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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第65話 シェナルークの降臨、そして「傲慢」と「怠惰」の激突#6

―――特魔隊本部・監視室


「......助かったの?」


 巨大モニターに映る惑星に対し、それを見ていたオルぺナがボソッと呟く。

 正直、絶えず感じる振動に対しては常に死の恐怖を感じていた。

 ましてや、二度めの浮遊感を味わった時はもう死んだかと思ったが、幸い生きているようだ。


 それもそのはず、死の元凶と思われた惑星がその動きを停止しているからだ。

 都市の一部が壊滅的な被害を受けてしまったが、むしろそれで済んだと言える。

 あれがあのまま突撃してきたら、間違いなくこの都市は潰れていただろうから。


「どうして助けてくれたんでしょう......」


 そう感想をポツリとこぼすのは、隣で同じく放心状態のユリハだ。

 彼女の言う通り、惑星を止めてくれてたのが「傲慢」のアビス王である。

 

 どうして助けてくれたのか、確かに気になる疑問だ。

 アビスにとって人間は守るべき価値もないだろうに。

 アビスは人間を食うというので、その食糧確保という観点からだろうか。

 いや、もはや何が何やら。少なくとも、今考えることではないか。


 助かったという実感に、なんだかとても体から力が抜けていく。

 強張りに強張った体が一気にほぐれていくような。

 椅子があって良かった。立っていたら今頃前のめりに倒れていただろう。


「それはそれとして、複雑な気分......」


 そう思ってしまうのは、今の命があるのがアビス王のおかげという点だろう。

 アビス王もといアビスは、特魔隊が何百年とかけて抗っている怨敵と言っていい存在。

 父親が巻き添えに食らった自分からしても、憎き相手であることは間違いない。

 それこそ、「傲慢」のアビス王にいたっては父親の仇だ。


 それが今やその仇に助けられ、生かされているのが現状。

 本当に、何の冗談か、何の気まぐれかわからないが生きている。

 たぶん結構な寿命を削ったが、それでもやはり生きてることは嬉しい。

 それが今の複雑な気持ちに拍車をかけている。


 確かに、概念的な神よりもアビス王がなんかの手違いで助けてくれることを願った。

 とはいえ、本当に助けてくれるとは思わないじゃないか。

 だって、相手は人類の敵であるわけだし。


 しかし結果的に、助けられ今の自分がある。

 助けてくれた行為自体に感謝の念はあるが、それが素直に言えるかとなれば無理だ。

 理由は先言った通りで、憎しみや怒りと感謝の両極端の感情を一体どう処理すればいいのか。


「.....もはや我々はあるべき結果を受け入れることしか出来ないな」


 背後の声に振り返れば、柵に手を付けてギリウスがうなだれていた。

 その表情は自分と同じく心底複雑な気持ちと言った感じで、むしろ「傲慢」のアビス王が突然現れた時よりも苦しそうな顔をしている。


「正面モニターには、依然アビス王の情報を優先して表示せよ。

 それ以外のサブモニター、自分のモニターには早急に被害状況を確認すること。

 それが今の我々に出来る仕事だ。かかれ」


「「「「「はい!」」」」」


 意識を切り替えたギリウスが全体に声をかけ、その声にオペレーターが全員反応する。

 その中の一人であるオルぺナも意識を切り替えるように頬を叩くと、目の前のモニターに集中した。

 もちろん、その心の中には変わらず仲間達への祈りを抱いて。


****


 わけがわからない。本当にわけがわからない。

 どうして......どうしてあれほどの質量を受け止めることが出来るんだ。

 確かに、一泡吹かせられればとは思った。その気持ちに偽りはない。


 しかし、あれは自分の渾身技の中でも最高峰のものだ。

 そもそも巨大な球体を作ること自体、時間がかかり過ぎて実践に向かない。


 それが時間をたっぷりもらい、完全詠唱で魔法効果を最大。

 その上でより効果を高めるように丁寧に丁寧に作り上げたものが、あの月と見まがう巨大な惑星だ。


 正直、完成した時は多少ながら自信はあった。

 「憤怒」はちょっと怪しいが、それ以外なら確実に圧し潰せる威力はあったはず。

 仮に、自分が食らう側となれば、当然ながらアレを押し返せる術を持たない。


 <冥界へ繋ぐ深淵ダイダロス・インパクト>でどうにかなるか?

 いや、無理だ。あれは発動に時間がかかるし、仮に発動出来ても押し返す前に距離が潰されたら終わりだ。


 そもそも、あれも発動自体に多少の時間を有する。

 先程のシェナルークのように追っかけて発動じゃ間に合わない。

 というか、それ以前に自分の速度じゃアレを受け止めるまでに間に合わない。


 仮に間に合ったとすれば? それこそ、魔法を使えない時点で詰みだろう。

 つまり、やはり自分にはアレをどうにかすることはできない。

 それを受け止め、それどころか――、


「押し返すとか.....ありえない」


 先ほど旅立たせた我が子が自分のもとに帰ってくる。

 これほど嬉しくない子供との再会はまずないだろう。

 ともあれ――、


(どうする? 逃げるか? いや、それは無理だ。

 バカみたいな話だが、なぜか俺が投擲した時よりも速度が速い)


 大気を震わせる声を上げる惑星が迫る中、リュドルは内心で呟く。

 それから、僅かな思考の後に、静かに逃げの選択肢を捨てた。

 もとより、的に対して投擲物が大きすぎるのだ。逃げ道など無い。


「幸いにも受け止める側のオイラに時間がある。

 だったら、さっき考えた通り、重力で押し返し――」


 そこまで言葉に出し、実行しようとしたところで一つの懸念が浮かぶ。

 自分があの惑星を受け止めたとして、そのまま見逃されるのかということ。

 惑星を撃てたのは、一概にシェナルークの協力があったからだ。


 「渾身の攻撃が見たい」――その一心でシェナルークは待ってくれた。

 だから、リュドルはあれほどまでの攻撃力を持ったものを放てたのだ。

 しかし、今は違う。放たれた後でもその条件が有効なはずがない。


 仮に、自分が<冥界へ繋ぐ深淵ダイダロス・インパクト>で受け止めても、それを何らかの方法で防ぐシェナルークの追撃が来れば、間違いなく終わる。

 つまり――、


「今のオイラに求められているのは追撃が来ることを想定して、あの惑星を破壊することか。

 ハハッ.....あの質量を破壊しなきゃなんねぇってか」


 となれば、重力魔法という選択肢は消える。

 他に使える魔法となれば、唯一得意な風魔法になるか。

 もはや迷っている時間がない以上、やることを全力で尽くすまで。


 そこまで思考を回転させ、リュドルは早速副腕を眼前に掲げた。

 空間を作るように上下に掲げた手の左右を、さらに副腕の両手で塞いでいく。

 言わば、腕四本で作った砲筒だ。その中心に風魔法を圧縮させる。


(単純な風の威力じゃアレを壊せない。もっと、もっと魔力を込めろ)


 自己暗示するように四つの掌に囲まれた風を発生させて、そのそばから収縮。

 それは四つの対立する嵐を無理やり一つの箱に閉じ込めるような荒業であり、自分でも制御しきれない風の刃が四つの腕を斬りつける。


 その結果、指のいくつかが斬撃で吹き飛んでしまったが、そんなことはどうでもいい。

 今はただあの惑星を破壊できるほどの威力を、ただありったけの威力を。


 次第に、制御しきれなくなった風の圧力に四つの手が震え始めた。

 弾かれそうになる手をなんとか押さえつけていくが、もう限界に近い。


(これ以上に制御して暴発させてしまったらし全てが無駄になる。ここらが潮時か)


 そう考えたリュドルは、目線を掌からその先へ向ける。

 そこにはもうすでに視界を埋め尽くす土塊の壁が迫っていた。


 距離からしてもう百メートルもないだろう。それは目と鼻の先も同じ。

 これ以上の接近されるのは、自分を身を守るためとしても避けねばならない。

 だから――、


「これでも食らっとけ――超破滅嵐塊砲」


 四つの掌から放たれるのは指向性の衝撃であり、破砕の龍だ。

 真っ直ぐしか飛べない龍であるが、それが通り抜ける大気は酷く揺らめいた。

 大気を歪める陽炎の如く、いやそれ以上の歪みが生じ、空中を突き抜ける。


 その透明な砲撃が通り抜けた直後、余波だけで周囲に強大な風圧が発生。

 特に、上空に向けて飛んでいく風の波は周辺の雲を瞬く間に蹴散らした。

 余波だけでその威力を誇る龍が噛み砕かんと向かう先は一つ――惑星だ。


 巨大なアギトで惑星に噛みつけば、虫食いのように惑星に穴を開ける。

 そして、その穴の中にどんどんと侵入し、内部を食い荒らしていく。


「ギギギギィ......!」


 とはいえ、相手しているのは月と見まがう惑星だ。

 自分で作り上げた最高傑作であるために、簡単には止まってくれない。

 だから、放たれる衝撃の砲撃にさらに風を送り込み、威力を上げた。


 一瞬、一回り大きくなった衝撃が長い胴を巡り、惑星の内部にある先頭に到達する。

 すると、近づく惑星を押し返すための龍が一層猛り、喰らって、喰らって、ついに喰い破った。


 直後、龍が通り抜けた周辺からヒビが発生し、それが瞬く間に周囲に拡大。

 あっという間に全身に巡ると、超新星爆発のように周囲へ瓦礫が飛び散っていく。


 その光景に、リュドルが安堵を浮かべるのも束の間、高速で向かってくる飛来物に気付いた。

 よくよく目を凝らせば、赤い鉄製をした長方形の箱だ。

 確か、妹のギャリーから聞いた自動販売機というものに酷似してる気がする。


「邪魔」


 千切れた指先を再生しながら、腕を振り抜き、自動販売機を弾く。

 直後、それは吹き飛ぶよりも先にひしゃげ、破裂し、中身が飛び出した。

 空中に缶やペットボトルが飛び出し、さらにそれらから水滴が周囲にバラまかれる。


 そんな水滴がリュドルを囲む刹那、代わりに不気味な影が眼前に立った。

 その影は高速でピタッと立ち止まれば、下卑た笑みを浮かべ、


「随分と好意を無下に扱うものだな」


 すぐ近くにシェナルークの顔が視界に映る。

 眼前に迫っておきながら、両手は相変わらずポケットの中だ。

 相変わらず、腹が立つほど舐めプが過ぎる。

 しかし、実際それが出来るほど強いのも知ってる。


「お前の好意なんて反吐が出る」


 だから、こんなことしか言い返せないのが酷くムカつく。

 目の前の相手に対してもそうだし、弱い自分自身に対してもだ。

 こんなんだから助けられない。()()、助けられない。


「言うではないか。なら、その侮辱、貴様の命でもって贖うこととしよう」


 目の前の弟と定めた人間の顔が、不気味なほど醜悪に歪む。

 同時に、周囲に飛び散ったジュースやらペットボトルから漏れ出た液体が形を変えた。

 不定形の液体が、形を定められたように針のような鋭い形状になる。


 直後、シェナルークの周囲にそれらが視界に無くなったと思いきや、数多の水滴がリュドルの肉体を穿った。

 針にしてはまるで杭を打ち付けられたような穴が全身に広がる。

 腕や足に直撃した箇所は簡単に四肢が千切れた。


「――がっ」


 シェナルークに頭を蹴られた衝撃で頭が吹き飛び、地面へと落下。

 すぐさま肉体を再生させると、天空からは散らばったはずの惑星の破片が隕石のように降り注ぐ。


 だから、地面に直撃する前に風で姿勢を制御すると、巨岩の雨を回避するように移動した。

 更地になった地面に次々と巨岩が突き刺さり、さがならそこは剣山の平地のようだ。

 しかしそれでも、降ってくる弾速は目に見えるものだ。


「これなら避けられ――ぅが」


 一瞬の注意不足、気付いた時には顔面を蹴られていた。

 結果、亀が首を引っ込めるように、頭が強制的に鎖骨まで押し込められ、ひしゃげる。

 その勢いで進行方向とは逆向きに吹き飛び、その道中で真上からの巨岩に圧し潰された。


 しかし、幸い死ぬには至っていない。

 だから、体にのしかかる巨岩を吹き飛ばせば、周囲に岩石が取り囲んでいた。

 普通に考えれば、先ほど降り注いだ巨岩の一部だろう。

 されど、相手はシェナルークであり、あの巨岩に何も小細工がないとは思えない。


「――っ!」


 そう思った直後、周囲の巨岩の表面から無数の突起が生える。

 それは標的をリュドルと定め、一斉に突起を射出させた。

 周囲を囲む殺意の弾幕に、リュドルが攻撃を防ごうと腕を振るう――


「貴様はやはり戦いを知らんな」


「ぃ!?」


 背後から聞こえた声に、リュドルはすぐさま振り返る。

 しかし、もうそこにいたはずのシェナルークの姿はない。

 まさか今のような嫌味を言いに背後に現れたのか――いや、違う。


「しま――」


 一瞬の判断ミスだ。たったそれだけでリュドルの体は針の筵になる。

 そう、先ほどのシェナルークの言葉は、この攻撃を当てるための一瞬を作ったに過ぎない。

 そしてシェナルークという相手に意識を向けすぎた自分は、ものの見事に策にハマった。


「クソが!」


 全身に刺さった土の杭を、リュドルが気合とともに吹き飛ばす。

 同時に、穴の開いた全身を再生させると、足元から僅かな振動を感じた。

 すぐさまその場から身を引けば、土の拳が地面から天に向かって伸びていく。


 今のも激情している隙を狙った攻撃なのだろうか。いや、そうじゃない。

 もはやこの盤面にある全てが攻撃であると考えた方がいい。

 それこそ、目の前の拳なんかもそうだ。


 そう考えた直後、伸びた拳の一部から六つの土の鞭がリュドルに放たれる。

 しかし、その攻撃はあらかじめ予測できていた。だから、捌ける。


 その気持ちを有言実行するように、リュドルが四つの腕で鞭を全て破壊した。

 そして最後に目の前の土の拳を破壊すると、正面にシェナルークが立っている。

 だから、リュドルは強気にうそぶいた。


「オイラはまだやれるぞ!」


「そうか、その腕でか」


「ぁ?――!?」


 その指摘を受けた直後、土の拳を破壊した右腕がいくつも輪切りに切断されていた。

 それどころか全身に異様な浮遊感、否、落下感を感じた。

 胴体が沈んでいく最中、視線を足に移せば、その原因に目を見張る。


(いつ斬られた!?)


 両足が同じようにいくつも輪切りにされているではないか。

 その結果は見て分かるが、それまでの道中があまりに繋がらない。

 だって、あの時襲って来てたのは土魔法で操作されたものだけのはずで――


「それが貴様の限界よ」


 両足では無く、体にある四肢、副腕に至るまで全て切断されている。

 そう認識してる最中には、シェナルークがいつの間にか目の前にいた。

 もはや移動の瞬間すら認識できていない。

 瞬きどころか僅かな意識の隙間には、絵が切り替わったようにその場にいる。


「くっ」 


 咄嗟に四肢を再生させ、四つの腕でシェナルークから振り上げられる右足を防ごうとする。

 しかし、いつもなら再生が終わっててもおかしくない腕は、中途半端な再生のまま。


(明らかに再生速度が遅くなっている)


 そう気づいた時には、すでに後の祭り。

 結局受け止めきれず、腕は再び破壊され、顔面は陥没、肉体は上空に打ち上げられた。


 壮絶な勢いで回転する体は、もはや姿勢制御が出来ない。

 潰された顔面も圧倒的に再生が遅くなり、せめて視界だけ再生させても、わかるのは世界がグルグルとしていることだけ。


「さて、もうこのつまらない余興を終わらせよう」


 僅かに聞こえた声、その次の来る腹部への衝撃。

 核の中心は硬度を高めにしていたので壊れなかったが、代わりに下半身が千切れた。


 未だ再生が間に合わず声すら出せぬまま、上半身が真っ逆さまに落ちていく。

 そしてそれが地面に当たる直前、視界に暗闇が訪れた。

 その後、後頭部から地面の衝撃を受け、頭がガリガリと削られていく。


 今の一瞬、見えていた視界で分かったのは、シェナルークの足の裏だ。

 つまり、今のシェナルークは、人の頭をスケートボードのようにして地面を滑っている。


 人の上に立つ、それも物理的に立たれることに何とも言えない怒りを抱えるが、今の自分には何もできない。

 下半身は千切れ、四つの腕もまだ完全に再生できていない。顔面だって陥没したままだ。


 わからない、どうしてこんなに再生に手間取っているのか。

 アビスと言う存在は核を壊されない限り死なない存在ではなかったのか。

 こんなに手間取って無ければ、今頃もう少しやれてたはずなのに――


「今、貴様はどうしてそんなに再生が遅いか疑問に思っているな?」


 人の顔面から降りたシェナルークが、まるで心を読み取ったかのように問いかけてきた。

 その言葉は図星であったが、なんだか癪なので答えたくない。

 しかし、「傲慢」にも勝手に話を進めたシェナルークが最初に回答を告げる。


「言っておくが、我々の再生は限りなく無限に近い有限だ」


「......どういう意味だ?」


「まず、我々を殺す条件として、核を壊す必要がある。それは間違いない。

 そして核があれば、我々という存在は無限に再生し、何度も立ち上がることが出来る。

 しかしながら、我々の核には再生という機能はない」


 その内容に、リュドルは心の中で頷いた。その話はアビスの中では常識だ。

 だから、アビスは核だけは意地でも死守するように戦う。

 そんな当たり前の話をして、結局何を言いたいのか。


「再生しないということは、()()ということ。

 我々の心臓たる核であるが、それは『魂』とも言い換えられ、再生には魂の精神エネルギーを使う。

 何が言いたいかわかるか? 魂が摩耗するということだ」


 シェナルークがそう言った瞬間、この場にあった全ての音が消えた気がした。

 「魂の摩耗」――つまり、自分は再生を使うたびに魂を擦り減らせていたのか。


 しかし、魂が擦り減ったからなんだというのか。それがどうして再生と関係するのか。

 そんな疑問が徐々に戻りつつある潰れた顔に現れていたのか、シェナルークが続けてしゃべった。


「人間の言葉には実に便利な言葉があってな、それが『心身相関』だ。

 一言で言えば、心と身体は密接に関わりを持ち、共鳴しているのだ。

 例えば、心が沈めば体も弱り、体が強くなれば心は前向きになるといった具合にな」


「その心身相関とやらに、オイラ......いや、アビスの体が関わってるってことか」


「あぁ、そうだ。これまでの度重なる戦い、それによって幾度も再生させた肉体。

 それは最初は些細なものであろうが、それも塵も積もれば山となる。

 再生に伴う魂の摩耗により、魂の意思が弱まり再生力が低下した」


「待て、それじゃオイラの体は――」


 その瞬間、全ての言葉の意味を理解したリュドルが、肘から先の無い腕で上半身を浮かそうとする。

 しかし、それをシェナルークに踏んで押さえつけられると、リュドルよりも先に答えを告げた。


「あぁ、お前の魂は死を望んだということだ」


「――」


「もちろん、ここで我が貴様を見逃せば、時間をかけて復活する。

 どのくらいかは定かではない。

 さすがにある程度は調べたが、個体差によるからな。

 もっとも、今の我に貴様を見逃すという選択肢はないがな」


 その最後の一言、リュドルからすれば死刑宣告と同じであった。

 いや、実際これから行われることを考えれば、間違っていないだろう。


(あぁ、そうか。オイラは()()守れなかったのか。

 弟も妹もオイラは誰一人守れない、救えない)


 なぜか――『怠惰』であるからだ。

 もうこんな自分に出来ることは何もない。

 ゆるやかに死を待つだけの存在となってしまった。

 いや、本当にそうだろうか。自分に出来ることは本当に何もないのか。


「......何の真似だ?」


 そう考えた時、リュドルの左手がそっと動いた。

 肘から先の無い腕が、見えない手で(ノア)を縋るように伸びる。

 もちろん、触れることすら叶わないがそれでも、せめて――


「弟を守ってくれ......」


 こんなことしか出来ないとは、何とも惨めだ。

 いや、そもそもこういうことしか出来ない時点で、自分はそういう存在なのかもしれない。

 でも、それでも、自分の気持ちはずっと変わらなかった。


 自分は――弟妹を助けたかっただけなのだ。

 家族と一緒にいつまでも幸せに暮らしたかっただけなのだ。

 あぁ、どうしてそんなことを今強く思うのだろう......わからない。


「あぁ、疲れた.....」


 その一言を最後に、リュドルの腕がパタンと落ちる。


*****


 リュドルの左腕が地面に伏した。

 その光景を、高潔な紅い双眸はどこまでも冷たい視線で眺める。


 力を無くしたように倒れたが、これでも死んだわけではない。

 例えるなら魂が摩耗しすぎて仮死状態になっただけだ。

 だから、本当に殺すなら、やはり核の破壊が必須である。


「良かったな、貴様の望みの手を使ってやる」


 そう言って、シェナルークはその場にしゃがみ込む。

 それから、右手をポケットから出すと、リュドルの鳩尾に右手を突っ込み、そこから核を取り出した。


 緑色の中心が濁った水晶ほどの大きさの球体が、シェナルークの手に収まる。

 それを手にしたまま立ち上がると、ふいに過去の記憶を引っ張り出した。


「そういえば、前にアビスの核に魔力を流した時、記憶が見れたことがあったな。

 全部では無かったが、もしコイツの核にある記憶を見れば、『無罪の魔女』の手がかりが見つかるかもしれん」


 そう言葉にすると、すぐさま有言実行を始めるシェナルーク。

 右手に乗せた緑色の核に自身の魔力を流し込む。

 瞬間、シェナルークの脳裏に見たことも無い景色が広がった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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