルンは仕事により精を出すようになり、やんちゃだったメルトもあまりワガママを言わなく無くなった。


 それは商会の維持という視点からすれば、リュドルにとってありがたかった。

 だが、兄の視点からすれば、かつての夢を捨てた自分と重なって見えてしまって。

 だからか、自由を与えられないことに申し訳なさの気持ちが強かった。


 加えて、イメリス商会の経営が悪くなったのは、それだけが原因じゃない。

 というのも、バルゼンが死んでもすぐに経営が苦しくなることは無かった。


 それどころか、支援だけならいつも通りの経営が出来ていただろう。

 経営が傾いた理由――そのもっとも大きな要因は、バルゼンの死を見計らったように現れた一つの大商会の存在。


「――いい加減、考えは変わったか? ガキンチョども」


「サルバーレ商会.....!」


 店の前に現れた豪華な馬車から出てくる小太りのおっさんに、リュドルは鋭い目つきをぶつけた。


 サルバーレ商会――リュドルの住む小さな街の隣にある街の大商会だ。

 バックに大物貴族がいるという話で、金に物を言わせて好き放題している悪徳商会である。


 また、次々と小さな商会を潰しては吸収し、その商会主達を死ぬまでコキ使っているようで、仕舞には違法であるとされる奴隷売買もしてるともっぱらの噂だ。


「何の用だ」


「......ふむ、お前もお前の父親同様に頭が悪いようだな。

 いい加減、理解したらどうだ? お前達のような未熟者にここの立地はもったいない。

 このような大通りは、私の商会のようなネームバリューのある店が使うべき場所だ」


 確かに、大通りに面するイメリス商会は、どの商会からしても喉から手が出るほど欲しい立地であることは間違いない。

 しかし――、


「だから、この場所の土地を売れと? ふざけんな!」


 小太りのおっさんの意見を、リュドルは真っ向から跳ねのけた。

 バルゼンが生きていた時には全然顔を見せなかった奴が、いざ父親が居無くなれば我が物顔で土地の占有を求めてくる。


 実に肝の小ささが透けて見える話だ。

 ただ自分の金儲けのためしか考えていないクズに渡すものなんて何もない。

 それに――、


(隣町は不公平な物価高騰が続いていると聞く。

 それはこの商会が街の物資を牛耳り、利益追求のためだけに商品の価格を高くしてるからって話だ)


 商人の端くれとして、物流や物価に関しての情報収集をリュドルは欠かさない。

 そんな中から得た情報だ。知り合いも全員言っているので間違いないだろう。


 となれば、ここで土地の権利書を売ってしまえばどうなるか。

 この街に降りかかる不利益の結果は、想像に難くない。

 つまり、今のリュドルに出来ることは――それを防ぐことだけだ。

 

「親父が居無くなったからってどうにでもなると思ってんのか?

 ハッ、残念だったな。オイラは親父の意思を継ぐ。お前の好きなようにはさせねぇ」


「.....ハァ、これだから頭の悪いガキと話すのは嫌いなんだ。

 そんなんだからお前の父親は死んだんじゃないのか?」


「......どういう意味だ?」


「どうしようもなく愚かということだ。

 私に盾つくような愚かな行為をして、その罰が下った。

 ふっ、最後の死後はどうだった? 苦しんで死んだか? それとも惨めに死んだか?」


「クソ野郎が!」


「はい、ストップ。お兄ちゃんも相手のペースにならない」


 尊敬する父親の侮辱に殴りかかろうとしたリュドル。

 しかし、その行動は羽交い絞めするようにノルンに止められた。

 後少し止めてくれるのが遅ければ、間違いなくとんでもない事態になってただろう。


 そんなリュドルに対し、小太りのおっさんは鼻で笑うと、視線を隣に移す。

 そして、舐めるような下卑た視線でノルンを見つめると、


「どうしても店を続けたいというなら、お前の妹を担保に出すことだな。

 街でも中々見ない上玉だ。高い買い手がつくぞ」


「どこまで人をバカにすれば気が済むんだ!」


「どうどうどう、落ち着いて」


「......まぁいい。せいぜいあまり私を煩わせないことだな。

 でなければ、そのうち貴様に辛い罰が下るだろう」


 そう捨て台詞を吐くと、小太りのおっさんは通りに置いてある馬車に戻っていた。

 それが遠くに消えるまで見つめると、ようやく心の内に溜まった熱を吐き出す。


「ごめん、ノルン。カッとなった。止めてくれてありがとう」


「ふふん、いいってことよ。それに、お兄ちゃんの怒りも最もだし。

 むしろ、お兄ちゃんがあのまま我慢してたら、たぶん私がやってたと思う」


「妹に似合わないことをさせなくて良かったよ」


「とりあえず、次にアイツが来た時にどうにかしなきゃだね」


「そうだな。何か策を考えないとな」


 そうして、サルバーレ商会にやり返すこと胸に誓った兄妹。

 末弟のメルトが見るも無残な姿で帰って来たのは、それから数日後のことだった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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